TS幼女は物思いに耽る
“TS幼女は~”シリーズです。
今回は全体的に大人しめ。少ししっとりしています。
今は3月。も、終わりそうな頃。新年度が始まりそう、と言うことでチョイとおセンチになりたいのです。おセンチで心がジメジメしているから、気分をそれに合わせて、ちょっと変わり種着ぐるみパジャマのてるてる坊主タイプ。
なんでこんな着ぐるみパジャマが有ったんだろうか。そして持っていたのだろうか。アホ毛もつられて、なんだかカビてる気がする。
おセンチと言えば、例の冒険者ギルド本部のお偉方に被害を受けた訳だが、事態は少し進んだ。
連中の懲罰だが、謹慎と減給で終わっていたのだ。しかし今のご時世はネット社会。
どこのダンジョンでドロップしたのか証拠映像がありながら、それを持ち込んだ者に失礼な対応をし、更にはドロップ品の買取りを不当に安く買い叩こうとした上、買取り金に色を付けてほしければ……ぐふふぐへへ~と幼女に脅しをかけた映像がネットに出回っている。
そんな映像があるのに、なぜお縄にならないのか?それでテレビもネットもドッタンバッタン大騒ぎ。近々会見が行われる予定らしい。
今もギルド本部の偉いのが、本拠地ダンジョン近くの役所の人を俺の所に毎日伝言を受けて「話し合おう」とかいつも言ってくるが「元々の依頼さえウヤムヤでブッチされて、信用できない所とは何も話さん」といつも同じ返しで追い払う。
……ああ、役所の方とは、仕事の事で愚痴り合う位の仲だよ?
あくまでも嫌いなのはアイツ等。役所の方はお疲れ様です。アイツ等が解雇とかされれば楽になるから、もう少しの我慢だ。
おセンチなら、もうひとつあったな。
ホワイトデーイベント。
バレンタインイベントと、お菓子配布の様子はあまり変わらないから割愛。ただ支所ダンジョンにあるふれあい動物園に、子供連れで来た客にプレゼントとか有っても良いんじゃないか?って意見は検討する。
ちなみに非イベント時では過剰な数のドッペルゲンガーやリビングドールだが必要数以外は、ほぼ自由にやらせている。俺専用エリアを含めて食べ物を用意して、料理大会したりBBQでウェーイしたり、ふれあい動物園でモフったり、単純に集まって喋ってたり、なにやら生産作業を黙々としてたり。
俺を真似た姿で、てきとーにワチャワチャしてる。時たま戦闘訓練の手解きをお願いされたりするのは、ちょっと嬉しかったり。
……福利厚生のひとつで大きい風呂場を作ったのは良かったが、せっかく作ったのだし俺も~って入ろうとしたら、俺が大量に居た光景は気が遠くなった(白目)
ああ、リビングドールには水属性耐性も持たせているから、風呂は問題ない。
って、そっちの話題じゃねーや。
イベントのもうひとつの方。期間限定のカップルばかり狙う、爆発する魔物。
爆発の威力は軽く突き飛ばす程度で、攻撃を受けた相手は煤けて汚れる。
独り身からはその様子を見て「よくやった!」と喜びの声を貰う。
そしてカップルの方からも、声が小さいながらも同じ声を頂いた。
――――なぜか?
汚れた事を口実に“ご休憩やご宿泊”へと誘うのだ。奴等は。……ぐぬぅ、しか出てこねえ。
ええい、爆発しろ! 末永く爆発してしまえ!
…………とおセンチになりながら何となく俺が管理してるダンジョンを、ダンマスルームで眺めていた時だ。
「あの人、ロクにご利益の無さそうな神社エリアで時々見かけるな」
そう、こうやってダンジョンを眺めていると、時々神社で一生懸命に拝んでいるのだ。
後ろ姿だけだが、見た目は暗色をメインにした、全体的に黒い印象の女性。ウェーブのかかった黒髪ロング。
〈ほぼ週一。恐らく仕事が休みの日に、お昼頃参拝に訪れる常連です〉
「へぇ。熱心に参拝なんて、今時珍しい」
何か願い事でもあるのか?
〈すごいですよ、彼女。来る度にブツブツ言っていますが、大抵が仕事の愚痴です〉
「うわ……って、俺が思った事をなんでタマちゃんは分かったんだ?」
〈参拝者に対して、気になるのは普通はそこら辺でしょう。しかもマスターが疑問に思ったのは、アホ毛で分かりますし〉
ばれてら。つーかアホ毛この野郎。“?”になってやがったな?
〈この間の愚痴は、桜の花見で良い場所を取れなかった責任を、彼女に擦り付けられた事を長々と……〉
「あー、ここをロバの耳の穴みたいに使っているのか」
ほとんど誰も来ないからな。別エリアには音は飛ばないし。ダンマスやタマちゃんには筒抜けだが、それだけだ。本当に聞かれてたら困る話以外なら、ここはうってつけ。
〈ベンチも境内の隅に設置してありますし、だれかとお喋りするだけならベストなポイントです〉
ついさっきも言ったが、ダンマスとタマちゃん以外には、誰にも聞こえないからな。……っと、待てよ?
「この神社エリアだけどさ、この季節だから植わってる木に桜を交ぜるのも良いかもしれない」
〈さっきの女性の愚痴に乗っかりますか?〉
「そ。この辺は3月末までに桜の見頃が終わるからさ。もう大体散ってるし、少し遅れた今からとか」
〈やってみても面白いと思いますよ〉
「おう、ならば早速桜を交ぜる」
女性にサプライズ。風に舞う桜の花びらに女性が気付き、髪を押さえながら周りを見回すと、そこには立派な桜の木がそこかしこに。木自体は神社の板塀の(すぐ)向こうで直接は触れないが、眺めるなら十分な近さである。
それでここを報告して花見のリベンジするもよし、黙って独り占めも良し。
しかし、参拝客はこの人だけじゃない。絶対に知れ渡って、その内宴会を始めるのが出てくる。静かなのは今限定だ。
翌日再びあの女性が夕方にやって来て、静かに、ニコニコしながら幸せそうにしばらく眺めてから帰っていった。
更に翌日。
早かった。知れ渡るのが早かった。
奴等は来た。すごい連中だ。そんなに酒を呑む口実が欲しいのか?騒ぐ口実が欲しいのか?どんなセンサーを持っているんだ、酒呑み族。昼頃になると桜の周りが大体埋まっていた。
すべて持ち込み、食べて呑んで歌って騒ぐ。ゴミはその辺の隅に置いて放置。ヤンチャな人達が境内の真ん中にポンポン捨てていくと、そこがまるでゴミ捨て場みたいに認識され、ドンドンゴミが山になっていく。
救いは各グループが喧嘩せずにそれぞれ楽しんでいる所と、ゴミを持ち帰る良識のあるグループもあることだった。
そのまま時が過ぎ、夕方になると今回も例の女性が来る。
「…………!?」
階段を登りきった所で少し硬直し、きびすを返して降りていった。
「……そうなるよな」
〈なりますね。昨日静かに桜を楽しんでいた人が、こんな賑やかな場所に近寄らないでしょう〉
「対策とか出せるか?」
〈何の対策ですか?騒ぐな?お酒が入っている相手にそれは無理です。ゴミは持ち帰れ?今日持ち帰ったのは一部で、ダンジョンに吸収させて消せる事を知っている皆様が、従うとは思えません〉
「魔物を配置して、迷惑や違反者を追い出す」
〈露骨に監視されながらと言うものは、純粋に花見を楽しめないと思います〉
うむぅ……どれもこれも駄目。頭がゴチャゴチャする。チラリと見えた卓上鏡には、アホ毛がぐるぐるゴチャゴチャ動き回っている姿が…………ちょっと気持ち悪い。考えるのがイヤになってきた。
「もう良いや。明日花見の最終日と告知して、その後戻す。最終日となれば、オイタするのも出てくるだろうから、お巡りさん達にも連絡を入れないとな」
〈突発で面白そうとやってみましたが、今回は失敗でしたね〉
「仕方ないさ、こんな時もある」
まだまだ静かな花見をする猶予がある、と思い込んでいた。
〈しかしこのまま終わりと言うのもなんだか寂しいので、マスター専用エリアに花見の場所を追加して、内々だけで静かに楽しみますか?〉
「スキルや魔法をひと通りドッペル達に教えたせいか、連中ならこっそり酒を自作して呑んで騒ぐと思うぞ。作ったら法律的にマズいってのに」
〈……やりかねませんね、何人かはここで花見の様子を見てましたから〉
「だから駄目」
〈分かりました〉
花見終了後
「やっぱり花見の継続を求める声は凄いな」
〈桜が一年中咲いて散り続けますから、ずっと見頃。お酒も呑み頃。宴会場に持ってこいですから〉
「……前に否定したが、1日だけ限定で俺専用エリアで花見を、家族だけ呼んでしっとりやるのを考えたくはある」
〈ドッペル達に乱入されて、メチャクチャにされそうです〉
「いや。なんか母親か妹が、ドッペル連れ去り事案を起こしそうな、変な予感が今したな」
〈直感スキルですか?〉
「それと、第六感と未来予知スキルで」
〈もはや確定じゃないですか〉
「……こっそり花見はやっぱり中止」
〈でしたら、4月のイベントを考えますか〉
「4月は何かあったか?」
〈入学式や入社式。花見のシーズン……はやりましたから、エイプリルフールやイースターでしょうか〉
「イースターはパス。俺がなにすれば良いのか分からん。エイプリルフールは午前中だけとかなんとかで、ルールがあってネタにしにくい」
〈でしたら入学式辺りにあやかりますか?〉
「……ランドセルを背負わせた魔物とか、ダボダボの制服っぽいのを着せた魔物?ドロップ品は学校関係のアイテム?」
〈なんと言うか、とても……〉
「倫理上駄目な気がするな。しかもそれらを攻撃なんて、どうしても悪いイメージが付きそうでやりたくない」
〈では、イベントは無しですか?〉
「そう言う訳にもいかないだろう」
神からのメッセージカードヒラヒラ。
『春と言えば萌える草木。そう、萌やせば良いんじゃないかな?』
「やはり新年度応援、スタートダッシュ支援イベントを」
ヒラヒラ。
『ああ……ママ幼女はそうやって他の人間を優しく応援する姿が素晴らしい。だから、それにふさわしい衣装をですね?』
「新入生や新社会人は新しい環境でストレスが酷いだろう。だからダンジョンで暴れてスッキリしてもらえれば」
ヒラヒラ~。
『ストレスをスッキリ。ママ、お願いがあります』
〈新入生や新社会人だと証明があれば、初心者向けダンジョンなら十分戦える武具の貸与をする事も考えましょうか〉
「個人的にはバフアクセかな。規定レベルまで、普通より強い効果のバフがかかるとか。そのレベルを越えると、ただの装飾品になる奴」
〈どこかの店や転売者に流されても、買った方が損する程大量に用意できればアリですね〉
「そもそも、冒険者登録が出来るのはいつからだったかな?」
〈最低限でも責任がとれるようになる年齢を考慮して、中卒以降だったはずです〉
ひ~らひら。
『ママ、無視は寂しいよ』
パッチーン!!
「真面目な話しなんだから、邪魔してんじゃねえっ!!」