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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第三章 彼らと彼女は、何かを考えていた
15/55

13「1-Cのみんなを守るために」

 キーンコーン、カーンコーン


「はい、終わりです。後ろから解答用紙を集めて下さい」


 ガタガタ


 ……


 トントン


 ………………

 …………

 ……


「……あなた達、今回は静かね。何周ぶりかしら?」

「まあ、同じ問題をこれだけ繰り返し解いていたら。試験からの開放感もいまさらだし」

「安積さんが関わっても、問題内容の『変動率』は限りなくゼロに近かったですしね」

「そうなるように誘導したのでしょう? その分なら、今回は苦労せずに済みそうね」

「僕達も反省したんですよ。無茶振りも怠惰も、ループ問題の解決にならないって」

「もっと早く気づいてほしかったけど……今回は、安積さんのおかげかしら」

「あはは……」


 1学期中間考査最後の試験科目が終わり、試験監督だった白鳥先生が、解答用紙を集めて職員室に戻っていく。担任が最後の試験科目の監督をするのは偶然ではなく、試験期間終了に伴うSHRが行われるはずなのだが……このクラスでは不要なのだろう。


「さてと、今日から部活動再開だね。地区予選も近いし、走り込んでくるよ!」

「私もですね。もっとも、この時期は他の部員の指導が定番になってますけど」

「弓道は団体戦も命だよね。短距離走はひたすら鍛える! めざせ、毎周0.01秒短縮!」


 0.01秒……10ミリ秒か。つまり、既にそれだけの差しか出ないほどになっているのか。弓道の鳴海さんはともかく、陸上の湯沢さんはいつどこでそこまでにしたんだろう。ゴールデンウィークは一緒にお出かけする日が多かったのに。


「柿本、国研は今回どーする?」

「安積さんもいるし、そろそろ古ゲルマン語いってみるか?」

「え、私? まだアラビア語もマスターしてないんだけど。最近は例の曲(・・・)の楽譜作成と伴奏練習ばかりだったし」

「ああ、そっか。北欧神話を直接当たってみようかと思っていたんだけど」

「ノルン三姉妹か。とりあえず、俺らだけで資料集めしてみないか?」

「ちゃんとした辞書もまだだしな。じゃあ、安積さん、そっちはまた別の機会に」

「うん」


 もうしばらくは『例の曲』の伴奏練習に集中したいところ。部活動としてできればいいけど、うかつに聴かれて『フォルトゥーナ』の活動に影響を与え、予測不能(変動率増大)な事態にしても困るだろう。みんなにとっても、私の伴奏は初めてのことだし、大事をとるに越したことはない。


「安積さんのお父さんが言ってたってことも、まずは僕の方で調査してみるよ」

「わかった。それじゃあ、今日はひとりで帰るね」

「うん、またあしたー」

「安積さん、また明日ね」


 試験期間中は『過去問』確認という理由もあって、午前中には終わる試験の後は、いつも誰かと帰り、どこかに集まっていた。ゴールデンウィーク中もみんなと遊んでばかりだったから、ひとりで帰るのは本当にひさしぶりだ。



 下駄箱で靴を履き替え、校門に向かおうとしていたところ、声をかけられた。


「……安積さん、だよね? ひさしぶり」

「えっと……ああ、あの時の」

「今、ちょっといい?」

「いいけど、なに?」


 1-Aの女子3名が私に近づき、そう尋ねてきた。4月初めの集会で話しかけられ、部活動での1-Cのみんなのことで少し話したことがある人達だった。


「私達、安積さんにお願いがあるというか……」

「お願い?」

「その……1-C生徒の何人か、私達に紹介して!」


 ……は?


「紹介、って、私が?」

「うん。ダメかな?」

「ダメというか、私が紹介しなくても、直接話しかければいいと思うんだけど……ああ、そっか」

「う、うん。ゴールデンウィークが明けてから、ますます近づきにくくなっちゃって……。友達に、なりたいんだけれども」


 みんな、連休や試験期間(・・・・)を通して、有名人オーラが更に増したもんなあ。これは比喩でもなんでもなく、1-C生徒のひとりひとりが、学校内で有名なのである。


 恋愛マンガとかの定番で、芸能人顔負けの『イケメングループ』や『学園のアイドル』なんかが出てくるけど、それを地でやっているとでもいえばいいのだろうか。本人達も割と自覚しているみたいだけど、経緯が経緯だからか、他のクラスの生徒とはあまり積極的に交流していない。彼ら彼女ら曰く、少なくとも最近の周回では。


「1-Cでも、安積さんは話しかけやすくて……あ、ごめんなさい」

「ううん、いいよ。でも、だからこそってわけじゃないけど、私から紹介するのも厳しいかなあ」

「そっか……。あ、そうだ。安積さんだけでもどうかな? これから1-Aの何人かで打ち上げに行くんだけど。ひとりだよね?」

「そうだけど……」


 たまには、いいかな。


「ダメよ」

「え? 白鳥先生?」


 いつの間にか近くにいた白鳥先生が、そう言って止めてくる。


「し、白鳥先生、なぜですか!?」

「……お酒はダメ、ってことよ」

「「「!?」」」

「ほら、もう行きなさい。試験が終わったからって、ハメを外さないように」

「……はい」


 すたすたすた……


「えっと……ありがとう、ございます?」

「あら、わかるの?」

「それは、まあ。でも、このままでいいんですか? あの子達、お酒を飲むようなところに行くんでしょう?」

「大丈夫よ。1-Cの誰かがついて行きさえしなければ、相手にされない(・・・・・・・)から」


 ……?


「前の周回から判断して、ってことにして。これでも、私も『13回目』だから」

「……わかりました。それじゃ、帰ります」

「ええ。また、明日」


 白鳥先生、これまでも……私がいない周回でも、1-Cのみんなを守るために、こうしてきたのかな。詳しくは聞けないし、聞かない方がいいのだろうけれども。


 トコトコトコ


「……傍から見ればすぐわかることでも、本人はなかなか気づかないものなのね……」

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