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重機兵少女ホラィ・ト・スフィ  作者: ツカモト シュン
第2幕 ライトダーク
46/58

愉快痛快な3つの願い -前編-

   0


 一刀両断。


 強固な装甲を持つバカピック達が一振りで真っ二つになった。


 しかし、その驚異的なことを行ったのはファミネイでも人類でもない。人類の敵である、バカピックがやって見せた。


 炎をまとった巨人を模したバカピック。そして、巨大なサーベル、こちらも反応では単なる武器ではなく、タキオンエンジンを持ったバカピックのようだ。


 当然、その次には収束する爆発が起こる。


 ┌――――――――――――――――┐

 | * 愉快痛快な3つの願い * |

 └――――――――――――――――┘


   1


 驚異的ではあったが、所詮1体のバカピックでは脅威を与えることは難しかった。


 今回現れたゴーレムはユニークというべきか、亜種というべきか、その形容にいささか困る部分があった。


「あれはタコね」


「そう、タコね」


 少女達が口々にいうようにタコに似ていた。


 ただ、少女達が口にするタコというのはこの時代において直に見る機会はほとんどない自然生物だが、データベースから情報を照合して、そう割り出していた。


「名前、何にしましょうか」


 オペレーターが尋ねてくる。


「タコはタコで十分だが……」


 司令であるハヤミもそう答えてしまう。


 バカピックという軽蔑的な名称とは裏腹に、個体を表す名前には幻獣から名が付けられている。ただ、タコやイカなどの単純な名前は俗称以外では付けられていない。


 そのため、オペレーターはタコに由来しそうな代案を述べてきた。


「クラーケン、海坊主などありますが」


「なら、その名前が定着すると思うか」


 もはや、外観からタコという名前が定着した中で、少女達がその名前を捨てるとは思えない。


「……一応、クラーケンで登録はしますが、俗称は大ダコでよろしいでしょうか」


「それなら、いい」


 こうして、タコに似たゴーレムは俗称、大ダコと名前が付けられた。


 改めて、外観に関してだが、前に2本、後ろにも2本、左右に1本ずつの計6本の触手を持つ。本体は球体の上でゴーレムと変わらないが、触手は球体の下方に付いている。


 そして、半円の怒り目は健在であるが、タコだけにシャークマウスな口はない。


 バカピック側も幻獣から名が付けられていることは知ってか知らずか、基本的に幻獣に似せた意匠を取り入れている。


 この場合は大ダコ、クラーケンと捉えるのが妥当なのかもしれない。


 それでも、戦闘能力に関しては体の周囲に複数の腕を持つことで、どの方向からの攻撃を仕掛けることができ、1体であるのにもかかわらず数体分の戦力を有していた。


 そのため、初めは対応に当たったのは2チーム6名であったが少し劣勢で対応しきれずいたので、1部隊12名のファミネイの総力を持って対応した。


「これがゴーレムの主流になりますと、脅威ですね」


 オペレーターは再び、ハヤミに対し話しかける。


「確かに、そうだが。個々でも戦闘力の違いはあり、外観を含めてのマイナーチェンジは今までなかった。単にユニークだといいが」


 1体相手で12名が必要とすれば、これがマイナーチェンジで量産されて、10体も現れたら、それこそ基地のピンチである。


 そうなった場合、大タコの名前ではどちらが馬鹿にされているのか分からなくなるが。


 * * *


 地上では、タコ呼ばわりのゴーレム、大ダコの残骸回収に入っていた。


 胴体はタキオンエンジンの破壊で消えてしまっているので、残っているのは触手のみである。つまり、タコに、爆発に、触手という、最後までタコつながりの焼きタコという有様。


 そんな様に強敵だった、大ダコには最後まで笑わしてくれる。


「触手といっても機構はゴーレムと同じか」


 エンジニア部門が外観の調査をしている。ゴーレムと似ているとはいえ、その判断だけで素材にするわけにも行かず、きっちりと調査をしている。


 戦闘後であれば、担当は変わりエンジニア部門が指揮というか、作業の段取りを指示する。その際、余力があれば戦闘要員のファミネイも残骸の運搬などを手伝う。


 そんな中、1人のエンジニア部門のファミネイが残骸の中に不思議な物体を見つける。


 少女の名はヒイラギ。このエピソードでの主人公である。


 それは密閉された透明なシリンダーだ。こんな部品は今までバカピックの残骸で見たことがない。それに大きさも少女の小さい体でも抱える程度の巨大なバカピックからすれば割と小さい部品。


 そして、その密閉された空間には何か気体のようなモノが詰まっている。


 余計に怪しい代物である。


 ヒイラギが怪しいと思いながら、それに触れてみる。一応、いろいろな危険を予測して、触れている。


 まず、指で押しても特に反応も、自身の方の変化もない。そして、手のひらで触れる。シリンダー自体に破損もなく、熱もなく、危険のリスクは低そうである。


 次にこの物体を持とうとする。重さは意外に軽い。エンジニア部門のファミネイであるのに持てる程度だ。中身は気体状なだけに大した重さはないようだ。


 そうなると、ヒイラギ自身でも問題なく運搬はできそうである。


 そして、持ち運ぼうとシリンダーを持ち上げた時に変化が起きた。


   2


「不用意に持ち運んだことは問題だったな」


 ハヤミを初めとした一同は格納庫で先ほどの出来事を確認していた。


 コアに記憶された情報、また、画像情報のイメージなどを元にして。


 戦闘要員ではあれば視覚情報はコアと直結しているが、外付けのコアが基本である普通のファミネイには視覚で得た情報は脳に記憶された情報から読み出すしかない。


 記憶から取り込まれるため、正確さは多少犠牲にはなる。とはいえ、情報だけで再現ができるファミネイにとって空間から得られる情報が重要で、画像情報は副となる。


 それらの情報から状況を見るには先ほどのシリンダーはヒイラギが持ち上げたことで変化をした。


 まず、シリンダー表面の温度上昇。これは100度を優に超えている。ただし、表面上の話で内部は測定はできていなかった。


 そして、内部に入っていた気体状のモノの変化。これは基本、視覚情報によるデータでしか観測されていないが、明らかにシリンダー内部で燃えていた。


  その熱により、ヒイラギは持ちきれなくなりシリンダーを手放した。


 手放して、地面に落ちたことでシリンダーは壊れて、中に封印されていた燃えていた熱エネルギーはヒイラギを包みながら消えていった。


 しかし、シリンダー表面でも100度を超えているエネルギーでありながら、放出の際に包まれたヒイラギは無事であった。


 ここは観測された情報から読みとっても、熱エネルギーは2000度近くで、本来ならファミネイであっても無事ではいられない。


 戦闘要員であれば、力場によって多少は防ぐことも可能だが。


 では、なぜ無事でいられたのか。熱エネルギーはヒイラギを包んだとはいえ、その体を触れずに行ったからであった。


 不可解ではあるが、熱エネルギーは単なるエネルギーではなく、何らかな特性、もしくはコントロールされたモノではないか、と情報だけで推測した考えである。


「奇怪な点が多いですね」


 アキラはそう漏らす。バカピックの馬鹿らしさに染まることなく、今では冷静な判断と子供らしい純粋な疑問をうまく両立して生かせている。


 ここでの暮らしも1年にもなれば、否応なしにそれだけの経験を積んでいる。


「確かに、気になる点は多いが……ひとまず、いろいろと無事で良かった」


 ハヤミはこの出来事の体験者、ヒイラギ本人を見ながらそう漏らす。


「だが、まずは不用意に怪しいモノを触れないことだ。単なるエネルギーの放出であれば、1人だけのケガでは済まない」


 別に怒っているわけではないが、危険の共有だけはしておかないと次の時に問題になる。


 見たことのない貴重なサンプルを破壊したことは確かに問題ではあるが、それ以上に人類の敵と戦う以上、命をさらす機会は極力避ける必要がある。


 今、問題なのはそれは戦闘に限らないということだ。


「残骸でもリスクがある以上、我らエンジニア部門だけでなく、この基地内すべての者が不用意な行動は取らないよう気をつける必要がある。また、怪しいと思ったら、誰かと相談をすることよ」


 ターニャもそういう。


「しかし、逆にそう簡単に壊れたことはいろいろと疑問ありますね。その点も含めれば彼女の不注意だけに責任を負わすことはできないでしょう」


 実際、並の攻撃では倒せないバカピック。その内部に使われる部品も調べる限り強度が高いモノを使われている。透明な部品、樹脂等であっても、ファミネイの力で壊すことは難しい。


 そういう実績から今回のケースは別の要因、いや、バカピックの何か目的があったのではないかと考えてしまう。過去には死んだフリをするぐらいだし。


「奴らのやることだ。気掛かりもある。もとより、この騒動に責任を取ってもらう気はない。ただ、彼女には多少なりとも反省はしてもらうことと、周りにも同じことをしなければ、今回の騒動の価値があったといえる」


 ファミネイは人工生命体で、コアを駆使して高度な処理を行うが、人間のようにミスもする。それに明るい性格はそういったリスクもはらんでいる。


 とはいえ、今回はバカピック相手の危険の予知が足りなく、リスクの洗い出しも不十分だった。


 この教訓は生かしていく必要がある。周りもこの事実で、このようなミスやリスクは軽減していくだろう。


「むしろ、あの時点で壊れたことはラッキーだったのかもしれませんね。基地内なら大惨事の可能性もありましたから」


 アキラはフォローという意味ではないが、素直な感想としてそう漏らした。


「確かにサンプルケースとして見ても、十分価値のあるモノだったわ。それにもし無事であったら、いつ爆発するか分からなかったでしょうね」


「ともあれ、奴らは理解に苦しむ存在だ。安全が確認されるまで不注意な行動は取らないように」


 ハヤミはそういってまとめた。


「奴らは唯一(ユニーク)変わり者(ユニーク)ですから、この程度のことは愉快なことで済んでしまうのが、怖いですね」


 ターニャはため息交じりでそう漏らした。実際、冗談ではないのが怖いことだ。


「ひとまず、情報からでも解析してくれ。危険なことには変わりはないからな」


 ともあれ、この集まりはこれで解散となった。


   3


「昨日の今日でまた出現」


 あの大ダコから翌日でゴーレム、5体の出現である。


 本来、このスパンでの侵攻は余り例がない。とはいえ、ゼロではないので翌日だから来ないという油断はできない。


「ヒイラギ、急ぎ準備よ」


 戦闘要員だけでなく、エンジニア達も格納庫で大騒ぎだ。


 戦闘の花形は戦闘要員だけではない。むしろ、その少女達を支える存在があって初めて成立する。この基地で戦闘に関わらない少女、ファミネイはいない。


「……もし、退治できれば」


 ヒイラギはそんなことを口にして、思った。バカピックがどうであれ一撃で退治できれば、いろいろと楽だろう、と。


 その思いと同時に、何者かが語りかけてきたような気がした。



 さて、時間は少し進む。



 格納庫からファミネイ達が地上に上がろうとした時である。


 ただの一振りでゴーレム達はその体を分断される。


 そもそも、まだ地上にはファミネイは上がっていない。


 では、誰が一刀両断したのか、強固な装甲を持つバカピック達が一振りで真っ二つに。


 それは炎をまとった巨人を模したバカピックだ。大きさは8m程度だが、その姿に足はなく下半身は煙状になっている。そのため(?)、宙に浮いている。


 煙部分は大きさから除外してある上、宙に浮いているため、地上からの高さでは10m近くある。


 そして、その手には巨大なサーベル。サーベルからもタキオンエンジンの反応がある。恐らく、これもバカピックなのかもしれない。


 当然、その次には収束する爆発が起こる。


 炎の巨人はサーベルで、ゴーレム5体をたった一振りで切り捨てていた。


 不可解な存在であるが、バカピックである以上、自分達の仲間であっても一刀両断できることは不思議と思うことは少ない。


 ただ、バカピック同士の仲間割れという不可思議な状況だけだ。これバカピックは以外に仲間思いな所はあるからだ。


 その様子を見ていた少女達、ファミネイも唖然として様子を見ていた。


 ハヤミもそうだが、すぐに頭を切り替え入れ替わった新たな敵に対して、どう対応するか悩んでいた。


 ヒイラギはその2つのバカピックを知っていた。


 * * *


「昨日の今日でまた、この集まりか」


 ハヤミはぼやく。とはいえ、今回はごく少数だけの集まり。


「しかし、無視はできない状況です」


 アキラはそう語る。どこか、シノに近い感じで育ったとハヤミは思った。


「それで議題は何からする」


 話題に尽きないから、ハヤミは頭を悩ませている。


「名前からですか」


 ターニャも投げやりで、この有様である。


「イフリート、ソードフィッシュ」


 ハヤミは即答する。確かに炎の巨人に関しては問題がない。


 バカピック特有のデザインであるが、シンプルさゆえに絵本に出てくる魔神のような姿をしていた。だが、イフリートという名はゲーム寄りではあるが。


 ただ、サーベルに関して、名前はかっこいいがソードフィッシュは魚である。これはタコ同様、データベースからの情報であるが。


「それでサーベルの方は本当にバカピックなのですか」


 アキラは名前の件は気にせず、ターニャに尋ねる。


「まだ何ともいえませんが、タキオンエンジンの反応があったことは間違いはないです。ただ、武器として使われている時点で単なる機能としての動力の可能性もあります」


 ただ、その前例はない。タキオンエンジン自体、無限のエネルギーを生み出すとされている。なら、別に動力を持つ意味は薄い。あくまで仮説での話だが。


 もし、武器の機能でタキオンエンジンを持つのなら、それはどれほどの威力を持つと武器になると想像すると恐怖である。


「次は仲間割れですか」


「仲間割れ自体は前例がない訳ではありませんが、ただ、それでも破壊まで至らない、ケンカのようなじゃれ合いですが」


 これもバカピックのユニークさではある。


「しかし、この基地で仲間割れをやるのは、やめてほしいものだ」


「それでも、あのバカピックは人類の味方をしているとしたら」


 アキラは少年らしい夢のある意見を語った。ハヤミは鼻で笑うが、それでもそれを全否定したくなかった。


「それなら、多少は納得できる。だが、あのバカピックとは初対面だ、あいつらに恩を売った覚えは1度としてない」


 ハヤミは真顔で言う。確かにそれも道理ではある。


「冗談はともかく、1体だろうが2体で1組だろうが、こちらに味方して勝てる戦力だ思うか」


 しかしながら、先ほどの発言は冗談に聞こえるモノの真顔と納得する内容ではあった。そして、こちらも納得するには十分な内容だ。


 確かに一振りでゴーレム5体を倒せるとしても、今までのスコアを考えれば、一度に5体でも門番としては優れている程度の戦力でしかない。


「そもそも、ゴーレム破壊後はすぐに消えている」


 そう、それも変な点である。


 何か目的があれば、すぐに消えることは考えにくい。ただ、ゴーレムの撃破だけに来ただけなら、まだしも。


「昨日の大ダコ、謎の気体、今日のゴーレム、炎の巨人、これら関係があるのでしょうか」


 アキラは考える。だが、それらの関連を示す情報は現時点では何もない。


「まあよい、ともあれネタの尽きないことだけに調べがいがあるだろう。しっかりと調査してくれ。ひとまず、明日が穏やかな日であれば、それでいい」


 ハヤミは投げやりであるが、情報が少ない中では何も進まないことを熟知している。


 現にまとまりのない考えばかりが出てきている。それにこれは今日で完結した話でもない。また、明日、何か騒動が起きて、それが答えになるかもしれないし。


 * * *


 ヒイラギは夢を見ている。


 そこには少女の姿がある。だが、その少女の体に炎を纏っている。そして、この少女とヒイラギが出会ったのはこれが2度目である。


 そして、炎を纏っていることを抜いても、その少女が自分達とは違う存在と感じ取っていた。同じ、少女の姿をしているが。だが、それはお互い同じなのかもしれない。


「どうだったかしら、願い事の成果は」


 少女はそう語る、傍らにはサーベルが宙に浮かんでいた。


 まるで日中の炎の巨人のような組み合わせである。いや、ヒイラギは分かっていた。これはあの時のバカピックだと。


 なぜなら、先ほど出会った時、そのお願いはあの炎の巨人が叶えたからだ。


「助けてくれたお礼は後、2つ。せっかくだから、楽しいことを願おうよ」


 少女はヒイラギに楽しそうにそう語る。助けたお礼、それはシリンダーを壊してくれたと少女は語っていた。


 その願いの1つ目は半信半疑でバカピックを倒すことに使った。それで多少、この少女の言葉を信じる気になった。


 ヒイラギは昔から思い描いていたことを口に出した。


「誰もが憧れる、お菓子の家が欲しい」


「うん、それいいね」


 炎を纏った少女は嬉しいそうに微笑んだ。


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