46「それがみんなの願いなのだから」
※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は最終章の4話目で(短編加筆修正ではない)新規追加分です。そして、ここからは安藤くん視点です。
「ループ脱出、ループ脱出! 神様、今度こそお願い!」
「そして神様、その後ボコらせて!」
「おーい、神様の機嫌を損ねるような発言は控えようなー」
「そうよ。また実力テストでトラウマ発動するのは地味にキツいんだから……」
最後にそう言った白鳥先生は、本当に、げんなりしたような顔をしている。
その気持ちは、僕が良く知っている。最初のループである2回目の高1の時から、みんなを混乱させないために、陰に陽に奔走し、困惑し、挫折し、それでも、次の周回までには立ち直って、最初からやり直して。僕らは、自分自身を極めるために動くことが多かったけど、白鳥先生は、みんなをまとめることだけに奔走した。クラスの誰かひとりでも孤立させないために。
クラス委員長として、同じくクラスをまとめる役割を担った僕は、そんな白鳥先生の様子を少しずつ垣間見るようになった。最初の1年目は、新任教師としての初々しさ……いや、生徒である僕の立場で言えることじゃないけど、そんな様子が最初にはあったのが、周回のたびに何かを見極め、対処していく様がわかるようになった。そのたくましさが、みんなには『残念美人』と映ったみたいだけど、僕には、かけがえのない何かに見えて、そして、憧れになって―――
「でも、だからこそ、今度はループを脱出したい……」
「それはそうよ。それがみんなの願いなのだから」
「っ!? 白鳥先生、僕のつぶやきに突っ込まないで下さいよ」
「ごめんなさいね。これまでの周回では、そんなつぶやきはなかったから」
「それは……」
それは、たぶん、
「安積さんの、影響?」
「……心を読まないで下さい。本当に、白鳥先生はいつも僕をからかって」
「そうね。いつもは私のことを見ているのに、この周回では安積さんも見つめることがあるから。嫉妬しちゃったかな?」
「!? もう……今はやめて下さいよ」
白鳥先生は、僕の気持ちを知っている。あえてはっきりと確認したことはないけど、でも、たまにこんなことを言って、僕を翻弄する。……だから、あきらめきれない。
ちらっ
安積さんの様子を見ると、電波時計を見ながら何かを期待しているかのような表情を見せている。13回目の高1で突如としてクラスに現れた、素直で賢い、それでいて、どこか子供っぽい様子も見せる、綺麗で可愛い女の子。12回ループの中で諦めにも似た感情を抱えていたはずの僕らを魅了し続けた、特別な人。
もし、1回目の、ループを経験していない頃に会ったなら、一目惚れをしていたかもしれない。そして、会って話をしていくほど、どんどん好きになっていったかもしれない。それはきっと、他の多くの男子生徒も同じだろう。下手をすると、女子も含めて。事実、13回目のこの周回では、そんなことを思わせる多くの出来事が起きたのだから。
安積さんと一緒なら、なんでもできる。だから、ほとんど諦めていたループ脱出も果たせるかもしれない。安積さんが直接解決するわけではないにしても、きっと、因果関係がめぐりめぐって、ループを起こしている『誰か』に影響を及ぼすに違いない。そう、思わせるほどの子だった。だから、さっきのような、つぶやきが漏れた。
今度こそ、今度こそ……。
ピッ
「あと、10秒……」
ピッ
「「……5……4……」」
ピッ
「「「「3……」」」」
ピッ
「「「「「2……」」」」」
ピッ
「「「「「「「「1……!!」」」」」」」」
ピッ
「「「「「「「ゼロ!」」」」」」」
◇
ブンッ―――――――――
「うわっ!?」
「え、な、なに!?」
「また、リセットされるのか……いやでも、なんかこれまでとは……!?」
違う。過去の周回におけるリセットは、こんなに身体全体に響くようなものではなかった。意識だけが、去年の4月1日に戻る。気がついたら、リセットされていた。そんな程度の、しかし、初期の周回では愕然とした、そんな現象とは、全く異なる……!
なにより、クラスのみんなの声が聞こえて―――
◇
ピッ、ピッ、ピッ
「……おい。おいおい。おいおいおいおいおいおい!」
「年表示が、変わらない……変わらないよおおおお!」
「ここ、グラウンドですよね? 自室とかじゃなく……」
「やった……やったよ、今度こそ、今度こそループを抜けた……!!」
うおおおおおおおおおおおお!
みんなの歓声が、真夜中のグラウンドにこだまする。それこそ、御近所迷惑かと思うくらいに。
「やった……やりましたよ、白鳥先生!」
「……ええ、本当に……本当に、こんなにうまくいくなんて」
「……白鳥、先生?」
白鳥先生の反応が、少しおかしく感じた。喜んでいるのは確かだけど、でも、どちらかというと、ほっとしたかのような、そんな様子に近い。それに、『うまくいく』って……?
「……ねえ、菜摘ちゃんは?」
「え? 安積さんなら、そこに……あれ?」
「……えっ、さっきまで、すぐ近くにいたのに……」
ざわざわざわ
安積さんが……いない? そんなはずは、ない。ないはずなのに……。
「……月が、おかしい」
「笹原、お前こんな時までマイペースだな!? 安積さんがいなくなっちまったってのに!」
「違う……位置が、全く」
「位置? ……あっ」
そう言われて見上げた空の、月の位置。そうだ、さっきまでは確かに真上から地上を照らしていたのに、今は、大きく傾いている。
それは、つまり。
「……おい、みんな! 自分のスマホや電波時計を見てみろ!」
「なんだよ、日時ならさっき確認して……あれ?」
「もしかして、あらためて『電波』を受信して、日時調整されて……」
日付は、確かに4月1日だった。けれども、年表示は。
「「「「「12年後!?」」」」」
わけが、わからなかった。ループを脱出したと思ったら、安積さんがいなくなり、時刻表示は、年だけが12年を経過していた。
「いや、推測できる。僕らは確かに、ループを脱出した。でも、単純に記憶が過去に飛ばされなかっただけじゃない。僕らの身体ごと……」
「その通りだよ」
カッ
「うわっ、まぶし!」
「グラウンドの照明が、いきなり……!?」
「え、さっきの声、どこかで……」
「おいおい、私を忘れたのかい? 薄情だなあ」
「しかたがないよ。僕らが全員と会ったのは、あの年のクリスマスイブだけだったんだから」
「いやでも、こっちは12年ぶりでも忘れてなかったんだぞ?」
照明の光に慣れ始めた目に入った人物は―――安積さんの、御両親だった。




