04「さすがに許さないよ?」
こちらも新規挿入分です。
身体測定も終わり、少し早く放課後となって私が帰ろうとすると、湯沢さん達が声をかけてくる。
「安積さん! みんなと一緒に帰らない?」
「いいけど、みんな帰る方向、バラバラだよね?」
「今日は、駅前のコンビニがおすすめなのよ!」
「ちょうど寄るつもりだったけど……おすすめ?」
なんだろ。値引きセールとかがあるのかな。
「よし、じゃあ、今回は僕らも行こうか」
「え、安藤くん達も?」
「まあな。これだけ揃ってれば、面白いことになりそうだ」
柿本くんが、そう補足する。入学式直後から早々に部活動を始めていたけど、何か知ってるのかな?
「それじゃ、れっつごー!」
「いってらー。明日、結果教えてね!」
他のクラスメートに見送られ、総勢6名でぞろぞろと下校する。
「本当に、ほどほどに、ね……クレームが来たら、私が対応しなきゃだから……」
白鳥先生……。
◇
それは、くじだった。いくらか以上の物を買うと引ける、アレである。でも、コンビニのくじで、そんなに凄い景品って当たったっけ?
「やった! サイン入りフォトカードゲット!」
「次は俺だな。……うし、弁当引換券っと」
ほえー。滅多に見ない景品がぽんぽん出る。でも、それだってずっとは続かない。
「えっと……私は、はずれですね」
「じゃあ、僕も……うん、はずれ」
ですよねー。
「ほら、菜摘ちゃん、引いてみて!」
「う、うん」
ガサゴソ
「私も、はずれだね」
「みんな引いたよね。じゃあ、応募しよっか」
「応募?」
「そうだよ。はずれくじ、全部集めて」
あれ、これって……。
◇
後日。
「当たったぞー、『フォルトゥーナ』のライブチケット。総数で7枚」
「そっか、予定以上だな」
「……?」
私は、微妙に首をかしげた。
「ねえ、結局どういうことだったの? あの日のあのタイミングで、目当てのくじが引けるのがみんなにはわかっていた……っていうのはわかったけど」
「ああ、うん。7周目だったかな、柿本があの日時で初めてくじを引いて、はずれくじでライブチケットを当てたんだ」
「それが、これよね」
フォルトゥーナ。男女四人組のバンドグループだ。主にネットの動画サイトで活動をしており、ティーンエージャーを中心に人気を集めている。最近、芸能事務所に所属するようになり、商業活動も始めている。このくじも、コンビニチェーンとタイアップしてのものだ。
「で、ライブ観に行ったんだけど、これがまあ、つまんなくって」
「はあ」
確かに、私も『フォルトゥーナ』は、名前だけは知ってたって感じだ。曲そのものは、中学の時の友達に新曲が出るたび薦められ、1~2度聞いたというだけだ。演奏はすごいんだけど、歌詞とかがその、青春真っ盛りというか、中二病的というか……ハマる人はハマると思うのだけれども。
「一度観てそれっきりだったんだけど、秋になった頃かな、爆発的に人気が出てね。どうやら、作詞作曲をプロに任せるようになったらしい」
「そうなんだ」
「その頃になると、ライブチケットがほとんど手に入らなくなってさ。くじもNからいきなりSSRになったようなもので」
NとかSSRとかはよくわからないけど、いきなり雲の上の存在のようになったってところか。
「有名バンドになることがあらかじめわかっていた、というのはいいんだけど、でも、今は違うよね?」
「それがね、今ならライブ会場で、ファンクラブのプレミアム会員に簡単に入れるんだ。プレミアムなら、チケットを優先的に入手できる」
「なるほど……」
プレミアムといっても会費はそれほど高くなく、どちらかというと、昔からの熱心なファンに還元するためのような仕組みとなっているらしい。『過去問』の時と同じくズルいやり方ではあるけど、本当に熱心なファンはとっくにプレミアム会員になっているわけだし、別にいいのかな。
「じゃあ、他のレア景品はおまけ?」
「そうだね。周回によっては、とったりとらなかったり。こっちとしては、はずれ応募券の方がむしろ目当てだから、調整を兼ねてついでにってところかな」
「8周目以降もタイミングを調べて?」
「うん。この時期の他のコンビニについてもまとめてあるよ。主に柿本が」
「へへ」
そっかー。なるほどなるほど。
ところで。
「ところで、そうして人気が出た後に手に入れたチケット、もちろん、それを使ってライブに参加したのよね?」
「……」
今回の中心人物のはずの柿本くんが、視線を逸らす。
「まさか、ネットオークションに……」
「い、いや、参加したよ! 一回は!」
「他は?」
「……ごめんなさい」
さすがに許さないよ? まあ、今回はまだ未遂だけど。
ちなみに、湯沢さんが途中から『菜摘ちゃん』と呼び方を変えているのはわざとです。