第1王子付き侍女兼騎士団長専任秘書の主な仕事は、常に第1王子のそばに居る事
以前投稿させていただいた『王妃様付き侍女の主な仕事は王妃様を扇ぐ事』の続編的なものになります。よろしければそちらもどうぞ!!!
お久しぶりです、殿下。
この度、『王妃様付き侍女』から配属移動になりまして…
新たに『第1王子付き侍女兼騎士団長専任秘書』に任命されました、エステルです。
…長いですよね、役職名。
どちらかでいいのでは?
『第1王子』も『騎士団長』も両方とも殿下の事なんですから。
略して『侍女』でいいと思うんですけど。
はぁ、そうなんですか。
プライベートのお世話も騎士団での仕事中の補佐も両方やって欲しいし?
王妃様や姫様に私をとられないように?片時も離れずにサポートして欲しいから、ですか?
あらぁ、殿下ったら私の事大好きなんですね。もう、仕方ないですねぇ。ふふふ。
…ん?あら?冗談ですよ?
そんな顔を真っ赤にして怒らなくても…え?怒ってるわけではない?
でも顔赤いですよ。熱中症ですか?扇ぎましょうか?大丈夫ですか?
いやぁ~、それにしても先日、帝国に圧勝してから殿下ってば大陸中で英雄のように称えられてますね。
さっすが殿下!
イケメンで勇敢で細マッチョで抱かれたい男ぶっちぎり1位に輝いた麗しの王子様!
ひゅーひゅ…
…え?
私も殿下に抱かれたいか…ですと…!?
ちょおっと殿下~!それセクハラですか?
もー、殿下ってばお年頃…
…いやいや、だから冗談ですってば。
そんな真っ赤になって「忘れてくれ」とか言われなくてもセクハラで訴えたりしませんて。
そもそも私は殿下に命を救われてこうしてお仕えしているんですから、お召しとあらばいつでも殿下の夜のお世話も致しますよぉ。
もう、水くさいんだから~。遠慮しないでくださ…
…いや、あの、冗談ですからね?そんな真っ赤な顔で真剣に考え込まないでくださいよ。
真面目ですねぇ。
あ、はい。すみません副団長殿。
殿下の事をからかうの控えますから。なるべく。
はい。言われなくても、私も殿下が純情で一途な誠実男子な事は知ってますから。
この前言ってましたもんね?
浮気はしない、一生一人の女を愛する、って。
素敵ですよね~。
いや、からかってないですよ。本当にそう思いますよ。
だって、帝国の皇帝なんて最低ですよ。殿下の爪の垢を煎じて飲ませたいですよ。
知ってます?皇帝は、帝国一の美女と名高い公爵令嬢を皇后に迎えたんですけど、今の皇太子…あ、そうですそうです!先日殿下が返り討ちにした帝国軍の最高司令官をやってたくせに途中で行方不明になって、後日半裸で砂漠を彷徨っていたところを行商のおじちゃんに助けられたっていう、あの間抜けです。
で、皇后様がその皇太子を産んだわけだし、もう夫としての義務は果たしただろうってことで、後宮に側室をじゃんじゃん集め始めたんですよ。
まずは帝国で美女と言われる貴族令嬢を十数人。
お嫁さんにしたいランキングの上位10名すべてを嫁にしちゃったわけですね。
羨ましい限りです。
それでも飽き足らず、周辺国から年頃の姫を差し出すよう命じたり、通りすがりの踊り子を無理やり側室にしたり、村で評判の宿屋の看板娘をさらってきたり、挙げ句の果てにはある国の女王を側室に加えたいからって理由でその国を征服したこともありましたね。
もう、女好きもここまでくるとやばいですよね。きもいですよね。
姫様もあと5年早く生まれていたら嫁によこせって言われてたかもですよ。
危なかったですね。あんなエロオヤジが義理の弟になるなんて最悪ですよね。
え、私にはお誘いは無かったのか、ですか?
いやぁ~、さすがに皇帝も私に手を出すのはまずいってわかってたんじゃないかと…色々と問題が…。
ほら、それにアレです、私6歳の頃から婚約者いましたし…、あとほら、私はおしゃべりで可愛くない女なんで皇帝には嫌われてて…
ええ~、やだもぉ、殿下ったら。
「エステルは世界一賢く美しい最高の女性」だなんて!
「俺が皇帝だったらエステルを皇后にして側室なんかいらない」だなんて!
お上手~!さすが殿下、部下の扱いわかってる~!
誉めて伸ばす方針っていいと思います!
よっ、理想の上司!
…え?なんですか?鈍い?私が?何故?
まぁ、とにかく、殿下はそんな汚いおっさんになってはいけませんよ。
あ!そうそう!
お嫁さんといえば、王妃様からこれ預かってきたので見ていただけます?
何って。ご覧の通り、絵姿ですよ。
殿下のお嫁さんオーディションを勝ち上がってきたファイナリストの3名の。
陛下と王妃様と姫様と宰相閣下をはじめとした国の重鎮達が大陸中から応募してきた候補者1582人の中から厳選した方々だそうですよ。
すごい競争率ですね~。下は3歳、上は76歳まで応募があったらしいですよ。さすが英雄!
さあさあ、好きな女子を選んでくださいよ~。
え?会ったこともない相手と結婚なんて出来ない?
もー、殿下ったら、そんなティーンエイジャーの夢見る女の子みたいな事言って~。
仕方ないですねぇ。
それなら私がお見合いの席をセッティング致しますよ。侍女兼秘書ですから。
どんな子がタイプなんです?エステルお姉さんにこっそり教えて下さい。ふふふ。
ふんふん。
銀色の髪で?オアシスのような澄んだ水色の瞳の美女?
さらに、賢いのに鈍感で?一緒にいて飽きないおしゃべりな女性?
…?なんですか、その具体的な好み。そんな人がいいんですか?
うーん、銀色の髪って帝国の王族くらいしか居ないので、その条件は外していいですか?
え?はあ、確かに、私はたまたま銀髪ですけど。
そうですね。瞳の色もたまたま水色ですけど。
まあ、私の事は置いといて、殿下の理想の女性の話に戻しましょう。
…?どうしてそんな残念な顔で見るんですか。副団長殿まで。
え?とんでもなく鈍い?私が?何故?
うーん、この中で一番近いのは彼女ですかね~。
クラリーネ・ステンフォーデム様。
北方のステンフォーデム公国の公女様で、花も恥じらう18歳。
金色の髪に水色の瞳の美しく聡明な方ですよ。
ただ、おしゃべりではないんですよね~。人見知りが激しくて、小さい頃から仕えている護衛騎士でも「ええ」「嫌」以外の声を聞いたことがないと言ってましたし。シャイなんですよね~、箱入り娘だから。
…え、パスですか?
ではこの方はどうです?
我がイラーザ王国宰相、ギネーラ侯爵閣下の一人娘、ミランダ・ギネーラ様…ちょ、ちょっと殿下。
パスって。早いですよ。何でそんな食い気味でパスするんですか。
ミランダ様のどこが不満なんですか?
黒髪黒目は好みとは違うのかもしれませんが美しいですし、社交的で賢い方ですから一緒にいて飽きないじゃないですか。
…はあ、駄目ですか。まぁ…まだ7歳ですからね。19歳の殿下とはちょっと年齢的な釣り合いがとれない感じですか?
「殿下って小さい女の子が好きなのね」と言われるのもアレですもんね。
そうですか~。
じゃあ、最後の方で決まりという事で。
え、駄目?
だって、クラリーネ様とミランダ様はパスなんですよね。
それならば残ったのは彼女だけしか居ないですよ。
南方の島国、ナーバル王国の第3王女、アレキサンドラ様です。
ちょっとつり目ですけど美人だし、ちょっと性格きついですけど良く喋りますし。殿下の好みにぴったり…
え?なんでそんなに急いで婚約者を決める必要があるのか、ですか?
それがですね、一ヶ月後に殿下の誕生日を祝うパーティーをやるじゃないですか。ハタチの。
各国からも殿下のお祝いに偉い人達を招きますよね。
陛下と王妃様的には、その席で殿下の婚約を発表出来たらいいな~なんて考えてらっしゃるみたいなんですよ。ハタチってキリがいいし。
ですので、一ヶ月後までに3人の中から選んでおいてくれって仰ってました。
え?別の人と結婚したい場合はどうすればいいのか、ですか。
うーん、そうですかー。
3人とも素敵な女性だと思いますけど、まあ、わかりました。
人生の伴侶ですもの。すぐには決められないですよね。
それじゃあ、一ヶ月後の誕生日パーティーは同伴者無しという事で、陛下と王妃様にお伝えしておきます。
そのパーティーで運命の出会いがあるかも知れないですしね。
殿下がフリーだってわかったら未婚の肉食女子達から猛烈なアプローチ合戦もあるでしょうし。
モテモテですからねえ、殿下は。
は?私もパーティーに出るのか、ですか?
いや、私は単なる侍女で秘書で平民なので出ませんけど。
いや、一緒にいてくれと言われましても、身分的に出られませんし。
横にいて欲しいと言われても。そんなに肉食女子が恐いんですか?
違う?
…?どうしたんですか、殿下。
そんな真剣な顔をして。
なんですか、改まって「伝えたいことがある」なんて。
え?「誕生日パーティーだけでなく、その先もずっと横にいて欲しい」…?
「妻として横にいて欲しいのはエステルだけ」…?
え…それってつまり…その…アレですか?
ピッチャーにとってキャッチャーは女房役であるように、殿下にとって侍女兼秘書の私が女房役なんだよって事ですか?
やだぁ、水くさいですよ殿下ったら!
そんな改まって言っていただかなくても、私は部下として、誠心誠意殿下にお仕えしますって。
そんな遠回しな言い方しちゃって、危うくプロポーズかと勘違いしそうになっちゃいましたよ~。
でも、そうですか。そこまで肉食女子が恐いなら私が殿下に結界をはりましょうか?邪な者を近づかせないやつ。
しかし、帝国軍相手にあんなに勇猛果敢に挑んでいったというのに、殿下ったら意外と奥手なんですね。
…ん?どうしたんですか、殿下。
机に突っ伏しちゃって。眠いんですか?安眠魔法かけましょうか?
◆ ◆ ◆
イラーザ王国第1王子であるジークの誕生日を祝うパーティーでは、彼の婚約者が発表されるのではと言われていた。
しかし、パーティー中ジークは挨拶以外で未婚のご令嬢達と話すことも無く、ダンスは妹姫としか踊らなかった。
そのため、婚約者がまだ決まっていないのでは、と察した年頃の令嬢達がジークを取り囲むという事態が発生した。
しかし、どういうわけかジークのまわりに見えない壁でもあるかのように誰一人として半径2メートル以内に近づくことはかなわなかったので、文字通り取り囲むだけだった。
結局、婚約者の発表も無く、ジークのお誕生日会は和やかなまま幕をおろすこととなった。
その後もジークのお嫁さんオーディションは幾度か開催されたが、彼のお眼鏡に叶う女性が現れることは無かった。
理想の高いジーク王子は結婚する気が無いのでは、とまわりが焦り出した数年後、彼は国民の多くが集まる式典中に電撃的にとある女性にプロポーズをした。
相手は、王子の侍女兼秘書としてジークに仕えていた平民の女性だった。
今まで平民が王族に、しかも次期王となる王子に嫁いだという前例はない。
当然、まわりは反対する…かと思いきや、王宮関係者は諸手を挙げて喜び、ジークに対して「ようやく言った!」と感動の涙を流す者までいた。
一方、プロポーズされた平民の女性は、「え?ドッキリ?これドッキリですか?進行的にはOKして騙された方がいいんですか?」と戸惑いながらジークの求婚を受けた。
後に彼女が語ったところによると、婚約期間を過ごし、結婚式が終わり、初夜を迎えるその時まで、ドッキリの種明かしはまだなのだろうかとずっとそわそわしていたのだという。
ドッキリだと勘違いしたまま王子妃になってしまった彼女だったが、初の平民からの王子妃ということで国民からの人気は高く、また、その能力の高さを発揮してジークを支え、国の発展に大いに貢献したという。
お読みいただきありがとうございました!
◆登場人物紹介
エステル…第1王子付き侍女兼騎士団長専任秘書。年齢不詳。
ジーク…第1王子で騎士団長。ティーンエイジャー。
副団長…名前はまだない。王子の恋路を応援している。37歳。