ファミネイの色恋事情 その1
食堂では大概、何名かのファミネイがおしゃべりをしている。
そして、時間が来ると入れ替わる。
だが、入れ替わった後でも話されている内容はあまり代わり映えしない。それほど、この基地内は話題に事欠く狭い世界である。
そんな中で今一番の話題は当然、アキラの存在である。
新たに配属となった人物でも十分な話題なのに、ファミネイとは違う人類の人間。しかも、完全な異性である、男性だ。
1つ、1つの話題だけでも十分なのに、それが多くの話題を秘めた存在。ここの少女達にはそうそう無い出来事である。
実際、食堂では新たな話題作りと売れ上げに期待されて提供しようとした、会心のスイーツの売り上げが効果が出ないほど。
その効果がようやく出るのは1ヶ月過ぎた頃だが。
さて、そんな会話の内容を1組のグループを例に聞いてみよう。
「あの子はかわいいわよね」
そんな出だしから会話を始める。彼女達は非番の部隊のファミネイ。
いつ現れるか分からないバカピックを相手にしていると、昼も夜も関係はない。故に部隊は交代制で常に臨戦態勢が取れる様に入れ替えている。
そんな非番の少女達は暇を持て余して、食堂へお茶とお菓子でも楽しもうと集まった6名のグループ。
「確かにかわいいわね。しかし、あの子は貴方の服でも似合いそうね」
そういった者の視線は始めに会話を始めた子に向けられている。
その子は少女らしい服を着ている。確かに中性の顔立ちのアキラなら、そんな服でも似合うかも知れない。
彼女にはまだ実績のない彼には、そんな目で見ていた。今後、アキラも経験を積めばそんな考えも大きく変わるだろう、たぶん。
「それはそれで楽しいわね。でも、あの凜々しさがいいのよ。背伸びした感じとか」
そう語る彼女は先ほどの一転の考え。貴重な異性としてのタイプが好みのようだ。
「まったく、それの何が楽しいかしら」
そんな会話に馴染めないながらも、話に入ってくる子も。
今も自身のみに映し出されたデバイスから映像を眺めながら、会話に参加している。
「あんたはコミックの方が好きな事は知っているのだから、聞いてないわよ」
実際に映し出された映像は昔のコミック。その物語の中で恋をするのが、この彼女の楽しみだ。
「まあ、好きとかどうかと聞かれれば、ハヤミ司令も捨てがたいわね」
と、話題を変化球にして返す子も1人。それまで唯一の異性であるハヤミもそういった対象の1人ではある。
「あれはきりりとしていれば、いいんだけど。無精ひげ、よれた服、あのなりではね」
「まあ、それはね……」
司令相手に『あれ』呼ばわりではあるが、どうであれ、それら含めて同感される風貌。ハヤミ司令の話題を出した子もそれには苦笑いで同意するしかなかった。
「ともあれ、今後どうなるのかしらね。あの子は」
「まあ、成長が楽しみね」
「私はどうでもいいわ」
「うーん、当面先にしてもハヤミ司令の代わりになるのかしら」
「そこまで、立派になればいいけどね」
ただ、この場でまだ一言も発していない子がいる。その子はただ、ここに来た目的を果たしているため、しゃべる機会を失っていた。
そう、おしゃべりの前に用意された、お茶とお菓子に夢中だから。口は食べるために忙しく、しゃべっている暇はもったいなかった。
その様子に話題をつまみに会話していた方も、次第に興味が移っていく。
「おしゃべりもいいけど、こうも用意したのだから本来の目的も楽しまないといけないわね」
それとは別に彼女に興味が引きそうなモノが目に見えた。
「あれは……」
食事に来た、カレンらがいる第1部隊だ。むしろ、彼女にはアキラの部下である、カレン、ルリカ、レモアがネタに尽きた会話と目の前のお菓子の次に興味を引いた。
「あの子らが部下なのね」
もう、先ほどの話題はこのグループでは飽きられたのは共通であり、用意しているお茶やお菓子にようやく手を付け始めている。
「せっかくだから、私も直属の部下になりたいわね」
彼女は心から沸いてくる楽しみがあふれ出して体でも感じるほどに、心も体もその事だけに支配された。
「私はどうでもいいけど」
別の者達にとっては、そこまで興味が引く事ではなかったらしい。
「ちょっと、話してくる」
彼女そう言って、走り出す。
「やめときなさいよ」
「まあ、いいじゃない」
と、まあ周りもそれほど気にしていない。むしろ、面白い事になったと心の中で喜んでいる程度だ。