2話 曇り空
「はいはい。驚くのもわかるけど、詳しくは後で話すからとりあえずホームルーム始めるぞー」
静まり返ったクラスを中田先生が手を叩いて制する。「平本このは」とかいう転校生は、生徒からの反応がなくて戸惑っているようだった。
「じゃあ平本さんは端っこのあの席に座ってください」
中田先生が丁寧語で話しかける。平本が軽く会釈して自分の席へ向かおうとする。
そんな中、クラスの静寂を破った者が現れた。
「こ、このは!?本当にこのはなの!?」
それは、浅田萌夏という、かつて俺の知っている平本このはと仲が良かった奴の一人だった。
「なんで……なんで今まで連絡くれなかったのよ!!」
浅田が声を荒げて叫んだ。彼女の目には涙が浮かび、喜んでいるような、悲しんでいるような、中途半端な表情だった。整った顔が台無しだった。
まあ、浅田の気持ちもわからなくはない。10ヶ月前から音信不通だった友達が、新学期になって急に再登校してきたら、誰だって驚くだろう。俺も、少し状況が理解できないでいる。
しかし、意外なことに、浅田は驚いているわけではなかった。
怒っていた。
「そ、そうだよ!私にも1つぐらいメール入れてくれたっていいじゃん!」
「来るなら来るって言ってよ!」
「すごい心配してたんだから!」
「まさか…どういうこと……?」
「転校生って、確かに名簿からは消されていなかったけど……」
浅田を革切りに、多くの女子が平本を質問責めにする。男子は一部の陽キャ達がざわついているだけで、大半が我関せずといった感じだ。
「静かに静かに!確かにざわつく気持ちもわかるが、今はホームルームの時間だ。やることが山ほどあるから、そういうのはまた後でやってくれ」
中田先生が大きな声で遮る。先生が話すと一瞬で静まるところが成績上位クラスっぽい。
「それに今日は新学期初っ端ってこともあって、やることが山積みなんだ。さっさと進めるぞ。2時間目が学活だから、みんなにはそこで説明する」
やはり2年連続同じ担任なだけあってまとめるのが上手い。なぜか素直に関心してしまった。
「じゃ出席取るぞ。休みは……」
あの後は特に何事もなく無事にホームルームは進んだ。
聞くと、この学年の先生は全員去年とメンバーが変わっていないそうだ。珍しいこともあるもんだ。
だけど、1つだけ納得いかないことがあった。
俺がさっき教室に入ってきた「平本このは」を見たときに感じた違和感。何かモヤモヤする感じが、ずっと心のなかにある。
その正体を校長の話とか新生徒会とかの紹介のときにずっと考えていたけれど、やはり答えは出なかった。
ああ、平本ならずっと窓の外を見てた。曇り空を見て何が楽しいんだか。