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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第七章 彼らと彼女は、何かを期待していた
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39「神隠しの伝説?」(後編)

※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第七章(バレンタイン&年度末編)の3話目です。


前後編の後編です。

 そうして、2日目もお昼に近づいていた頃。


 ざくっ、ざくっ


「ねえ、あなた達、1-Aの芥川(あくたがわ)くんを見てない? 行方不明らしいのよ」

「え? いや、見てませんけど」

「白鳥先生、それってもしかして、過去の周回ではぐれたっていう生徒ですか?」

「そうなのよ。よく覚えていたわね」

「昨日、思い出す機会があったんですよ。でも……今回は回収しなかったのですか?」

「回収? なんのこと?」

「「「「「え?」」」」」

「え?」


 かくかくしかじか


「ごめんなさい、私、スキーは苦手なのよ。あの時は、別の先生が見つけたわ」

「えー」

「がっくり」


 みんなの心の中で、白鳥先生の『残念美人』像が復活した瞬間であった。


「えっと、じゃあ、そうすると……その周回の時にも、私みたいなイレギュラーが存在したのかな?」

「安積さん、イレギュラーって。でもまあ、割と局所的だよな、『変動』があった割には」

「いやいや柿本、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないでしょ! 『神隠し』の話、忘れたの?」

「あっ」

「んー、僕たちにも大きく関わりそうな話だし……白鳥先生、僕たちも芥川を探すのに協力していいですか?」

「そうね、みんなで動けばはぐれることはなさそうだし、天候も悪くないし……。お願いしていい? お昼の間だけだけど」

「「「「「了解(ラジャー)!」」」」」


 あれ、なんか夏で見たことあるような返答が。もちろん、私も探すよ!



 ざーっ

 ざくっ、ざくっ


「芥川くーん! いるー!?」

「あくたがわー! いたら、返事しろー!」

「芥川さーん、聞こえますかー」


 ざくっ、ざくっ


「おかしいわねえ、このあたりにいるはずなんだけれども」

「過去の周回の時ですか?」

「ええ。以前対応した先生曰く、この辺でうろうろしていたらしいの」

「確かに、木が多くて見晴らしが悪いね」

「でもよ、スキー板つけて、これ以上遠くに行けるか?」

「崖とかがあって落ちたとかじゃないしねえ」

「と、すると……」


 ざっく、ざっく、ざっく


「おい、いたぞ! そこに倒れてるの、芥川だよな!?」

「そうよ! 誰か、救急の人連れてきて!」

「僕が行ってきます!」


 ざくっ、ざくっ


「おい、大丈夫か?」

「う……ん……」

「良かった、意識はあるみたいだね」

「そうね……。びっくりしたわ、まさか、倒れているなんて」

「この辺にいるはずなのに返事がない。地面は雪が積もっていて見つけづらい。ってことで、あたりをつけてみたんだ」

「柿本、やったじゃん!」

「本当ですね。放っていたら凍死の可能性だってありましたし」

「良かったね、本当に」


 本当に、良かった。


 まだ、謎が残っているけど。



 幸い、芥川くんは少し過労気味だっただけで、迷っている最中に雪の中に倒れてから、数分程度気を失っていただけらしい。そして、その過労気味の理由は。


「ゆうべ、『神隠し』の話を聞いたら、怖くて眠れなくて……」


 柿本くんと似たような理由だった。でも、そんなに怖い内容だったの?


「その伝説、オチがあってな。消えた人は何十年も経ってから、再び姿を現すんだと。でも、家族や友人は、既に亡くなっていて……」

「ああ、浦島太郎伝説に近いね。どこか時間の流れが違うところにいたわけではなさそうだけど」

「俺たちの状況に照らし合わせれば、タイムリープ……いや、タイムトラベル、タイムトリップってことか」

「未来に向けて物理的に時間跳躍したってこと?」

「未来へのタイムトリップは、難しいことではないと言われているけどね。僕たちが感じる時間は、過去から未来へと流れているから」

「そう考えると、俺たちの過去へのループは、かなり特殊なんだなあ。記憶のみとはいえ」


 あと、1-Cのクラスのみんなが、ってところもね。つまり、


「柿本の『神様がループさせてる』説が強くなったね。明らかに『意図』を感じるもん」

「もしくは、意図をもった超未来人……とか?」

「誰なんだろうなあ」


 それはわからない。


 わからないけれども、ひとつだけ、私、安積菜摘から、みんなに謝っておくことがある。


「えっと、あの……ごめんなさい。さっきの『神隠し』の伝説、なぜこの周回だけに現れたか……私、心当たりがある」

「「「「「え!?」」」」」

「前に柿本くんに連れていってもらった古書店で、その伝説が書かれた本を買ったの」

「そういえば、何か買ってたな。あれが『神隠し』の?」

「神隠しとは書いてなくて、単純に、突然いなくなる、かと思えば、突然現れ、またいなくなって……を繰り返す、っていう伝承かな」

「そして、ついにはずっと……っていう?」

「うん。もっとも、近年の研究では、自殺願望とか、集落の人々との不和とか、そんな理由で森に逃げ隠れた(・・・)っていうのが本当のところらしいの」

「神様じゃなくて、自分から隠れたってわけか」


 特に、このスキー場がある地域に昔あった村の人々は、一生村から出ることがないことも珍しくないくらい、地理的にも精神的にも閉鎖的で、近くの森に行くだけでも『いなくなった』と思わせるほどだったようだ。


「でね、その本、人文関係の観点でも興味深い話だから、学校の図書室に寄贈したんだ」

「ああ……読んだのか」

「読んだんでしょうねえ……」


 古い本だったせいか、ちょっと、おどろおどろしい雰囲気もあるものだった。怪談集のようにも見えたかもしれない。


「というわけで、ごめんなさい。私、芥川くんにも謝ってくるよ」

「いやいや、そんなの、私たちのループを知っていたからわかっただけで、別に菜摘ちゃんのせいじゃないでしょ?」

「そうだよ。因果関係は安積さんの言う通りかもだけど、それに責任を感じていたらキリがないよ」

「だよなあ。あのビデオ投稿の影響の方が凄まじかったしなあ」


 いやまあ、そうなんだけど。


「じゃあ、白鳥先生に話してくるついでに、芥川くんと少し話題にする程度に留めるよ」

「だな。きっと喜ぶぞ、芥川も」

「かもねー」

「え?」


 え、なんで?



 芥川くんが運ばれたロッジの特別室に行き、面会する。一通り話をしてから、ちょうどそこにいた白鳥先生と部屋を出て、クラスのみんなと話したことを白鳥先生にも伝える。


「全く、みんなの言う通りよ」

「でもまあ、私なりのけじめというか」

「安積さんがそれでいいなら、私からはもう何も言わないわ。彼も安積さんがお見舞いに来て喜んでいたし」


 いやその、本当になんで? 確かに、少し話をしただけでも割と喜んでくれていたけど。


「じゃあ、私は待機に戻るわね。安積さんも午後の研修がんばってね」

「あ、白鳥先生。ひとつ聞きたいことがあるんですけど」

「いいわよ。なに?」






「なぜ、クラスのみんなに『スキーが苦手』なんて嘘をついた(・・・・・)んですか?」






「……よく、気づいたわね。まあ、驚かないけど(・・・・・・)

「白鳥先生って、クラスのみんなにバレないようにしていること、結構あるんですか?」

「そうね。あの子たちには、余計なことを考えすぎないようにしたいし」

「過去の、周回からの経験ですか? みんなの……心が壊れない(・・・・・・)ように」

「まあね。というか、むしろ……ああ、安積さんは気づいているか」

「はい。クラスのみんなを誘導……っていうと、言葉が悪いですけど、そんな感じで」

「はっきり『洗脳』って言ってもいいのよ?」

「言いません! せめて『マインドコントロール』に留めてほしいんですけど」

「それも結構ヒドいわよ?」


 くすくすくす


「人心掌握術、かしら? 安積さん、御両親から学んでいるはずよね?」

「ええ、まあ。お母さんは『帝王学』とか言ってましたけど」

「ちょっと違うと思うけど、話に聞くあなたのお母さんらしいわね」

「私は、あまり好きじゃないですけど。ただ、わかっているからこそ……」

「私のことも、気づかれちゃうか」

「気になるだけです。白鳥先生は……何者(・・)ですか?」


 ……


「何者でもないわ。安積さんが、そうであるようにね」

「わかりました。別に、みんなを悪く扱っているわけではないですし。でも……」

「安藤くんのこと?」

「……わかっているなら、はっきりしてほしいなあ、と」

「そのうちにね。その理由も……安積さんなら、わかるでしょう?」

「まあ……」


 もうこれ以上、白鳥先生を追及する必要はないかな。こう言ってはなんだけど、私もクラスのみんなには、多少負い目がある。わかっていてもわからないふりをする(・・・・・)というのは、正直言って、罪悪感しかない。


「それじゃあ、またね」

「はい、また」


 すたすたすた


 ……3月31日まで、あと2か月弱。素性はどうであれ、白鳥先生としてはなんとか実現したいのだろう。私という存在が現れた、この13回目のループからみんなで(・・・・)脱出することを―――

前後編にした理由は特にないけど伏線がないとは言っていない(おい)。なお、あと三話で第七章が終了し、第八章=最終章となります。

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[気になる点] 白鳥先生は、何を企んで?いるんだろうか。
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