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-look up at the sky- PART 4 回顧と眠り

 PART 4 回顧と眠り


 人類の敵、バカピックとの戦いに絶対の勝利はない。安全な戦いはない。


 それは長き時間をかけても変わらなかったこと。それでも死人が出ない戦いは作り出した。


 どんな手を使っても勝たなければいけない。


 それが人類の生き残る道といえるかは知らないが。



 男の名はハヤミ。


 かっての英雄などという者もいるが、今では、それは伝説を超えて形骸と化した物語。


 もっとも、今を生きる人類とは別物と化した<旧人類(オリジナル)>る。それが今の肩書きとでもいうべきモノである。


 しかし、ハヤミにとってはそんな過去も現在も存在しない。すべては今も昔もバカピックとの戦いに費やし、今日を生きるだけ。


 そのことはいずれ語られるかもしれないが、それは少なくとも今ではないので、しばらくは時が過ぎるのを待つ必要がある。


 ゆえに、ハヤミは過去がないものとして、それを語らない。逆にそのことで過去に捕らわれ、生きている。未だ、死ぬこともなく、亡霊の如く、この世に漂っているのであった。


 ハヤミとはそんな男である。


 1つ、過去を語るとしたら、人類から死者を出さないためにファミネイの運用とその戦術を作り上げたのは彼、ハヤミである。


 そのことが意味するモノを考えれば、彼の過去とはいかなるモノかは少しは理解できるであろう。


 * * *


 ゴーレムの爆発をもって戦闘は終了としたが、そのバカピックの残骸を片付ける中、ハヤミは未だ地上に留まっていた。


 アキラはカレンらとともに基地内に戻している。


 ただ、うれしくもない戦闘の余韻を味わうようにハヤミは夕闇の地上に立ち尽くしている。


 そんなことを知ってか、秘書であるシノも地上へと上がりハヤミに話しかける。


「今日も危険でしたね」


 シノはハヤミとはこの基地の中では一番長い付き合いである。また、秘書にすることからもこの基地のこともよく知っている。


 ハヤミにとって最も気の許せるファミネイである。それは親しき間柄、いや戦友ともいえる仲である。


「むしろ、今までの中で一番やばかったのかもしれない。しかし、そうは感じなかったがな」


 ハヤミはそう語る。戦果や被害を考えれば、単純な小競り合いだった。だが、バカピックの真意は不明にしろ、もし、その思い通りの結末ならこの基地はなくなっていたかもしれない。


 死んだフリという、古典にもならないやり方ではあるが。ただ、戦術とすれば、古代にも語られるトロイの木馬になるのだろうか。


「まったく、彼ら基準では確かにそうかもしれませんが、その感情は麻痺しているのでは。現状は危険で危機ですよ、しっかりしてください」


 シノはバカピックを彼らと上品に言う。むしろ、バカピックなどと皮肉る呼称が間違っているとシノは考えている。


 それは馬鹿みたいな結末だけでなく、効果的に攻めてくる彼らの危険を正しく判断するのには彼らの軽蔑に満ちた呼称から改めないと判断を誤る元との思いからだ。


 今回も基地崩壊の危機を未然に防いだとすれば、かなり見方が違ってくる。


 情報とは正しくあるべき、ファミネイにしては珍しい考え方であるが、それは長年生きた経験から来るものである。


 そして、それはハヤミの行動に対しても苦言を述べる。


「それと、なぜ何も言わずあの命令を出したのですか。何と言うか、自殺行為に近い命令を。アキラ殿にいったことと矛盾するのでは」


 それは『壊せ』との命令のことだ。


 バカピックの死んだフリに対して確証がなかったとはいえ、可能性もあったのにただ、『壊せ』の命令では爆発に巻き込まれるリスクを十分に考えられた。


 それはファミネイの無駄死に繋がること。


 むしろ、アキラの『撃破』が正しい命令の在り方であった。


 ただ、ハヤミ自身はあの時、特別なことは思っていなかった。


「おかしいんだよ。分かるだろ、シノ」


「司令のことでしたら、それは元からですよ」


 ハヤミは笑った、シノの冗談に。しかし、言った方のシノは至って冷静であった。冗談などとは思っていないからだ。


 そんなことは関係なく、ハヤミは話を続けた。


「ここに来て、奴らがタキオンエンジンを賭け金にすると思うか。今まではそんなことはなかった。だから、自分もそれに乗るしかなかった」


 ハヤミの横を、あのゴーレムの残骸が通る。


 結論から言えば、ハヤミもまたバカピックに合わせた判断をしたことだ。


「ですから、『壊せ』ですか。死んだフリに対する確認のために」


「そうだ。それに奴らは我らの言葉を理解はしているはずだ」


 バカピックからの交流はないが、奴らの動向からはこちらの言語、文化も多少なりとも理解した行動を取っている。


「こちらも多少の演技で、奴らの手に乗るのも大事であった。それには正直に語っては演技以前にバレてしまう」


「その演技、演出は新人であるアキラ殿には読み取れる程度にお粗末であった、と」


 シノはハヤミに皮肉を言う。司令であるのに、シノはこんなことも許される間柄である。むしろ、他のファミネイからも大概こんな関係で成り立っているのではあるが。


「それなら、余計に初めから『撃破』の命令でも良かったのではないですか。もっとも、相手のお馬鹿に付き合っただけというお答えではこれ以上、何を言っても無駄でしょうけど」


「まあ、弁解にならないが結果がどうであれ、プラスでもマイナスでも奴の経験になることも考えれば安いものだと思っていた」


 プラスとは意図を読み取ること、マイナスとこちらの犠牲のこと。そのどちらでもアキラにはプラスになるとも、ハヤミはそう考えたいた点もあった。


 マイナスだった場合は酷なことになるが、ただ、ここでは日常茶飯事である。バカピックの戦いによって、犠牲が出ることは当たり前に起こること。戦いなのだから。


 だから、それをアキラに隠してきれい事だけで運用できないことは、いつかは体験しなくてはいけないことである。それはたまたま今日でなかっただけで、明日にでも起こる事なだから。


「アキラ殿には初日から大変なことですね」


「それが、これからの日々だがな」


 こちらも酷な話ではあるが、事実でもある以上避けられないのだが。


「ともあれ、今回のようにバカピックどもが必死な所を見ると、勝利の確定を意味しているのだろうか。もう戦いを始めて何年になるかな。この戦いもそろそろ終わりしたい」


「バーピックには、そんなことを考えているか分かりませんが、この基地を破壊するという意思とそれを実現できる力がある以上、勝利が見えているなど到底見えていないと思いますが」


「それもそうだが、シノ君。バカピックの親玉は遠い宇宙で我々のことを見ているのだよ。そんな、とても知能的な奴らがこの進展のない事態を危機と感じないはずがない」


 ハヤミはふざけながら、どこか期待する想いを語っていた。


 先ほどまで一転した台詞だ。それでも、今は飄々と語る口調はただ、冗談を言っているだけだ。


 それでもバカピック全体を作戦命令しているさらに知能的なバカピックがこの宇宙の何処かにいると考えられている。この点は事実とはいえる。


 それにこの会話はシノだけに向けられたもの。これは弱音なのだと、シノは分かっていた。


「そうだといいですが。とにかく、現状だけは正しく判断してください」


「分かっている。分かっている」


 そう、ハヤミは無気力に返事をする。分かっている勝ち目のなく、いつ終わるか分からない戦いだということは自分が誰よりも一番知っていることだから。


 いっそ、圧倒的な戦力で攻められれば、負けることに対して納得する部分もあるが、バカピックは馬鹿げた行動で侵略を行う。


 1度や2度では怒りも覚えるが、たくさんになると考えるのも馬鹿らしくなる。


 とにかく今を生きるためには、その場、その場での勝ちを得るしかない。


「まだ生きているんだな。こんなに訳の分からないこと、言ってるのだからな」


 ハヤミは笑っている。それは冗談からではなく、ただ微笑みに近いモノが。


 シノはハヤミのそんな言葉に安心した。確かにハヤミは変ではあるが、それが一種の魅力みたいなモノに見えて安心した。


「そうですよ。生きているのですよ、我々は」


 シノは力強く同意をしてみせる。


「ああ、そうだな」


「だから、生きるのです、我々は」


 彼らの周りには静かな平和が流れていた。しかし、永久の平和など、この世界には存在しない。だが、ハヤミは意義のある平和は今のようなことだと思っていた。


 ハヤミはじっと、それを肌で感じていた。


「そろそろ、日が完全に落ちます。そろそろ、戻りましょうか」


 地上で片付けをする者達も慌ただしくしている。日が落ちると作業効率が落ちるから。あと、そうなると面倒くさいから。


 ハヤミはこういった光景を見るのが好きであった。


 それは、無事に事を終えたと簡単に認識できるから。単純ながら実に奥深い意味がある。


「せっかくだから、アキラにもこの後の夜空を見せてやればよかったな」


「これから、いくらでも機会はありますよ」


 ハヤミはふと思った。自分は何も悲観的な思いだけ、ここまでやってきたわけでないことを。


 こうして、何げないことに喜びを感じているのだから。そして、少女達は楽しいことが好きである。それがこの感傷にエッセンスとして、香り付けしてくれる。


 それにアキラがこの先をやっていけるかはまだまだ分からないが、それでもまだ先という明日がある。


「そうだな。それにいずれは直に見られれば、なお良いのだが」


 直にとは宇宙空間を肌でも、目で見ることを意味して発言していた。それは空の奪還を意味している。


 それがハヤミの今の願い、目標となった。


 * * *


 カレン達は眠りについている。戦闘から解放され、任務も終わり、ようやく自室のベットへと潜り込んだのだ。


 地下にある基地は日の光が入らない場所ではあるが、それが少女達の自然なのだ。


 少女達もまた地下に生きる者達。


 次に備えて、3人はベットで眠っているのであった。


 * * *


 アキラは与えられた部屋で、想いをふけっている内に睡魔に襲われ、撃沈をしていた。


 仕方がない。


 今日1日の出来事は言葉通りでも、たとえでも、すべてを変えるほどの体験であったのだから。そして、未知の体験に疲れがないはずがない。


 だから、今は眠りについている。


 * * *


 ハヤミもまた、いつ起こされるかは分からないが眠りに就こうとしていた。


 それでも基地は眠らない。ここは人類を守る砦、昼であろうとも夜であろうとも、攻めてくる敵がいれば、それから守る場所なのだから。


 ただ、その時まではしばし眠りにつく。


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