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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第六章 彼らと彼女は、何かを知っていた
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36「年末年始はいつもボラボラに行くんですよ」

※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第六章(クリスマス&年末年始編)ラストです。

「ねえ、あなた達、なんでいつもウチで年末年始を過ごすの? この8周回くらい、ずっとよ?」

「いやあ、定番というかなんというか」

「おまけに、今回は安積さんまで……。御両親は?」

「ふたりとも、年末年始はいつもボラボラに行くんですよ。一応、リゾート関係の仕事も兼ねてるみたいですけど」

「プライベートジェットがあると、フットワーク軽くなっていいよな」

「あんたには一生無理だから」


 いや、あの飛行機は会社のだって、前にも言ったよね?


 12月31日の夜。私と安藤くんと湯沢さんと柿本くんの4人は、白鳥先生のアパートにお邪魔し、コタツに潜ってぬくぬくしている。ただし、コタツは4人までなので、安藤くんがファンヒーターの近くの座布団に座っている。


 なお、クラスのみんなに年末年始の予定を聞いたところ、割とまちまちに過ごすことが多いらしい。いつも家族と過ごす人、年越しスキーに力を入れる人、冬山登山に命をかける人、即売会に人生を捧げる人、などなど。とりあえず、人生を捧げた笹原さんはぜひ生き延びてほしい。


「でも、コタツ、いいですね……ぬくぬく」

「菜摘ちゃんが沼にはまった。気持ちはわかるけど。ぬくぬく」

「コタツくらい、自分の部屋に用意できるでしょ?」

「私の部屋、コタツを置くにはコンセントの位置が厳しいんですよ」

「ああ、安積さんの個室、広かったもんなあ……」


 リビングやダイニングはお客様が使うこともあるから常設できない。難しいものだ。


「歌番組、つまんなかったわねえ……」

「そりゃあ、12回ループと同じ結果ならな。これが、よほどのことがあって『フォルトゥーナ』が出場とかになってたら面白かったんだが」

「一応、打診はあったみたいよ?」

「そうなんですか、白鳥先生!?」

「評価対象にならない、特別ゲストとしてだけどね。だから、断った(・・・)わ」

「それって、もしかして」

「あなた達もセットってこと」

「うえー」

「話題性が高いからって、しつこかったわ。視聴率対策かしらね」

「なんだかなあ」


 これ以上『フォルトゥーナ』に関わると、残り3か月の見通しがたいぶ悪くなる。私の存在で既に『変動率』はかなり高くなっているが、今のところは突発的なイベントが発生するくらいで済んでいる。それが、クラスのみんなの生活に定常的な変化をもたらすほどになるのは避けたいところ。これは、理屈だけでなく、過去の周回での経験も踏まえているようだ。


 ごーん、ごーん


「あ、除夜の鐘だ。おそば、用意するね」

「やったー! 菜摘ちゃんの年越しそば!」

「今回は楽でいいわねえ。私、夜ふかしは苦手なのよ。安積さん、よろしくね」

「白鳥先生、残念度が上がってるぞ」

「ま、まあまあ。白鳥先生、ずっと忙しかったし……」


 だね。私も夜ふかしは苦手だけど、それほど手間もかからないし。気をつけるのは、そばの()で加減の見極めと、エビのてんぷらの()げ具合の調整くらいかな?


 ごーん、ごーん、……


「あけまして、おめでとうございます」

「あけまして、おめでとう」

「おめでとう」

「あけおめー」

「めー」


 柿本くん、そのあいさつはさすがにないよ?


「じゃあ、僕たちは、近所の神社に寄ってから、一度自宅に戻ります」

「そして、お昼に他のクラスメート達と初詣だね!」

「気をつけなさいね。今回は、安積さんもいるんだから」

「はーい」

「それじゃあ、白鳥先生、また来ますので」

「ええ、またね」


 がちゃっ


 とことことこ


「うっ、さむ……」

「柿本、それも毎回聞いてる」

「そうか? 前回は神社で言ったと思うが」

「そこまで気にしてないわよ」

「でも、本当に寒いね……」

「まあね。今年は暖冬らしいけど、今日は……ほら」


 はらはら


「雪……」

「こっちのタイミングはいつも通りね」

「悪かったな。まあ、なんか安心するけど」

「安心?」

「そうだね。リセットがかかるたびに僕らの日常も多少は変わるけど、天気だけは全く変わらないから」

「でも、それって窮屈(きゅうくつ)じゃない? 同じ一年に、閉じ込められているっていうか」

「それが、そうでもないんだな。天気とかの自然環境は、何をどうしても俺らの手には負えないからな」

「だから、もしループを抜け出せたら、一番怖いのは災害とかなんだ。成績とか将来の生活とか、個人の努力である程度どうにかできそうなことは気にならないんだけど」

「そっか……」


 みんなにとっては、一年間という時間の『箱庭』で、繰り返し悩み、苦しみ、努力してきた。そんな中で得たのは、自らの意思が一年の間に及ぶ範囲がどこからどこまでなのかという、その境界。できることとできないことの、明確な区別。それが、みんなのどこか悟ったような性格を形作っている。


「だよなあ。俺はあの『放浪』を経験したおかげで、月1万円で生活できる自信がついたぜ!」

「旅費は親からくすねたくせに。それに、菜摘ちゃんに命を救われたかもしれないんでしょう?」

「うぐう」

「そう考えると、もし安積さんが何回ものループの中で何かを極めようとしたら、たった一年でもすごいことになりそうだね」

「え、私!?」

「だよね! たとえば、ゴールデンウィークの時点で『フォルトゥーナ』に関わっていたら、今頃菜摘ちゃんはさっきの歌番組に出てたよ、きっと!」

「え? え?」

「いや、安積さんなら、それこそ世界のほとんどのビジネス言語を修得して、夢の言語チート無双を繰り広げるに違いない!」

「え? え?」

「そこに、親御さんの人脈と財力が組み合わされば……国がひとつ作れるかも」

「えええええ」

「よし、決まり! 菜摘ちゃん、一緒に『14回目』も楽しもうね! 私の今年の抱負だよ!」

「ええええええ……」


 でも、それもリセットされちゃうよね?

ここまでを第六章とし、登場人物まとめの後に第七章となります。

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