白ウサギの午後 『カレン』パート(2)
アキラの自室より、まっすぐ進んで食堂の反対側にある壁へと案内された。
ここがカレンの目的の場所であったが、壁である。
しかし、アキラはデバイス情報からもこの先に植物プラントがあることは知っている。だが、入り口も見当たらず、壁のみでその詳細は知らずにいた。
「植物プラントでは食料、また医療関係の素材となる植物も育てています」
基本、食べ物は合成食品であるが、その材料はこのように植物から作られている。だが、そのまま食べられる野菜類ではなく、栄養素と生産性に優れたモノから選ばれ、作られた品種のため、生で食べられることは少ない。
「植物プラントは各階にありますが、実際、上下で連結された1つの区画となっています。ただ、プラント内はモニター越しで見ることはできますが、入室に関しては動力室よりも厳しく、基本、入室は禁止されています」
壁に映像が映し出される。カレンがプラントとアクセスして、現在の映像を出したモノである。
その中には確かに誰もいない。
入室の禁止は管理上の理由である。何しろ、作られた種な上、クローンされた株を延々と作り出しているだけに、外部からの圧力に弱い。下手に入室の際に持ち運ばれた菌等でも全滅、もしくは変異が生まれるかもしれない。
「たとえ、司令であっても理由なく入ることはできません。管理は自動で行われていますし、メンテナンスもアルミカンで行われており、部屋内に入る必要はありません」
アルミカンは万能な技術。材料とエネルギーさえあれば、その構造の変更や維持も容易な現在の錬金術である。
メンテナンスもこれ1つで、新品状態を常に維持できる。
「また、地下1階からはわずかな開口から自然光が入るようになっており、増幅させて地下のフロアにも光が届くようになっています。また、補助で明かりも用意されています」
プラント内はこの地下にある基地よりも明るい。それも各階で明るさがほぼ変わらず、光の干渉とならないよう、床などメッシュや透明な材質になっている。
「プラントとは別になりますが、地上の周りに生えている草原の植物も加工して食料や繊維を素材して使われています。こちらは機械を使うとはいえ人力での作業となります」
映像は地上に変わっていた。しかし、その映像は上から見たモノではなく、地面から見える視点のモノ。
基地の位置は変わっておらず、敵にも周知の事実のはずだが、目立たないように地上には高い建物以前に出っ張りすらない平面である。そのため、地上にある監視用のカメラは地面に取り付けられており、空を見るには特に問題はないが、地上を見るには地面しか分からない。
地上には警戒すべき敵以外は動物ぐらいしかいないので、これでも大きな問題はない。
また、必要となれば、撮影用に空中を巡回できる機械も用意されている。先ほどのワニザメもこれで監視していた。
さて、その地上の映像には草原が映し出されている。この植物が食品の材料となるのだろう。そして、そろそろワニザメに対しての攻撃が始まろうとしていた。
この植物らもいくらかは砲撃の被害を受けることになるだろう。
「これらを合わせて作られた食料は基地内で消費される量は何とか生産しているそうです。ただ、畜産プラントは都市でのみ運用されているため、そこで作られたモノは都市から運搬されています」
畜産プラントといっても、ウシやブタなどではない。確かに動物も一部は飼育されているが、食料よりも種の保存を意識した動物園として飼育されている。
では、畜産プラントで管理されているモノは何かといえば、それは昆虫である。
省スペース、省エネルギーで、大量に育てることができるため、タンパク源として優れている。また、加工されるので、見た目の問題もない。
それに植物同様、昆虫からも繊維、医薬品となる化学物質なども取れるため、動物よりもメリットが多い。
ただ、基地にないの専門の知識を有するスタッフと施設を置く必要がある。それらを考えた時にコストに見合わないことから設置されていない。
「そのほか、生産されてない物資は都市から定期的に提供されています」
こうしてみるとすごい。アキラは都市で暮らしていた間は知識としては知っていたが、こうして壁越しのモニターとはいえ、直に見る機会はなかった。
当然、都市はもっと管理が厳しい。ここより、多くの人間を支える大事な機関なのだから。たとえ、都市の未来を担う子供達であっても、見学は簡単に許されない。
ただ、プラント内の映像素材は容易に見られるため、見学という行為自体に特に意味がないこともあるのだが。
しかし、この生活システムは、本来、人が宇宙で活動していた技術を転用したモノ。
「さて、これ以上詳しい内容は私も権限がなく用意はできませんでしたが、プラントの説明は以上となります。何か質問があれば、私の方で確認して説明に参りますが」
「いや、詳しいことは担当のエンジニアにでも聞いておくよ」
「そうですか」
アキラにとって、この地下での生活は日常ではある。だから、知識としてもあり、疑問に思うことも少なかった。
さて、プラントの反対側は食堂があるので、カレンは少し移動して食堂の説明に入った。
「食堂はいつも利用されていると思いますが、概要だけで。植物プラントで生産された物はプラント内で一次加工はされますが、食品には加工されないため、食堂内で加工され、それが提供されています」
食堂も基地に合わせて、24時間稼働している。そこにはスタッフとして10名ほどが配置はされているが、基本食品の加工は自動で行われているので、それだけの人数でも問題なく、食事の提供をすることができる。
「スペースは一度に400名程度収納できるだけ有しています」
確かにそういうだけあって、ちょっとしたスポーツができるスペースがある。ただ、実際に席としては200席程度。交代制であるため、一堂に集まることはないから、日頃はこのぐらいで十分。
「食堂の加工ラインも見せるべきと思いますが、こちらも入室は管理されていますので、後ほど映像を用意しておきます」
食品を扱うだけにこちらも管理は厳しい。まだ、植物プラントよりは入室は簡単ではあるが、こちらも自動ラインであるため、人の出入りする必要性も薄い。
「ただ、調理場は自由に見られますので、案内します」
調理場といっても簡易的なモノ。だが、基本は加工されたモノを食しているので、調理の必要性はない。
それでも、1からお菓子等を作ることを趣味にする少女達も多くいる。それは加工されたモノよりも高く付くことになるが、作る過程、自身好みの味付け、形にできることは既製品にない楽しみがある。
また、出来の良いお菓子は高く売買もでき、作るスキルがないが、食べたい者達には頼んで作らせることもある。
「私は調理はしませんが、何かご希望があれば用意させますが」
「いや、いつもので十分だよ」
アキラは手作業で作られた食べ物を食べたことはない。都市ではそんな趣味は上流階級でもないからだ。1から作るなど、手間で、無駄が出てくるため、贅沢を超えた無駄使いと教わってきたからだ。
それでもここでは、それを許されている。ふと、それがアキラには不思議に思えた。
「では、ちょっと移動して一応水回りを説明しておきますが」
再び、アキラの自室へ戻るルートを通り、途中にある水回り関係の施設がある所に着いた。こちらもアキラも利用しているため、よく知っている。
「お風呂、洗濯場、トイレなどこのフロアでは水回りの機能を集約しています。トイレ自体は各所にありますが」
地下暮らしでは水の管理も重要になってくる。そのため、水回りは無駄がないように集約されている。
「一応、水源は地下、また近くに海がありますので困ることはありません。それでも水は循環して無駄のないように使用していますので、ただ消費のみしていく訳ではありません」
カレンの説明に尽きる。この水回り関係で大事なのは水を無駄にしないことである。
「下水処理であってもアルミカンで純水にできますが……」
下水には機械等の使われた油汚れを含んだモノも言葉の意味では含まれているが、この場合はどちらかといえばトイレ、汚物に関してだ。
当然、水は大切な資源なため、下水であってもただ捨てられることはない。
また、排せつ物も、人体というアルミカンで生成された物質であるから無駄に捨てられない。ここからも必要な物質は回収され、プラント等に運用されている。
ただ、これ自体は大昔から行われている植物生産過程ではある。また、水の循環システム自体も宇宙時代の技術である。
「その……アキラ殿やハヤミ司令はトイレが特別と聞いたことがあるのですが」
これまで、背伸び感と堅苦しい口調から一転して、カレンは個人的な質問をしてきた。
その質問に対して、アキラは何事もないように自然に答える。
「いや、みんなと同じで普通だけど」
恐らく、男性であるが故に特別なトイレを使っているとの基地内で噂、都市伝説となっているのだ。
とはいえ、便宜上ハヤミもアキラの自室にはトイレとお風呂を持っている。勤務中であれば、みんなと同じトイレを使っている。
ただ、タイプでいえば椅子のようなタイプ(洋式便器)とは別に床にしゃがみこむタイプ(和式便器)も少数であるが存在する。
これはトイレの延々と続くスタイルの差である。
ただ、男子専用のトイレに関しては既になくなっている。これが噂の元ネタであるが。
「今、ルリカの方から連絡で、動力室の入室許可が取れたそうです」
その連絡はアキラのデバイスにも入ってきた。
「では、動力室まで案内します。その後は、ルリカに任せますので」
「そうだ、言い忘れていたけれど」
動力室へ向かおうとしていた、アキラはカレンを呼び止めた。
「その服、かわいい服だね」
「あ、ありがとうございます」
単なるお世辞かもしれないが、カレンにはその言葉だけで大きく動揺させた。
カレンにとって、アキラは絶対の存在だ。自分のすべてを握っている人物だから。そんな人に粗相は許されない。期待に添えないことは死んでも許されない。見捨てられることは許されても、見捨てることはあってはならない。
そんな人であっても、普通に褒めてくれることはとてつもなく、嬉しいこと。
気が緩んで、カレンはいつも以前の自分が出てしまいそうになる。ただ、平然を装うと、自身の体を機械のように動かすが、動力室まで歩かせるのが精一杯であった。
実際、今の今まで作ったキャラクターを演じていたのだから、余計だ。




