41「でも、私は小さい頃からこの声だよ?」
※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第七章(バレンタイン&年度末編)の5話目です。
『そうか。じゃあ、春も家族旅行はなしか』
「ごめんなさい、お父さん。その、春休みも、クラスのみんなといたくて」
『あれだけ仲良くしていれば、そうだろうね。いいよ、僕たちのことは気にしないで』
嘘は言ってないけど、主な理由が『ホワイトデーを一緒に過ごすため』と『ループ脱出をみんなと期待する』とはさすがに言えない。
ただ、今更だけど……みんなの12回ループについては、お父さんとお母さんには話しておいても良かったかもしれない。信じる信じないは別として、一緒に考えてくれたと思うから。まあ、もし私が『14回目』をみんなと共にすることになったら、その周回の時には話すことにしよう。なにしろ、その時は私もループを経験することになるのだから。
『うわーん! 菜摘と会えないなんて寂しいよー!』
「お母さん! 今日は、帰宅が早かったんだね?」
『そうだぞー。春休みのこと、いろいろ考えるために早く仕事終わらせてきたのにー』
「その、ごめんなさい」
お父さんとIP電話で話していたら、お母さんがカメラの横から姿を現して、泣きながらそう訴えた。最近、泣かれることが多いなあ。
『……よし、お前のクラスメート達を全員ドバイに呼ぶぞ。これから飛行機の座席を予約してやる!」
「『やめて』」
えっと、お気持ちだけ受け取っておきます。
◇
3月14日。終業式の日のHR。
「菜摘ちゃーん! 私からの愛のお返しを受け取ってえええ!」
「あ、ありがとう、湯沢さん。マシュマロ、おいしそう」
「私からもどうぞ。一応、手作りです」
「鳴海さんはクッキーだね。ありがとう」
「これは、僕と……」
「俺からの、合同のお返しだ。トルココーヒーの詰め合わせセット」
「安藤くんと柿本くんの合同?」
「いや、野郎ひとりからだと下心ありまくりのように見えそうでな」
「そんなことないけど、でも、ありがとう」
「僕からは、のど飴を。その、安積さんのハスキーボイスは、それはそれで美しいのですが」
「ありがとう、松坂くん。でも、私は小さい頃からこの声だよ?」
「えっ」
そんな感じで、クラスのみんなからバレンタインのお返しを次々ともらった。嬉しいけど、みんなの間では結局やりとりしなかったのかな?
「菜摘さん……総受け……」
「笹原、こんな時くらいやめようや。お前だって、安積さんのチョコに涙してただろ」
「だから……私からも」
「わあっ、大学イモだ! 私、これ大好きなの。ありがとう!」
「笹原のが一番ウケが良かった……だと……?」
「受け、だけに」
「もう突っ込まないぞ」
これで、全員からかな。しかしこれ、持ち帰るの大変かも。
「そう思って、はい、これは私からのお返し」
「えっ、高そうなバッグ……いいんですか?」
「私もチョコもらったからね」
と、いうのは表向きの理由かな? 白鳥先生の『誘導』を暴露しなかったことの方が重要そうだ。
◇
「さて、本来の年度最後のHRを始めるよ。まあ、例によって、通常連絡は安積さん以外は不要だし、『リセット』時期も近いから、ループ関係の整理だね。松坂、今回の『変動率』の総合結果を教えてくれ」
「わかりました! 安積さんの存在によっていろいろと予測不能なことが起こりましたが、最大の変動は『フォルトゥーナ』絡みで、次点では文化祭に乱入したあの大学生たちでしたな」
「でも、精神的なものを含めるなら、菜摘ちゃんとの楽しい思い出が一番の『変動』だったね!」
「異議なしだ。12回ループでいろいろと極めてきたが、この『13回目』が最も充実していた」
「でも、ループで培ったものは無駄ではなかったと思います。もっとも、そう思うのも、菜摘さんのおかげですが」
「同じく!」
わいわい
はー、なんかちょっと、照れるかな。うん、まあ、私も楽しかったよ。
「それで、だ。その安積さんから、ひとつの提案が出ている」
「タイムカプセルだね!」
「そう。3月31日深夜のループ脱出の期待も込めて、みんな何か持ち寄ってほしい」
「もしループを脱出して、将来タイムカプセルを開けることがあるなら、それこそ『12回ループ』で蓄積された思い出を込めたいところだな」
「何を埋めるかは、各自に任せる。カプセルは白鳥先生が用意してくれるんですよね?」
「ええ。そんなに大きなのは埋められないから、ひとりあたり封筒ひとつ分を目安にしてね」
「そうすると、紙の手紙や写真は定番として、簡単な手作りのものとか?」
「USBメモリもいいかもですな!」
「いや、12年後に開ける予定だし、その頃には別の記録メディアが流行ってて簡単にはデータ見れないんじゃないか?」
「それは困りますな……手帳のデータ一覧にしますか」
「本……力作……薄い」
「薄い本か。この場合は別にいいか」
「黒歴史に悶え苦しんだりしてね」
「……むう」
私はループを経験していないし……みんなとの集合写真をプリントアウトしたものにしようかな。合唱の時とかの。
「僕は、天気予定をまとめた手帳かな。思い入れはあるけど、ループを脱出したら要らなくなるし」
「リセットされたらされたで手帳そのものが消えて、また書き出しだしな」
「そういうこと」
安藤くん、もう暗記してるんだろうなあ、今年度の365日の天気。よく考えたら、ものすごいことだ。
「学校はもう終わるし、埋めるのはいつがいいかな」
「あ、今回は陸上部の春の合宿に参加したいから、最後の週にしてほしい!」
「湯沢、どういう風の吹き回しだ? 陸上部の合宿なんて」
「いやほら、本当にループから脱出するなら、高2になって続けることになるでしょ? 長期間のブランクは避けたいのよ」
「なるほど。じゃあ、俺もそれまでの一週間くらいは国内で旅に出ておくか」
「なんで? 柿本は過去に国内もさんざん放浪したんでしょ?」
「今回の『13回目』は全くといっていいほど出てないんだよ。だから、旅の実績を残しておこうかと」
「そんなもの?」
「そんなものだ」
みんな、いろいろ考えているね。でもそうか、そうすると、湯沢さんや柿本くんとは、向こう一週間くらいは一緒に遊べないのか。
「私も、弓道部の練習に参加するかもしれません」
「それなら、ビデオゲーム同好会の活動も継続しますかな」
「松坂は結局シューティングのタイムアタックじゃねえか」
「私も……仕上げ……グッズ……」
あらら。他の多くのクラスメートも各自の活動を進めるのか。ループ脱出の期待って、やっぱり重要なんだなあ。
「なんかみんな、ここ数日は個人的に動くみたいね」
「白鳥先生はどうするんですか?」
「私は春休みも仕事があるけどね。でも、そうね、1日か2日なら空くから……」
「先生?」
「ねえ、安積さんに安藤くん。私と一緒に小旅行でもしない?」
「「え?」」




