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-look up at the sky- PART 1 出会い

時系列的に「素敵な世界と3人組の少女」より前の話です。

物語の始まりとの意味でも、こちらが第1話となります。

 ┌――――――――――――――┐

 | * look up at the sky *  |

 |  -空を見上げた、日-  |

 └――――――――――――――┘


 少女達が噂をしている。


 それは話していない内容なのに、わずかな内容が尾ひれが付いて噂になったのだろう。


 少女達は甘い物、香りの良い物、それに綺麗なモノを好む。


 それは噂も同じことである。


 少女達は人類の親しき隣人、『ファミネイ』。


 人類が作り出した、人工生命体。


 ファミネイの大半が小柄な女性である。だが、その理由は忘れてしまうほどに、そういうモノだとして、今を共存している。


 PART 1 出会い


 地下鉄のホームで到着を待つ男性と、その横に女性の2人組。


 だけれども、ここは一般には使われていない場所でもあるのにもかかわらず、彼ら以外にも周りからは賑やかな声が聞こえてくる。


「……しかし、何だ」


 男はそうつぶやく。実際、男が一緒に連れてきたのは秘書であるシノだけのはずだったが、少し距離を置いて周りには暇を持て余した少女達が周りを囲んでいた。


「やはり、出迎えに来て正解だったか」


 男は少女達と比較するまでもなく、大柄で、顔にも年が滲んでいる。


 それでも、晴れの日である以上、普段はあまりそらないヒゲをそり、髪もセットしてきた。いつもはだらしなくしているが、それに比べればいくらか若くは見え、威厳も多少増している。


 男の名はハヤミといい、明るい茶系のスーツを着込んでいる。だが、日頃手入れをしていないせいで、所々でシワが目立っている。


「よろしいのでしょうか」


 秘書であるシノが尋ねてくる。


「非番の連中だろう。なら、問題はない。だが、いくらかサボりもいるだろうが……」


 そんな会話が聞こえているのか、少女達はここに来るモノをハヤミ以上に待ち望んでいた。


「……まあ、構わん。いつものことだ」


 そう、心の中にも言いつけるように小声でつぶやく。


 奥から光と音が聞こえてきた。どうやら、お望みの電車が来たようだ。


「到着したようだな。お前達、粗相のないように」


 ハヤミは威厳ある声で周りに伝えた。もはや、ここにいる者達をこのイベントへの参加者にする以外、この場を収める方法がないことをハヤミは知っていた。


 少女達も喜んで答えた。


 そして、ホームには電車が到達した。


 その中から降りてきたのは、1人の少年だった。


「こちらに配属されました、アキラです。よろしくお願いいたします」


 少年、アキラは電車から降りるやいなや、精一杯、大人ぶって目の前のハヤミにそう答えた。


 とうの昔に大人になったハヤミはこのことは聞いていたことだが、改めて、その容姿に驚いた。


 周りの小柄な少女達よりも少し大きいだけで、あどけなさが残る顔立ち。むしろ、男性らしさ、女性らしさを両方持ち合わせて、まだ思春期前のような角のない丸みある体。


 ここの少女達には受けがいい顔をしている。


 だが、ハヤミにはこのような歳の子を送り出してきた都市の考えには、久しく忘れていた怒りすら覚えてくる。


 それでも、ハヤミは非情でなければならない。


「貴公を歓迎する」


 それがハヤミにとっての大人な対応であった。


「さて、こんなホームでの立ち話は何だ。続きは私の部屋で歓迎会といったほどではないが、軽くつまみながら話をしようじゃないか」


 アキラよりも先に気が抜けたのは、ハヤミの方だった。日頃から、堅苦しいことが苦手なハヤミには先ほどの言葉で、この場面から解放されたと感じていた。


 それを見ているアキラには余計に何事かと思い、緊張を続かせていた。


「後、お前達。電車内の荷物を始末しておけよ。そのぐらいの役得はあっただろう」


 ハヤミは集まった観客に対して、そう命令をした。周囲からは不平を漏らす声をあがるが、さすがにサボりまでいる状況では反論まではできなかった。


 電車にはアキラ以外はいなかった。ただ、それでも様々な荷物が電車内には積まれていた。それを降ろしていくことになるのは、ここにいた少女達であった。


  * * *


 地下鉄から続く通路は代わり映えがなく、本来あるべき境界線の駅すら見当たらないまま、道を歩み続けていた。


 その理由はここが一般に使われない場所だからだ。


「せっかく、都市から出てきたというのに辺境の地でその上、代わり映えのしない場所ですまないな」


 ハヤミがそう語りかけてきた。


「その代わり、そのうち都市にはない綺麗な夜空でも見せてやろう。そのぐらいしかない場所だからな」


 そう話していると、目的の場所に着いたらしくハヤミはドアの前で立ち止まった。


「まあ、気にせず入ってくれ」


 ハヤミは自ら開けた部屋へとアキラを招き入れる。


 部屋の中には3人の少女達がすでに立っていた。そして、少女達は皆同じ、形式だった模様のあるマントを羽織っていた。


「あまり、自分は形式にはこだわってはいないが、ここは初めてでもあるから正式な流れを取っていこう。まあ、多少はアドリブや自己流になるから、緊張はしなくてもいいぞ」


 ハヤミはそうは言いつつも口調は軽く、話している内容もむちゃくちゃであった。


「後、シノ。飲み物とお茶請けを用意しろ」


 ハヤミは早速、先ほどの発言を否定するように、そう命令をする。


 そうして本来、座るべき椅子ではなく、ハヤミは机に腰掛けた。


「取りあえず、この3人をお前の直属の部下として付ける。そこからここでの仕事を覚えてもらいたい。そして……」


 ハヤミは純粋に話を聞くアキラの顔を見て、間を置いた。その続きの発言に関しては、アキラに応えるのにも、力を溜めるかのように気持ちを切り替える。


「聞いての通り、ここでの仕事は人類を守ることだ」


 それまでの軽い口調はこの言葉には込められなかった。


 ハヤミ自身、この発言が荒唐無稽なことだと自覚している。だが、それは残念ながら事実である。だから、軽口でなく真顔を言うしかなかった。


 当然、受取手側のアキラもそれは認識している事実である。


「はい、ハヤミ司令と呼べばよろしいでしょうか」


 アキラもその言葉に疑いなく応じた。そして、それはハヤミには照れくさかった。


「いや、別にハヤミで構わない」


 そう手短に答えることで、感情を見せることなくハヤミは次の話題を変える。


「さて、紹介が遅れたな。名前は右からカレン」


 カレンと呼ばれた少女は、3人の中で背は一番低く、隣と比べると頭一つ分の差がある。


 幼さが残る顔立ちで、ショートヘヤーのせいもあって余計に中性的、神秘的な印象を持つ。


「その隣がレモア」


 レモアは一番背が高くカレンと比べると年の差のあるお姉さんに見えてくる。それはカレンにはない体のラインでも見ることができる。


 そのスタイルをさらに引き立てるのは長く伸び、くせのあるウェーブがかった金髪である。


「そして、ルリカだ」


 ルリカはレモアとは違った意味でお姉さんらしさを感じる、落ち着きからかしっかりとした印象。それを象徴するかのように髪は黒く、流れるストレート。肩にかかるくらいの長さがさらに清楚さを醸し出している。


「まだ新人ではあるが、多少は経験を積ませてある。君よりは先輩ではあるが、気にせず命令してやってくれ」


「用意ができました」


 シノは飲み物とお茶請けを持ってきた。


「誰かこの机を中央に運んでくれ。テーブル代わりにする」


 ハヤミは腰をかけていた机から降りて、その机を指さす。


 カレンが率先して1人で、重そうな机を持とうとする。その行為に迷いがなく、結果もいとも簡単に持ち上げみせた。


 だが、ハヤミはそのことを注意する。


「おい、1人で持とうとするな。バランスが悪い」


 机は片方だけを持ち上げていて、斜めになっている。これではたとえ、持ち運べても中身は悲惨な結果になる。


 その様子にルリカは動き、カレンとは反対側を持った。


 レモアはその様子をうれしそうに眺めているだけであった。


 カレンの首元、短くカットされた髪、わずかに赤みかがった色、そして、マントの隙間から見える、うなじにはコアと呼ばれる動力源が見えた。


 その視点の先にハヤミは気がついたのか、言葉を付け加える。


「見ての通りのファミネイだ」


 この少女達は『ファミネイ』と呼ばれる、人工生命体。


 いや、ハヤミ以外、ここでの少女達も皆、このファミネイである。


「ひとまず、歓迎の意味でも乾杯だ」


 シノはテーブル代わりとなった机に飲み物を置いていく。


 そして、ハヤミには直接、手渡しをする。


「みんなも手に取ってくれ」


 各自、飲み物を持ち上げる。


「改めて、この基地へようこそ」


 その言葉に皮切りに皆、飲み始めるが、アキラは少しためらっていた。


 ここは人類を守る砦、基地である。それなのに、アキラには昨日までと同じ光景がここに存在していた。むしろ、昨日までの生活を捨てる覚悟でやってきたのに。そんな思いが素直に口に出ていた。


「しかし、自分にできるのでしょうか。人類を守るなんて」


 アキラ自身、ここでのことは説明を受けてはいる。だから、覚悟はしてきている。


 なのに、このような明るい雰囲気は逆に予想できてなかった。


 ハヤミは飲み終えると、気楽に話しかけた。


「ここでの役割は、別に使命や宿命などの特別なことではない。誰にでもできるように、我々が経験して、それを構築して、簡素化した単なる仕事だ。大層なのは目的なだけで、他の仕事と対してそう変わりはない」


 アキラにはその言葉には納得できたが、ただ言動からはうさんくさかった。


 だから、笑ってしまった。


 別にハヤミは緊張を解くための行為ではなかったが、ひとまずそれでよしと思った。


「まあ、他の説明は後日としよう。後は基地の案内と自室の片付けをして……」


 基地内に警報が鳴り響く。一同は身を構える。そう、人類を守る、敵からその危険を排除する仕事を示すモノだ。


 そして、ハヤミには通信が入る。身に付けていたデバイスに情報が表示されている。


「初日からとは」


 デバイスから内容を読み取るが、急ぎ危機的な状況ではないようだ。


 それでも敵との接触、戦闘は避けられない。


「……まあ、いい。初日から大変だが、ちょうどいい説明の場になったな」


 ハヤミは頭を切り替えた。敵にいちいち気にかけていても、毎度のことながら仕方がないからだ。


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