30「私にとっては、初めての高1。でも」
※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第五章(文化祭編)ラストです。
ざわざわ、ぞろぞろ、……
トンカン、トンカン、……
「文化祭、終わったねー」
「まだ後夜祭があるけど、一般公開は終了だしね。あの娘は?」
「帰ったよ。隣の県の自宅まで距離があるからね」
「彼女にも楽しんでもらえたのかな?」
「たぶん。一番喜んだのが、こっそり録音されていた私たちの合唱の音声データ、だったのが気になるけど」
「はは……」
最後の巡回警備を行いながら、片付けが始まっている様子を安藤くんと眺める。お祭りの後って、なんかしんみりするよね。地元の境内のお祭りも、花火を見た後にはそんな感じだった。
「そろそろ後夜祭の準備も終わりそうだね。校庭の小さめのファイヤーストームと、放送設備だけだけど」
「メインはフォークダンスだよね……あれって普通、体育祭で行わない?」
「ウチは体育祭はないからね。球技大会はあるけど」
「そっか、あれって球技だけだったっけ」
「後夜祭のフォークダンスも珍しくないはずだよ。市内の高校はみんな文化祭でやってたかな?」
「そうなんだ」
中学の時は、林間学校のキャンプファイヤーだけを体験した。そもそも、暗くなった学校の校庭で、生徒みんなが集まって何かをする、というのも、今回が初めての経験である。
そんなことを話しながら安藤くんと歩いていると。
「……そうか,今回は安積さんも、あの日の恒例イベントに参加することになるのか」
「恒例イベント?」
「その時が近づいたら教えるよ。まあ、あれは……できれば、今度こそは経験しなくて済むのが一番なんだけど」
「?」
なんだろう? なんか、安藤くんの顔がかなり複雑な表情になってるんだけど。
「おおっとー。この場合の『ファイヤーストーム』は和製英語だ! 英語圏では、火事とかの……いてっ」
「突然走り出してなに突発的なこと言ってんのよ!」
「いや、国研代表としては、仮入部の安積さんに正しい言葉遣いを……」
「じゃあ、英語ではあれ、本来はなんて言うのよ」
「え? えーっと……あれ? "campfire"に統一しちゃって良かったんだっけ?」
「シチュエーションによっては、"bonfire"や"balefire"じゃなかったっけ」
「お、そうだそうだ。さすが、安積さん」
「結局菜摘ちゃんに教えてもらってるじゃないのよ!」
今日も湯沢さんと柿本くんは仲が良い。フォークダンスの時も、組んだ時にはきっと息ピッタリで踊るんだろうなあ。何か言いながら。
◇
~♪
「おい、湯沢、今度はわざと転ばすなよ?」
「それはこっちの台詞よ。柿本はただでさえ足が短いんだから」
「ループで極めることができないことで責めないでくれよ!」
うん、やっぱり息がピッタリ合っている。でも、最初の周回の頃はヒドかったらしい。幼馴染属性……なんとなく、わかってきたような、そうでもないような。
「あ、安積さん! よろしくお願いします!」
「はい、よろしくね」
「光栄です!」
「おい、次さっさと交替しろよ! 詰まってんだぞ!」
「いや、それおかしいだろ、曲に合わせろよ!」
「順番にね、順番に」
こちらはさっぱりわからないのだが、私の入っている輪は比較的小さく、相手が次々と交替していく。ちなみに、お相手の輪は、1-C以外の生徒で構成されている。
「ほら、次行けよ! このポジションをもぎ取るのに、俺がどれだけ苦労したことか!」
「それは俺も同じだっての! 一次予選のくじ引き、二次予選のタイムアタック、最終予選の世界地理クイズ……」
「最後の◯×クイズが一番厳しかった! 安積さんの好きなカキ氷シロップなんて、あいつらしか知らねえだろ!」
なんか、不穏な単語が飛んできたんですけど。もしかして、私が知らないところで賭けみたいなことを……?
それはともかく。
「シロップって、色が違うだけでみんな同じだよね? 屋台で食べてみてすぐわかったけど」
「「「「「えっ」」」」」
◇
「はー、つかれたあ……」
フォークダンスはまだ続いていたけれど、なぜだか私は早くに解放(?)された。まあ、実際、他の輪よりも回るのが早くて、疲れたのは確かだけど。
とことこ
「おつかれさま、安積さん。これ、飲む? もらいものだけど」
「あ、白鳥先生。ありがとうございます、いただきます」
校舎の入口のところに座って休んでいると、近くで待機していた白鳥先生が近づいてきて、缶に入った紅茶を渡してくれた。
ごくっ
「……はー、おいしいです」
「そう、良かった。でも、家で飲む紅茶よりも味気ないんじゃない?」
「それは、しかたないですよ。横山さんの入れる紅茶は茶葉から……あれ、ウチのこと、知ってるんですか?」
「まあね。安藤くんから聞いたから」
「そう、ですか……」
ごくっ、ごくっ
「……安藤くんと、仲良くやってるみたいね」
「ごふっ!?」
けほっ……白鳥先生、いきなり、何を……。
「うふふふ、慌てなくていいわよ。いいことだと思うから」
「えっ、や、その……仲が良い、というほどでは……」
「そう? プールの時も今回の巡回の時も、一緒のグループだったんでしょ?」
「そ、それは、たまたま……」
白鳥先生、安藤くんからどこまで聞いてるんだろう? いやでも、聞きたいのはむしろ、私の方……なのだけれども。
「安積さん、これからも、安藤くんと仲良くね」
「えっ……いや、別に、安藤くんとだけってわけじゃ……」
「そうね。クラスのみんなとも、ね。
―――だから、私がこの周回で、必ずループを終わらせる」
「………………え?」
「まあ、私なりの努力目標、みたいなものかな? 安積さんまでループに巻き込まれたりしたら、海外赴任している親御さんに悪いもの」
「は、はあ」
「もちろん、私たちの記憶以外は一年前のままだから、この世界の他の人々には気づかれないのだけれども。これまでの、12回のループと同じくね」
「……」
なんだろう。さっきの白鳥先生の言葉が、調整や根回しに奔走していることとは違う、何か別のことを指していたような気がする。なんというか、決意みたいなものというか……。
「それじゃあ、私は待機に戻るわね。空き缶は本部のところに置いておいてくれれば片付けるから」
「あ、はい、ありがとうございました」
すたすたすた
「……」
くぴっ
「文化祭が終わってしばらくしたら、ぐっと寒くなるんだよね。安藤くんの天気予定の記録を見ると……」
私にとっては、初めての高1。でも、みんなにとっては……13回目の、高1。白鳥先生の言葉で、それをあらためて意識したような気がする。
私は……私も、みんなと一緒に『4月1日』を迎えることができるのだろうか。それとも、この世界の他の人々と同じく、この周回自体がなかったことになるのだろうか―――
ここまでを第五章とし、登場人物まとめの後に第六章となります。