06「今日も明日も明後日も、楽しいことが待っている」
短編前半分割分のラストです。
「じゃあ、国研のお試し以外は入らなかったの?」
あ、安藤くんもやっぱり省略は国研なんだ。
「うん。別に嫌ってわけじゃないけど、どの部活動も、なんだか邪魔しちゃいけないような雰囲気があって……」
「でも、それってウチのクラスの生徒だけだよね?」
「……もう、割と有名だよ? 『1-Cはみんなすごい』って」
「えっ、そうなの!?」
「だから、私も同類……ごめん、とにかく、そういう風に見られちゃって、他のクラスや学年の生徒に敬遠されるというか」
1-Cの誰かといつも一緒に体験していたからってのが大きかったけど。
「それは……これまでの12周の中でも気づかなかったなあ。あー、でもそうすると、ごめん」
「ううん、いいよ別に。どうしても部活動したいってわけじゃなかったし。それに……」
「それに?」
うん、なんというか、ね。
「1-Cのみんな、仲いいし。放課後とか週末とかにも、お出かけに誘ってくれるし」
そろそろ始まるGWの予定もかなり埋まっている。おすすめスポットてんこもりで、今から楽しみだ。
「ああ、それね……」
「?」
「いやね、初めの頃の周回では、結構仲が悪かったんだ、ウチのクラス」
「そうだったの!?」
「2周目からしばらくは、とにかく混乱が激しかったなあ。1-C関係者以外は誰もループのこと信じてくれなかったし、4〜5周目あたりは自暴自棄になったのも何人かいたし」
白鳥先生、思い出し泣きしてたしなあ……。
「『どうせまたリセットされるんだ』ってヤケになって、4月から学校に来なくなっちゃったりしたのもいたし」
「うわあ」
「ちなみに、国研の柿本が親の金を盗んで諸外国を放浪した周回もあった」
「……」
「でまあ、それでも次のループは無情にやってくるから、みんなして常識のタガが外れやすかった周回もあったね。貞操観念が……いや、なんでもない」
……うん、最後の四文字熟語は聴こえなかったことにしよう。
「結局、どんなに無茶なことをしても、世界は大きくは変わらなかった。少なくとも、一年間程度では」
安藤くんは、以前私に渡した天気予定の手帳を取り出して眺めながら、しみじみと語った。
「そんなわけで、8周目くらいからかな? だいたいみんな賢者モードになってしまったというか、いろいろと悟ってしまったというか。そうなると、いがみ合ってもしかたないじゃない?」
「なるほどねえ……」
「最近の周回じゃあ、完全に仲間意識が根付いてるね。お互いのことは知り尽くしてしまったところもあるし」
「私は、初めての一年だよ?」
「だから、いい刺激になってるんだよ。ループ脱出の期待も込めてね」
私自身は結局、何も特別なことはしていない。クラスメートのみんなと楽しくお喋りしたり、いろいろと教えてもらいながらあれこれと体験したりしているだけだ。『過去問』も…ふ、復習には最適かな?
「やっぱりわからないままだけど。なぜ私が13回目に存在しているのか、そもそもなぜループは起きているのか」
「たぶん、今度のリセットの時期になにかしらはわかるんじゃないかな。ループを抜け出せるのか、安積さんを含めて14回目が始まるのか、それとも……」
「12回目までと同じく、私が存在しない14回目が始まる……とか?」
「それは……寂しいかな」
私も、そう感じるかもしれない。その時の私がどうなってしまうのかはわからないけど、せっかく仲良くなったクラスメートと会えなくなるのだとしたら……。まだ1か月も経っていないのにそう思うのだから、このまま年度末までみんなと過ごしたら、間違いなく離れがたくなるような気がする。
「……ループから抜けられないなら、私も14回目がいいかなあ」
「安積さん……」
………
……
…
ガラガラッ
「あー! 安藤くんと菜摘ちゃんが放課後の教室でいい雰囲気になってる!」
「ダメだぞー、今日は帰りにみんなでカラオケ行こうって決めたじゃん」
「そうですね。せっかく近場に新規開店する日なんですから」
「本日限定、ひとり百円ぽっきり! ほらほら行くぞ!」
わいわい
うーん、ちょっとあけすけな気がしないでもないけど……うん、まあ、居心地はいい。
とにかく、今日も明日も明後日も、楽しいことが待っている。入学する前は、近所にも学校にも知り合いが全くいなくて、どうなることかと不安だったのだけれど、今はそんな不安はない。
たとえそれが、あと一年弱しか続かないのだとしても―――
次話以降は、新規日常話が続く予定です。プロットはあるけど書き溜めがないので、不定期連載となるかもしれません。