37「お子さんふたりを連れてきてたけど」
※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第七章(バレンタイン&年度末編)の1話目です。
3学期最初の、HR。
「それじゃあ、みんな。後ろから集めてきて」
ざわざわ
「……うん、みんな出したね。はい、白鳥先生」
「ありがとう、安藤くん。……まあ、これもいつも通りね。安積さんを除いて、だけど」
「いちいち書きたくないけど、試験の答案と同じでリセットされちゃうもんね、進路希望調査」
「実際には、これを元に個別面談するんだけど……安積さんだけでいいわね」
「あはは……」
といっても、私は特に細かい進路は考えていない。お父さんやお母さんと一緒に仕事をしたいし、とりあえず進学なんだけど、文系なのか理系なのかがはっきりしない。どちらがいいのかというよりは、どちらもやってみたいというのが本音だったりする。
ぺらっ
「……安積さんも、面談は必要ないかもね」
「え、そうなんですか?」
「なんというか、安積さんは、どんな進路でも全く心配ないというか……」
「だよねー。菜摘ちゃんなら、高卒のままでもなんとかできちゃいそう」
「逆に、いくつもの大学の卒業証書をゲットとかな」
「芸能人の線も捨て切れないですな。……歌いさえしなければ」
「そうですね。まあ、早くに結婚して専業主婦というのも、それはそれで合いそうですけど」
「それ、あの御両親が許すかな?」
「最低限、在宅勤務で活躍だな。お父さんと一緒にデイトレか?」
わいわい
私の将来のことでクラスが大変盛り上がっている。好意的な盛り上がりなのでそれ自体は別にいいのだけれど、なんか恥ずかしい……。
◇
今日の帰り道は、クラスの何人かでハンバーガーショップ。チェーン店共通の割引券を大量に仕入れたらしい。ハンバーガーはあんまり食べたことがなかったから、私としては割と楽しめた。チーズが合うんだなあ。もぐもぐ。
「僕は、法令関係かな。弁護士か、検察か……」
「よし、安藤、今のうちに安積さんから裁判長の極意を盗んでおけ」
「そういう柿本も、似たようなものなんじゃないの?」
「俺はジャーナリストだ! それも、国際関係専門のな」
「今度は菜摘ちゃんにダイレクトに救援を求めることができそうだもんね」
私をあてにしないで下さい。ただの高校生なんですから。あと、裁判長の極意などは持ち合わせてはおりません。
「ちげえよ! そういう湯沢は、やっぱり特待生狙いか?」
「まあね。でも、陸上一本でやってくことはできないからね。最終的には、トレーニングジムのインストラクターあたりかも」
「湯沢さんは、芸能方面は考えないのですか? そちらも少し実績がありますし」
「実績ったって、せいぜいTV露出があったって程度でしょ。今はともかく将来なら、バラエティ方面の兼業になりそう」
バラエティ……年末に白鳥先生の部屋のTVで見たクイズ番組みたいな? いろんなスポーツで有名になった人達がいたよね。野球とか、プロレスとか、カーリングとか。
「鳴海さんも特待生?」
「いえ、普通に大学に進学して、サークル活動を通して実績を積むつもりです」
「そのココロは?」
「昔、通っていた弓道の道場を継ぎたいんです。跡継ぎの問題があるみたいで」
「そうだったんだ! それはそれですごいなあ」
わいわい
「いやあ、これまであまり進路のことを話題にしなかったから、なんとなく新鮮だな!」
「そうだね。というか、12回ループの中で自然と将来の見通しが決まってることが多いからね」
「そうなの?」
「代表は、松坂と笹原さんね」
「なるほど……」
松坂くんはソフトウェア開発方面だよね。笹原さんは……同人作家?
◇
ハンバーガーを食べ終えた私たちは、帰り道を歩く。年末年始に少し積もった雪が溶けていて、ちょっと歩きにくい。
「でも、みんなそれでも、将来のことをちゃんと考えてるんだよね」
「いやあ、12回もループしてたら、そういうことも考える機会が多かったというか……」
「ループ脱出の可能性は、いつの周回でも期待していたからな。特に、この時期は」
「そっか……」
ふむ。それなら。
「ねえ、みんな、『タイムカプセル』作らない? 3学期の最後のHRとかで」
「タイムカプセル? 小学校を卒業する時、校庭に埋めたなあ。それを、この時期にやろうって?」
「うん。ループ脱出の願いを込めて、ね」
ちょっと、子供っぽいかな? カレンダーと同じように、来年度になってもみんなとのつながりが残っている、そんな期待を形にしておきたいって思っただけなんだけど。
「ああ、脱出しなければ、開けることもないもんね。というか、リセットしたら……」
「また中身を考えて、埋めるのか……」
「クリスマスのプレゼント交換会の時みたいなことになりそうだね」
「……だめ、かな?」
「いや、いいんじゃないか? 13回目の記念にさ!」
「13回目? なんか、中途半端だけど」
「安積さんが現れた周回って意味もあるけど、十二支ひとまわりで12年ってのもあるだろ?」
「ああ、年齢で『一回り違う』って言い方あるよね……。あっ」
ん?
「……ねえ、これまでずっと『ループ』として捉えてきたし、周りも変化がなかったから、考えもしなかったんだけど」
「よせ、それ以上はやめろ」
「初回の時に16歳になったわけだから……」
「だからやめろ!」
「実質、28歳……。私たち、菜摘ちゃんと『一回り違う』んだ……」
「うああああああ!」
「あ、クリスマスパーティの時に会った親戚で、ちょうど28歳の人がいたっけ。お子さんふたりを連れてきてたけど」
「ごふっ」
もし、タイムカプセルを埋めてみんなループを脱出できて、それくらいの年齢の時に今の写真とか見たら感慨深いよね。うん、やっぱりクラスのみんなに提案しようっと。
「柿本、大丈夫か?」
「安積さんに、おじさんとか言われてしまう……」
「それじゃあ、私はおばさん? かはっ」
「ははは……」
白鳥先生「そんなこと言ったら、私なんか……」