白ウサギの午後 プロローグ
この基地に来て、アキラは覚えることよりも臨機応変というよりも場当たり的に行動を取る人類の敵バカピックと、勝手気ままで軽い性格で敵と戦うファミネイへの対応を考え、最良と思えるアイデアを出す方が大変だった。
そして、上司であるハヤミも今、現れたそんな敵にため息をつく。昼食が済んで、のどかな午後を過ごせるかと思っていた矢先である。
「厄介だな、ワニザメか」
「ワニザメ……変わった名前ですね」
人類の敵であるバーピックこと、軽蔑の意味で名前が変化してバカピックではあるが、そのコードネームは大層な名前が付けられることが多い。
「バカピックの名前は幻獣から付けられることは知っているな。ワニザメもそれに由来する。とはいえ、本来は単なる動物ではあるがな」
逆にそのことはアキラを悩ませる。ワニでサメなのだから。その上、幻獣の名前で単なる動物ときた。
実際、モニターの映像はサメに近い姿である。当然、目はつり上がった半円だが。
「昔、ウサギが海を渡ろうとしてサメを出し抜こうとした際のサメの名前だ」
それだけでは理解できなかったが、取りあえず、アキラはその説明で納得させた。
一応、補足をするならば、ワニザメは「イナバの白ウサギ」という物語から来ている。
「ただ、問題なのは物語同様、噛みつかれて大けがをさせられることだ。それ自体が、名前の由来でもある。下手に手を出せば、痛い目に遭う」
これに関しても詳しくは語らなかったが、アキラもそれ以上は尋ねることはなかった。想像に難くないことと、それ以上の結末を聞きたくないからだ。
「それに厄介なのはあの大地を泳ぐ能力だ」
映像でもワニザメは地面の中をまるで水のようにして泳いでいる。ただ、基地の周りは草原であるのに、その草花にも影響がなく、ワニザメが泳いだ所は草も揺れる程度だ。
そして、ワニザメは1匹だけでなく、3匹の群れでやってきている。草が揺れる姿から草原がさながら、海での波のようになっている。
「どういう原理ですか」
「分からない」
ハヤミは即座に答えた。バカピックは分からないことばかりで、その上、その個体、個体でユニークな特徴を持つ上、ほとんどが原理不明ときている。
「それでも少しは……」
「本当に分かっていない」
ハヤミは念押しで答える。
「ただ、分かっていることは、地面を泳いでいるだけあって攻撃の効果はかなり減少する。だが、その対策はない」
「本当に何も分かっていないのですね」
ようやく、人類の敵である、バカピックの驚異の片鱗をアキラは理解をし始めた。
そう、分からないのだ、意外に何も。
「こちらに対しては手を出さない限り噛みついてくることはないが、それ以外は特に何もしてこない。そのため、単純に偵察に来ているとされている。実際、ワニザメが来た後には基地への侵略が発生している」
とはいえ、経験から理解したことは理屈がどうであれ分かっていることだった。
「取りあえず、対応としては砲撃で追い返している。ダメージ効果は薄いが、地形の変化で奴らは泳げなくなるからな」
「でも、基地には近づいてきませんね」
アキラは基地近くまで寄ってくるが、コンクリートで舗装された場所までは近づいてこないことに気がつく。
「これもどういう原理かは分かっていないが、密度の関係か、コンクリートで舗装された所には来られないようだ」
なるほど、アキラは思った。
「では、アルミカンで地面をコンクリートに舗装をしてみたら、閉じ込めることはできませんか。実行にはリスクは高いでしょうが」
アルミカン、原子レベルで物体を再構成する技術である。
土の地面をコンクリートに変えることはアルミカンといえど容易とはいえ、元々、コンクリートの作成自体が容易で建築もまた簡単。わざわざアルミカンという高度な技術でするようなことではない。
だが、ことワニザメ対策で戦術的に行うにはその手もありかもしれない。
「悪くはないな。次回までにその方向で対策を考えさせておこう」
ハヤミは確かにアキラのアイデアに感心はしているが、だが、今は余り気にとめていない。先のことを考えているようだった。
「とはいえ、『今は』下手に手を出してケガをさせる訳にはいかないからな」
やはり、ハヤミは『今は』という所を強調していた。
「取りあえず、2チームほどで砲撃をして追っ払っておけ。後、安全な位置からでいいからな」
司令である、ハヤミの指令で基地内は戦闘態勢に移る。今頃、格納庫では準備していた装備を持って、少女達が戦闘に向かう。
だが、戦闘とはいえ、ただ砲撃をするだけ。敵が意図しない動きを見せない限りは平穏にことは終えることだろう。
現にこの司令室も今のところ、静かで慌てている様子もない。
「さて、この後のことだが……」
ハヤミは先ほどより悩んでいた。ハヤミ自身、この後アキラに何をさせようか悩んでいたのだ。そして、初日からのドタバタで、やっていなかったことの多さに気がついた。そして、その中でも大事なことを教えていなかったことを思い出した。
「そうだ、1通りのことは説明はしたが、まだこの基地内を隅々まで案内をさせていなかったな。カレンかルリカ……いや、レモアも含めて3人にそれぞれで基地を案内させるとしよう」
ハヤミの提案にアキラは意図が読めない。確かに基地の案内なら1人付けてもらえば済むことだ。それを悩んでまで3人、それぞれに案内させる意味があるのだろうか、と。
「今は気にせず、命令に従え。それに3人ともに接することで性格等を見定める意味もある。それぞれがこの基地をどう案内するかで、それを感じてみるのだ」
確かにその理由はそうであるが、アキラには少し引っかかりはあった。この理由以外にも何か意図があると。言葉の中でもそれを伺うことができる。
「奴らにトイレや風呂はもちろん、動力室まで案内させてもらえ。当然、変な意味ではない。何かあれば修理のために嫌でも出入りすることになるからだ。それを知らないという訳にはいかないだろう」
「でも、彼女らとて、まだここには詳しくないのでは」
確かにアキラの先輩には当たるとはいえ、その差はわずかである。実際、おおよその場所はアキラとてデバイスで把握しており、迷子になることはない。
それ以上の情報を同じレベルの彼女達に頼むのはいささか無理がある気がする。
「それはお前に任せる。情報が足りなければ、詳しく調べさせてもらえば済むことだし、レモアぐらいなら裏の裏とか詳しいそうだな」
それもそうである。確かに部下である3人をいかに使うかが、この基地案内の任務なのかもしれないとアキラは認識した。
「それにワニザメの戦闘も、実質は試し撃ちをするだけだ。ここはファミネイ達に任せておけばよい。気にせず、案内をしてもらえ」
それでは、まず誰に案内してもらおうかと、アキラは考えた。




