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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第七章 彼らと彼女は、何かを期待していた
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40「これまでで一番のびっくりだよ!」

※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第七章(バレンタイン&年度末編)の4話目です。

「アルバイト? したことないなあ、これまでの周回では」

「そうなの?」

「私も、ないですね。関心も必要もありませんでしたし」

「あ、俺はあるぞ!」

「ああ、放浪している間の皿洗いね」

「先に言うなよ」

「私は……オフ会で……」

「まて言うな笹原。なんのことかわからんが、その単語とアルバイトの語感の乖離が激しくて聞いてはならないことだけはわかる」


 私がアルバイトのことを話題にしたら、クラスのみんなからこんな反応が帰ってきた。要約すると、誰もやったことがなかった。概ね。


「菜摘ちゃんは? って、今年度やってる様子がなかったし、だからこそ聞いてきたんだよね」

「うん。お父さんやお母さんのお仕事のお手伝いをしたことはあったけど、アルバイトとは言えないよね」

「とは思いますけど……得られた金額は凄そうですね」

「安積さんのひとことで、会社のひとつが救われた可能性もありそう」

「低迷していた会社の株をタイミング良く買って、危機を脱出して……とかな」

「えっと、もしかすると、おじさんの会社がそうなるかな?」

「え、芳月商事が!?」

「うん。取引先のひとつがいきなり破綻しちゃって。でも、小回りの効く経営ノウハウを持っていたことはわかっていたから……」

「……アザレアグループの持ち株会社に転向させたと」

「お母さんは反対していたんだけどね。お父さんと過去の経営データを調べて、お母さんに一生懸命プレゼンしたんだよ」

「一生懸命……ねえ、それって安積さんがいくつの時?」

「12歳かな? 今の司と同じくらいの年齢だね」

「ああ……やっぱり」


 あれ、みんな、これまで以上に何かを悟ったような顔をしている。それはともかく。


「なら、みんなでバイトしない? あ、でも、集団で面接を受けるのは変だよね」

「まあ、そうだね。とりあえず、安積さんだけやってみたら?」

「ちょっと安藤、それってヤバくない?」

「ヤバい? なぜ?」

「いやあ、少なくとも、接客業はさあ……」

「ああ……」


 ? 接客業は厳しいってことかな?


「学年成績も見通しがついたし、まとまった時間がとれると思うんだよね。もちろん、みんなと遊ぶ時間が少なくなっちゃうけど……」

「いいよいいよ! むしろこれまでのように、やたらあちこち連れ回していたのが異常だったんだから!」

「菜摘さんが、あまりに楽しそうにしていたから、私たちも、つい」

「えっと……ありがとう」


 私自身が積極的に楽しんでいたのだから、謝ることはないんだけどな。でもまあ、『少なくなる』ってだけだから。うん。


 さてと、それじゃあ……何しようかな。ウチの学校、アルバイトは自由だけど、一応、届出制なんだよね。少なくとも、お酒を出すのがメインの店なんかは待ったがかかるらしい。そういう意味では、20歳未満どころか18歳未満でもある私たちにとって、バイト先の制約は割と多い。何をするか……というよりも、どこで探すか、の方が先かな?



「え?」

「あら?」


 短期採用が決まったアルバイト先に初出勤したら、安藤くんのお母さんが働いていた。そういえば、兼業主婦って言ってたっけ。


「シフトに入ってくれる新しい高校生のバイトって、菜摘ちゃんだったのね。店長が面接して決めていたから知らなかったわ。でも、どうしてここに?」

「この店、両親とたまに来ることがあって、自宅からも近いんです。通りかかったら高校生の短期アルバイトを募集していたので、それで」


 そう、ここは夏休みの時に両親と来たファミレスである。定常的にバイトをしていた学生がこぞって試験期間で休むとかで、平日夕方と週末昼間を中心とした短期募集のポスターが入口の扉に貼ってあったのだ。


「そうなんだ。じゃあ、短いけどよろしくね」

「はい!」

「あ、私はフロアリーダーだから、店長が不在の時のお店とりまとめもしているから」

「そうなんですか。御指導、よろしくお願いします!」

「明るくハキハキしていて、接客も問題なさそうね。でも、当面はキッチンの方で軽食の用意をしてね。飲み物はドリンクバーだからいいけど、デザートとかは都度用意しなければならなくて」

「わかりました」


 キッチンその他の対応マニュアルを確認し、実際のオーダーに沿って、ケーキやパフェなどの用意をしてみる。とりあえず、初日の対応で概ね問題なくできることがわかった。出だしは好調かな。なんか、平日夕方の割には妙に忙しかったけど。


「この店は、子連れのお客さんが多い傾向があるみたいね」

「なるほど……」

「でも、週末はいろんなお客さんが来るわね。だから、それまでに接客についても学んでいってね」

「はい!」


 それから、レジ打ちや店内の清掃など、いろんなことを学んでいった。うん、他の仕事もなんとかやっていけそうだ。


「菜摘ちゃん、家事も得意なのね」

「そうですか? ありがとうございます」

「でも、店は広いから、無理はしないでね」

「はい」


 家でも、自室やリビング、台所の掃除をたびたびしているんだよね。その経験が生きているのかな? もっとも、お手伝いさんとかに見つかると、必ずといっていいほど止められるんだけど。お仕事を奪っちゃうことになるからかなあ。



 バイトを始めて三日目。ちょうどシフト終了の時刻が重なったので、安藤くんのお母さんと一緒に店を出て、帰路につく。


「はー、やっぱり菜摘ちゃん、ウチの嫁に欲しいわあ」

「は、はあ」

「ねえ、暇な時にウチで一緒にお料理しない? 唐揚げが得意なのよね」

「は、はあ。……え?」

「決まりね!」


 そして、連絡手段として電話番号を交換してしまった。メッセージアプリのID交換ではないのは、単に、安藤くんのお母さんの携帯がいわゆるガラケーだったからである。


 とことことこ


「えっ……なんで安積さんが、また母さんと一緒に!?」


 安藤くんと、また家の近くでばったり会ってしまった。いや、安藤くんも帰宅途中だったわけだし、不思議でもなんでもないのだろうけれども。


「あら、バイト先のこと、息子に話してなかったの?」

「え、ええ。アルバイトをしていること自体は、クラスで話していたんですけど」

「それじゃあもしかして、母さんが働いているファミレス!?」

「うん、まあ」


 最初は話すつもりだったんだけど、初日から安藤くんのお母さんに会ってしまったので、なんとなくはぐらかしていたのだ。主に、安藤くんのために。


「ねえ、これからウチに寄らない? 夕御飯、ごちそうするわよ!」

「えっと、すみません、ウチでも用意していると思うので……」

「あら、残念。お父さんにも会ってほしかったのに」

「母さん! 安積さんに無茶言うなよ」


 無茶ではないけど、安藤くんはいろいろと困るよね。いろいろと。安藤くんやお父さんの前で、学校でのことを私とあれこれ話し始めるだろうし。そうに違いない。


「申し訳ありません、今日はこれで。また、よろしくお願いします」

「わかったわ。じゃあ、またね、菜摘ちゃん」

「安積さん、また」

「うん」


 こうして、安藤家にお邪魔することなく退散、じゃなくて、去ることができた。次の機会があったら……白鳥先生と一緒に来てみるとか? 白鳥先生も料理はできそうだよね。アパートの部屋のキッチン、きれいに整頓されていたし。使ってないから綺麗……なんてことは、ないと思うけど。



 そうして、アルバイト最終日。


「菜摘ちゃん、これまでありがとう。これからも、機会があったらまた応募してね」

「はい。こちらこそ、いい経験ができました」

「優秀なスタッフは大歓迎よ。むしろ、遊び感覚のあの子たちの方が困ったものよねえ」


 試験期間で休んでいるっていう人たちのことかな?


 からんからん


「ちーっす、安藤さん。また今日からお願いするっ……うわああああああ!」

「え?」

「は?」


 あ、プールと文化祭で会った残念な大学生のひとりだ。警察の御厄介になってたんじゃなかったのかな?



 ざわざわ


「おはよー、みんな」

「おはよう、菜摘ちゃん!」

「おはようございます」

「おはよう、安積さん。……あれ、その大きな紙袋は?」

「これ?」


 がさごそ


「はい、みんなに、バレンタインのチョコレートだよ!」


 ……

 …………

 ………………


 あ、あれ? みんな、静かになって、直立不動している。え、もしかしてこの学校、チョコレート渡すの禁止とか?


 ……はらはら


「えええええっ、な、なんで、みんな一斉に泣き出すの!?」


 ぐすっ、ぐすっ


「そ、そうだった……。今日、2月14日だったよ……」

「初回の、まだループを経験をしていなかった時から、みんな、縁がなくて……」

「縁がないっていうか、みんなで取り決めたよな。担任の白鳥先生がなんか寂しそうだからって、学校でバレンタインやらホワイトデーやらはやめようって」

「そしたら、結局学校外でもやりとりしなくなって……」

「それからの周回も、なぜかずっとバレンタインとか意識しなくなって……」


 うっ、うっ、うっ


 阿鼻叫喚。え、なにこれ。本当に。


「えっと、えっとえっと、私たちも菜摘ちゃんからもらえるのよね!?」

「もちろん。友チョコだよ!」

「友チョコ……なんて、甘美な響き……」

「感無量、です」

「甘い……チョコレート、だけに」

「おおっと笹原、チョコレートが甘いのは砂糖やミルクが」

「柿本、あんたは菜摘ちゃんからもらう資格がない。出てけ」

「ごめんなさい」


 友チョコもやりとりしてなかったのかあ。


「あれ、安積さん、もしかして、アルバイトって……」

「そうだよ。チョコレートの材料を買うためだよ。クラス全員分となると、私のお小遣いじゃ足りなくって」

「じゃ、じゃあ、菜摘ちゃんの、手作り……!」

「それも、バイトまでして……!」


 ……

 …………

 ………………


 うわーーーん!!


「ひっ!?」


 号泣の合唱が始まった!? これまでで一番のびっくりだよ!


「あ、ありがとう、安積さん……本当に、ありがとう」

「菜摘ちゃん、今日帰りに喫茶店に寄ろう! ホットココアごちそうするよ!」

「あ、俺は明日チョコレート持ってくるから!」

「そうね! もちろん、ホワイトデーもがんばるから!」


 わいわいわい


 まだ泣きじゃくっているけど、まあその、みんなに喜んでもらえそうで良かったよ。


 でも……変よねえ? 最初の周回はともかく、みんな美容と健康を極めまくってキレイでカッコよくなってるし、恋愛感情はともかく、学校内外で注目を集めているみんなが、そういうイベントにまるで縁がなかったなんて。


 ……そういえば。


『……担任の白鳥先生(・・・・)がなんか寂しそうだからって』

なぜか(・・・)ずっとバレンタインとか意識(・・)しなく(・・・)なって(・・・)……』


 なにしてんの、白鳥せんせー!!

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