白ウサギの午後 『カレン』パート(1)
アキラはこの基地に来て1週間弱。それでも最低限のことは学んでいる。その1つは基地内の配置だ。そもそも、基地の構造はシンプルで地図からも迷う要素はない。
そのため、案内が必要となれば、その部屋、施設の詳細を知ることぐらい。
ひとまず、ハヤミの指示通り、部下の3人を呼び出す。アキラはコアを所持しているだけで、脳内で処理できるような連結はされていない。だから、デバイスを使う必要がある。
むしろ、コアの連結自体は戦闘要員のみに適応された処置。普通はコアとデバイスがセットとして使われる。
そのアキラが発した通信はカレン、ルリカ、レモアらに受信された。こちらはコアと脳内の直結だ。カレンらは今は勤務外の非番、自身の時間を過ごしている。
そのため、カレンは自室でデータベースから取得した本を読んでいる。ルリカも同様であるが、読んでいるのは戦闘関係のデータ。
カレン、ルリカは同室で今同じ場所にいる。
しかし、レモアの存在に関しては秘匿されている。非番でもあるのに、その居場所を隠している。ただ、管理者権限を使えば、バレバレであるが。
当然、アキラには管理者権限があるため、バレている。
カレンとルリカは顔を見合わせて、受信した内容に考える。それは「基地内を隅々まで案内してほしい」との内容だ。
「ちょっと、相談を」
カレンはコアで通信を行う。この場にいない、レモアにも参加してもらうためだ。
『どうします』
『別に案内をするだけなら、問題はないけれど』
『あのハヤミの指示だろう、意味深で特に意図はないだろう』
レモアも場所と行動は秘匿しているが通信には参加している。実際、アキラから連絡が来ている以上、これ以上隠れる手立てもないのだが。
『なら、基地内の情報を踏まえて詳細に案内しますか』
『いや、隅々を案内するなら、動力室の中も案内すべきね』
『……なら、サボる場所もか』
動力室はこの基地の心臓部であるため、誰でも入れるわけではなく、許可がいる。たとえ、アキラとて、ハヤミとて許可無しでは入れない。
とはいえ、ちゃんとした目的であれば許可は簡単に出るため、見学でも問題はない。
後、レモアは隅々を今いる自分の場所等をさらすことになると判断した。
『レモア。いつも、そんなことしているからな』
『まあ、ルリカさん、今は……』
『…………』
レモアは通信に反応しない。あまり、触れられたくない様子だったからだ。
後、レモアはひとまず今、移動してのもある。アキラには居場所がバレているとはいえ、それを悟られないためのある種、偽装工作として。
『それでどうします』
『各自に案内を頼まれている以上、みんな同じでは駄目でしょう』
『……なら、お互い好きにいきましょうか』
レモアはそう提案する。お互い、一瞬の思考の後、返答を行う。
『了解』
『コピー』
『なら、それで』
別に否定する提案でもないため、それで決まった。
『誰から案内しましょうか』
『私は動力室等の段取りしておくわ』
『1番、以外なら』
この時点の要望では、要望を述べなかったがカレン以外は2番以降を希望している。
『なら、私がおおよその所を説明しておきます』
『先、お願いするわ』
『さて、私も段取りをしておくか』
ひとまず、先に案内をするのはカレンとなった。ここでようやく、アキラへ通信の返信を入れる。
この間、わずか10秒程度の出来事。
さて、カレンは急ぎ、着替えを用意する。
ファミネイのファッションというよりも、基地内では基本、皆、無頓着である。行き着く果てのファッションとしてTシャツと緩いパンツ(ズボン。衣服のボトムスのこと)は珍しくもない。
最悪、下着のみというのも室内では割と珍しくない。さすがに部屋以外では誰かに注意されるため、そこまではファッションとしてはいってはいない。
基地は地下であることから温度管理を兼ねた空調管理がされている。そのため、裸同然であっても寒さ、暑さを感じることはない。
特に戦闘要員の制服は体にフィットしたボディスーツのため、自室では束縛的なスーツを脱ぎ捨て、開放感を得るためにも軽装になりがちである。
また、上着だけでことを済ませる場合も多い。
カレンの今の服装はTシャツと緩いパンツ。さすがにカレンには下着まではかなりの抵抗がある。ルリカも今は同じ格好だが、時折は開放感を得るため、下着姿にもなる。
一応、少女達の名誉のため、補足をすれば戦闘要員の着るボディスーツはいろいろな機能から締め付けによって、体にフィットさせている。決して、きついわけではないが、身につけている際の感覚は束縛感が強い。
そのボディスーツの機能としては極端な防御力はないが、負傷した際はスーツも損傷はするが、瞬時に修復して傷口の保護、止血などを行う。また、高機動で移動する際の衝撃にも対応している。
また、多少ではあるが筋肉の動きを読み取り、スーツが筋肉の補助を行う強化外骨格としての機能も有している。これは筋力を大幅に上げるよりも、長時間でも活動するための補助を目的としている。
それらの機能もあって、ボディスーツ時以外は緩い服装を好んでいる。
だが、基地内のファミネイは戦闘要員だけではないので、ファミネイのゆるさなのか、元から皆、緩い服を好んでいる。
そんな、カレンはアキラと勤務時以外に会うこととなったため、いつものボディスーツという訳にもいかない。とはいえ、カレンが持つ服は決して多くはない。
選択したのはこの基地へ来る前に買った、ブラウスとスカート。カレンの持つ一張羅である。
「そんなにお洒落しなくとも」
ルリカはカレンの様子にそう語る。
いつもと比べれば堅苦しいファッションで、見ている方も窮屈になる。実際、カレンも着替えてみると、背筋がまっすぐになる感覚に襲われる。
日頃、こんな服に着慣れていないのもあるが。
「まあ、似合っているわよ」
再び、ルリカは感想を述べる。カレンは勢いで着替えたものの、どこか心が落ち着かない。
「……これでいいかな」
カレンが服を選んでいる間から口を開かなかった、ようやく口にした言葉がこれである。
いまだ、迷っているのだ。どの服で、どのように接すればいいかと。
ルリカもこれには少しあきれている。確かに、その気持ちは多少分かるが、力みすぎである。
「まあ、手持ちもないのだから、それしか手がないでしょう。それに待たせても仕方がないわ。さっさと行ったら」
それももっともだった。実際、服を選んだといっても、実質は2択だった。Tシャツかブラウスかの。
後はこれで覚悟を決めるだけである。
「行ってくるわ」
カレンはそう言って、部屋を出て行った。
「大丈夫かしら」
ルリカはいろいろな意味でそう思った。そんなことを思いながらも、入室関係の許可を取るための手続きに入った。
* * *
アキラは自室の前で待っていた。この基地で自室を持っているのは数えるほどしかいないな。この基地はそれなりに広いとはいえ、個人で部屋を持てるほど余裕があるわけではない。
それは都市であっても変わらない。地下という空間に無理矢理、居住スペースを作り出しているからだ。それにはいろいろな制約や制限があるため、極力コンパクトにする必要がある。
アキラにしても基地に来て、自室をもらえたほどである。
そのため、1人でいる方がさみしいほどだ。それは年相応な反応である反面、今の時代では1人で過ごすことが少ない以上、自室というのは非日常である。
さて、アキラはデバイスで連絡して、その返信あったことから自室の前で待っていた。別に自室内で待っていればいいものを、どこか遠慮していた。
そして、案外カレンはすぐやってきた。むしろ、アキラの視界内では普通の速度であったが、見えないところでは急いでやってきていた。
それは廊下を走るなのレベルではないが。まあ、そこに関しては基地内では対処されていることなのだが。
「お待たせしました」
カレンは深く頭を下げる。すぐこられなかったことに対して、無礼をわびたのだった。他の少女達なら、5、10分の遅れはまだかわいい部類なのに。
それに服装だって、ラフな格好が多い中で、カジュアルな出で立ち。むしろ、ラフが多い中ではブラウス姿はフォーマルにすら見えてくる。
アキラも思ってもみなかった対応に、反応に困った。
「では、この基地の基本的なところを案内させて頂きます」
カレンはアキラの反応など気にすることなく、事を進めていく。
「まず、この基地内では400名前後が暮らしています。基地の性質上、人数はどうしても増減していますので、正式な人数はその都度、確認が必要となります」
廊下だというのに、カレンの説明はまだ続く。
「内、部隊としての戦闘要員は72名、また附属する専属エンジニアは24名。実際は部隊を運営するエンジニアは多く投入されていますが。勤務等に関しては私から述べる内容ではないので割愛します」
その説明はどこか堅苦しい。それ自体は問題ではないが、この基地の少女達にしては珍しい程度。服装にしてもそうだが。
アキラの部下になったとはいえ、カレンと直に話すことは短いモノを除けば、これが初めてに近い。配属されてから、いろいろと忙しい日々で直接、会う機会もほとんどなかった。
通信でのやり取りはあったとはいえ、こんな堅苦しいしゃべり方ではなかった気がする。
私服も完全に初めてではあるが。
「基地は地下4階構造で地下1階は倉庫などに使われていますが、ただ攻撃のリスクから下層への被害を軽減させる構造物が主となっています。そのため、2階がメインで基地機能を中心に、3階は居住スペースが中心。そして、4階はこの基地のライフラインを担う動力室となっています」
現在地である、アキラの自室は地下2階に存在する。また、カレンの部屋も同じ階。これは緊急時、移動が短くなるよう、戦闘要員等は基地機能の中心である地下2階に部屋がある。
説明が終わったのか、カレンはいったん黙る。アキラもまだ反応に困って黙っている。
カレンはそれを問題ないと判断して、次に移る。
「さて、まずプラントから案内させて頂きます」
このまま、アキラは困惑しても仕方がないのでようやく、カレンに対して言葉をかける。
「もう少し気楽でいいのだよ」
「分かりました」
カレンは即答したが、内心ではそれはできない。もし、気楽にしたら何もできなくなるからだ。精一杯、背伸びをして接しないと彼、アキラには向き合えないからだ。
実際、背丈もアキラの方が少し高い。基地での経験こそわずかに上であるが、その他の点はあまり変わらない。得意とする戦闘力はアキラとの比較にはならないが、他のファミネイと比べれば、大差はない。経験は不足している。
つまり、カレンには誰にも勝る点がないと思っている。だから、自分を偽らないとアキラと向かい合える立場ではないと、カレンは思っているのだ。
そして、カレンにとって、アキラは絶対の存在なのだ。




