29「明日もきっと君に会えるから」
※当初の1日1話更新予定を変更し、第27話より連続公開をしています。この回は、第五章(文化祭編)の5話目です。
そして、文化祭三日目、最終日。今日は午前にクラス対抗のスピーチコンテストと合唱コンクールがあり、午後に出し物を再開、一般公開が終わる夕方から夜にかけて後夜祭となる。
「(・。・)」
「瑞希、昨夜から呆けているけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫でございますですわよ、菜摘様」
「だから、その喋り方やめてって言ってるのに」
瑞希には、午前の会場である第一体育館の席に早くから座ってもらう。今朝、学校来る時にも田島さんに乗せてきてもらったので、だいぶ早く到着しているのだ。まだなんかぼーっとしているけど、椅子に座っている分には問題ないだろう。
「やあ、安積さん、おはよう。いよいよだね」
「おはよう、安藤くん。合唱、みんなで頑張ろうね!」
「安積さんは、あんまり緊張してないんだね」
「そりゃあ、みんなであれだけ練習したから。安藤くんは緊張してるの?」
「実は、少し。僕たちは何度も繰り返しているけど、今回は安積さんの伴奏で盛り上がるかもしれないと思うと、ね」
「じゃあ、伴奏うっかり間違えないようにしないと」
「昨日の練習と今の様子を見てると、心配はないんだけどね」
「そう? じゃあ、とりあえず私たちも席に座りましょ」
よーし、がんばるぞー。
◇
午前の前半は、スピーチコンテストである。1-Cの代表は安藤くんか柿本くん、もしくは松坂くんかな?……と、思っていたんだけど、意外な人がスピーチを行った。
「……ということであり、この国は『萌え』という感情に根付いた様々な産業を……」
笹原さんだった。いやその、なんというか、クラスのみんなもよく『許可』したよね?
「いや、このスピーチ、実は市のお偉いさんが聞いててな」
「保護者の中に、地元の経済産業関係の方針を立案している人がいるんだ」
「素性は表に出してないけど、結果的に、年始の商店街が活気づいてねえ」
はあ。
……はあ。
コンテストの結果は、全てのクラスのスピーチが終わった直後に審査が行われ、発表された。
笹原さんは、敢闘賞だった。……敢闘?
◇
いよいよ、合唱コンクールが始まる。実のところ、ウチの学校の文化祭のメインイベントらしい。なぜか、地元のマスメディアによる取材や撮影が行われている。てっきり、湯沢さんなどの1-Cの活躍が影響しているのかと思ったのだが、これは昔からの伝統らしい。やはりというか、この学校ってPR方面ではかなり特殊? 公立なのに。
クラス順に合唱が行われ、そして。
<次は、いよいよ1-Cの合唱です。曲目は……なんと、フォルトゥーナの新曲、『Song for Tomorrow Morning ~明日もきっと君に会えるから~』です!>
クラスのみんなと私は、既に壇上に上がっている。
私はピアノの前で姿勢を正し、タクトを握る白鳥先生を見つめる。タクトが上がり、その動きに合わせ、鍵盤に指を添えて―――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
君はいつも、やわらかな微笑みを浮かべ
何事もなかったかのように、声をかける
他のみんなが、避けるようにしていても
それでも君は、優しい言葉を奏で続ける
僕たちの恐れ、嘆き、叫び、諦め、痛み
君はそれを全て希望に変えてくれるから
期待を胸に、星が煌めく夜空を見上げる
明日もきっと君に会えると、そう信じて
ここに捧げる Song for Tomorrow Morning ※
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
♪~♪、♪♪♪、♪~
~♪
……♪
………………
…………
……
ん? なんか、観客席の方がしーんとして……
わああああああああああっ
「はうっ!?」
え? え? なんか、これ、合唱に対する反応じゃないよ!?
「おお……歓声だよ、拍手じゃなくて」
「いやあ……なんか、感無量だなあ」
「ねー。これまでだって、新曲だから注目はされたけど」
「この……なんだろうな、この、達成感」
クラスのみんなは、これまでの周回での合唱と比べて、何か思うところがあるようだ。よくわからないけど、みんなが満足しているなら、私も嬉しい。
◇
だだだっ
がばっ
「なっちゃん、よかった、よかったよおー!!」
「瑞希、おちついて」
「フォルトゥーナの新曲ってのも良かったけど、なんかもう、もう……!」
「ありがとう。でも、私は伴奏だけで、結局歌ってなかったんだけどね」
「いやいや、あの伴奏があってこそだよ! 広がりというか、深みというか、……はあああ」
フォルトゥーナの大ファンである瑞希のお墨付きももらえたようだ。
「特に、あの歌詞のところが良かったよね。『恐れ、嘆き、叫び、諦め、痛み』。こう、ぞくぞくっとしてっ!」
なにかが、台無しになった。
※曲の題名および歌詞は作者のオリジナルです。ちなみに、伏線でもありません。