31「ひとりは、つまんないなあ……」
※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第六章(クリスマス&年末年始編)の1話目です。
「おいも、おいしいねー」
「そ、そうね」
「そう、だな……」
すっかり寒くなった、ある日の学校の帰り道。滅多に出没しないという焼き芋屋さんが学校の近くに店を出すというので、湯沢さんと柿本くんとで買いに行った。ソースは鳴海さん。本人は部活動が長引いて残念がっていた。学校に戻って差し入れに行こうかな?
なお、恥ずかしながら、こうして焼き芋を買って食べるのは初めてである。自宅でさつまいもを使った料理をしたことはあったのだけれども。スイートポテトとかパウンドケーキとか。でも、この、中がトロトロの焼き加減は初体験だ。んー、ほくほく。
「俺、焼き芋をこんなに美味しそうに食べる女の子見るの、初めてだわ……」
「ちょっとムカつくけど、今回は素直に同意するわ……」
はぐはぐはぐ。
「で、湯沢は一個だけなのか?」
「そうよ。知ってるくせに」
「不思議だよな、どんなに頑張っても、寒い間はぶくぶくと…ごべしっ」
「あんた、やっぱりこの周回わざと失言しまくってるでしょ!」
「いやあ、安積さんを見てると、たとえ何回ループしても越えられない理想と現実っていうかあががががっ」
「……はあ、なんかもう飽きた。これからは無視するわよ」
「できればもっと早くにそうしてほしかった」
いつも通りのふたりであった。
「で、でも、確かに気をつけないといけないね。もう水着とか着る季節じゃないけど」
「冬も温泉に行くしね!」
「……それと、例の」
「笹原、いきなり登場してそれ以上はやめような」
「……がっかり」
「なんでだよ。っていうか、お前は国会図書館のデータベースにかかりっきりだったんじゃなかったのか?」
「……終わった。少なくとも、北欧方面は」
「終わった!? じゃあ早速リストくれ!」
「……荷物持ち。約束」
「わかってるって」
……おや?
「ったくこの男は、あっちにふらふら、こっちにふらふら……。放浪グセ、全然収まってないじゃない」
え、柿本くんの『放浪』って、そういう意味もあったの!? あえて確認しないけど。しないけれども、聞こえなかったことにはしないでおこう。うん。
「ふ、ふらふらって言えば、今、2年生が修学旅行だよね。行き先、どこだっけ?」
「菜摘ちゃん、お気遣いありがと。で、修学旅行? それこそ定番の京都・奈良だよ」
「ここも一応、東京圏だしな。名古屋圏は3泊4日で行くには近すぎるし、広島や四国にまで足を延ばすには遠いし」
「行ってみたいけど、東北も近いし、九州も遠いし」
「善光寺……パワースポット……聖地巡り……」
「またピンポイントだなおい。何の影響だ?」
うーん、全部行ったことあるなあ。まあ、学校行事として行くことに意義があるんだよね、修学旅行は。
「いっそ、海外行きたいね! 菜摘ちゃんは慣れていると思うけど。あと、柿本」
「お前が学校から独立して芸能活動して旅費稼いでくれれば行けるかもな」
「褒めるか貶すかわからないような言い方して無視できないようにするのやめて。腹立つから」
「え、えっと、私が最近興味あるのはウラジオストクかな」
「ああ、簡易ビザな。ありゃあ楽だった」
「行ったの?」
「例の周回の時な。ちょうどこの時期だった」
「どうだったの? 韓国並の距離で行きやすいと思うんだけど」
「氷点下だった」
「あう」
そういえば、緯度が札幌と同じくらいだっけ……。やっぱり、京都方面が無難なようだ。
「まあ、どこに行くにしても……行ければ、いいよな」
「……そうだね」
「……うん」
もちろん、みんなと一緒に。
「荷物、持ち……」
「わーった、わーったから! おい、湯沢、お前も週末付き合え」
「わ、私も!? これまでの周回でそんなこと言わなかったよね!?」
「安積さんを誘うわけにはいかないだろ。あと……俺を、笹原と二人きりにさせないでくれ」
「……わかった」
なんというか、いたたまれなくなった。
◇
次の週末。私はひさしぶりにひとりで街を歩くことにした。大変珍しいことに、クラスメートのほとんどに別件が入ったからだ。ついでに言えば、司と瑞希にも。
「とりあえず、クレーンゲームと古書店と美術館の残りかな……」
特に、クレーンゲームで取りたいぬいぐるみがあったのよね。うさぎのかわいいの。ひとりなのは寂しいけど……もふもふのために耐える!
とことことこ
「よー、そこのカノジョ、俺らとどっか行かね?」
「なあなあ、ひとりなんだろ? かわいいのに、もったいねえ」
「……」
すたすたすた
ぐいっ
「おい! 無視すんな……ぐあっ!」
「このアマ、なにしやが……ごふっ」
どさっ
ばたっ
………………
てくてくてく
「な、なあ、あの娘って……」
「ああ、動画の彼女だよな……」
「文化祭に行った奴の言ったこと、嘘じゃなかったのか……」
とことことこ
はー、やっぱり、ひとりはつまんないなあ……。