素敵な世界と3人組の少女 -エピローグ-
格納庫の一角に様々なバカピックの残骸が置かれていた。そこはバカピックを解体、解析するための場所である。
未知の敵とはいえ解体すれば、資源でもある。それも含めて解析のために、ここで調べられている。
今、その中央にはあの時の物を浮かすゴーレムが置かれている。
とはいっても、その残骸だけで、ゴーレム特有の球体の部分はほとんどが爆発で消えてなくなっている。
当然、それを調べるのも少女達、ファミネイだ。
今、あのゴーレムについて、解析結果を報告している際、ハヤミは聞き慣れない言葉に念のため聞き直した。
「……バッテリー」
アキラにすれば、初め聞くような単語である。
この世界にとって、バッテリーは数世代前以前の技術。小型核融合炉を基本としたコアと保存可能となったエネルギー源が成立している中ではバッテリーなどは必要とされず、失われた技術である。
「ええ、私たちも初め見た時は未知の技術と勘違いしましたが、人類がゴミとして捨てられたモノも使われていましたから解析をするのに手間はかかりませんでした。それでも、大半はバカピックによって作られたモノはありましたが」
「……ゴミを拾った。しかも、作った。相変わらず、馬鹿を言っているようにしか聞こえないな」
死んでなお、そのユニークさに馬鹿と罵倒されるのはよくあることであった。
「それでも、奴らには魅力的なモノだったのでは。そのバッテリーは」
アキラはバッテリーを報告の説明だけでしか理解していない。そのため、敵が拾ってまで使うほどの価値あるモノと感じていた。
ハヤミはバッテリーへのいくらか知識があるため、時代遅れで使えないモノの認識だ。
「そもそも、奴らのエネルギー源は理論上、無限ともされるタキオンエンジンだ。わざわざ、バッテリーなどという、効率の悪い蓄電池を使う必要があったのか」
「そのタキオンエンジンはこの地上であれば、ほぼどこにいても探知できます。それが今回それができなかった点とバッテリーを結びつければ……」
「まさか、探知からエネルギー源を隠すために、ゴミまで拾ってやったとでもいうのか」
そう考えることは素直ではあるが、やはり馬鹿げているとハヤミは一蹴する。そして、その話に冷静に突っ込みを入れれば、この点だろう。
「だが、そのバッテリーで街を持ち上げるほどのエネルギーがあるのか」
「そこが分かりません。そもそも、バッテリーは動力は電力です。奴らのエネルギーとは恐らく違うでしょうから変換ロスも含めれば、無理といった方が早いです」
だけれども、少女は言葉を続ける。
「それでも、奴らの無限のエネルギーは街をあげることは可能だと実際にして見せました。また、それを探知できないように見せかけることも。それはバッテリー単体と考えれば無理ですが、攪乱する目的でなら、何か抜け道があったのかも知れません」
調べて分かったことは、ほとんどない。それでも、何とか事実の裏付けだけはできた。それが今回の結論であった。
「まあ、いくら否定しても、事実である以上、そうなるか」
何度となく、理解しようと調べているが、そのたびに答えの出ない結論にいつもながらハヤミは脱力を覚えてしまう。そして、行動の愉快さも頭をさらに悩ませる。
「実際、ビル自体を武器としたように、目的はその質量を武器にすることで間違いないでしょう」
アキラは話を変えようと、別の話題を振った。
「確かに爆弾ではなくとも、この質量は確かに強力だ。だが、基地を目の前にして実行しなかった点を考えれば、ここは本命じゃなかった」
その話題にはハヤミも素直に自分の考えを述べた。
「それは……」
アキラはおおよそ本命に目星は付いていたが、間を置くことでハヤミの口から聞き出そうとした。
「とりあえず、都市の意見を聞きいてからだが、あの街は廃墟から完全な瓦礫に変える必要があるだろうな」
その答えを明確にはハヤミは明かさなかったが、それでも口にはしていた。
「それに今後は、周囲の探索には地形の変化を見る必要があるな。奴らのユニークさはオンリーだが、単一だからとそれを見逃すほど我らは豪快ではない」
バカピックが馬鹿だのといっていても、やることはやる。いまだ、彼らは人類の敵なのだから。この状況下でも確実に対策を行うのが、ハヤミの生きる術であった。
「まあ、奴らは科学的ではなく、少し不思議な存在に思っておくべきだな。むしろ、空想の怪物だと思うぐらいで問題ない。ファンタジーだよ」
「幻想ですか」
「それのせいかは知らないが、奴らには基本、幻獣の名を付けられるのが慣例となっている」
バカピックにはゴーレムを始めとして、基本系のワイバーン、ドラゴンなどの名前が付けられている。さらにボス級と呼ばれる強力なモノ達は神話上のユニークな名前を持つことになる。
「せっかくだ。今回のゴーレムに名前を付けてみるか。アキラ、何かいい候補はあるか」
「……そうですね。街を持ってきたことにちなんで、アトラースではどうでしょうか」
それは昔の神話に出てくる巨人の名であった。アキラはそういうことに興味があって会得した知識である。
「天球を支える巨人か。いささか、立派だな」
ハヤミはバカピックの名の由来から、そういった知識があり、また何体かのバカピックにもハヤミ自身付けたことから予備知識として知っていた。
「……いや、切り取られた水平の街を地図と見立てれば『地図帳』か。それなら、皮肉が効いているな」
そんな馬鹿みたいな話をしながら、この場の話は終えるのであった。
それでも多くの謎を残しつつも、いつもこんな風に話を終えなければ、結論が出ないまま議論しなければならないからだ。