1話 はじめまして
俺が高校に入学して2回目が春が来た。
俺はこの時期があまり好きではない。周囲がいつもの倍、騒がしくなるからだ。
クラス替えに新しい担任、新入生に部活勧誘。
朝登校して夕方家に帰るまで、1秒たりとも静かにならない。
俺は基本的に静寂が好きなのだ。天下のリア充様の声なんぞ聞きたくもないが、こういう輩は決まって声が大きい。聞きたくなくても勝手に耳に入ってくるのだ。
ま、この騒音公害も1ヶ月もすればどうせ落ち着いてくる。そうしたらまたいつもの日常に戻るだけだ。そうすればちょっとはリア充達も大人しくなるだろう。
と、俺は超どうでもいい考察を終えて伸びをした。だらんと手と首をだらしなく背もたれに預ける。
眠い……
最近悪夢を見る。そのせいで全然眠れないのだ。
悪夢と言っても誰かに襲われたりとか殺されかけるとかそういった悪夢じゃなくて、精神的に来るような、辛い経験とか過去とかそんな類のアレだ。
いい加減慣れるかなーとも思ったが、やっぱり自分の心というのは素直なもので、毎回夜中に飛び起きてしまうのだ。汗びっしょりでな。親にエロい夢でも見たのかと誤解されたほどだ。
まあ、そんなこんなで俺は今とてつもなく眠い。しかし、この後には新しい担任の話とか校長のクソ長い話とか憂鬱な自己紹介タイムとか班長決めとか誰得新生活応援フェアが目白押しで、安眠妨害この上ないのだ。今の内に色んなことを考えておかなければ、去年の二の舞待ったなしだろう。
と、いっても、別にそれ以外やることもなく暇なので、俺はクラスを見渡した。顔ぶれは……去年とほとんど変わっていない。さすが、成績上位の1組なだけある。簡単に玉座は渡さないらしい。
そんな中、俺はクラスの端っこに違和感を感じた。あれ、そういえば1組って29人じゃなかったか?なんで机が30個あるんだろう。転校生でも来るのだろうか。
ま、別にいいか。どうせ俺には関係ないことだ。転校生なんぞのイベントはそこらへんの女子とかがワイワイやってくれるはずだ。蚊帳の外だな。
「おーい、ホームルーム始めるぞー」
気が付けば新しい担任が入ってきて声をかける。みんなが席につきはじめた。
………いや、担任も変わってねえのかよ。
「よーし、突然だが、今からみんなには転校生を紹介する。驚かずに、暖かく迎え入れてほしい」
はいはい、挨拶も無しですかい中田先生。わかったわかった。転校生ね。拍手でもしてりゃいいんだろ。
「じゃ、入ってきてくれ、平本さん」
転校生が入ってくる。
え?平本?
───気づいたときにはもう遅かった。
クラスに入ってきたそいつは、生徒たちの視線を釘付けにした。
長くサラッとした綺麗な黒髪。
触れれば折れてしまいそうな細い手足。
儚げな表情でクラスを見つめるそいつの名前は───
「平本このはです。はじめまして」
絶対に、はじめましての存在ではないことだけは確かだった。