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-look up at the sky- PART 2 初陣

 PART 2 初陣


 人類の敵、その俗称は『バカピック』と呼ばれている。


 正式には「いかれた愉快な奴(知性体?)」を意味する言葉から来ているというが、今は使われない言語と、そこからくる言葉遊びでさらにおかしくなって、呼び始めたのがバカピックだといわれている。


 多少、その呼称に問題がある場合は『バーピック』とも呼ぶ場合もあるが。


 だが、その俗称を示すように、特徴はふざけたデザイン。いくつかの種類はあるモノのほとんどは子供の落書きのように馬鹿げた半円だけの目と口が顔としてデザインされている。


 その行動も壊れているのか愉快であり、昔のピエロを思わせる。


 しかし、その中身、構造に関してそんな幼稚さを感じさせない高い技術力で作られた機械である。その技術は解明できない部分もあり、実際は機械とも実際は生物ではないかとも分からないほどで、技術者はさじを投げる続けた代物。


 ただ、一番の問題は機械でありながら、知的体であるのにも関わらず、言語的な交流は一切なく、戦闘による殲滅以外に解決方法がないこと。


 そのため、未だその目的は明確ではない。もはや、何世代と戦っている相手であるというのに。


  * * *


「さて、状況を」


 ハヤミは司令室に着くなり早速、そう聞く。その後にアキラが入ってくる。


 アキラの存在に司令室内の少女達が、どよめきを起こすことを分かっているハヤミはさらに言葉を付け足す。


「後で、時間をくれてやる。今は状況を」


 いくらか残念や不満を漏らす声が聞こえるが、それでも少女達は仕事へと意識を戻していく。


「敵はゴーレム、1機。ワイバーン、2機です」


 『ゴーレム』は典型的なバカピックである。構造は球体に蛇腹で繋がった両手だけで構成されている。


 そして、球体には顔といえる特徴的な釣り上がった半円だけで演出された怒り目と、サメの口を模したシャークマウスのようなモノが付けられているのだが、実際の目、口に相当するのか不明。たまにこれらが動くから、単なる模様でないのはハッキリしている。


 そんな誰でも書けるデザインである。


 球体の直径だけでも5メートルを超える図体。防御力にも優れ戦力としては盾の位置づけで戦闘を仕掛けてくる。その攻撃方法はその両手からよく分からないエネルギー弾を撃ち出し、後は単純にパンチである。


 次に『ワイバーン』。もっとも、『鳥さん』の俗称で呼ばれることが多い。


 その姿は鳥にも似ているが首は長く、本来の名称であるワイバーンと呼ばれる怪物と形状的には一致している。


 こちらも顔は釣り上がった半円の目で恐ろしい架空の生物よりも、やはり、愛嬌とふざけた『鳥さん』の俗称の方が似合っている。


 細い姿だが、その全長は10メートル超え。その姿通り、スピードに優れ、戦闘機のような運用が主体である。こちらも口からエネルギー弾を撃つことができる。


 今回のようにゴーレムとワイバーンが対で戦闘にやってくることがほとんど。それでも、ここまで少数で来ることはまれで、もうすこし多めな数で攻めにくる。


「やけに少ないな。それで速度は」


「通常よりもゆっくり進行してますが、それでも増援の気配は見えません」


 バカピックは原理不明のワープによって現れるため、神出鬼没。それでも、ある程度は出現の余波を観測機器で拾うことはできる。


「……裏があると考えるべきか」


 そして、言語による交流を持たないのか、持ってこないが、それでも知的体であることは明確で、戦闘に置いても一筋縄ではいかない。


 ゆえにこの場面は裏、罠、何かしらあるとして望まないといけないことはハヤミの経験上、理解した奴らの習性である。


「部隊はすぐ出せるか」


「はい、先ほど部隊長から全員そろっていると連絡がありました」


 ハヤミは後ろで様子を見ている、アキラの姿を見た。いろいろな感情や思考が頭の中を巡っているのが、よく分かる表情をしている。


「まあ、取りあえず気楽に様子を見ていろ」


 そう、アキラに話しかけると、再び正面を見て、今度は周囲を相手に話し始める。


「では、ブリーフィングに移る」


  * * *


 警報からすぐに、待機をしていた部隊は格納庫に集まっていた。


 部隊を指揮するヴィヴィも元より格納庫でいろいろと作業をしていたので、急ぐ必要はなかった。


「まったく、新任の新人君が来た早々に攻めてくるとは、何か持っているのかしら。それとも奴らにはカンでもあるのかしら」


 そう漏らしながら、集まってくる少女達を眺めていた。


 集まってくる少女達は様々な服装をしている。フライトジャケット、レーザーコートを基本に、中にはTシャツだけなど様々だが、皆、下に着ているインナーは同じモノであった。


 全身を包む純白のボディスーツとうなじにあるコア、これが少女達の戦闘服である。


 少女達、ファミネイの仕事は敵である、バカピックからの防衛、撃破。


 もっとも、ファミネイ自体の仕事は人類の補助として作られた人工生命体。その仕事は人類とともにあるため、これも少女達の仕事の1つといった方が正しい。


「面倒とはいえ、私達も新人君に早速、会えるわけだし、少しは役得としておきますか」


「いえ、ここの何人かは顔を見てるらしいですよ」


 そう、別のファミネイがそう答える。


 ファミネイの性格は少女とほぼ同じで、古い詩を引用すれば『お砂糖とスパイスと素敵なモノをいっぱい』そのものである。


 基本的に自由な性格ゆえに、軍隊のような規律に縛る体は取れず、かなり緩い規則で何とか組織を形成している。


 実際に噂頼りに一目早くアキラを見に、野次馬にいくように。


「ところでうちの新人3名は遅れていますが、どうしますか」


「ああ、彼女らはちゃんとした挨拶にいっているからね」


 このヴィヴィにしても楽観的で、指揮権があるとはいえ、その性格は他の者と大きくは変わらない。


「おいおい、来るでしょう」


 そうこうしている内にカレンとルリカは駆け足でやってくるが、レモアに関しては遅れていても歩きながらやってくる。


「ほら、来た」


 ヴィヴィはレモアの態度に対して、一切触れない。そのこと自体が特に問題ないからだ。


 少女達に優先されるのは、結局は楽しいことなのだ。 


「貴方達も大変ね」


 ヴィヴィはそう声をかける。カレンもルリカも駆け足で来てはいるが、息は上げていない。大した距離ではなかったにしても、それは訓練と生まれ持った体力があるからだ。


 レモアの方は逆に座り込んで、準備万端といった顔で待機をしている。


「まだ司令からも連絡はないし、ひとまずは待っていましょう」


『聞こえるか』


 司令であるハヤミの声が四方から聞こえてきた。


「あら、残念……司令のお出ましよ」


 ヴィヴィは小声でつぶやき、司令からの通信を手と腕の動きで回りに伝える。


 格納庫の宙に映像が映し出される。それは司令室のハヤミの姿であった。


 また、その映像自体は各員のデバイスでも確認できた。その映像を各自、自由なスタイルで眺めている。座り込む者、その場の物を椅子代わりにする者、壁を背もたれとする者、中には寝転がる者などなど。


『現在、バカピックの進行が確認されている。状況はゴーレム1機、ワイバーン2機。援軍の様子は今のところ、観測されない。進行方向から、この基地を目指しているモノとされる』


 映像はハヤミだけでなく、その進行方向がマップでも示されている。


『現時点では、この敵戦力を1部隊で基地にて迎撃対応する』


 その内容を淡々と聞く。少女達にとって、ここでの当たり前のこと。


 だが、それを聞くスタイルは自然体過ぎる姿であり、いささか危機感のなさを感じてしまう。もっとも、この程度のことでは危険ではないのだが。


『ここまで質問は』


 ヴィヴィは手を上げて、発言をする。


「おそらく、奴らは偵察に来ただけでしょうね。援軍が来る可能性は低いと思います」


『その根拠は』


「カンよ」


 ヴィヴィはあっさりと言い切った。そして、誰も語らず、しばしの間が空いたため、補足の言葉を繋いだ。


「ただ、気になるのよ。ここ最近の戦果で私達に大きな被害は出ていない。それなら偵察の意味はあまり意味がないわ。それは奴らも共通して知り得ているかは、別にしてだけど」


 つまり、知り得ている状況が変わらないのに偵察をする意味はない。


「それでも、少数で来たのなら、それは偵察と考えても問題ないのでは。威力偵察とでもいうのかしら、恐らくは今回ではなく、次回のための布石として」


『その意見には同意だが、それと断定して望むことはいささか危険だ。ひとまず、数の優位でも1部隊で対応し、不測の事態にも備える』


「まあ、それ自体は賛成です」


『各々、疑惑はあるだろうが、今は敵の撃破が優先だ。この議論はここまでとする。それ以外の質問は』


 少女達は、黙っている。


 特に質問も、それ以上の興味もないからただ、黙っていた。


『では、今回の戦闘は第1部隊が対応とする。第2部隊は格納庫で武装を展開した上で待機とする。準備完了次第、第1部隊は地上へと配置。その後は射程圏内に入り次第、バカピックの迎撃に移る、以上』


 映像は映し終わったことで、少女達はようやく堅苦しさ解放されてか、各々は話し始めて、和気あいあいとした感じで、武器を用意し始める。


「偵察だけなら、今回は簡単に仕事も済むのだけどね。まあ、次回はどうなることやら……」


 ヴィヴィもそうつぶやきながら、自分の武器の最終調整を始めた。


  * * *


 1部隊は12人のファミネイで組まれたグループ。少女達を歩兵として見れば、当然、巨大な兵力を有しているように思えない。


 そもそも、少女達が用意して、手にした武器は自身と同じぐらいあり、手に余るモノばかりだ。


 長物の銃、大剣、長槍などの他に、手持ちのミサイルや大砲まで手にしている。


 これらは少女達、それぞれが得意とする武器であるが、この多種多様をもって対応するには敵は大きさだけでも巨大で、強大である。


 だから、少女達もそれに負けないほどに強力で刺激的でなければ、負けてしまう。


 それぞれが得意とする武器を持つと、さらなる展開を見せる。


 少女達は自身付けられた動力源、コアによって瞬時に手にしていた武器の構造を原子レベルで書き換えられ、武器はさらに巨大化をすることができる。


 その大きさは各自バラバラではあるが手に余っていた武器は、さらに3メートル強へと変化する。


 もはや、少女達の背丈の倍以上だ。そのため、巨大な武器は手にすることなく、宙に浮いている。特殊な力場によって、浮遊させているのだ。


 また、その力場はか弱い肉体を保護するための防御としても使われる。


 それに加え、それぞれが大小様々な盾が展開されている。力場を利用して、敵からの攻撃そらすための防具である。


 そして、脚部にも機関が展開されている。高速移動、跳躍のための推進装置である。


 これら少女の姿に似つかわしい、敵を倒すための重兵装、機動力の装備。これでも敵には過剰な武器ではない。


 それほどに敵は強い。


 とはいえ、小さい少女達に巨大と化した武器はその姿を隠してしまうほどであるのだが。


  * * *


「……いつもながら、疲れてしまう」


 ハヤミはそう漏らしてはいるが、何に疲れているのかは口にしなかった。


「まあ、この数ならうまくいけば、出会い頭で潰せるだろう。だが、これはそんなことを競うゲームではないが」


 ハヤミは後ろ向きのまま、アキラに対して話している。だが、それ自体は自身に対するつぶやきにも近く、アキラに対してはっきりと聞こえるような声ではなかった。


「その次、その次を見据えることも大事だ」


 続く言葉に関してはほとんど、小声だった。そして、少しまぶたを閉じ、頭を入れ替える。


「では、改めていう。我々の仕事はバカピックの侵略から守ることだ。そのため、兵装を施したファミネイで迎え撃つ」


 モニター上には現状を映し出される映像だけでなく、数字で示されたステータスなど様々。


「その状況にあった装備を指示し、戦闘に送り出す。後はその都度、状況に適切な命令を出す」


 バカピックはゆったりとファミネイの守る、この基地へと向かっている。


 普通なら、もっと早く迫ってくるのに、今回は何に遠慮しているのか、ゆったりである。


「基本として、バカピックに対して2人で1体を原則とする。また、3人を1チームとして、4チームを1部隊としている。今回は敵の数も少ないが、不測の事態も考慮して、1部隊にしているが、十分過ぎる戦力だ」


 巨大な武器を展開した、12人の少女達はかなりの圧巻である。それだけで兵力として、強力に感じる。


「そして、基本戦術だ。まず、戦闘での彼女達にはアタッカー、マルチ、ファイターの役割がある」


 確かに少女達の武器はそれぞれで違っている。多様性ではあるが、実際はデタラメなほどに様々である。


 それでも、多少グループ分けすると2、3種類に分類される。


「まず、後方からアタッカーが砲撃等で敵をけん制する」


 大砲、ミサイルを装備した者達が距離の離れた状態で、それぞれの武器を発射する。


 その攻撃を確認して、ゴーレムは攻撃の盾になる。それでも空を飛ぶワイバーンにも爆風、防ぎきれなかった攻撃などでバランスを崩すなど影響を与える。


 実際、盾となったゴーレムのダメージは見た目にも大きいことが分かる。


「その状態からマルチ、ファイターが接近をかける」


 停止しているアタッカーの横をマルチ、ファイターの役割を与えられた者達がスピードを出して、通り過ぎていく。


「ここでマルチはファイターを円滑に敵へ接近させるために、支援をする。また、状況によってはマルチはアタッカー、ファイターの役割をこなす」


 マルチの大半が持つ長物の銃で射撃を開始する。だが、銃から発せられたモノは銃弾や光線の2種類。もっとも、銃弾の大きさ、速度、連射性は様々であるが。


 攻撃の大半はゴーレムを向けられているが、中にはその隙を突いて、ワイバーンに対しても放たれている。


 バカピック側も応戦を独自のエネルギー弾でするも12対3の4倍差弾幕。その上、ファミネイは瞬時に放たれる攻撃にも対応できる瞬時の判断能力、瞬発力と高速での機動力を用いて避けている。


 ゴーレムはそれらの攻撃を一身に受けたせいか、撃墜され地面へと落ちていった。


「ゴーレムは盾となることが多いが、素早く、空を飛ぶワイバーンは素早く、素直に攻撃を受けることはない」


 それでも爆風、弾幕と放たれる攻撃の中では当然、空を飛び、機動力に優れたワイバーンとはいえ、そのダメージは深刻な物になりつつあった。


「そして、ファイターはその攻撃力の高さで接近戦を仕掛ける」


 ファイターは手にしている剣、斧を振るうために、ワイバーンと同じ空を飛び、接近戦を仕掛ける。


 その高さは人間の跳躍力で届くモノではない。足に展開した推進装置を使い、飛翔することで可能とする。


「また、先ほどの2対1は1人がメインで、もう1人が支援するサブに分けている」


 飛び上がったファミネイをワイバーンはその鋭い爪を持つ足で攻撃をするが、ファミネイ側も盾でその攻撃を防ぎ、攻撃役に徹する仲間をサポートする。


 巨大な武器で叩き付けられたワイバーンは先ほどのまで蓄積されたダメージによって、行動を停止させる。


 ただ、その際、ワイバーンは奇妙な爆発をして沈黙をした。


 バカピックは破壊されても爆風を上げる爆発はしない。しない代わりに、逆に空間を収束させて崩壊する。


 これは仮定であるがバカピックのエネルギーは虚数であり、このような現象が起こると考えられている。


 これに巻き込まれれば、ファミネイも無事ではすまない。


 そして、もう1機のワイバーンも同様に爆発をして消滅をする。


「無駄に1人で英雄ごっこをさせなければ、無駄死には避けられる。基本は2対1、この状況を作りだし、維持すれば、後は彼女達の頑張りを信じていればいい」


 ハヤミはモニター上の状況をアキラに解説、説明するだけで、今回は何もファミネイに指示を与えることなく無事に終えた。


 これがハヤミのいう、頑張りなのだろう。


「ただ、頑張りに頼るだけで、戦況を維持できなければ、彼女達を殺すだけだ」


 講義とともに、あっけなく戦闘も終えた。


 ハヤミはしばらくは気を緩めることなく、警戒してただ変化がないことを見つめていた。


「援軍の気配はやはり、ないか」


「周囲には敵の気配は感じられません」


 敵もただ出てきて倒されるだけの都合の良い存在ではない。どうであれ、こちらに打撃を与えるためにやって来ているはずである。


 なのに、この結果である。


「まあ、いい。ちょうどいい説明の場になったからな」


 ハヤミはそれ以上、考えることをやめた。


「奴らの思考を理解するだけ、時間の無駄だ」


「司令、地上より連絡がありますが……」


 それを報告した少女はなぜか言いにくいそうにしている。


 状況を知る周りもそれは同じで、誰もがその続きを言いにくそうにしている。


 ハヤミは状況を理解できないが、ひとまず優しく声をかける。


「構わない、続けてくれ」


「……本体の無事なゴーレムがある、と」


 その言葉にハヤミも少し考え込んだ。そして、何か口にしようとしたが、再び考え込んだ。


 それは少女達と変わらない状況である。


 逆にアキラにはその状況を今ひとつ読み取れていなかったが、意外な事態だとはハヤミの様子から察することができたが。


「カレン、レモア、ルリカを入り口に呼んでおけ」


 ハヤミはアキラの方を向き、そう語った。


「我々も現状を直に把握しにいくぞ」


 それは少女達と同じ地上に上がるとの意味であった。


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