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重機兵少女ホラィ・ト・スフィ  作者: ツカモト シュン
第2幕 ライトダーク
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回想、アキラの価値観で

 アキラは空を見上げたかった。


 単純な行為であるのに、この時代それができる人間は限られている。そして、できたとしても常に見上げることはできない。


 アキラが初めて、空を見上げた日から月日は流れて、今はふと、望んだ所で空を見上げることはできない。


 人類とは、地上を奪われた存在。かつては空、宇宙すら駆けていたというのに、それすら夢物語に戻ってしまった。


 そんな、空すら見上げることはできずに、アキラは大地と空の奪還という究極目標と日々の生存を生業とすることになっていた。


 そう考えると、馬鹿らしい話である。


 だが、事実である。



 アキラは地下1階の植物プラント部分で腰を下ろしていた。


 今は夜。


 この基地でアキラは勤務時間は特に決まっていない。人類の敵である、バカピックが昼夜構わず現れれば、それが正式な勤務時間となり、それ以外はシノを初めとする人工生命体、ファミネイが段取りをして基地の運営に支障がないようにしている。


 ただ、何事もない日々では朝と夜で部隊の切り替えが行われる間をハヤミもアキラも、ひとまずは勤務時間として働いている。


 その間、常に真面目に働くかといえば、ハヤミに関してはここらをうまくコントロールできている。手を抜ける所は他に任せ、手が抜けない所はきっちりとこなし、暇なら寝ると時間を無駄なく使っている。


 アキラに関しては、ひとまず資料の整理から過去を知り、現状の物品確認で現在を見て、戦闘では分からないなりに戦闘の結果、未来を予測する。


 それ自体は成果の出ないことばかりだが、それで十分だとハヤミはいう。


 ハヤミの秘書であるシノからは「1年目にして、ここまで基地を把握してくくれば、後は楽になります」と、きっちりと説明してくれた。


 今はそんな勤務時間も終わり、自分の時間の中で空を見上げたくなった。


 この基地は当然、地下にある。これはこの時代の常識。地下に住まない人類に生存の可能性は薄い。


 それは敵からの防衛だけでなく、地上には生活する為のモノが何もないためだ。食糧の確保を始めとする衣住食の維持ができない。膨大な英知はすべて地下へと移されて、地上は残骸だけである。


 その結果が空すら自らの目で見上げることを放棄した。


 だが、そんな地下にある基地で空を感じることができる場所がある。以前、レモアから教えてもらった、この場所である。


 食物関連のプラントであるため、日光が必要で、巧妙にして地上から取り込んでいる。


 そのため、ここは空を直に見られなくとも、空の光が感じることはできる。


 それが夜の闇であって、アキラには十分だ。


 何しろ、地下での闇は、夜空の闇とは全くの別物。夜空は星明かりで明るいのだ。


 そんな夜空の闇に潜む、大昔の怪異、妖怪の存在は今となっては陽気な存在にすら感じられる。


 しかし、それらの名は人類の敵に異名として付けられてしまうことも、しばしば。そう、人類の敵、バカピックとは空、地上だけでなく、夜空、人類の闇すら奪ったといえるのだ。


 バカピックはそれを理解しているのか、自らもその存在に似せたモノも少なくない。


 アキラはそんなことを思いながら、明るい闇を1人感じていた。欲を言えば、星が見えればなお良いだが。



 さて、アキラ着任して1年が経つ。


 バカピックから人類を守る基地にやってくると同時に部下になった3人の少女、人工生命体『ファミネイ』と一緒にバカピックからの侵略を守り、できるだけ戦況を変えるべく頑張ってきた。


 それは初日からの出来事だった。


 その後も1年というわずかな間なのに、いろいろなことがあった。大きな出来事だけでも書き出したらキリがないぐらいだ。多少は忘れたくなる出来事もあった。


 それでも、いずれはそれらにも触れていく必要があるだろう。


 アキラからすれば、人類の敵、バカピックとの戦いは当たり前であり、日常である。そして、その事実は歴史であるのに、人類にはいつの時代からかも忘れさられるほどであった。


 今も、人類とファミネイは生きるために戦っている。そして、たまにというか、いつも楽しいことで遊んだりしている。


 むしろ、ファミネイはそういった風に明るい性格に作られているせいでもあるのだが。


 配属された直後に起きた大規模戦闘は、何もかも初めてであるアキラには何が起きたか分からなかった。


 ただ、ファミネイの置かれている状況など否応なしに知ることになった。


 少女達は人工生命体、消耗される命。安いコストで防衛されている、その死は被害の内に入らない。


 そんな少女達も大規模戦闘後では少しばかり影を射すことになる。それでも慣れた者達にとっては、いつも通り楽しいことで遊んだりして周りを和ませていた。


 アキラにはその様子が今となって多少理解できるようになった。


 その後も奇妙でおかしな出来事ばかりで、人類の捨てた街が突然現れたり、遠足で見つけた発見物で『都市』を巻き込む大騒動に極秘で対処したり、謎の地下から来るバーピックに対応したりと大変な日々であった。


 そして、多様化するバカピックに解析は進むようで進んでいなかったりと、長年かかっていたことはやはり爆発的には解決をしなかった。


 そんな中でも、しばしの平穏の中でゆったりと見上げた夜空にアキラはまだ理解できないことが多い中でも、ここで生きていることに何か意味を見いだせそうであった。


 かっての人類の1つの到達点ともいえる、『”地平線(ホライゾン)()天球(スフィア)”』の果ての明かり、軌道エレベーター、それと人類が住んでいたとされるこの星の衛星。


 それらはアキラには常識の向こう側の存在であった。


 そんな感動も長くは続かず、驚きはすぐにやってくることになった。


 巨大なバーピックによる攻撃だ。しかも、人類が初接触より苦戦をさせられてきたドラゴンタイプ、ファイアードレイク。そして、アウトレンジによる攻撃を仕掛けてくる、特殊仕様ゴーレム、デカラビアとの戦闘。


 通常とは違う状況、制約。そして、何より巨大な存在に苦戦を強いられた。


 それでもファミネイによって、今、この時も生きていられる。そんな日々を過ごしてようやく、アキラはこの基地での1年が過ぎた。


 それらの経験はアキラを変え、成長させていたが、それがどれほどのものかはアキラ自身は良く分かっていなかった。


  * * *


 夜の闇の中では次第に考えごとなど、静まっていく。ただ、何も考えることもなく、辺り溶け込んでいく感じすら曖昧にする。


 そんな閑寂(かんじゃく)にも似た時間の中、この基地ではそんな空気は許されない。


 ここは少女達の基地でもあるのだ。


 少女達の明るさはいつだって健在。それが夜であろうとも、昼であろうとも。それが地下だろうが、地獄の底であってもだ。


 闇に包まれる植物プラント部分は地下であっては異質な場所。地下には常に明かりで溢れている。


 地下の奥の奥へと進んだ結果、明かりなしでは生活ができない。そして、日の明かりがなくなったことと、24時間止まることのない世界では昼も夜も関係のなくなった


 まだ、基地は地上と繋がっているため、まだ浅い所にあるが都市は本当に奥底だ。


 そんな闇に、忍び込む影。人間ではその気配は感じ取ることは困難だろう。


 何しろ、少女達には戦闘技能を生まれながらに持ち、それを日頃から無駄に使い、戦闘時は必要以上を望み、求む。


 気配を消して進むことだって、その一環だ。


 披露する機会は少ないが、馬鹿でかい、人類の敵であっても多少は役に立つ技能。


 地下1階の植物プラント部分は入り口は1つ。アキラが座っている場所は壁を背にして、部屋の全体が見える位置。


 部屋入り口までは気づかれることなく忍び込んでも、この先は部屋の侵入だけで存在がバレてしまうだろう。不意を突けても、その存在をその瞬間までバレないのにワープしかない。


 それが得意なのは人類の敵なのだが。


 なら、どうする。


 そもそも、そこまでする理由などないのだが、少女にはそれだけで十分な理由となる。


 少女は考える。今、この場で。先ほどまでは、考えていなかったことを。


 そう、考えなしで少女はここまで進んでいた。


  * * *


 アキラはふと部屋に入ってくる存在に気がついた。


「……いえ、こちらにいると分かりましたので」


 それはカレンだった。そして、それ以上は語らず、ただ入り口で立ち止まったままだった。


 カレンは出会った頃と余り変わっていない。ただ、慕ってくるだけ。多少、変わった点もあるけれど。


「……お邪魔でしたか」


「いや、少し考え事をしていただけだよ」


 アキラもカレンの前では多少、日頃の緊張が解ける。背丈なども同じだけに、自分と近い存在と親近感が感じるのもある。カレンの場合は逆で緊張してしまう。


「……暗い中ではいろいろとお障りになると思います。せめて、明るい場所ではいかがでしょうか」


「そうだね」


 だからといって、アキラは動こうとはしない。別にカレンに対して困らせたいわけではないが、先ほどまでと違う空気に少し心地よさを感じていたからだ。


 だから、言葉にする。


「しばらく、待ってくれないかな」


 その言葉にカレンは従う。何の迷いもなく、先ほどまでの自分の考えなど捨てて。


「分かりました」


 再び、静寂が包まれるが、アキラには誰いない部屋とは違う心地よさがあった。


 地下は狭い空間だが、常に人の気配を感じることのできる世界である。


 誰もいない自室など、地下では特別な存在でなければありえない。アキラは今、そんな存在だ。


 こう、誰かのいる空間は落ち着きがある。


「すみません。休憩中とは思いますが、よろしいでしょうか」


 わずかな静寂を破り、また部屋へ入ってくる者がいた。日頃、出入りの少ない部屋であるのに、この夜に何人も来るのは珍しいことである。


 それはルリカだった。


 ルリカなら急用であれば、デバイスの方に先に入ってくるはず。それでも、勤務時間外であれば用がある場合でもデバイスで確認をしてくるはず。


 アキラにとって、違った意味で大事が起こっていると感じた。


「何か、あったのか」


「いえ、レモアがまた姿をくらましたので。勤務時間外なので特に問題ないのですが。それとアキラ殿がいつもと違う場所にいましたので、もしやと思いまして」


 イタズラ好きなレモアなら、ルリカのその推測は決して間違ってはいない。


 とはいえ、アキラが物思いにふけっている間は何も起こってはいない。


「いや、ここには来ていないようだが」


「そうですか。ですが、確認のため居場所を調べてはもらいませんか」


 レモアは居場所を秘匿している。そのため、ネットワーク上で割り出すには少々無理がある。しかし、階級が上位にはその秘匿の権利はない。


 アキラの部下であるレモアの行動すべては調べれば筒抜けである。


「分かった」


 アキラが端末を取り出して、調べようとした時だった。


「わあ――!!」


 突然、後ろから大声が聞こえてきた。そうやって、大きな身振りをして出てきたのはレモアだった。


 アキラとカレンはいまだ驚きは止まらない。


 ルリカは一瞬驚いたが、すぐに冷静を取り戻す。


「それで気配を感じなかったのだけれど、どんな手を使ったの」


「結構、考えたネタを早速ネタばらしをさせるの」


 レモアはそう言いながらも、どこか言いたくて仕方がない雰囲気だ。


「前置きはいいわ」


 ルリカもそんなレモアに無理に付き合わない。


「まあ、私は進歩するんだから、気配ぐらい消してみせるわ」


「無理をいうわね」


「もっとも、気配は完全に消せないから、ごまかすことにした」


 カレンはその言葉で理解した。


 実際、カレンがこの場に訪れたのはレモアからの通信があったからだ。アキラがいつもと違う所にいると単純な内容で。


 たが、レモアからすればそれで、カレンはアキラの元に来ることを予測していた。


 後は、カレンと一緒に部屋に忍び込んだ


 戦闘要員のファミネイとはいえ日頃は普通で、周囲の状況を繊細に監視することもない。ただ自然な感覚で目、耳等の情報で状況を確認する。


 また、闇の中ではその情報も制限される。繊細に忍び込めば、相手に接近していても気づかれるリスクは激減する。


「カレンを使ったのか」


 アキラからすれば、レモアの行動は筒抜け。履歴から確認すれば、種明かしなど不要だった。


「まだ、この手は使えると思ったのだけれど、完全にバレたか」


 レモアは反省はしていない。ただ、イタズラの精度に対してはフィードバックさせている。


 ルリカも何も言わないが、今後どう対応するかは考えている。


 カレンは何も言えないが、ただ、何事もなく進むように注視している。


 アキラは笑った。割といつもの光景に。


「これで十分だ」


 アキラは思った、自分の想いだけではないことを。この空を見たいという想いは誰もが思っていること。


 自分だけが物思いに悩むなど必要はない。自分には心強い少女達がいる。


「さあ、行こうか」


 アキラは闇の中から出て、明かりある通路へと歩いていった。その後ろを3人はそれぞれの思いで、付いて歩いてくる。


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