25「笹原さんだけが悶え喜んでいた」
「試験、おわったー!」
「そりゃあ、終わるだろうよ。いつもの過去問があるからな」
「柿本、あんたこの周回、私に当たり散らし過ぎ。なに、いまさら惚れたの?」
「はっ、なに寝言を。……いたいいたいいたい」
「この時期にこれやるの、6周目ぶりかしらね?」
「9周目ぶりだよ! 忘れてねえからな!」
わいわい
「なんか、いつもより試験後の開放感が大きいね。特に、湯沢さんと柿本くん」
「ああ、この時期はいつもだね。文化祭が近いから」
「文化祭?」
「あのふたりが、このクラスの実行委員なんだ」
「安藤くんじゃないの?」
「通常業務と限定業務の分業……ってところかな」
「なるほど」
1-Cクラス委員長のお仕事(?)って、変動率対策とループ脱出考察のとりまとめがほとんどだよね。日々の記録が元になっていることもあって、学級日誌の類も、実は安藤くんが全部書いている。一部の詳細データは、松坂くんとこのビデオゲーム同好会が担っているけど、とにかく大変なのは確かだ。
「ということで、今日のHRの司会はあのふたり」
「安藤くんじゃないの初めてじゃない? もちろん、この周回ではって意味だけど」
「そうだね。まあ、過去の周回では僕が文化祭実行委員を兼ねたこともあったけど」
「そうなの?」
「……ほとんどの1-C生徒が登校してなかった周回で、ね」
「あう」
「ちなみに、その時のクラスの出し物は『学校近隣の公園分布』」
「……」
「うちひとつは、安積さんが今住んでいる家と勘違いしていた」
「こないだ気づいたってこと?」
「そういうこと」
え、えっと、今回は、期待していいのかな?
◇
だんっ
「と、いうことで! 合唱に参加するのはデフォとして、教室での出し物を決めるぜ!」
「ここんとこはずっと『執事喫茶』だったけど、今回は『メイド喫茶』にしたいと思う人!」
………
「あれ、誰もいない? せっかく菜摘ちゃんもいるのに」
「え、私?」
「安積さんのメイド服姿は見たいけどさあ」
「正直だね、柿本」
「でも、あれって、全員がメイドになるんだろ?」
「当然」
「えっ」
どうやら、過去の周回で本当にやったらしい。そして、いろんな意味で微妙だったそうだ。笹原さんだけが悶え喜んでいたとか。
「普通に執事&メイド喫茶でいいんじゃないのかな? 3回……10周目くらい前にやったよね?」
「安藤、いつもらしくないぞ。当時の記録を見てみろ。俺が覚えていたやつだ」
「え? えっと……うわあ。いや、ごめん、今のなし」
「なにかあったの?」
「衣服代がバカにならなかった」
「服を作れる人がいないの?」
「ウチの学校、服飾部の類はついぞ現れなかった」
「人数も多いしなあ。着替えながら交替するのは意外と厳しいし」
ということで、喫茶店というか飲食店そのものが今回は見送りとなった。普通の格好で接客とかでもいいんじゃないかなあと思うんだけど、それでは意味がないらしい。さっぱりわからないけど。
「あ、くじ・景品関係は事前に全面却下な。前科者もいるし」
「はい」
よしよし。
「何か手作りしたものを持ち寄って販売する……のもダメですね」
「なぜ?」
「みんな凝りすぎて、商品に情が移った」
「お化け屋敷……は、警察が飛んできたことがあったな」
「警察!?」
「あまりの怖さに、110番した来場者がいたのよ」
「文集作成……は、国研メンバーを中心でやったことあったけど」
「あ、多言語対応とか、面白そう」
「さっぱり売れなかったなあ……」
「縁日、ビンゴ、クイズ、……ミニゲーム系は全部景品が絡むな」
「むう」
「ほんっとに、どこぞのアホが……」
なんというか、この12回ループの中でだいたいやり尽くした感があるようだ。いやまあ、手作りにしてもお化け屋敷にしても、それなりに手を抜けばいけるんだろうけど、それは、みんなが許さない。手を抜いて後悔したことも含めて、やり尽くしているのだから。私としては、それを尊重したい。
……やり尽くして?
「ねえ、いっそのこと、クラスの出し物はなしってことにしない? あるとすれば、合唱だけということにして」
「あー、文化祭実行委員会の方針でね、各クラスは必ず何かやらなきゃいけないんだよ」
「うん、それは知ってる。だから、その委員会の運営活動に協力することを、1-Cのやることにするの」
「……つまり?」
「たとえば……体育館会場の設営作業、とか? 中学でもそうだったけど、いつも人手が足りないよね」
「……」
「それと、文化祭案内のパンフレットやチラシを配ったりとか。クラスや部活動の出し物ではみんな積極的だけど、全体受付ってそれらを置いておくだけで、意外と閑散としてるし」
「………………」
「あとは……各会場の、警備とか?」
「「「「「乗ったあ!」」」」」
「ひっ!?」
ひさしぶりっ、ひさしぶりにっ、みんなの歓声を聞いたよ!?
◇
翌日のHR。
「実行委員会本部の面々、泣いて喜んでたね」
「まあ、俺たちの意図とは別の意味でだけどな」
「よくわからないけど、OKが出たってこと?」
「ふたつ返事、っていうのはああいうのを言うんだろうなあ」
それはすごい。でも、別の意味って?
「あれって、『ファッションショー』やった時の反応だよな。なつかしいなあ」
「ファッションショー?」
「こう言ってはなんだけど、今の私たちは美女美男子揃いだから! 投票も盛り上がったんだよ!」
「それって、ファッションショーじゃなくてただのコンテストだよね」
「安積さん、冷静だね。あの時、安積さんがいたら……」
「ん? というか、昨日、話題にしなかったね。成功したんだよね?」
「成功しすぎて、ちょっと、ね。ちなみに、3周目の時」
「割と早い周回の時だったんだ……あ、ごめん、忘れる」
「そうしてもらえると助かる」
今回は校内のあちこちに出没するってだけだから大丈夫だと思うけど……大丈夫、だよね?
「よーし、これから準備だね!」
「全体スケジュールに沿った警備体制はもう組んだよ」
「プールの時のをちょっと変えれば良かったんだよな」
「ああ、確かに、各建物を中心にして、概ね10地点かな」
「警備腕章、出来上がった……」
「笹原はやっ」
「参考書籍が、あったから……」
わいわい
あれよあれよと、決まっていく。私は、相変わらずの置いてけぼりである。でもまあ、やりがいはありそう。私もがんばるよー。
「あ、安積さんはピアノ伴奏の練習を本格的に始める必要があるね。あのヒット曲、明日公開だよ」
「そう言ってたね。まあ、並行して進めるよ」
うん、文化祭、楽しみになってきた。
松坂「集めたレトロゲームは……」
白鳥「私が引き取るわよ」
安藤「平均コタツ残留時間が上がるのでやめて下さい」
※誤字報告ありがとうございました。うーん、ポロポロ出てくる……。