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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第二章 彼らと彼女は、何かを楽しんでいた
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08「変動率?」

 あと数日で、ゴールデンウィークだ。クラスメート達がいろいろと準備をしているようで、楽しみである。楽しみではあるが、たまに準備の方向性が思いがけないものとなることがあるので、ある意味油断はできない。


「あー、この時代の制度は試験に必ず出すからな、よく理解しておくように」


 そして、ゴールデンウィークが終わって一週間くらい後に、最初の定期試験、一学期の中間考査がある。私はともかく、『過去問』が作れるほどに試験内容を熟知している他のクラスメート達は、この時期さぞかし気楽だろう……と、思っていたのだが。


「……(じー)……」

「……(かきかき)」

「(ぺらぺら)……」


 あれ? なんか、いつにも増して授業を熱心に聞いている。少し前までは、お気楽極楽な雰囲気があったのに。寝てた人も結構いたよね? 露骨にやると白鳥先生が泣くからって、ひっそり目を閉じて静かにしているというテクニックを披露していた人もいたりして。


 私としてはとりあえず、いつも通り、普通に聞いて普通にノートをとって普通に理解を進めていく。後で『過去問』をもらうつもりではあるけど、定期試験は実力テストより問題数も科目数も多いし、練習問題的な使い方をするのが無難だろうと考えているからだ。


「「「「「……」」」」」


 うーん、やっぱり気になる。



 お昼休み。


「……ということなんだけど、何かあるの?」

「うん、あるんだ。安積さんにはわざと教えてなかったけど」

「やっぱり。それで?」


 お約束的に、安藤くんに疑問をぶつけてみる。


「実はね、この時期はなぜか『変動率』が高いんだ」

「変動率?」

「そう。といっても、気をつければ(・・・・・・)1%にも満たないんだけど」

「えっと、変動率の意味を、もうちょっと教えて」

「ああ、ごめん。簡単に言えば、この時期の僕達の授業態度が、ゴールデンウィーク後の試験内容を変化させやすいんだ」

「そうなの?」


 3周目あたりにもなると、年度当初からクラスメートの誰もがまともに授業を受けなくなったらしい。寝る者、(ほう)ける者、無断欠席する者。それが、1-Cだけに数多く発生する。目立つことこの上ないし、当事者達は何やら意味不明な言動もしていたから、職員室は不気味な雰囲気を醸し出していたそうだ。ソースは、白鳥先生。それはもう、泣きじゃくりながらクラスメート達に訴えたそうだ。ちゃんと授業を受けてくれと。


「でも、当時……って言っていいのかわからないけど、とにかく、3周目の僕らはそんな状況も意に介さず、ゴールデンウィークにしても、それぞれ思い思いに遊びまくった。連休が明けたことすら気がつかないほどの生徒が出たくらいに」


 えええ…。最後のそれって、夏休みがそうなってしまいそうだったっていう、都市伝説風のジョークでしかないと思っていたのに。


「そうして迎えた3年目の最初の中間考査だったんだけど……。びっくりしたね、1年目と2年目はほとんど同じだったのに、その時は、どの科目も30%以上が異なっていた」

「30%以上!?」

「しかも、より簡単な問題になってた」

「えっ」

「でも、どうせ同じ問題だろうと高をくくっていた僕ら1-Cは、平均点を大幅に下げた。そして、1-C以外のクラスは例外なく平均点が上がった」

「あう」

「試験返却から数日くらい、白鳥先生は学校に来なかった」

「……」


 3周目では更に混乱が続いたため、4周目と5周目では有志の間で定期試験ごとの検証が行われた。授業態度と試験内容の違い、それを、変化する時期と照らし合わせて。


「簡単なことだった。先生たちはみんな、この時期を中心に試験問題を作成していたんだ。作り終えて、後顧の憂いなくゴールデンウィークを迎えるためにね」


 確かに、クラスメート達の言動の変化が、天気や社会情勢に大きな影響を与えることはない。けれども、身近な範囲では割と影響があった。こうして、自分自身の状況にそれなりに跳ね返ってくることも。


「僕とかは、それを機に、今後の周回では気をつけていくことを考えたんだけど、ほとんどのクラスメートは、むしろ逆だったかな」

「ああ、柿本くんの諸外国放浪事件とかね」

「事件って言わないで」


 たまたま近くで聞いていた柿本くんがすかさず突っ込む。でも、事件だよね、それ。まあ、どんなに勝手なことをしても、世の中何も変わらないのに、自分にだけは……っていう無情さは、わからなくもないけど。


「そして以前も話したように、8周目くらいからようやく落ち着いたわけさ」

「じゃあ、この『過去問』って、みんなの仲間意識の象徴みたいなものなのかもね」

「単に、無茶をし尽くしただけって話もあるけどね」


 私の手には、中間考査の試験内容がまとめられたノートがあった。今回の話を聞かされる前に渡された『過去問』である。やはりというか、ループしていない私にとっては、練習問題のように利用した方が良さそうだ。


 あ、そういえば。


「ねえ、この時期に私が先生達に、授業内容の質問とかをたくさんしたらどうなるのかな?」

「たぶん、安積さんひとりだけならほとんど影響ないと思うけど……ちなみに、たとえばどんな質問をしたいの?」

「えっとね、『過去問』にはないんだけど、今日の世界史の授業の……」


 かくかくしかじか


「この地域の制度かあ……授業ではどの周回でもさらっと流していただけだから、むしろわかりにくいかもね」

「うん。他にもあるけど、聞いていいものなのかなあ、と」

「うーん」

「いいんじゃないか? そのあたりは試験内容には影響ないと思うぞ」

「柿本くん?」

「スカンジナビア半島だよな? キリスト教が浸透する前は記録があまり残ってなかったらしいから」

「そういうことかあ。でも、詳しいね?」

「北欧神話に興味もってた周回があったから。国研始める前だな」


 北欧神話かあ。時を司る神が有名だよね。えっと……。


「ふふん、『ノルン三姉妹』だろ?」

「そうそう。え、なんで考えてることがわかったの?」

「そりゃあもう、ループに関わることならなんでも調べた時期があったからな」

「ああ、なるほど……」

「ちなみに、別名は『運命の女神』。なんかヒントが得られると思ったんだけどなあ、俺達の状況に関わることで」

「なかったの?」

「全く。というか、松阪とかと普通に時空間の研究者についても調べてみたんだけどさあ……」


 あれ、いつの間にか大きく話題がそれた。まあ、いいか。あらためて『過去問』もらったし、今晩からウチで復習しようっと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。過去編としてグレていた年のこととか詳しく知りたい。特に柿本君のこととか
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