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令和源氏物語  作者: 紫ゆかり
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持論の展開図

 こんにちは! 私はアーシャ。

この幸せな結婚遺伝子研究所の新米研究員よ!

幸せな結婚遺伝子研究所では、可能な限りの人類のゲノムデータと過去の家系図や離婚歴を照らし合わせて、最適なお相手を提案するという理念のもとに解析をしています。

 もちろん、時には大金を積まれて最適ではないお相手を提案する事もあったようだわ……。

研究には莫大な維持費がかかるからしかたないの。

そこは割り切っているわ。

 私達の使命は、とにかく離婚させないこと。

離婚はとても愚かな行為です。なぜなら……

第一に、財産が分割される。せっかく増やした資産を、子供の数まで制限して減らさないようにしているのに、離婚して分割。なんて無意味な行為でしょう。

第二に、子供の社会性への影響。特に男子が成長の過程で学習する自分と似た個性の自立した大人の男性が身近にいなかった場合、その影響は計り知れません。

第三に、伝統的家族社会の破壊。人間は誰しも、無意識に自分の遺伝子を残す行動をとっていて、全体の利益よりも個人の利益を優先させます。その結果、子殺しや、子殺しや、子殺しなど不幸な結末を迎えてしまうことになります。

 どうですか? 私の情熱おわかりいただけましたか?

とにかく私は全人類を最適にマッチングさせて幸福にしたい!

人間をチェスの駒に見立てて、出会わせたり争わせたりして恋に落とさせる。必要なら目に映るもの全てをハッキングして、その人の事ばかり考えるよう洗脳する。なんなら周りに同調圧力を生み出して判断力を鈍らせる。そこまでしても問題は持続性よ。

これは伝統的な採集民族の頃からの名残りなのだけれど、子供が4歳頃、ちょうど精神的にも乳離れを向かえる時、夫婦に危機が訪れる。これを克服しなければならない。

そして今の私には男性の心理はわからない。

ゲノム編集で脳の神経を男性化する必要があるわ。

その後は、Benny所長のように知能と記憶領域のゲノム編集をしてコンピュータと連結。

その時、私は全人類を……あら、Benny所長だわ。


「おはようございます、Benny所長。オフラインで出勤なさるとは思いませんでした」

「オフラインに決まってるじゃないの!

 今日アウトプットする言葉は万が一盗聴され公開されでもしたら大変なことになるわ。

 今日喋りたくなるのは研究所の信頼性を損なうことになっちゃうようなことよ。

 公開されたら後悔することになるわ。

 ところで、キラキラ光る光る君の三女のデータは盗めた?」

「はい、解析が終わりました」

「ふぅん、光る君を光る君たらしめるパターンが、こことこことこことこことこことこことこ

 ことこことこことここだと思うのだけど、引き継いでるようね」

「はい、桐壺の長男とのマッチングで再現性を高めることができると思います」

「よかった、じゃあ15年後まで監視……観察対象ね」

「15年後楽しみですね。次こそ失敗しません」

「そうね……なぜ光る君は、提案した花散る里と恋に落ちなかったのかしら……。

 とんでもない失態よ。

 あれだけいろいろ画策したのにもかかわらず、婚期が10年も後ろ倒しになってしまった。

 しかもクローンまで産んでしまって、彼女のせいで計画はめちゃくちゃよ。

 それはもちろん、私の読み違えなのだけれど。

 光る君は早くに父親を亡くしているから記憶にないと予測したのよ。

 だから身近にいる男性の保護者と似た個性の花散る里とマッチングした。

 しかし記憶にないはずの父親に似た個性の桐壺に求愛した。

 クローンを産むほどに……。

 このクローン問題も解決するには結局マッチングを正確にするしかないのよ」

「うちの顧客はなまじお金があるから、すぐクローンにいっちゃうんですよね……。

 同じ人間として情けなく思います。

 それにしてもBenny所長がそんなに源氏物語にお詳しいとは思いませんでした」

「詳しいわけじゃない。詳しいわけじゃないけどすごいの。

 私の解釈では、源氏物語は女性が書いた物語で、女性が、女のこころで、

 物語の中を男として生きた話よ。

 千年も前に、作者は狭い貴族社会の中の人間観察だけで、女は父親に似た個性の男に求愛し、

 失った場合一生引き摺られて苦しむことを知っていたの。

 それを私の支配下……観察対象が現代でも再現していることに気づいて衝撃だった。

 しかも全くコントロールできない。

 光る君は光る君のロジックで行動している。

 私はそのパターンを読みきれない。敗北感しかないわ」

「そうだったんですかー。

 じゃあせっかくだし、光る君の三女が15になったとき選択肢が多いように調整しますね。

 といっても、そのパターンに当てはめると、父親の花散る里に似た人になるのでは?」

「それがそうでもないのよ。

 たとえばスポーツ選手は同じスポーツの選手に求愛することがあるわ。

 それは狭い人間関係の中ってのもあるけど

 無意識に子孫の能力を高めたいと思ってる可能性もあるわよね。

 光る君が、父親と似た個性の男性に求愛したのか、

 それとも自分と同じようなクリエイティビティに富んだ脳に求愛したのか、

 全く別の理由からなのか判断がつかないわ」

「じゃあやっぱりなるべくたくさんの男性と出会えるよう配置しますね。

 源氏物語よりたくさんの。

 15年後が楽しみです」

「ありがとう。その時まで寿命が持つかが心配だわ」

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