プロローグ 6月10日
拙くて各話短い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです!
『付き合ってください』
俺は最後の行にそう打ち込むと、大きく深呼吸して息を整えた。
今日は6月10日。別に国民的な祝日でも、大きなイベントがある日でもない。何の変哲もないただの平日。
だけど、俺は1ヶ月前から決めていた。ずっと好きだったあいつに、絶対告白してやるんだと。
俺はもう一度文章を見直す。おかしなところはないか、打ち間違いはないか。確認して、もう一度深呼吸する。
正直、緊張と恐怖で手が震えている。もし振られて気まずくなった時、俺はなんて送り返したらいいのか。そして、学校であいつになんて顔して会えばいいんだ。
失敗すれば、今までの関係は崩壊してしまう。きっと、もう戻ることはできないだろう。
それでも俺は告白する。いや、告白しなければならない。あいつに、想いを伝えなければいけないのだ。
そう、決めたのだから───
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結局、昨日は既読がついたまんま返信は返ってこなかった。
まあ、大方予想はしていた。こんな急に告白されても戸惑うに決まってる。そしてあいつは返信が基本的に遅い。時間的に考えて、今日の夜ぐらいには返ってくるだろう───
と、俺は寝起きながら、自分のスマホが緑色の光を明滅させているのを見た。
ドキン、と胸が高鳴る。眠気が一瞬で吹き飛んだ。
まだ誰から送られて来たメールなのか確認もしていないのに、俺は反射的に気づいてしまった。
恐る恐る手を伸ばし、念の為メールの送り主を確認する。
『平本このは から 新着メッセージがあります』
やはりそうだった。このメールは間違いなく、昨日の告白に対する返信だ。朝に送ってくるなどあいつらしくないが、あいつにとっても不測の事態だったのだろう。
覚悟を決めて、『新着メッセージがあります』と表示されているところをタップする。緊張の瞬間だ。
アプリが開かれ、遅れて画面に返信が映し出される。
『昨日さ、私、本当に嬉しかった』
まず目に飛び込んで来たのはこの文だった。そして俺はこの時点でその後の文章に予想がついてしまった。
『だけど、ごめんなさい。君とは、付き合えません』
─────終わった。
終わってしまった。
俺はその日、学校に行くことができなかった。
俺は2日後から学校に通うことができた。
だけどあいつは、もう10ヶ月も、学校に来ることができていない。