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You may get there by candle-light.

 昨夜、やってきたワイバーンの群れを撃退後、片付けや報告などで眠れたのは日付をまたいでいた。


 それでもアキラは起床がつらいながらも、いつも通りだった。習慣もあるが、遅れてはいけない使命感からもあった。


 とはいえ、全体的にわずかな遅れはあるが、着替えもいつも通りスムーズには行かない。日頃、余裕に見てある時間はもうなくなっている。


 その後、着替えて、急ぎ執務室に行っても、いるのシノだけであった。


「おはようございます。いつもどおりですね」


 シノは優しく挨拶してくれる。至っていつも通りの朝の光景である。


「昨夜は遅かったようですし、まだ、ゆっくりしていれば良いのですよ」


 確か、寝る前にもハヤミからはそう言われていた。そして、この場にいないハヤミは自身が語った発言に従っている。


「……ですが」


「私はいざという時に司令代理をできる立場にあります。それはハヤミ司令の体調不良、度重なる連戦、そして、単なるサボりにも対応するためです」


 冗談こそ、あまり言わないシノであるが、皮肉は随時交えてくる。つまり、サボりは事実である。


「それに私の下にも部下はいますので、夜間での詳細は聞き及んでいます。そのため、私は基本、夜は眠らせて頂いています。こうして、基地の運営にいかなるときも支障がないように。当然、アキラ殿と司令が多少寝坊したぐらいでは影響はありません」


 実際、先ほどまで夜間の対応をしていたファミネイとは引き継ぎを終えたばかりで、今はシノがその作業を引き継いでいる。


 それにアキラが夜間戦闘に対応をしたのは今日が初めてではない。とはいえ、少し前までは健全な生活をしていたことと、まだ無理がしづらい少年だけに今も眠気や何やで少しきつい。


「でも、せっかくですから、ひとまず先ほど夜間の詳細がまとまっていますので、それに目を通しておいてください。私は何か温かい飲み物を用意しますので」


 アキラが寝た後から特に進展はなく、戦闘でケガを負った少女達の治療が優先で行われ、地上に残された残骸は日が昇ってからの作業となっていた。


 実際、今その作業の準備中だ。


「コーヒーはきついでしょうから、お茶にしてあります。それでも眠気冷ましの意味でもわざと熱くしてますので、お気を付けてお飲みください」


 シノは用意したお茶をアキラの前に差し出す。お茶とは言ったが、実際、お茶に似た何かであるが、一応、植物由来の材料と足りない成分は付与している。


 そのため、今でも健康的な思考で飲まれている飲み物である。


 また、コーヒーもコーヒー豆からではなく、代用品の焙煎したモノ。こちらは成分的にも味もコーヒーそのものに近いが、時代による味覚の変化からあまり好まれてはいない。


 それでも砂糖やミルク的な何かで混ぜたモノはいまだ現役である。


 季節が進んだことで、地上は寒くなっている。基地内は地下ということもあり、気温は変わりはないが。それでも眠気冷ましの意味でもこういった熱いモノは温まる。


「まったく、冬場になるとどうも調子が悪い」


 ようやく、ハヤミがやってきた。それでも少々の遅刻である。


「一応、基地内はいつもと変わりませんが」


「ああ、あれだ。気圧のせいだ」


 シノとハヤミの会話はいつもながら、どこまでが本当で冗談か分からない。


「さて、状況は」


 これも定番の挨拶だ。そして、シノは何も答えない。


「変わり無しか」


 確かに何も言わなければ、それで十分かもしれないが、アキラにはそこまで省略化できることに驚きである。


 阿吽の呼吸といえば、そうかもしれないが、明らかにこれは違っている感じていたが。


「なら、悪いがもう少し寝させてもらうか。まだ今日の話だ、奴らが襲ってくることは少ないだろう」


「別に構いませんが、何か急ぎ対応しておくことはありますか」


 シノは尋ねる。サボることに関しては触れずに、淡々と。


「戦闘結果はまとまっているのだろう。いつも通り、補充とそのフォローで十分だ」


 ハヤミもハヤミで見てもいないの状況を把握して、指示をしている。先ほどの返事無しで、ここまでの状況把握と今、やるべきことを分かっている。


「せめて、寝る前に温かい飲み物でもどうですか」


「悪くはないが、指定しないとコーヒーを出されそうだな」


 その言葉を聞いて、シノは黙っている。恐らく、コーヒーを出すつもりでいたのだろう。


「まあ、いい。とにかく、この時期は温かい飲み物が恋しい、頼む」


 シノは飲み物を用意するために席を立つ。ハヤミも嫌々、自分の席へと座る。そして、一応、夜間での状況を確認する。


「……そうか、もう冬か」


 ハヤミはそのことで何かを思い出したようだ。


「アキラ、俺が戻ってきたらお前も少し昼寝をしておけ。随分と前に約束していたことだが、夜空を見せておきたい」


 アキラはその言葉に覚えがなかった。それは本当に随分と昔に話していたことだったから。それでもハヤミと初めて出会ったのは半年前ぐらいなのだが。


 * * *


 基地上部。日は沈み、完全に世界は闇に包まれている。地下に住んでいると闇というモノは存在していない。常に通路には明かりで照らされ、眠りにつく時も完全な闇に包まれることはない。わずかな明かりが足下を照らしている。


 それは防災という概念もあるが、心理的に安心できないからといった理由が大きい。


 地下という星明かりすらない世界では、部屋から明かりを消すことは完全な闇となるからだ。


 だが、地上の闇は明るい。たとえであっても、地下暮らしにはそのまぶしさに目が眩むほどである。


「この時期は夜空の星がはっきりと見える。まあ、寒いのが難点だが」


 季節は冬もあり、寒い。地下では感じることができないモノの1つだ。アキラは防寒をしっかりしているが、慣れないこともあり身にしみる。


 横には対策として、たき火が用意されている。非効率の象徴であるが。


 本来なら、暖を取る手はたき火などでなくとも良く、効率も効果も高い。完全に旧時代の趣である。


 ハヤミとアキラの他にも、シノ、カレン、レモア、ルリカがそれぞれの部下としてこの星の観測に参加させられている。


 少女達はコアも利用して防寒対策はしている。また、念のため武装もしている。


「どうだ、落ち着いて見ると夜空も綺麗だろう」


 ハヤミは空を見上げながら語る。何回か見上げてきた空で、夜空も見たことはあったが、それでも落ち着いて見る機会はなかった。


「座りながら楽しもうか」


 たき火の横には簡易の椅子も用意されている。ハヤミはさっさとそこへ座っている。


 アキラはまだ座らず、立ちながら星空を眺めている。


「ここは星座の物語をするのが一番だろうが、悪いがそれはまた今度だ」


 ハヤミはそういってある方向に指を指す。


「この方向にある光が見えるか。縦に等間隔で光っているのだが」


 その指さす方向には、そのような光は見えない。


「まあ、肉眼ではそう簡単には見えないがな」


 ファミネイである少女達も目をこらして見ようとするが、何も見えない。


「お前達の目でも無理だ。だが、観測機器を使えば分かるかもしれないな」


 そう言われて観測機器を使っても、よく分からない。


「もっとも、これを使えば見ることはできるがな」


 そういって、今度指さしてのは望遠鏡だった。少女達もそのヒントでようやくハヤミが指さしていたモノが分かった。そして、観測機器でもそれを感じ取れた。


「あれは軌道エレベーターだ。この地平線と天球の向こうであっても、見ることができる、この星の先端だ」


 天球は観測者を中心に見る、空の球面。その地面となるのは地平線の彼方までである。つまり地平線は天球の一部となるので、『地平線と天球』とはある意味で重複した言葉になる。


「あそこまで4600マイルと少々か」


 当然、肉眼で見える距離ではない。


 また、そこは『地平線と天球』の向こう側、観測者の世界の外にある。そんな建造物がどうであれ観測できるのは、その高さからだ。


「あれが『”地平線ホライゾン”《《と》》”天球スフィア”』の向こう側」


 そもそも、今まで地底で暮らしていたアキラには地平線も、天球である空すら知らない世界だった。その上、その概念すら打ち破る建造物を感じられることは驚愕するしかなかった。


 アキラは用意された望遠鏡から、その建物を見ている。


「この荒野であってはただそれだけで珍しいか」


 望遠鏡といっても、ただレンズだけでなく電子回路も搭載されレンズ越しの画像に処理もされている。それでようやく軌道エレベーターの一部を観測できる。


「一応、説明だ。宇宙へ出る際の移動手段だけでなく、通信機器としても使われ、他にもいろいろと使われていたが、今では移動はもちろん通信さえ返ってこない。それでも、ああやって光を絶やさずにいる。一説にはバカピックが管理しているという説もある」


 軌道エレベーターが崩壊していれば、それだけでも人類は滅びかねない事態である。確かに、アルミカンとコアの管理だけでもそう簡単には壊れることはないだろう。


 それでもそれは人が生き死ぬ間の話だ。それが何回と過ぎても壊れていないのは、人類の敵バカピックが壊れないように管理していると考えるのは、どうであれ普通だ。


 人類の発展を支えた軌道エレベーター、その用途は敵であっても価値はあることだろうし。


「まったく、あれな話だ」


 ハヤミは馬鹿げた敵とはいえ、それでいろいろと助けられている部分もあることに苦笑いとはいえ、笑いを堪えることはできない。


「でも、こうして今日を過ごしているのは、足が速くて軽く、性格まで軽いが、重い武器と宿命を背負った少女達によって支えられていることもあるな」


 横には少女達が銃を構えて立っている。こうして、のどかに夜空を眺めるのは少女達、なくしてはできないこと。


「あの明かりを頼りにあそこへ行けますか」


 アキラはハヤミに尋ねてきた。あの明かり、それは軌道エレベーターのことだろう。


「ああ、お前ならいけるかもしれない。あの明かりを頼りに」


 ハヤミ自身すらその遙か先の明かりを諦めていたが、今は可能だと思ってしまう。だが、それを行うのは自分ではない。そう、アキラだ。


 まだまだ未熟な少年にすぎない存在に、そんな希望を抱いてしまう。


 いや、そうなっていく必要があるのだが。


「ふっ、生きているのだからな、我々は」


 ハヤミは小声でつぶやき、空を見上げた。夜空であっても、いつもと同じで暗く、それでいて明るく、黒く、青く、広く、穏やかだ。


 だが、その空の下で今の人は生きていない。


 手を伸ばせば届いていた空であったのに、人が自由に飛び交っていた空だったのに、今は見ることすら適わない。


 そうなった今でも、空には魅力がある。


 ハヤミは大きなあくびをする。朝もしっかり眠ったつもりでも、まぶたは重く閉じようとする。


「夜空を見ていると眠くなるな。ただ、もう少し、眺めていたい」


 そして、ハヤミは閉じられつつある、まぶたを堪えながら夜空を眺め、次第に視線は下、大地へと向き始めていた。


 ただ、アキラは飽きることなく見上げている夜空にいまだ興奮して眺めていた。


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