開戦前とは気付かないらしい。
《フルダイブ》の説明を延々とし続けたバカ、岸辺 刑は捕まってしまう。
彼―――《死フェチ》の刑に待ち受けるのは・・・殺さない☆拷問だった!?
ゲームの中でも現実でも問題事ばかりの刑は―――
「びびびー」とデス音が選挙カーのように鳴り響いて、目を覚ます。
―――講評としては、良かった。
結局加減ミスられて死んだ、死ねたからだ。
何だかんだで拷問を耐え抜いた(耐え抜けた)俺は、DVDショップか学校、どちらを優先させて行くか迷っていた。
―――美少女型ロボットに拷問されるなら・・・グフフ
ぐふふ?
新たな性癖が目覚める瞬間とは、通り雨のように意外に分からないのかもしれないが、そんなことはどうでも良く・・・結果だけが残るのだ。
だが。
「何だかんだで、学校楽しーんだよなァ」
自室のベッドに横たわり、《ガレリア》を頭から外しつつ呟く。
こんなクズで変態の俺だが、高校生、といったように、一応学校には行っている。スクールカーストは何とか顔で食い込んでいる程度だが、学力のカーストはド底辺である・・・めげたら負けだと思っている!
この高校では部活加入が義務づけられているため、俺はもちろん、「eスポーツ部」に入っている。空気感はまぁまぁ良く、休んだとしてもネチネチ言われることもないため、かなり居心地のいい部だ。
―――学校、行くか。
クソゲーだと発覚した《セレヌス=フィリング》にもう用はない。
銃殺されてみようと買ってみたゲームだったが、思ったよりストーリーが良く、ここら1か月はなかなか楽しめた。しかし、《ペインリンク》した状態での拷問はかなりキツめなものだとも分かり、近場のDVDショップで売り払おうと思っている。
通学に使うスポーツブランドのバッグに必要品を詰め込み、パンを一枚口に咥え―――今時こんな登校あるだろうか―――、玄関を後にする。
玄関には靴が2つ、父と俺のものだ。
俺の母は昔っから病弱だったようで、時々診察に行く時の他に、外出することはほぼ無いといっていい。体を蝕まれる中でも俺を育ててくれた母への恩に報いるという意味でも、俺は高校に通っている。
話の雰囲気が空気に伝わったのだろうか―――外は真冬のように肌寒く、くしゃみを1つ。
いつもの通学路は、地平線まで続くかのように平坦なコンクリートとガードレールがあるのみだ。所々剥げ落ちた白のガードレールを見ても、何かに浸れるワケではない。仕方なく道の端を歩き続け、着いたのはいつものDVDショップ。
店の上の看板は青と赤で塗られているハズだが、ガードレールと同じように色落ちが激しい。
2~3台程の駐車スペースと、その2~3倍くらいの広さの店舗だが、カオスでもありアットホームでもあるその雰囲気は俺のお気に入りだ。
通学路より歩き慣れた・・・かもしれない車ギリギリの横道を通り、冷気の漏れる自動ドアの前まで。中の様子はいつも通り、たくさんの本棚(DVDやらCDも)とレジのみで、そこには数名の客と店員の姿が見受けられる。
「いらっしゃいませ~」
少しの愛想笑いが見受けられるが・・・気にせず店内へ。
今日は《セレヌス=フィリング》を売り、他にいいヤツがあれば買う・・・そんな計画でやってきたが、登校前だし早めに切り上げようと思う。
「さぁせん・・・《セレヌス=フィリング》、売りにきました」
レジに立つ店員は、まだバイトと思われる、20代くらいの若い人だった。
中の上―――中くらいのまぁまぁに良い顔だが、こんなオタク蔓延るスラム店で働くとは、彼女もこっち側の人間か。
長い金髪を靡かせながら、
「はい。3000円でお買取り致します!毎度!
というより―――
こんな神ゲー売るとは、あなた・・・転売ヤ―か何かでございますか?」
言う。
一瞬疑ったが、聞き間違いだと思い受け流―――
「ちゃうちゃうちゃーう!」
―――二文目中盤からおかしかったぞ何か?
転売ヤーじゃねぇし!てか神ゲーだったのかよこれ―――なんて、まぁ。
「(言えねェよな)」
小声の呟きではあったが聞こえたかもしれない。だがその店員は、すまし顔で続けた。
「はて?
ここは関東圏でございますが―――」
「だーかーら、違ァーう!」
半ば押し付けるようにして《セレヌス=フィリング》を売り払った俺は、次プレイする殺戮系ゲームを買おうと、フルダイブ系列のゲームが売ってあるコーナーへ向かう。
ここに来て思ったのは、すれ違う客が少ないことだ。
《フルダイブ》系列のゲームや《ガレリア》自体のシェアは高いのだが、現在はネットショッピングが主流であり、それに加えて、表立ってゲームを買いづらいという非ゲーム層の習性?もあり、意外にも店頭に人が並ぶことは少ない。並ぶのは古臭いゲームを漁る生粋のマニアもしくは、俺のようにダウンロードでなくカセットでゲームを買う人間くらいだろう。
ふと、1つのソフトが目に入る。
そのパッケージは新品同然に輝いていた。いや、新品でないと有り得ない。
俺は恐れおののきながらそのソフトを手に取る。
パッケージには、
「グラディウス・ファンタジー」
という文字と、勇者らしき青年が剣を振る、王道MMORPGにありそうな絵が描いてある―――
――――うそだろ!?
こ、これ、昨日発売の、ソフトだぜ!?
その通り。
この「グラディウス・ファンタジー」、略して《GDF》は、世界的にも超人気なソフトの新作であり、しかもここにある商品は、昨日の夜に店頭限定で発売されたという、プレミアVer.だ。
外でゲームを買うことがあまり多いとはいえないこの時代に、店頭限定という珍しさ。
そして、超人気ゲームのプレミアということもあり、かなりの倍率だったハズだが・・・
―――俺以外の転売ヤーだと!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、論点そこじゃねェよ自分。
話が逸れたが、俺的にはこのソフトを買わない案は無いと思っている。
何故なら、俺はヤ―だからだ(認めるな、略すな)。
とにかく、俺の手はそれへと一方通行だった。
ちなみにペイズリー・パークともいう。
俺はお菓子を買ってもらう子供のようにソフトを抱えてレジへと再度向かった。
「これ、お願いします・・・」
先程の女性店員が慣れない手つきでバーコードスキャナをかざし、安っぽいロゴ入り袋へと入れる。
すると、彼女は
「自分で転売したソフト買うなんて、どんな神経してるのでございますか?」
言う。
煽ってるのか正論なのか分からないが、一応悪口だろう。
「もう言いませんよ、もう。
俺は転売ヤーじゃないですただの学生です高校生です学校サボってますゲーム買ってます客です金払ってます何か言いたいことは?」
俺は思いついた全ての現状を吐き出すように投げかけた。
「い、いえ・・・」
見た目とは裏腹にメンタルは弱かったのだろうか―――言い返されることもなく、終わった。
ちょっとイヤミな店員を言いくるめたことで気分は良かったが、ゲームをするか学校に行くかで迷ってしまう。
「こっからどうしよッかなぁ・・・ッてお前何だァ!?」
俺が叫んだのは、急に少女がぶつかってきたからだ。
ぎこちない、というより歩くのに慣れていないような―――そんな気も起こす歩き方だった。
黒を基調とし、所々に青のラインがあるパーカー。フードを被っているため顔は見えないが、女性らしい仕草と胸のささやかなふくらみで、少女だと判断して今に至る。
(こくん、こくん)
少女が必死に謝るものだから、こちらも改まって
「いいですよ全然」
とだけ言い、彼女の落とした持ち物を一緒に拾う・・・・・・
拾い終わった。
(こくん、こくん)
おそらく、感謝の礼をされているのだろう。
「全然ッすよ、ホントに」
またも愛想のない返しだったが、彼女に比べたらまぁマシな方だろう。
何かから逃げるように、またゆっくりと走り去っていく彼女を見送りながら、微笑みを浮かべる。
しかし。
刑は気付かなかった。
袋に入っていたソフトが、
「グラディウス・ファンタジー」から
「インファンズ・ファンタジー」へと
入れ替わっていることに。
(それと、学校に行くことを忘れていることにも。)
どもども。
今回は(ババンッ「開戦前」と題して筆を振りました。文字が多くて疲れました・・・
「てか・・・幼児用ゲーム幽閉しないのかよ」
そう思ったアナタ!?次です。おそらく。
お読みいただきありがとうございました!
どうせなら次 (あったら) 、読んでみては?