20「鳴海さんと湯沢さんの特訓のおかげかな?」
ピロン♪
【AND】@なつみ 明日の海水浴、準備できてる?
【なつみ】@AND できてるよ。穴場スポット、楽しみ
【XOR】@AND @なつみ 俺が発見したからな!
【しゆ】@XOR はいはい、遭難遭難
【XOR】@しゆ (。・・。)
【しゆ】@XOR ほめてないし
【NOT】@AND 今回もJT65はなしですかな
【AND】@NOT そうだね。JT9も期待薄だし
【なつみ】@NOT @AND ?
【AND】@なつみ あー、説明が長くなるから、現地でね
【さら】@AND 私は今回もパス。原稿優先
【AND】@さら ……了解
【はの】@AND ところで、白鳥先生は今回どうしますか?
【なつみ】@はの 白鳥先生も誘うの?
【AND】@なつみ ああ、別件なんだ。この時期特有の
【AND】@はの まあ、今回も行ってみるよ
【はの】@AND では、私も。@なつみ には後ほど私から伝えますね
【なつみ】@はの うん
……なんだろう、白鳥先生の、この時期特有のって。
ピロン♪
「あ、鳴海さんからだ。……え?」
◇
ぴんぽーん
「白鳥先生ー、大丈夫ですかー」
「白鳥先生、鳴海です。今回は、菜摘さんも一緒ですよ」
…
……
………
がちゃっ
「あー……3人とも、来てくれたのね」
「大丈夫ですか先生、夏風邪」
「大丈夫。たぶん、いつも通り、明日には治ると……けほっ」
「ああ、寝て下さい。今回は、菜摘さんがおかゆを作ってくれるそうです」
「……ありがとう、安積さん」
「い、いえ」
これまでの周回では、本日この日にクラスメートの多くが海水浴に行くと言うのが定番だった。柿本くんが国内でも無茶をした時にたまたま発見し、充実した海水浴場ながらも、今日が最も空いているとのこと。この検証だけで3周ほどかけたというから、相当の自信があるようだ。
ただ、何をどうしたわけか、この日の白鳥先生は全ての周回で、必ず酷い風邪を引くのだそうだ。一周目はともかく、それ以降はわかっているのだから予防できそうなものなのだが、どうしても風邪になってしまう。ピークで38.1度、咳と身体のだるさがひどい。これが、毎周回のちょうどこの日に起こるとのこと。
「海水浴場が定着した次の周回かな、白鳥先生も誘うことにしたんだ。ちょうど週末だったし」
「そうしたら、これまでの周回を含めて、必ず寝込んでいたことがわかって」
「今回みたいに、サプライズのつもりで先生の部屋を訪ねたら……ってことで」
「そうなんだ……」
話には聞いていたが、白鳥先生は本当に、学校近くのアパートの一室を借りて住んでいた。和室と洋室がそれぞれひとつ、そこに台所とバス・トイレ。あとは、押入れかな。
それだけのスペースなのだが、家具は多いわけではなく、一通り片付いてもいるので、なんとなくひっそりとしている。やっぱり、私ならここで一人暮らしというのは厳しいかも。家事はともかく、住居スペースに他の誰もいないというのは寂しい。初めてまともに見るコタツは落ち着きそうだけど。
「おかゆ、できたよ」
「さすが、レトルトとは違うね。いい香りだよ」
「そうですね。さ、白鳥先生」
「ありがとう、みんな……あっ」
ふらっ
「先生!」
がっ
すっ
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ、安藤くん、鳴海さん。急に起き上がって、少しくらっとなっただけだから」
「でも、これまでの周回では、こんなこと……」
「気にし過ぎよ。タイミングの問題じゃないかしら。安積さんのおかげで、前より少し早く食べられるから」
「なら、いいんですけど。とにかく、おかゆを……」
「……」
「安積さん?」
「え? あっ、と……はい、白鳥先生。熱いですから、気をつけて下さい」
「ありがとう」
ずずっ
「うん、おいしい。これは、しそ味かしら」
「はい。梅よりも、この方がいいかなって」
「やっぱりね。安積さん、本当にありがとう。また今度何かお礼をするわね」
「そんな、いいですよ……」
◇
その後、少し話をしてから、私たち3人は白鳥先生の部屋を後にした。これから最寄駅で他のクラスメートに合流して、目的地である海水浴場に電車で向かうためだ。
「白鳥先生、今回は大したことがなくて良かったですね」
「そうだね。いつもなら、僕たちが帰る寸前にふらふらしていたから」
「じゃあ、私がおかゆを作ってタイミングがズレたっていうのは、本当なんだ」
「そう、だね……」
みーん、みーんみーんみーん……
………
……
…
「ねえ、安藤くん。今日の海水浴なんだけど」
「なに、安積さん?」
「とりまとめ、私がやろうか?」
「……え?」
「菜摘さん?」
「安藤くんは、その方が……いいんじゃ、ないのかな?」
みーんみーんみーんみーん……
……
「……お願い、できる?」
「うん、まかせて」
「ありがとう。じゃあ、また。鳴海さんも」
「え、ええ」
たったったったっ……
………
……
…
「びっくり、しました。私たちでさえ、仲良くなり始めた8周目前後に、ようやく気づきましたのに。今でさえ気づいていない人もいますけど」
「柿本くんとか?」
「ええ、まあ。でも、安積さんはどうして気づいたのですか? 安藤さんが……白鳥先生を好きなことを」
「どうしてかな? 鳴海さんと湯沢さんの特訓のおかげかな?」
正直言うと、直感でしかなかった。恋やら愛やら全く縁がなかった私に、そんなことがわかるはずもない。はずもないのだけれど……。
「まあその、風邪を引いて苦しんでいる白鳥先生を見る安藤くんの目が、なんとなく、ね」
「……その、安積さん。もしかして、安藤さんを……」
「え? うーん……そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない」
「……?」
「一緒にいて、落ち着くとは思う。話しているときとかね。でも、それだけかなあって」
もしかすると、鳴海さんの言う通りなのかもしれない。私は、クラスのみんなの中でも安藤くんを特によく見ていて、だからこそ、今日の安藤くんの様子もよくわかったのかもしれない。でも、それだけなのである。
「こんなこと言うとマズいのかもしれないけど、白鳥先生もまんざらではないと思うんだよね」
「え!? それはさすがに私たちも……え、でも、本当に?」
「白鳥先生、普段はあちこち飛び回って私たちをフォローしてくれているから、気を張っているところがあるよね。でも、今日の白鳥先生は風邪で弱っていて、いつもよりも本音が出ているように見えたんだ」
「じゃあ、一緒に白鳥先生の様子も?」
「証拠があるわけじゃないけどね。でも……恋とか愛とかって、はっきりと証明するものじゃないんでしょ? 鳴海さんと湯沢さんが教えてくれたじゃない」
客観的に観察して考察し、結論を導こうとすることはできる。でも、それが無意味で無粋であることもある。それが、私自身を含む、気持ちの問題であるならばなおさらだ。
「ある意味、菜摘さんらしいですね。……でも、それなら柿本さんにもまだチャンスがあるということでしょうか」
「柿本くん? え、柿本くんも白鳥先生が好きなの!?」
「……まだまだ特訓は必要のようですね」