09「なんか、災害時の救助活動みたいだね」
※後付ですが、01~06を第一章とし、登場人物まとめを挿入しています。この話は第二章の3話目となります。
「うん、毎日楽しいよ。明日もクラスメートと遊びに行くんだ」
『そうか。すまんな、僕たちが帰れるのはまだ当分先になりそうだ』
「他の国にゴールデンウィークはないもんね。お母さんは?」
『今日も夜中まで大使館で会議だそうだ。なかなか大変のようだ』
「……体、壊さなければいいけど」
『そこは大丈夫だと思うけどね。なにしろ、あのお母さんだから』
「うう、なんか否定できない……」
IP電話で、ドバイに住むお父さんと話をする。急に転勤になったお母さんについていった形だけど、ふたりとも問題なさそうだ。
『それにしても、入学前は毎日のようにかけてきたのに、今は数日に一回のペースになったな。よっぽど仲がいい友達ができたようだ』
「うん、まあ」
『……その友達、お、男の子か?』
「え? クラスメートみんなと仲良くなったから、男の子もいるといえばいるけど」
『そ、そうか……』
あれ、これってもしかして。
「お父さん、別に私、誰かとお付き合いを始めたとか、そういうわけじゃないよ?」
『そ、そうか! いや、カメラ越しだが、前と比べてだいぶ、その……綺麗になったな、と』
「そう? ありがと」
まだ1か月も経ってないけど、美容対策がもう目に見える形になったのかな? でも、このカメラ写りだと、スタイルとかはわからないよね。……普通に、成長してるのかな。
あ、対策といえば。
「ねえ、お父さん。デイトレのことで、ちょっと訊いていい?」
『なんだい?』
「お父さんが取引する時って、毎日の社会情勢の変化から判断して取引するの? それとも、他の判断材料もあるの?」
『なんだ、ずいぶん専門的な質問だな。……そうだな、報道や噂話も逐次チェックはしているが、それだけではないね。株なら、会社の方針や見通し。通貨なら、国家の法体系や政策。いろいろだね』
「つまり、ミクロ的なことだけでなくマクロ的なことも併せて考えるってこと?」
『端的にはそうだ。もっとも、それで必ず儲けが出るとは限らないのだけれど』
「え? でも、お父さんはそれでお金稼いでいるんだよね?」
はっきり言って、お父さんは相当稼いでいる。社会人とは到底言えない私から見れば、まるで錬金術じゃないかってほどに。
『そこの説明が難しいんだが……。簡単に言えば、デイトレを行うことと、儲けが出ることは、実は関係がないんだ』
「……え?」
『普通のお仕事は、誰かの役に立って、その誰かから対価としてお金をもらう、というのが基本だよね』
「そうだね」
『でも、お父さんの仕事は、直接誰かの役に立っているとは言えない。強いて言えば、社会全体のお金の流れをスムーズにする一端を担っている。でも、それが僕自身にどれだけの儲けとなるかは誰にもわからない』
「なんか、災害時の救助活動みたいだね。不謹慎だけど」
『ああ、言い得て妙だね。不謹慎だけど』
予測が難しいことを扱うお仕事を参考にして、ループ脱出の糸口をつかむことができればなあと思ったんだけど、予測不能なことはいつまでも予測不能であるようだ。実際に起きてしまえば、確定した過去の出来事なんだけれども。
「ありがとう、お父さん。ちょっと政経科目で出てきたことだったから」
『そうか。菜摘がデイトレに興味を持ったようなら止めていたところだった』
「あはは、さすがにそれはないよ」
もっと複雑怪奇なことだけど。
※誤字報告ありがとうございました(短編の方も直しました)。報告していただいた方に直接返信する機能がないので、ここでお礼を。




