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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第三章 彼らと彼女は、何かを考えていた
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16「何かを抱えていることだけはよくわかったから」

「あー、その本は電子化されていないはず。学校の図書室だったか、どこかの街の市立図書館だったか……」


 柿本くんがあまりに古ゲルマン語修得を積極的に勧めてくるものだから、簡単な入門書みたいなものはないかと(少し意地悪く)尋ねてみたら、そんな回答をしてきた。どうやら、過去の周回の中で一度だけ借り出したことがあるらしい。


「そうすると、笹原(ささはら)だな、すぐにわかるのは」

「図書委員の?」

「ああ。彼女はこれまでのループの中で、学校の図書室だけでなく、近隣の公立図書館もほとんど制覇しているはずだから」

「制覇!?」


 笹原さんはどちらかというと紙媒体派らしく、古き良き図書館や書店を愛する活字中毒……もとい、本好きらしい。


「今日は図書室のカウンターで当番をしていると思う。でも、俺は……」

「ああ、もともと私が読みたいって本のことだからね。行ってくるよ」

「いや、そうじゃなくてな……俺、実は、笹原のことが苦手で」

「そうなの? 話が合わないとか?」

「本の話をしている分には問題ないんだけど……いや、ここ最近の周回では全く関係なくなっているんだけど……」

「?」


 放浪事件あたりと関わっているのかな?


 まあいいや。とにかく、私だけで行こう。



 ガラガラガラ


 図書室に来た私は、すぐに、カウンターで本を読んで待機している笹原さんを見つけた。


「こんにちは、笹原さん」

「……こんにちは、安積さん」

「菜摘、でいいよ。クラスの女子はみんなそう呼んでるから」

「……菜摘、さん」

「うん」


 私も湯沢さんとかと比べれば大人しい方だと思うけど、笹原さんは、もっとずっと大人しい。おっとりというか、何か話しかけても、必ず少し考えてから、必要最小限のことを答える。体型的にも、小柄で目立たない感じだ。


 そんな笹原さんを、柿本くんはなにやら苦手らしい。例によって過去の周回で何かあったのだろうけど、これまた例によって深くは聞かないことにする。必要なら、本人達から話してくれるはずだからだ。


「柿本くんから話を聞いてね、古ゲルマン語の入門書……みたいなものがあるって聞いたんだけど」

「……それなら、隣街の図書館」

「そうなんだ。そこのスタッフの人に尋ねればわかるかな?」

「……私も、行く」

「え、今から?」

「……そろそろ、交替」


 笹原さんがそういった矢先に、裏から別のクラスの男子生徒が現れる。どうやら、奥の自習室で本を読んでいたようだ。


「……よろしく」

「あ、ああ。……安積さん、笹原さんと出かけるの?」

「うん、そうだけど。あれ? 私を知ってるの?」

「1-Cの生徒は全員有名だから」

「私も?」

「君は、一番有名だよ」

「そうなの!?」

「……菜摘さん、静かに」

「……ごめんなさい」


 でも、えええ……なぜ? 他のクラスの女子とたまに話す、という意味では知られていても不思議じゃないけど、でも、男子生徒とはほとんど接点ないよね? というか、こないだの芸能カメラマンじゃないけど、部活動で活躍しまくっている他のみんなの方が圧倒的に有名なんじゃないの?


 詳しく聞きたかったが、図書室を訪れる生徒が増えてきたため、笹原さんと静かに退室する。


「ねえ、笹原さん。さっき、私が1-Cの中でも一番有名って言われたことだけど。何か理由、知ってる?」

「……安藤くんに、訊けばいい」

「いやその、ちょっと……恥ずかしいような」

「……別に、気にする必要は、ない」

「そ、そう……」


 まあ、他のクラスの生徒に知られているといっても、結局あまり関わりがないから、そのことを詳しく聞いたところで何かの役に立つとは思えない。さらっと流すことにしよう、うん。



 隣街の図書館まで、路線バスで向かう。数分程度だったので、笹原さんとあれこれ話しながら、という感じではなかった。


「……これ。あと、これ」

「二冊もあったんだ。ありがとう」

「……どう、いたしまして」


 図書館で目的のものを借り出すことに成功した私は、笹原さんをお茶に誘う。お茶と言っても、図書館の近くにあるハンバーガーショップだ。そこに向かっていると。


 たったったっ


「菜摘ちゃーん!」

「良かった……会うことができて」

「湯沢さんと鳴海さん?」


 部活直後の帰宅の途中だったらしく、荷物一式を持っている。なのに、ふたりとも走ってここまでやってきた。


「……それじゃ、私は、これで」

「え、笹原さん、お茶は」

「……また、次の機会に」


 そう言ったっきり、笹原さんは街中に歩いていった。


「……笹原さん、私達を避けましたね」

「だねえ。まあ、柿本じゃないけど、まだお互い距離を取りたいかも」


 やっぱり、過去の周回で何かあったようだ。話題に出たこともあり、思い切って訊いてみることにする。


「ねえ、前の周回で何かあったの? その、他のクラスメート全員と」

「……いやまあ、私達の最大の黒歴史というか……」

「……そう、ですわねえ……」


 そう言うふたりは、こころなしか、顔を赤くしている。


「えっと……安藤に聞いてるよね、私達が荒れに荒れていた周回があったって」

「うん、まあ」

「その、ですね……笹原さんが、最も常識のタガが外れて(・・・・・・・・)しまったんですよ、私達の中で」

「………………………………え?」


 それは……やっぱり、これ以上、訊かないほうがいいか。


「あと、腐ってるし」

「腐ってる!?」

「しかも、性別関係なく」

「はうっ」

「普段の反動、なんでしょうかねえ……」


 そういえば、さっき笹原さんが向かった方向って、『そういう本』が置いてある書店がいくつも立ち並ぶ通りだったような……。


 その後、私が笹原さんについて積極的に尋ねることはなかった。ディープな何かを抱えていることだけは、よくわかったから。うう……。

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