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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第五章 彼らと彼女は、何かを頑張っていた
34/55

30「私にとっては、初めての高1。でも」

※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第五章(文化祭編)ラストです。

 ざわざわ、ぞろぞろ、……


 トンカン、トンカン、……


「文化祭、終わったねー」

「まだ後夜祭があるけど、一般公開は終了だしね。あの娘は?」

「帰ったよ。隣の県の自宅まで距離があるからね」

「彼女にも楽しんでもらえたのかな?」

「たぶん。一番喜んだのが、こっそり録音されていた私たちの合唱の音声データ、だったのが気になるけど」

「はは……」


 最後の巡回警備を行いながら、片付けが始まっている様子を安藤くんと眺める。お祭りの後って、なんかしんみりするよね。地元の境内のお祭りも、花火を見た後にはそんな感じだった。


「そろそろ後夜祭の準備も終わりそうだね。校庭の小さめのファイヤーストームと、放送設備だけだけど」

「メインはフォークダンスだよね……あれって普通、体育祭で行わない?」

「ウチは体育祭はないからね。球技大会はあるけど」

「そっか、あれって球技だけだったっけ」

「後夜祭のフォークダンスも珍しくないはずだよ。市内の高校はみんな文化祭でやってたかな?」

「そうなんだ」


 中学の時は、林間学校のキャンプファイヤーだけを体験した。そもそも、暗くなった学校の校庭で、生徒みんなが集まって何かをする、というのも、今回が初めての経験である。


 そんなことを話しながら安藤くんと歩いていると。


「……そうか,今回は安積さんも、あの日(・・・)の恒例イベントに参加することになるのか」

「恒例イベント?」

「その時が近づいたら教えるよ。まあ、あれは……できれば、今度こそは経験しなくて(・・・・・)済む(・・)のが一番なんだけど」

「?」


 なんだろう? なんか、安藤くんの顔がかなり複雑な表情になってるんだけど。


「おおっとー。この場合の『ファイヤーストーム』は和製英語だ! 英語圏では、火事とかの……いてっ」

「突然走り出してなに突発的なこと言ってんのよ!」

「いや、国研代表としては、仮入部の安積さんに正しい言葉遣いを……」

「じゃあ、英語ではあれ、本来はなんて言うのよ」

「え? えーっと……あれ? "campfire"に統一しちゃって良かったんだっけ?」

「シチュエーションによっては、"bonfire"や"balefire"じゃなかったっけ」

「お、そうだそうだ。さすが、安積さん」

「結局菜摘ちゃんに教えてもらってるじゃないのよ!」


 今日も湯沢さんと柿本くんは仲が良い。フォークダンスの時も、組んだ時にはきっと息ピッタリで踊るんだろうなあ。何か言いながら。



 ~♪


「おい、湯沢、今度はわざと転ばすなよ?」

「それはこっちの台詞よ。柿本はただでさえ足が短いんだから」

「ループで極めることができないことで責めないでくれよ!」


 うん、やっぱり息がピッタリ合っている。でも、最初の周回の頃はヒドかったらしい。幼馴染属性……なんとなく、わかってきたような、そうでもないような。


「あ、安積さん! よろしくお願いします!」

「はい、よろしくね」

「光栄です!」

「おい、次さっさと交替しろよ! 詰まってんだぞ!」

「いや、それおかしいだろ、曲に合わせろよ!」

「順番にね、順番に」


 こちらはさっぱりわからないのだが、私の入っている輪は比較的小さく、相手が次々と交替していく。ちなみに、お相手の輪は、1-C以外(・・)の生徒で構成されている。


「ほら、次行けよ! このポジションをもぎ取るのに、俺がどれだけ苦労したことか!」

「それは俺も同じだっての! 一次予選のくじ引き(・・・・)、二次予選のタイムアタック(・・・・・・・)、最終予選の世界地理クイズ(・・・・・・)……」

「最後の◯×クイズが一番厳しかった! 安積さんの好きなカキ氷シロップなんて、あいつら(1-C生徒)しか知らねえだろ!」


 なんか、不穏な単語が飛んできたんですけど。もしかして、私が知らないところで賭けみたいなことを……?


 それはともかく。


「シロップって、色が違うだけでみんな同じだよね? 屋台で食べてみてすぐわかったけど」

「「「「「えっ」」」」」



「はー、つかれたあ……」


 フォークダンスはまだ続いていたけれど、なぜだか私は早くに解放(?)された。まあ、実際、他の輪よりも回るのが早くて、疲れたのは確かだけど。


 とことこ


「おつかれさま、安積さん。これ、飲む? もらいものだけど」

「あ、白鳥先生。ありがとうございます、いただきます」


 校舎の入口のところに座って休んでいると、近くで待機していた白鳥先生が近づいてきて、缶に入った紅茶を渡してくれた。


 ごくっ


「……はー、おいしいです」

「そう、良かった。でも、家で飲む紅茶よりも味気ないんじゃない?」

「それは、しかたないですよ。横山さんの入れる紅茶は茶葉(ちゃよう)から……あれ、ウチのこと、知ってるんですか?」

「まあね。安藤くんから聞いたから」

「そう、ですか……」


 ごくっ、ごくっ


「……安藤くんと、仲良くやってるみたいね」

「ごふっ!?」


 けほっ……白鳥先生、いきなり、何を……。


「うふふふ、慌てなくていいわよ。いいこと(・・・・)だと思うから」

「えっ、や、その……仲が良い、というほどでは……」

「そう? プールの時も今回の巡回の時も、一緒のグループだったんでしょ?」

「そ、それは、たまたま……」


 白鳥先生、安藤くんからどこまで聞いてるんだろう? いやでも、聞きたいのはむしろ、私の方……なのだけれども。


「安積さん、これからも、安藤くんと仲良くね」

「えっ……いや、別に、安藤くんとだけってわけじゃ……」

「そうね。クラスのみんなとも、ね。






 ―――だから、私がこの周回で、必ずループを終わらせる」






「………………え?」

「まあ、私なりの努力目標、みたいなものかな? 安積さんまでループに巻き込まれたりしたら、海外赴任している親御さんに悪いもの」

「は、はあ」

「もちろん、私たちの記憶以外は一年前のままだから、この世界の他の人々には気づかれないのだけれども。これまでの、12回のループと同じくね」

「……」


 なんだろう。さっきの白鳥先生の言葉が、調整や根回しに奔走していることとは違う、何か別のことを指していたような気がする。なんというか、決意みたいなものというか……。


「それじゃあ、私は待機に戻るわね。空き缶は本部のところに置いておいてくれれば片付けるから」

「あ、はい、ありがとうございました」


 すたすたすた


「……」


 くぴっ


「文化祭が終わってしばらくしたら、ぐっと寒くなるんだよね。安藤くんの天気予定(・・)の記録を見ると……」


 私にとっては、初めての高1。でも、みんなにとっては……13回目の、高1。白鳥先生の言葉で、それをあらためて意識したような気がする。


 私は……私も、みんなと一緒に『4月1日』を迎えることができるのだろうか。それとも、この世界の(・・・・・)他の人々(・・・・)と同じく、この周回自体がなかったことになるのだろうか―――

ここまでを第五章とし、登場人物まとめの後に第六章となります。

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