4話 正直
早くも半日が過ぎ、時間は昼休憩に入ろうとしていた。
俺がいつものように他クラスに行こうと準備していると、どこからか女子達がこちら側へ歩いてくる。よく見たら、今朝、平本を囲んで尋問していた奴らだった。
先頭にいるのは浅田。彼女は俺の机の前で立ち止まり、凄い形相で睨んでくる。やっぱりかわいい顔が台無しだった。
「んだよ」
俺は浅田たちの方を見向きもせずに言う。
浅田が表情を少しも変えずに言った。
「先生の話、聞いた?このは、記憶喪失なんだって」
俺は何も言わず、ただ黙々と昼食を準備する。
「このは、自分のキャパシティをオーバーさせてしまったんだって。ストレス溜め過ぎたって。聞いてた?」
「聞いてたさ。よくあることなんだろ?」
心なしか自分の口調が厳しくなっている気がする。
「そうみたいだね」
浅田は呆れるような、怒っているような、なんとも言えないため息を吐いた。
「でさ、私考えてみたんだよ。なんでこのはがあんなことに、」
「前置きが長えんだよ。さっさと要件だけ伝えろ」
俺がキレ気味に言うと、浅田は一瞬怯んだ後、声を荒げて激昂した。
「な……な、何なのよあんた!犯人のくせに、このはを苦しめたくせに、何よ!もう少し反省しなさいよ!!」
「犯人って何だよ。俺は犯罪者じゃねえぞ」
「ふざけないで!!」
浅田が机をバン!と叩く。クラスメートたちの視線が痛い。
「あんたが……あんたが……!」
俺は浅田が一体誰に向かってキレているのかわからなかった。
「あんたがこのはにとどめを指したのよ!あんたがあのときあんなことを送らなければ、このははこんな風にならなかった!」
「あんなときとかあんなこととか知るかよ」
「とぼけないで!」
浅田が俺の胸ぐらを掴んだ。息ができない。苦しい。
というか、後ろの奴らは何しに来たんだ。
「あんたにとっては軽い気持ちのことだったのかもしれないけど、このはにとっては凄く辛いことだったんだよ!どれだけ悩んで返信したか……あんたにはそれがわかってるの!?」
遂に他クラスの奴等まで野次馬に来た。そろそろやめてほしい。
「で、俺は何をしろと?」
「きっ……」
浅田が黙った。歯ぎしりの音が聞こえる。
「とどめだが何だか知らんけど、俺は別に平本を苦しめたつもりはない。もういいか、松原達が2組で待ってんだけど」
俺はそう吐き捨てて、さっさとその場を後にした。
人は皆、素直にはなれないものだ。