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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第三章 彼らと彼女は、何かを考えていた
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15「一年は、やはり短い」

 運動部で、インターハイ地区予選への大会参加が始まった。平日昼間に実施することが多いからなかなか応援に行けないけど、湯沢さんの陸上部がちょうど週末に実施する日程で、クラスメート達の何人かと応援に行った。市内の総合体育館が会場なので、自宅から徒歩で行ける距離である。


「いくつかの学校、応援がすごいね」

「学校によっては、学校行事として生徒全員参加ってところもあるからね」

「まあ、クラス単位でごそっと応援ってのは野球くらいだけどな」

「地元のテレビで試合が放送されることもあるもんね。応援席の……あれ? そういえば、ウチの学校って野球部あったっけ?」

「ないんだな、これが。少なくとも、9周目以降はずっと」

「……もしかして、1-C生徒が誰も入ってないから?」

「正解」


 もともと人数が少なかったところに、4月を通して他の部や同好会に新入生を軒並み取られてしまったため、ゴールデンウィーク明けには野球部が跡形もなくなってしまったらしい。


 では、なぜ新入生が野球部に誰も入らなかったか? 1-C生徒の誰も入らなかったからである。正確に言えば、体験入部期間が始まる頃には、既に1-C生徒の多くが特定の部や同好会への入会・入部を決めており、新入生を含む在校生達にその活躍を見せつけ、人気が集中してしまったからである。


 もちろん、湯沢さんが言っていたように、最初から能力を極めていた(賢者モードだった)わけではない。だが、それは、年度末まで極め続けた自分自身との比較の話。他の生徒と比較すれば、最初のたかだか一週間だけでも雲泥の差となって現れていた。特に、美容効果が最初からわかっている1-C女子生徒陣には。全くもって、現金な話ではあるが。


「1-Cは、女子が運動部系、男子は文化部系と、傾向が割とはっきり分かれているのも理由かもな」

「そうですね。女子で文化部系に熱心なのは……笹原(ささはら)さんくらいでしょうか。といっても、図書委員ですが」

「そうなんだ」


 笹原さんは、いつもなんらかの本を読んでいる人で、他の人と喋っているところをほとんど見たことがない。とはいえやはり『12回ループ』の経験を共有していることもあって、特に国研との交流はそれなりにあるようだ。


「ん、そろそろ湯沢さんの競技が始まるな」

「第2グラウンドでしたね。行きましょう」


 湯沢さんは、陸上競技の中でも短距離走のみの参加である。部員数はともかく、応援に来ている人はさほど多くないだろう。



 ……と、思っていたのだが。


「湯沢さーん、ちょっとこっち向いてもらえますか?」

「あっ、はい」


 パシャパシャ

 ……ガヤガヤガヤ


「あ、こっちもお願いします」

「はーい」


 パシャシャシャシャ


 ……


 なにこれ。


「なあ、安藤。今回の湯沢、いくつの紙面と雑誌に載るか賭けないか?」

「賭け? 柿本くん、どういうことかな?」

「安積さんのきついお言葉がひさしぶりに来た」


 現在の状況を要約すると、報道カメラマンがたくさん来ていて、湯沢さんを撮影しまくっていた。が、柿本くん曰く、芸能カメラマン(・・・・・・・)もたくさん混ざっているらしい。報道はともかく、芸能?


「湯沢さん、ゴールデンウィーク中に『読者モデル』の勧誘が街中でいくつもあったんですよ」

「そうなんだ。でも、いつ? 連休中って、私や鳴海さんと結構一緒にお出かけしてたよね?」

「それは、まあ、最初の数周で『出没パターン』を把握しましたから。菜摘さんとのお出かけの時は、避けるようにしていました。せっかくのショッピングなのに、邪魔されたくありませんでしたから」

「なるほど……」

「湯沢さん自身も関心がなかったんだけど、ある周回で地元ファッション誌に掲載された時、学校側から打診があったんだ。『部活動の様子と組み合わせれば、学校のいいPRになる』って」

「えっ」


 それは……どうなんだろう。ウチの学校って、別にそこまでしてPRしなければならないようなところじゃないよね? 公立だし、受験者も地元指向だし。


「そこまで来て、湯沢さんが関心持ってね。『陸上女子を増やすんだ!』って」

「ああ……」

「『フォルトゥーナ』の件と同じく、白鳥先生があちこち派遣されて調整しているおかげで、全くおかしなことにはなってないんだ。PTAとか、教育委員会とかね」


 白鳥先生の苦労が偲ばれる……。今度、何か美味しいものを作って差し入れに行こうかな。



「そろそろ競技が始まります。報道関係者は所定の場所まで下がって下さい!」


 ぞろぞろぞろ


 ある意味普通の撮影会が終わり、ようやく競技が始まる。


「位置について、よーい……」


 パンッ


 たったったっ……


 ………………

 …………

 ……


 ピーッ


「うわあ! 湯沢さん、ぶっちぎりじゃない!」

「そうですね。もちろん、新記録とまではいかないのですが」

「そうなの?」

「それだけ、日本も世界も広いということですね」


 あとは、鳴海さんが前に言っていた、翌年度以降に続く実績が関係する。そういう意味での一年は、やはり短い。


「あれ、だから芸能活動っぽいようなことも始めたとか?」

「そうとも言えますね。達成感の充実にも一役買っていると思います」

「鳴海さんも?」

「私は、他の部員への指導で満足していますから」


 鳴海さんもクール系美少女だし、同じく学校側から打診されてそうだけど、白鳥先生が止めているのかな。本人の意向を尊重するようにって。


「まあ、そういったことは、本来であれば白鳥先生が担うはずだったんだけどな。なんたって美人だし、仕事で学校の職員やってんだから」


 もしかして、湯沢さんをスケープゴートにしたかっただけ?

※誤字報告ありがとうございました。かなり気をつけているつもりでも結構ありますね……。

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