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高1を12回ループしたクラスメート達が賢者モードになっている件  作者: 陽乃優一
第二章 彼らと彼女は、何かを楽しんでいた
13/55

12「愉快で楽しい、気さくな人達だから」

 ゴールデンウィークも、残すところ、あと二日。いろいろと充実した連休だったけど、今夜は、そのメインイベントとも言える出来事が待っていた。県庁所在地にあるビルの地下、それなりに広いスペースがある場所に設置された、ライブ会場。


「はー、かったるい……」

「そう言うな、湯沢。プレミアム会員登録は、割と初期の周回からのデフォルトじゃないか」

「知ってるよ。っていうか、柿本ともう何回このやりとりしたっけか」

「えっと、例の試験問題検証の頃からずっとだね。もちろん、柿本が放浪した周回はなかったよ」

「げふっ」

「安藤さん、相変わらず詳しいですね」

「今回も、4月のうちに手帳にまとめたからね」

「あはは……」


 バンドグループ『フォルトゥーナ』のライブ会場。そこに、クラスメートの約半数が繰り出した。目当ては、ライブ後のプレミアム会員登録。秋に大ヒットすることを見越した青田買いである。


「でも、確定がわかってても青田買いって言えるのかな……?」

「お、安積さん、なかなか言い得て妙ですな、青田買い」

「松坂の言う通りだと思うよ。この場合、ループ結果が判断材料になって『先買い』してるんだから」

「かもしれないけど……お父さんが聞いたら『ちがう、そうじゃない』って言いそう」


 実際には聞かせられないけど。何かに例えて聞いてみてもいいのかな、本来の意味の『青田買い』の是非というか。もしかすると、お母さんの方が詳しいかな?


「ん? お父さん?」

「あー、そう言えば菜摘ちゃん、そんな話してたね。白鳥先生を目撃してすっかり忘れてたわ」

「まだライブまで時間がありますし、今ここで少し話し合ってみてもいいのでは?」

「え、ここで?」


 いやまあ、クラスの主要メンバーが揃っているし、湯沢さんみたく議論に参加しない人もいるから、それほど込み入ったことにはならないと思うけど。


「でも、他の参加者の人達に迷惑じゃないかなあ」


 全体として、数十名という規模だろうか。そこに、我がクラスの半数が陣取っているから、割合的にはかなりのものである。それだけでも目立つのに、何やら複雑怪奇な議論を始めてしまったら……。実際、今でも一部の人達が私達をチラチラと見ている。


「あれ? もしかして……」

「……え、なっちゃん!?」

「やっぱり、瑞希(みずき)……!」


 私達を見ていた人々の中に、中学時代の友達がいた。『フォルトゥーナ』の新曲が出るたび私に聞かせていたというのが、この瑞希である。


「みんな、ちょっと待ってて……瑞希!」

「うわあ、本当になっちゃんだ! こんなところで会うなんて!」

「びっくりしたのはこっちだよ。ここからだと、ものすごく遠いじゃない」


 瑞希の家は、私達が通った中学の近くにある。私は、隣の県から引っ越して今の高校に通っているわけで、電車で2時間以上の距離がある。いや、この県庁所在地までなら、もっとかかるはずだ。


「新幹線を使うほどじゃないし、たいしたことないよ。私の『フォルトゥーナ』愛は、そんなの障害にならない!」

「そ、そう」


 まあ、普通電車で移動できる範囲なら、電車代もそれほど高額じゃないだろうし……いや、近隣各地でもライブしているって聞くから、合わせるとかなりの金額になるかも。瑞希が満足なら、それでいいのかもだけど……。


「それで? なっちゃんも愛に目覚めたの?」

「省略しないでよ。その……近場のライブのチケットがコンビニくじでたくさん当たったからって、クラスの友達と一緒に来たんだ」


 間違いではない。全て正しい。


「なにそれ、うらやましい! 私は今回、チケット代も自腹なのに!」

「いや、それ普通」


 チケットの全部が全部、無料配布になってしまったら、バンドの人達もお仕事にならない。『普通のお仕事は、誰かの役に立って、その誰かから対価としてお金をもらう』である。


「まあ、そうだけど。それよりも……」


 瑞希が、クラスメート達をじっと見つめる。


「なっちゃん、あの人達(・・・・)、本当にクラスメートなの?」

「そうだけど……ああうん、そうは見えないかもね」


 瑞希の言いたいことはわかる。今日参加したクラスのみんな、安藤くんも湯沢さんも鳴海さんも柿本くんも松坂くんも……みんな『キマってる』のである。有り体に言えば、芸能人オーラが漂っている。芸能人じゃないけど。


 ただでさえ(12年間ループのせいで)達観したような雰囲気を漂わせていることに加え、およそ1か月でルックスやスタイルに洗練が施され、服装やアクセサリーも、決して高価ではないが厳選されたものを身につけている。それはまるで、


「アレが『リア充集団』というやつかっ!」

「瑞希、口が悪いよ。まあ、みんなカッコいいけど」

「そんなこと言って、なっちゃんだって、ものすごく綺麗になったよ」

「そう?」

「『菜摘さん』って呼ぼうか?」

「ヤメて」


 鳴海さんにはそう呼ばれているけど、彼女はどの女性にもそう呼んでるし。小さい女の子でない限り。


「菜摘ちゃーん、ライブそろそろ始まるよー」

「あ、もうこんな時間。ねえ、ひとりで来たなら、私達と一緒に参加しない?」

「えー……なんか私、場違い感ハンパないんだけど」


 ああ、ウチの学校の他の生徒と同じこと言ってる。でも、今回くらいしか一緒にいられないんだし……。


「そんなことないよ、行こう!」

「あっ……」


 瑞希にも、みんなのいいところ知ってもらいたいしね。愉快で楽しい、気さくな人達なんだから!

短いですが、ここまでを第二章とし、登場人物まとめの後に第三章となります。

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