43「じゃあ、ループは―――」
※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、最終章の1話目です。短編版後半の一部を、連載版に沿って加筆修正したものです。
そうして迎えた、3月31日の、23:59。
光陰矢の如し、というけど、そんなものではなかったと思えるほど、入学式からの1年間、あっという間に毎日が過ぎていった。でも、楽しい思い出は、頭の中にぎっしり詰まっている。中学までのそれとは、比べられないほどに。
「さて、ここ数回では恒例になっていた……ああ、安積さんだけは違うね。とにかく、真夜中の学校のグラウンドで『ループ越し』をみんなでしよう、だけど」
「ループ脱出、ループ脱出! 神様、今度こそお願い!」
「そして神様、その後ボコらせて!」
「おーい、神様の機嫌を損ねるような発言は控えようなー」
「そうよ。また実力テストでトラウマ発動するのは地味にキツいんだから……」
結局、2周目で白鳥先生に何があったか詳細を訊くことはなかったなあ。
そんな感じで、クラスメート全員が自宅を抜け出し、高校のグラウンドに集まって4月1日になるのを待っていた。みんな、月明かりの下、腕時計やスマートフォンの時計表示を睨んでいる。私も、年月日が表示される電波時計を持ってきた。夜ふかしは苦手だけど、みんなとのイベントを逃せるはずもなく。
次のループに移ると、年表示だけがスムーズに変わるらしい。そして、それぞれがいつの間にか自宅などの『元の場所』にいるそうだ。ちょっと体験してみたいけど、そうならないのがベストだ。
ピッ
「あと、10秒……」
ピッ
「「……5……4……」」
ピッ
「「「「3……」」」」
ピッ
「「「「「2……」」」」」
ピッ
「「「「「「「「1……!!」」」」」」」」
ピッ
「ゼロ!」
◇
…
……
………
◇
ピッ、ピッ、ピッ
「年表示、変わらなかったよ! じゃあ、ループは―――」
………
ピッ、ピッ、ピッ
「えっ……みんな、どこに……」
ピッ、ピッ、ピッ
グラウンドには、私―――安積 菜摘―――しか、いなかった。
「えっ……そん、な……なんで……」
ループといっても、それは記憶のみが過去に移動するものだったはずだ。こんな、物理的に……存在ごと、消えてしまうなんて。そして……そして、私だけが、そうならないなんて……!!
そうして、1分ほど呆けていた時だった。
ズンッ―――!
「じ、地震!? えっ……大きい……!!」
グラッ―――――
――――――!
―――………!
―…
………………………
「……収まった、の……? 長かった……」
気がつくと、月明かりに照らされたグラウンドのあちこちに、亀裂が走っていた。校舎も、一部の壁が崩れている。
「これ、昔の大震災並だよね!? スマホは……あれ、普通に使える」
いくつかのニュースサイト等を見たところ、確かに大きな地震だったようだ。……なのだが。
「え、震源地……この街の地下!?」
ここは海から少し離れていることもあって、津波による被害は皆無のようだ。過去の震災の経験から、携帯回線網が堅牢になっていたことによって、情報分断も避けられたらしい。
「とりあえず、家に戻ろう……」
ふと見たグラウンドの隅の、大きな亀裂。そこに、昨日の夕方みんなで埋めたはずのタイムカプセルが、地面の上に出ていた。私はなんとなく、そのままにしておいた。1-Cのみんなや白鳥先生と過ごした1年間は、確かに存在した。その証のように、思えたから。
◇
自宅であるおじさんの家は、幸いにしてほとんど被害がなかった。そのせいか、その敷地は近隣住民の避難場所となっていた。慌ただしい様子の中、家の中にこっそり忍び込むことができた。一旦入った自室の中は、書籍類がヒドいことになっていた。
司やおじさん達、住み込みの人たちと無事を確認しあい、片付けが一通り終わった私は、なだれ込むようにベッドに突っ込んだ。ショックなことが続いて眠れないかとも思ったが、やはり体は睡眠を欲していたらしく、すぐに眠ってしまい―――




