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坂本梧朗詩集  作者: 坂本梧朗
Ⅰ 第一詩集『帰郷』  1979年刊
10/133

その10 海 ―― 下関にて   見舞い

   海 ―― 下関にて


ゆるやかに客船が進む

セカセカと漁船が進む

鋼鉄の橋が架かる

コンクリートの堤が付き出す

人間どもが汗水を垂らす

釣り糸を垂らす


海よ

永遠なその蕩揺


波うつ緑色の

巨大な羊羹の中から

時折り発せられる

原始からの音信


お前の運動の

質量と時間に

人は耐えられるか


雲が厚く低く降りる空の

灰白の広がり

それだけが

お前と拮抗する




   見舞い


人は

絶望が

降り積り

集中すれば

それだけ

明るくなると。


生きているという事は

明るさだから。


周囲の人は

皆子宮ガンなのに

とても明るいと

君は言う

私など

病気の内に

入らないみたいと

笑って見せる。


婦人病棟。

六台のベッドが並ぶ病室。


横の人は

午前十時前に

九時を過ぎたら戻ってくるよと

少し笑って

(へや)を出たそうな。

一週間に一度

十二時間

機械の中に固定されて

コバルト照射を受けると

君は言うのだが。

足の先しか動かせないと

帰ってくると

顔がげっそり

やつれていると。


反対側の横の人は

七年目の再発で

昨日入院してきたと。


初めての妊娠

と同時に

卵巣摘出の

手術を受ける君を

見舞いにきた僕に

そっと椅子を進めてくれた

あの手は

その人達の一人のものと

帰って行く廊下の上で

気づく。


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