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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第六章 彼らと彼女は、何かを知っていた
37/55

32「別にいいよね。あの食堂広いし」

※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第六章(クリスマス&年末年始編)の2話目です。

 それは、今年もあと1か月もなくなった頃のHRだった。珍しいことに、大変珍しいことに、担任の白鳥先生から話題が提供された。


「え? 『フォルトゥーナ』が僕たちに会いたい?」

「そうなのよ。どうする?」

「どうすると言われても、理由がわからないんですけど……」

「お礼、らしいわよ? あなた達が文化祭で唄ってくれたおかげで、売上が倍増したそうだから」

「そうなんですか!?」


 ざわざわ


 白鳥先生からの情報に、クラスのみんなはざわついた。今や爆発的な人気を誇る音楽バンド『フォルトゥーナ』からの面会打診である。世間の注目を浴びる有名芸能人からのお誘いに、みんな心をときめかせ……たわけでは、もちろんない。全くといっていいほど。


「いやいやいや、『変動』しすぎでしょ!? こんなの、これまでの周回でまるでなかったよね?」

「合唱が定番となった8周目からの5回とも、売上がどうとかなんて話、聞かなかったし」

「うおっ、今スマホで見たら、確かにランキングが凄いことになってる! 新曲として発表してから……10週連続ランク入り!?」

「ちょっと柿本、その辺の確認はあんたの役割だったでしょーが」

「いや、だってよ、合唱とかする前から、この時期はとうにベストテン外に落ち着いてたし。チケットまとめ買いにも関係ないし……あ、今回は参加分しか購入しておりませんです、裁判長」

「やめて」


 柿本くんにも言われてしまった……。


「しかし、直接的な原因はともかく、これだけの『変動』の理由は、ひとつしかないよね……」

「そうだねえ……」

「っていうか、他に思いつかないよな……」


 じっ


「……確かに、私の『伴奏』以外の違いがなさそうなのはわかるけど。でも、何がどうなってそうなったのかまでは」

「安積さん、あの娘に聞いてみてくれないかな? 確か、瑞希さんだっけ」

「ああ、なるほど。今、メッセージアプリで聞いてみるね。瑞希の学校ではHR時間過ぎていると思うから、すぐに返信が来ると思う」


 がさごそ


 ぽちっ


 たたたたたたたたたたた


「菜摘ちゃん、文字入力速いね。打つとこ見たことなかったから知らなかったよ」

「そう?」

「しかも、話しながらのブラインドタッチ……」

「いや待て安藤、正確にはタッチタイピングだ」

「柿本、それ今はどうでもいい」

「はい」


 たたたた……たったっ


 ピロン


「よし、これで……」


 ピロン♪


「返信はやっ」

「瑞希って娘も、打つの凄そう」

「ううん、そういうわけじゃないみたい。ほら、これ」

「ん?」


 返信の文字列、それは、ある動画サイトのURLのコピー&ペーストだった。



 HRがあった週の、週末。


 安藤くん(クラス代表)と柿本くん(チケット担当)、そして白鳥先生(クラス担任)と一緒に、私は『フォルトゥーナ』と面会するための場所、隣街のショッピングモールにある音楽ショップに向かう。ゴールデンウィークで白鳥先生を見かけた、あの店である。


「まさか文化祭で、地元マスメディア以外に合唱コンクールを動画撮影していた人がいたとは……」

「個人投稿されてすぐに著作権の問題が指摘されたらしいけど、通報を受けた芸能事務所は、なぜかそのままOKを出して」

「転載もOKにして拡散されまくったと……」

「そして、私たちからの訴えはなかったから、黙認したと思われていた、と……」


 過去の周回でも合唱の様子が投稿されたのかは不明である。今となっては、調べる方法がない。


「ごめんなさいね、私にもずっと連絡がなくて。『フォルトゥーナ』の事務所とは、曲使用の関係でずっとやりとりしていたのに、文化祭以降は全く関わってなくて」

「しかたないですよ、先生。あれだけ拡散されて気づかなかった僕らもおかしかったんですから。他のクラスとの交流が希薄なのも問題ですし」

「ループによる思い込み、ってのもあったんだなあ。12回も繰り返していて、そんなことにも気づかなかったとは」


 それは、文化祭の警備対応の時もそうだった。ほとんどの事故・事件を把握していたクラスのみんなにとっては、ある意味楽な仕事のはずだった。でも、あの男の人たちの乱入が起きた。そして、その原因も……。


「それだけ、安積さんの存在が大きかったってことじゃないかな。今回だって、どう考えても安積さんが伴奏に加わったことが原因だろうし」

「ごめんなさい……」

「謝る必要はないよ。むしろ、今回『お礼』と称して(・・・・)呼ばれたことの方が気になるし」

「まあ、なあ」

「そう……なのよねえ」

「……?」


 なんだろう? 今回の私は、他のふたりと違って容疑者(仮)として付いてきただけのつもりなんだけど。あと、移動手段(・・・・)の手配かな。


「菜摘お嬢様、そろそろショッピングモールに到着します。私は、駐車場で待機しておりますので」

「ありがとう、田島さん」


 ひそひそ


「とりあえず、安積さんがいいとこのお嬢様ってことは現時点で知られないようにしようぜ」

「そうね。安積さんの素性はまだ調べられてないと思うし、間に合うはずよ」

「これ以上、予測不能な事柄を増やしたくないしね……」


 ……よく聞こえないけど、私のことで検討しているのは確かだよね。はー、なんか憂鬱(ゆううつ)になってきたよ。



 音楽ショップに行くと、店員さんに裏の事務室に案内される。そこには既に、『フォルトゥーナ』のメンバー4人と、マネージャーと思われる人が揃っていた。


 マネージャーは最近付いた事務処理中心の人らしく、無名時代から本来のマネージャー業を担当している、ボーカル兼ギターの『キラ』が話しかけてきた。ちなみに、他のメンバーは、ベースの『アキ』、ドラムの『ライ』、キーボードの『イオ』という。


「よく来てくれたね! 白鳥さんから生徒としての話は聞いていたけど、いやいやどうして、高1とは思えないほどの美女美男っぷりだよ!」

「はあ、どうも」

「特に、菜摘ちゃんだっけ? あの曲をピアノ伴奏として昇華しただけでなく、見事な演奏を披露してくれて!」

「あ、ありがとうございます?」

「いやあ、オレたちも生で聴きたかったよ! 動画だけでもあれだけ震えたんだ、あの場にいたらきっと昇天していたね!」


 瑞希が好みそうな『用語』がたびたび出てくるような気がするのは、きっと気のせいではないのだろう。


「それで、御用件は……」

「ああ、ごめんごめん。いやあ、キミたちのおかげで、4週以降は下がるしかなかったはずのあの曲が、今もまだ売上ランキング上位を維持していてね。まずは、その礼を」

「気にしないで下さい。僕たちのは、学校行事で歌ったただの合唱です。動画サイトの投稿も、今回話があるまで気づかなかったくらいでしたし」

「ああ、そういう意味では、お礼じゃなくて謝罪になるのかな。勝手なことをしたってことで」

「謝罪?」

「動画サイトの映像を、そのまま放置したことさ。まだランキング上位の頃だったけど、いい宣伝になると思ってね」

「その謝罪も、不要ですよ。気づかなかったことに加えて、そもそもあの映像では、僕らの顔とかはわかりませんから」


 合唱の様子を観客席から撮影していたということで、みんなの姿は、壇上の集団としてしか映っていなかった。


 そう。みんなの姿は(・・・・・・)


「もちろん、安積さんは別ですけど」

「ああ。というか、菜摘ちゃんの演奏が決め手だよね、あの映像は」

「……え?」

「もちろん、合唱そのものも良かったけど……そうだな、菜摘ちゃんの演奏に歌を捧げる、そんなイメージかな? 歌詞の内容にも合っているし」


 歌詞の内容? ……そうだっけ? 私自身は歌ってないから、ピンと来ないだけかもだけど。


「あの、私も気にしていませんので。『フォルトゥーナ』のヒットがあってこその、あの合唱ですし」


 正確には少し違うが、過去の周回でのヒットが、文化祭での1-Cの合唱の定番となったのは間違いない。


「そうか……。んー、そう言われると、本題のお願いがしにくいなあ」

「本題?」


 みんなが言っていたように、他に何かあるのか。


「なあ、ウチの事務所に所属して、オレたちと一緒に芸能活動しないか?」

「しません」

「そうだな、断る」

「私も、お断りします」

「即答かあ。菜摘ちゃんだけでもダメ?」

「お誘いは、嬉しいのですが」


 ループを脱出した後ならそれもいいかな、というのはある。ただしもちろん、クラスのみんなとだけど。湯沢さんが言ってたっけ、『48人もいないけど、きっとできる!』って。48人……どこから出てきた数字なのかな?


「まあ、予想はしてたけどね。キミたちにはミーハーのかけらも感じないし。オレたちと違ってね!」

「はあ」

「でも、一度だけ、一度だけでいいから、オレたちと共演してくれないか? クリスマスライブの、スペシャルゲストとしてさ!」

「それは、面白そうだけど……クラスのHRで話し合ってから回答していいですか?」

「もちろん! はは、なんかそういうところは生徒っぽくていいね!」


 いやあ、あのHRが高1っぽいかっていうと……。あ、横で白鳥先生が顔を覆っている。と思ったら、顔を上げた。


「さて、それじゃあ、話はこれでおしまい?」

「ああ。白鳥さんは残ってくれるかな? 権利関係のことで、まだちょっと確認したいことがあって」

「そうね。じゃあ、みんなは先に帰ってくれる? クリスマスライブのことも私が調整しておくから」

「いいんですか? 白鳥先生、帰りは電車と徒歩になりますよ?」

「いいのいいの。田島さんによろしく伝えてね」

「わかりました。それじゃあ、私たちはこれで……」


 ひそひそ


「メンバーとあの車を鉢合わせないためかな」

「だな。ショッピングモールの店でなんか食べて帰ろうと思ったけど、別にいいか」

「よくわからないけど、ウチに寄ってく? 今日のお昼も唐揚げだけど」

「ゴチになります!」

「あー、僕もお邪魔しようかな」

「じゃあ、行きましょ」


 今日は、おじさんもおばさんも自宅にいて、私の唐揚げを楽しみにしてくれているのよね。柿本くんと安藤くんも一緒に食べることになるけど、別にいいよね。あの食堂広いし。


 ばたん


 とことことこ



「じゃあ、白鳥さん、これ、確認してもらえる?」

「ええ。……問題ないわ。年度末までの分はこれだけでいいわよね?」

「年度末どころか、3年は戦えそうだよ! いやあ、本当にいい作詞作曲をしてくれて助かったよ!」

「まあ、あの子達のためだけどね。ついでで申し訳ないけど」

「それはいいが……でも、それならなんで隠すんだ? 白鳥さん、あんたが(・・・・)あのヒット曲を(・・・・・・・)作詞作曲した(・・・・・・)ってこと」

「いろいろあるのよ。教師が兼業禁止ってのもあるけど」

「いや、創作活動は手続き踏めば問題なかったはずだろ?」

「それでもよ。ちょっと……知られるとマズくてね。あの子達、カンも鋭いから」

「よくわからないが……じゃあ、次はクリスマスライブの件だな! オレとしては、サプライズゲストにしたいんだが」

「いいわね。その方が事前に目立たなくて済むから賛成よ。あと……」

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