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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第四章 彼らと彼女は、何かを繰り返していた
26/55

23「私も市民プール行ったことあるんだけど」

プール回。というわけで、いつもより無駄に長いです。

 今日は、クラスのみんなで大型プールにやってきた。近場の市民プールではなく、ショッピングモールも併設されている、大型商業施設としてのそれだ。


「うわあ、すごいすごい、流れるプールなんてあるんだ!」

「あれ、安積さん、見たこと……ああ、そうね、安積さん家だもんね」

「きっと、学校以外は自宅のプールしか入ったことがないんだよね」

「あとは、高級ホテルのそれとかね」

「例の……」

「笹原、黙ろうな」

「ひどい……普段、あまり喋らないのに……」

「お前はそっちの趣味の連中にさらわれないことだけに集中してろ!」


 なんか言ってるけど、私も市民プールくらい行ったことあるんだけど。地元の人に愛される、憩いの場所として有名なところ。しかも、確か無料だったよね、マンハッタンにあったプールって。


「じゃあ、あらかじめ決めたメンバーとルートの組合せで各プールを巡回、昼が近づいたら所定のテーブル付近に集合、一緒に食事をとる。午前中の状況を報告し合って、それを元に午後の行程を決める。いいね?」

「「「「「了解!」」」」」

「特に、今回は安積さんが入っているからね。『変動率』が高いかもしれないから、わずかな違いも見逃さないように」

「「「「「イエッサー」」」」」


 1-Cは軍隊ですか? いやまあ、『ナンパ対策』に異常なほど気を遣っているのはわかるのだけれども。しかも困ったことに、このクラスは男女の全員が全員、要対策なのである。私の場合は、まあ、変動率対策ってだけなんだけど。


隊長(安藤)! 安積さんがよくわかってない顔をしています!」

「隊長とか言わないで。それはまあ、僕の方でなんとかするよ。あと、帰りに白鳥先生のお土産を探すから、延長とかなしね」

「わかってるって。白鳥先生、よりにもよってこの時期に研修三昧だからな」

「加えて、8月末に近づくにつれて出張も多いそうですし」

「その結果が、登校日廃止だもんなあ。あれって、先生たちの給料日ってのが起源だったっけ?」

「今は現金手渡しではありませんからね。でも、十年くらい前までは普通だったみたいですよ?」

「まあ、とにかく、こうして無事夏休みも終わろうとしているのは、ひとえに白鳥先生のおかげということで。お昼にお金使いすぎないようにね?」

「「「「「ラジャー!」」」」」


 なにか酷いことを言われたような気がしたけど、さらっと流されて白鳥先生へのお土産の話題が登場した。お土産かあ。何かいいのあるかな? 安藤くんが詳しかったりしそうだけど。



「あははは、楽しいねー」

「安積さん、学校のプールでも泳ぎがうまかったけど、ここでも普通に泳げるんだね」

「うん。泳ぎは得意だよ。でも、こんな風に、流されながら泳ぐのは初めて!」

「安積さんが、小さな子供っぽく見える……でも、見た目は……」

「んー、何か言ったー、安藤くん?」

「いや、なにも」


 早速、流れるプールに入った私は、安藤くん他2名と、ゆらりゆらりと流され続けた。日差しが強いけど、このプールなら少し風も切って浮かんでいられるし、周りの風景も変わっていくから、楽しさがハンパない。ぷかぷかー、ゆらゆらー。


 どんっ


「あっ、ご、ごめんなさいっ」

「んだよ、どこ見て……ああ、いやあ、ダイジョブダイジョブ。俺、泳ぎ得意だし、身体鍛えてるし」

「そうですか。ごめんなさい」

「なあ、俺らと一緒に泳がね? あっちの……」


 がしっ


「はーい、すとっぷー」

「ごめんね、彼女は僕らの連れなんだ」

「うっせーな、ガキ共……おおう」


 ぐるっ


「俺たち、他にも何人かと一緒に来てるからな、覚えておいてくれよ」

「というか、そちらのお連れのお姉さん達が、怖い顔をしてますよー」

「ぐっ」


 ばしゃばしゃ


「ふう……あのふたり、今回もやっぱり現れたか」

「いつもなら避けるところだけど、流れるプールは安積さんが御所望だったからね」

「しかし、女連れでナンパとか、何考えてんのかね?」

「過去の周回の俺たちもヒドかったけど、ここまで露骨にはなれなかったよな」

「環境の違いかね? 差別的な意味じゃなくて」

「そうなのかな。これも検証事項に入るかもしれないね……」


 えーと、もしかして私、早速ナンパされた? ただ、浮かんで漂ってぶつかっただけなのに。そして、そんな私をそっちのけで考察に入る安藤くん他2名。慣れてるんだなあ……(うらや)ましくないけど。



 すとんっ


 ひゅっ


 ………


 ばしゃーんっ


 ………


「ぷはあっ。はー、飛び込みって気持ちいいねー」

「……安積さん、いきなり一番高いところから、躊躇なく……」

「すげえ……なんというか、すげえ……」

「おい安藤、今から女子と交替してもらわねえか? 文化系バンザイな俺達じゃ、これからついていけねえかもだぞ?」

「いや、そういうわけには……うん、でもそうだな、午後は湯沢さんあたりに相談してみるかな」

「俺たちの心の変動率が高すぎる……」



 そうして、いくつかの種類のプールを堪能した後、お昼をとるため、併設レストランに集合する。


「団体31名で予約の、安藤です」

「は、はい、(うけたまわ)っております! こ、こちらへどうぞ!」


 ぞろぞろ


「あの案内の人、◯◯大学の学生だっけ。結構、かわいいよな」

「おい、よせよ。ウチの女子に殺されるぞ」

「しかも、今回は安積さんもいるんだぞ」

「いや、安積さんも別に、俺たちの方からナンパすることを否定しているわけじゃないだろ?」

「そりゃあ、そうだけど」


 ひそひそ


「それに、ウチの女子が怒るのは、過去の周回での因縁……」

「そこの男子ー、この周回でいっぺん死んでみる?」

「別に、あんたらが誰を誘ったって私たちは何も言わないけどねー?」

「でも、『なかったこと』にされるのはシャクよねえ」

「この周回で精算しておく? ループ脱出の可能性もあるんだしねえ」

「そこんとこ、どうなの?」

「「「失礼しました、お嬢様方!」」」


 また、軍隊調のグループが……。


「ああ、気にしないでいいよ。何を頼む?」

「んー……あ、ここ、唐揚げトッピングのカレーライスもあるんだ。私はこれにするよ」

「そ、そう……」


 そこは素直に『唐揚げ、好きなんだね』って言ってくれてもいいんだよ、安藤くん?



 そして、午後のプール。


「結局、湯沢に却下された……もつかな、午後」

「安積さんの場合、二重に大変だよね。ナンパ率と、活動率」

「あいつら、こんな時だけ過去のことをここぞとばかり持ち出して」

「自分たちだって、あの時はそれなりに楽しんでたじゃないか……ぶつぶつ」


 安藤くん達がなんか疲れた顔をしている。私は唐揚げを食べて元気いっぱいなんだけど!


「あ、あれがウォータースライダーなんだ! あそこから上がればいいのね」

「安積さん、それ、一番高いところに行く階段だから!」



「ウォータースライダーも楽しかったー! あの、くるくるっ、バシャバシャッ、どっぱーん、っていうの。ほんと、こういうのってどういう人が思いつくのかなあ。発想力を分けてもらいたいよね」

「安積さんが、子供っぽいのか大人っぽいのかワーカホリックっぽいのかよくわからなくなっている件」

「それもまた安積さんならではなのかもね……。あ、ウォータースライダーは日本が最初らしいよ? まあ、普及型はアメリカ発祥らしいけど」

「そうなの? よく聞くケースと逆よね。今度、お母さんとそのテーマでお話してみようかな」

「……また何か、とんでもない企業グループが誕生したりしないよな?」

「さあ……」


 などという会話をしながら、デッキチェアで安藤くんを始めとしたメンバーとジュースを飲みながら、プールサイドでくつろぐ。例によって、みんなが場所と時間帯を調査しまくっていて、今日はいつどこに行けば座る場所が空いているかを把握しているのだ。夏休み中とはいえ平日で、混んでいるとも空いているとも言えない状況なのも影響しているそうな。


 とはいえ、私は13周目で初めて登場した存在。この遭遇と展開は、クラスのみんなも予想だにしていなかったようだ。


「えっ……もしかして、なっちゃん……?」

瑞希(みずき)? 瑞希じゃない! ライブの時以来だね。それと……うわあ、美代(みよ)真那(まな)だ! ひさしぶりー!」

「なっちゃんって……菜摘ちゃんなの!?」

「うそおっ……」


 3人とも、中学の時のクラスメートで、いつも仲良くしていた友達だ。仲良くといっても、学校や週末でしか交流はなかったけど。あの頃は今と違って、登下校は自宅の都合で(・・・・・・)学校の友達と一緒に寄り道するとかできなかったし、長期休業中は両親と旅行に出ることが多かった。


 それを思い出した私は、そういえば3人とは一緒にプールや海水浴に出かけたことがなかったことに気がつき、3人の反応も相まって、ちょっとテンションが落ちた。


「……水着、似合うかな? みんなの前では、スクール水着しか着たことなかったけど」

「あ、や、その……」

「似合うとか、そういうことじゃ……」

「えっと……」


 くるっ


 ひそひそ


「ちょっと瑞希! 菜摘ちゃん、どうしちゃったの!? っていうか、あの人(・・・)、本当に菜摘ちゃん!?」

「いやあ、ゴールデンウィークの頃から、更に大人っぽくなっちゃってるねえ……」

「そりゃあ、あの娘は前から(・・・)可愛かった(・・・・・)けどさ、だからって、急にああなるものなの!?」

「たぶん、一緒にいる男の人達(・・・・)のせいなんだろうけど……」

「えっ、それって……」


 あれ、瑞希たち、後ろを向いて何か検討らしきことを始めたよ? え、私の水着の評価って、検討してからでないとできないものなの?


 ひそひそ


「やべー、やべーよ! このパターンは初めてじゃねーか!」

「そうだね。安積さん、絶対気づいてないけど、僕らの状況って傍から見れば、か弱い女の子を守るクラスメート達ってよりは……」

「プールサイドでイケメン(はべ)らせてるナイスバディ美少女だよな。自分で言うのもなんだが」

「あの瑞希って娘には以前会ったことあったけど、あの時はライブ終わってすぐ解散したから、僕たちとはあまり絡んでなかったし」

「っていうか、結局少し避けられてたぞ、俺。地味にショックだったの、覚えてる」

「今もだよな。くそう、12回ループの積み重ねが、今回は仇となって返ってきやがって……!」


 あれ、安藤くん達も何かひそひそと話し始めたよ? 想定外なのは確かだけど、瑞希たちも、クラスのみんなも、一緒にお話すればいいじゃないのよー!



 そんなこんなで、クラスメート全員で楽しんだプールからの帰り道。


 ぴんぽーん


「はーい。……あら、安藤くんに、安積さん」

「……白鳥先生、ごめん。僕らには止められなくて……」

「白鳥先生、プールのお土産です! 食べて下さい!」


 がさごそ


「……抹茶ドリアン……。安積さんが選んでくれたの? ありがとう」

「いいえ。また何かあったら持ってきますね、安藤くんと!」

「て、テンション高いわね。どうしたの?」

「えっとですね、私、今回、大型プールに初めて行ったんですけど、安藤くんが……」


 これを機会に、安藤くんのイイトコを積極的にアピールしなきゃね。あ、夏休みが終わる前に、唐揚げ作って持ってこようかな。もちろん、安藤くんと!

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