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コサックダンスをしている間だけテレパシーを使えるみたいなので、友人の告白を手伝ってみた。

作者: しいたけ

 予約が出来るほどの人気カフェで、陰キャ日本代表の友人が、同じ会社の女の子と二人きりでお茶をしばこうとしている。


 俺は、そんな二人を茂みの影から見守っている。コサックダンスをしながら……。


「今日は誘ってくれてありがとう」


 何処ぞのミスグランプリを勝ち抜けそうな、座っているだけで絵になるお嬢様を相手に出来るわけも無く、友人は既に汗びっしょりで挙動不審。頻りに俺の方を向いては助けが欲しそうな顔をしていた。


 何故俺が茂みで待機しているかって?

 それは、俺が陰キャ八段の友人のサポートをし、あの二人を交際に発展させるためだ。


 ──実は、俺はテレパシーを使える。

 特定の相手に自分の思念を飛ばして言葉を送る事が出来るのだ。これで陰キャの友人でも俺の言う通り話せば、それなりに会話が成立するって訳だ。


 しかし一つだけ問題がある。

 それは、コサックダンスをしてないとテレパシーが使えない事だ。

 向こうの会話は友人に仕掛けたマイクで拾えるが、こっちはコサックダンスだ。地味だが確実に辛い。


「ほ、ほ! 本日はお日柄も、もも……!」


 友人が緊張しすぎて既にスパークしている。


 何やってんだ。先ずは普通に挨拶だろう?

 忙しいところすみません、来て頂けて嬉しいですとか言っとけ!


「お、お忙しい所すみません! 来て頂いて嬉しいでし!」


 最後噛んだが、まあ言えたので良しとしよう。


「まさか斉藤さんに誘って頂けるなんて思わなかったです。このお店知ってたんですか? 一度来てみたかったんです♪」


 営業スマイルか本音かは知らないが、男が食らい付きそうな位の眩い笑顔が放たれた。ミスター陰キャの友人が照れくさそうに体をくねらせた。


「え、ええ──」


 おい、半年前から予約してた事は言うなよ!?

 スッゲぇ用意周到だと思われるからな!

 デート誘ったの先週なの忘れるな!


「ぐ、偶然予約が取れましたので」

「ありがとうございます! とても嬉しいです!」


 女性が嬉しそうに注文したカプチーノを一口飲んだ。その姿でさえ美しく、とてもではないが陰キャマスターの友人と釣り合うような女性では無い。美女と野獣……いや、美女と陰キャだ。


 しかし、こちらは既に彼女との話題も打ち合わせ済み。

 彼女の趣味嗜好に合わせた話題作りで、陰キャからのギャップで彼女を攻略するのみだ。


「ママー、あの人変な動きしてるよ~?」

「シッ! 見ちゃダメです……!」


 ……問題は、むしろ俺の方だろう。

 コサックダンスをやりきる体力と、奇異の目に耐えうるだけの精神力が必要とされている。



「こんなに素敵なお店、私なんかと一緒で良かったんですか?」


 おっと、彼女からの探りの一手が来たぞ。

 しかし既に色々な会話パターンは検索済み!

 メモを見ながらコサックで指示を送るだけ……!


「み、美希さんと来たかったんだす」


 また噛みやがったが、まあ言えた。言えただけでやり遂げた感が滲み出るんだから、ある意味凄い。


 陰キャマンに小細工は不要。

 清潔感と率直で素直、そして少し控えめの気持ちで彼女のハートを貫く!


「斉藤さん、会社と雰囲気違うから、何だか別人みたいです。なんだか素敵です♪」


 褒められた友人が嬉しそうにニヤけて体をくねらせた。そして自分で頼んだエスプレッソを飲んで、凄く苦い顔をした。アイツ、エスプレッソが何だか知らずに注文したな?


「お待たせしました。『春はあけぼの、ようよう白くなりゆく山ぎは少しあかりて紫だちたる雲の細くたなびきたるパニーニ』です」


 ウエイターさんが尋常じゃ無い程真面目な顔で、謎の名前のパニーニを二つ運んできた。よく嚙まずに言えたな。


「わぁ。これネットで有名なやつですよね!? ずっと食べてみたかったんです~♪」


 手を合わせて喜ぶ彼女。友人も嬉しそうにパニーニに手を付けようとしてので、慌ててコサックダンスを始めた。


 しかし始めた直後には送れず、ある程度コサックに勢いが出ないとテレパシーを送れない仕様なのだ。

 つまり、ある程度コサックを続けていないと、咄嗟の時にリカバリーが効かない。


 そして友人は既にパニーニを齧ってしまい、思念に気付き慌てて皿に戻した。


 アホ! 彼女が「写真良いですか?」でインスタにアップしてから、一緒に食べるのがマナーだと教えただろが……!!


 友人がこっそりと俺の居る茂みに向かって手を合わせた。まったく、困った奴だ。


「ママー、この人何やってるの?」

「ダメッ! こっち来なさい……!!」


 こっちはこっちで困ったものだ……。


「写真、良いですか?」

「ええ、どうぞどうぞ」


 案の定、彼女が写真を撮りだした。それを見て、友人もスマホを取り出し写真を撮り始めた。アイツ、食いかけアップするのか?


 ガンプラとフィギュアだらけの友人のインスタに、食べかけのパニーニがアップされた。何気にオシャレ食べ物がアップされるのは初だ。人類の大いなる進化に、俺はいいねで応えた。


「斉藤さんもインスタに載せるんですか?」


 いいぞ。そのまま彼女のアカウントを見せてもらえ!


「ええ。早速友達からいいねがつきますた」


 だから噛むなってば。

 美希さんの写真を見せてもらえ、そしてアカウント名を記憶しとけ!


「み、美希さんはどのような写真を?」

「飼い猫や風景や、食べ物が多いですね」


 ダメだ。とてもじゃないが文化が違いすぎる。


「おお、可愛い猫ですね」


 どうやら写真を見せてもらったようだ。

 彼女も映ってるなら同じように褒めておけ!


「み、美希さんも可愛い猫ですね」

「あ、それ母です……」


 ダブルでやらかした友人に、かける言葉が見付からず、話題を変えるように指示を送った。


「お待たせしました。夏は夜、月の頃はさらなり闇もなお蚊の飛ぶ音が五月蠅くて眠れないマンゴープリンになります」


 また変な名前のメニューが運ばれてきたが、原文知らんから合っているのかなんなのかすら分からないので、メニュー名については触れてはいけない気がする。


「美味しいですね!」


 だからいきなり食うなって!!


 強いテレパシーを送ると、友人が悪びれ此方に向かって手を合わせた。


「可愛いプリンですね」


 男を狂わせるべくして御生誕なさったかのような、限界突破の笑顔を友人に向け、彼女が写真を撮り始めた。

 友人のインスタにもプリンの写真がアップされた。勿論食べかけ。いいねをくれてやった。



「あ、あの……宜しければ──」


 友人がスプーンを置いた。予定ではこの後軽い夕食からのバー。BARだ。

 美味く誘わねばココで終わりだ……!


「ねーねー」


 宜しければ美味しいパスタの──


「ねーってば」


 先程から小煩いちびっ子を手で払う。

 今大事なところだ。あっちに行ってろ。


「美味しいパスタのお店があるのですが、御夕食などのご予定は……」

「良いんですか?」


 キタキタキタ!!


「ねーねー、オジサンさっきから足バタバタ何やってるのぉ?」


 ちびっ子の母親は、ママ友らしき女性と談笑しており、こちらには気付いていない。


 あっちに行ってなさい……。


「──!?」


 テレパシーで話し掛けられたちびっ子は、驚いて目を丸くしている。ふふ、知らない男にコサックテレパシーで話し掛けられるのは気持ち悪いだろぉ?


「も、勿論でありまふ!」


 おっと、気を抜くと友人がヘマするからな。最後までやり通さなくては。

 緊張して肩がガチガチの友人に意識を集中させた。


「ねーねー、今のもう一回やってー!」


 ああもう! 早くママを呼ぶかアッチに行きなさい!


「是非お母さんも同席を……」


 しまったぞおい! チャンネルを間違えた!!

 お前もお前で指示通り母親を呼ぶな!

 すぐ分かるだろうが!!


「……えっ!?」

「もしくはアッチに行っていて下さい」


 ガチガチのゴチゴチに緊張した友人は既に指示を疑う余裕すら失っており、自分が何を言ったのかまだ分かっていなかった。良き友を持って誠に幸せである。


「さよなら」


 一手のミスで自陣に詰みが見え始めた。慌てて訂正の指示を出すが既に彼女は席を立って帰り支度を始めている。


 ヤバい……俺のせいで失恋なんてとんでもない!!




「待って下さい!!」

「…………お前」


 俺は茂みから飛び出した。

 もう体裁なんか繕ってられない。友人の名誉を守る為にも、俺は全てを打ち明ける……!


 友人が話した事は、全て私のせいです。


「──えっ!? えっ!?」


 コサックテレパシーで彼女に思念を飛ばす。

 頭を押さえ俺の声を不思議がる彼女に、俺は頭を下げた。


「友人は悪くありません! どうか、コイツと美味しいパスタの店へ行ってもらえませんか!? お願いします!!」


 土下座。そして土下座。

 俺は全てを投げ打った。


「分かりました。しかし、それは貴方自身の言葉でお願いします」

「…………!!」


 友人に向かって、彼女が体を向けた。

 もう自陣の玉は丸裸だ。これが正真正銘、ラストチャンスだ……。


「頑張れ……」


 友人の背中に手を置いて励ましの言葉を贈る。


「せっ……!」


「拙者とっ……!!」


「すぇっしゃとぉ……!!」


 頑張れ! 

 頑張れ……!!






「メイド喫茶に行きませんかぁぁぁぁ!!!!」






 \(^o^)/




「──さよなら」



 だよねー(笑)


「あ、美希さん……!?」

「諦めろ。お前は良くやった。全ては俺のせいだ」

「嗚呼……嗚呼……っ!」


 友人が後ろ向きに倒れてしまった。

 ポケットから可愛いフィギュアが二体転がった。


「あ! プリッチュア!」


 遠くで見ていたちびっ子が、ここぞとばかりにやって来て、友人のポケットからフィギュアを引き抜いた。


「こらっ! ダメでしょ!? 返しなさい!!」

「イヤー! プリッチュア欲しい!!」

「買ってあげるから!」


 ようやく現れた母親と喧嘩になるちびっ子に、友人は命辛々手を差し伸べた。


「ほ、それは拙者の手作り故……売ってないのですぞ……」

「イヤーっ!! プリッチュアプリッチュアー!!」


 売り物クオリティなフィギュアすら作る陰キャ人間国宝に、俺はそっと涙した。


「ほ、欲しければ差し上げますぞ?」

「ほんと!? やたっ!」

「良いのか?」

「ああ……まだあるから」


 ちびっ子がとても嬉しそうに、大はしゃぎで辺りを駆け回り始めた。


「すみません! すみません!」


 お母さんがひたすらに頭を下げた。


「あのね、良い子にしてないと、お空のお父さんに怒られるからね、ありがとね!」


 ちびっ子の言葉に、俺達は複雑な顔をした。

 よく見ればちびっ子の着ている服は古く、お母さんの身形も貧しそうに見えた。苦労が窺えてふと寂しさが訪れた。


「では……」


 帰ろうとする親子に、俺は声を掛けた。


「あの──」


 おい、パスタを男二人で食うには忍びないよな?


「お、おお……?」


 友人がぽかんと口を開けたが、すぐに「あ」と頷いた。


「宜しければ一緒にパスタ、如何ですか? 招待券で予約してるので」


 招待券は買って手に入れている。その事は伏せておこう。


「えっ?」


 お母さんが不思議な顔をした。

 そりゃあ謎の男二人にパスタ誘われたら、一瞬で理解出来るわけもないわな。


 おチビちゃんもパスタ、食べたいよな? 


「ママ、パスタ食べたい」

「決まりですね。予約は六時からなので、今から行って丁度良いでしょう。な?」

「ああ」


 申し訳なさそうにするお母さんを説き伏せ、俺達は四人でパスタのお店へと向かった。



「わぁ! プリッチュアのフォークだぁ!」

「拙者が作りました」

「すごぉい!」

「絵も自分で書いたのであります」


 お手製のプリッチュアフォークでパスタを食べるちびっ子。口に付いたソースを拭いてあげるお母さん。

 プリッチュアの話でちびっ子と盛り上がる友人。

 気が付けば、そんな微笑ましい光景を俺はそっと見守っていた。




『結婚しました』


 友人からの手紙には、仲睦まじく肩を組む友人とお母さんとちびっ子の写真があった。


 おめでとう。


 友人の家の方角へコサックテレパシーを飛ばした。



読んで頂きましてありがとうございました!

他にも500作以上の短編がありますので、暇潰しに宜しくお願い致します……!!

(*´д`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] >>「是非お母さんも同席を……」 親子丼吹いたじゃないですかあぁぁぁ!! いや、ご飯食べながら読んでる私が悪いのか…。
[一言] 主人公が聖人すぎる!!!!www どんな人生を送ってきたら、こんないい人になれるんだ( ˘ω˘ )
[良い点] パニーニw すごい面白いw [一言] コサックダンスを踊りながら友人にテレパシーを送るというシュールなシュチュエーションなのに、心温まる良い話になるという、しいたけマジックを堪能しました。…
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