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素敵な世界と3人組の少女 -後編-

 カレンは展開された武器を構えていた。


 展開により巨大化したカレンの武器は自身の身長の倍以上、口径も胴体と等しくなっていた。もはや、大砲自身が本体といってもいいぐらいの姿である。


 その大きさだけでも瓦礫の山ぐらい軽く粉砕しそうな見た目であるが、コアによる制御で威力も管理することができる。


 狙うまでもない目標だけに、ただ撃つだけであるがカレンはどこか緊張を覚えていた。


 その気配を察したのか、今まで誰にも気づかれることのなかった敵の方から瓦礫の山より出てきた。


 敵の名は俗称、『バカピック』。


 本来は「いかれた愉快な奴(知性体?)」を意味していた『バーピック』だったが、スラング化した俗称の方が今では正式名となっている。


 そして、目の前にいるのは『ゴーレム』と呼ばれる、典型的なバカピックの1体。


 構造は球体に蛇腹で繋がった両手だけの単純な構成。足がない代わり、浮遊をしているが、推進力となるものは見えていない。


 その球体には顔といえる釣り上がった半円だけの怒りを現した目とサメの口を模したシャークマウスが付けられているが、実際の目、口に相当するのか不明。ただ、たまにこれらが動くから、単なるペイントでないのはハッキリしている。


 球体の直径だけでも5mを超える図体のでかさ。少女達の武装であっても、直撃を耐えられる防御力を持つ。


 その中身に関して、そんな外観とは裏腹にいまだ解明できないほどの技術力で作られた機械である。


 どうであれ、この廃墟を持ち出してきた元凶であることには間違いなさそうだ。


 それと同時にカレンの宇宙人説はむなしく否定された。


 だが、そのゴーレムの姿は他のゴーレムとほぼ同じであるが、一部で違いが見られる。


 手には指がなく、ただ平べったい円盤上であり、背中には何か四角いモノを背負っている。そして、勢いよく出た際に巻き上がった瓦礫はいまだ地面に落ちることなく、宙を浮いていた。


「……岩を浮かしている」


「ユニークか」


 ゴーレム自体にはいろいろなバリエーションがあり、その中でもワンオーダーで作られたのか、ユニークと呼んでいる個体もある。


 それらは他のゴーレムにはない特殊な機能を備えて、戦闘などで苦しめられてきたが、その個体限定で以降に出現することはぼほなかった。あったとしても、忘れるほど年数が経ってからである。


挿絵(By みてみん)


  * * *


 その様子はハヤミ達も見ていたが、やはり困惑していた。


「岩を浮かすとは奴自身がこの街を運んできたとでもいうのか……いや、疑問は後だ。まずは撃破を」


「みんな気をつけて、敵を撃破せよ」


 アキラは号令をかけた。


  * * *


 その言葉に先に動いたのレモアだった。


「出てきた頭を叩くのは得意よ」


 構えたままのカレンは砲撃はできずにいたが、レモアが先行して事で余計に機会を失ってしまった。


 レモアの銃は光学兵器、レーザーライフルである。


 ゴーレムは浮かばせていた岩の大群をレモアの向けて放つ。このゴーレムの能力は浮かすだけでなく、自在に動かすこともできるようだ。


 レモアもその程度はひるむことなく、レーザーを放つ。


 ゴーレムは点であるレーザーをいとも簡単によけるが、レモアは点の集合体である岩の大群を回避と盾を用いても、避けきれずにその攻撃の一部を食らってしまう。


 体周辺に展開する力場で威力を軽減していても、ゴーレムからどういう原理で放たれたのか分からない、岩の推進力は体まで到達した。


「意外に痛いわね」


 レモアの顔に苦痛が見られるが、コアから出されたデータ上ではその影響はほぼ無しと表示されている。痛いモノは痛いのだが、レモア自身もそんなことを気にしてもいられない。


 この状況はレモア、1人ではいとも簡単にゴーレムに弄ばれている。


「ルリカさん、援護とチャンスを」


「分かった」


 カレンはルリカに頼む。カレンの武器は見た目通り威力で、反面、近くにいる味方でさえも攻撃に巻き込まれてしまうほどである。


 また建造物で囲まれている、この場所でもカレンのアドバンテージはさらに薄れてしまう。


 本来は遠距離にいる時に初手で使うのが、セオリーではある。また、障害物のない広い場所で味方に影響のないようにするのも鉄則ではある。


 ゆえにルリカにレモアを敵から引き離すこともお願いしていた。


 ルリカは足に展開した推進装置から吹き出されたエネルギーが機動力を作りだし、ゴーレムに対し、高速での接近。その速度から繰り出す巨大なハルバードはさらなる破壊力を生みだす。


 それでもルリカのハルバードも巨大なゴーレムの前では手斧のようなモノ。しかも、本人が小さくて、ゴーレムから見れば手斧だけが飛んでいるにすぎない。


 まさに投げ斧、トマホークである。


 それでも威力は確か。ゴーレムとの力比べでも負けてはいない。


 レモアもルリカのサポートから一定の距離を取り、自身の間合いでレーザーを放つ。


 ルリカも手数で攻撃を仕掛ける。レモアもその合間を狙って攻撃しかける。


 そして、ルリカとレモアの距離がゴーレムから離れた隙を見て、カレンは砲撃を繰り出す。


 このゴーレムは物を浮かす特殊な能力を持っていても、スペック自体は他と変わってはいなかった。


 2対1を基本とするバカピック戦では、3対1では優位に戦いを持って行ける。


 ゴーレムもそれには気づいている。それでも自身の特殊能力をうまく駆使して対応もしているが、数の優位性を覆すほどではない。


 バカピックは単純な機械ではない。知的と見た目同様の愉快さを持った存在。


 状況の打破を狙ってなのか 攻撃を避けようと思ったのか、ビルの中へとそのまま突入した。少女達よりも巨大であるゴーレムすらも、小さくするビルの中に隠れてしまったのだ。


 だが、元は人間用の建物、巨大なゴーレムをかくまうモノでもない。そのため、中へ入るのに構造物ごと破壊して侵入している。


 辺りにはその影響で粉塵が舞っている。しかも、中からはすごい物音が聞こえている。さらにビル内部で暴れ回っているのか。


「……自滅か」


「気をつけて、そこまで奴らは馬鹿じゃないはずだ」


 ルリカはそういうが、この状況では説得力はない。だが、敵であるバカピックにとっては、この程度の奇行は奇行の内に入らない。


 理由があるのか、ないのかなど結果を見るまで分からない。


「とはいっても、この状態で何に気をつければいいのか」


 現状、ビルは崩壊を始めている。このまま出てこなければ、本当に瓦礫の下敷きである。


「面倒だ。このまま手当たり次第、撃ってみるか」


 レモアは武器を構える。ビルに隠れていてもコアの観測機器で振動、音などを解析すればおおよそ場所は分かる。


 だが、そう考えている内に先手を打ったのはゴーレムの方だった。


 しかも、ビルの中から出てきたのではなく、自身が隠れていた廃ビルを宙に浮かしながらだ。


 ゴーレムでも体格差があるのに、持ち上げられた廃ビルは優に100mは越えているだろう。


 中で暴れていたのも、地面に固定させていた支柱の破壊だったようだ。先ほどまで奇行と思われた行為には、明確な意思と目的が存在していた。


「まあ、この街を持ち上げてきたのなら、このぐらいは楽勝よね」


 レモアは余裕はあるだが、恐怖というよりも予測不能な事態に対処に困って、その場に固まっていた。それはカレンもルリカも同じである。


  * * *


「とにかく、撃ってビルを壊せ」


 突如として聞こえていたアキラの声に一同は次の行動を移す。


 それを直に隣で聞いていたハヤミも命令が遅れた。


「……いい判断だ」


 と、つぶやき、フォローとした。それはアキラに対しても、自身に対してもだった。


  * * *


 カレンはビルに対してすぐさま3度、砲撃をする。巨大な大砲は強力で、旧世代の建物の構造ぐらいたやすく粉砕する。


 それでも、その大きさに1発で破壊できる範囲は限られている。3発の砲弾でビルを大まかに瓦礫と化した。


 レモアのレーザーは点ではある。だが、持続させれば、線となり、その熱量はビルを容易に切断をするのに十分である。


 ルリカの重厚なハルバードを使えば、ビル程度は豆腐のように破壊は可能である。


 だが、そんなことはだるま落とし程度の遊びでならやっていられるが、今はそんな悠長な状況ではないから、ルリカは宙に浮く残骸を盾で防ぎながら、ゴーレムの懐に入り込む。


 ゴーレムは腕でルリカの攻撃を防ぐが、相も変わらず力の差は拮抗。


 その差を補うのにもゴーレムは、ビルの残骸をルリカへと雨として降り注いだ。しかし、それでも気にせずルリカはゴーレムとの距離を保つ。


 逆にゴーレムの近くの方が壁となって安全であるからだ。


 ビルは粉砕して、破壊されている。それでも全体の質量は変わっていない。ただ、武器としての脅威は少しは軽減している。少女達の砲撃もやまない、攻撃の手も緩まない。ゴーレムも打開する状況を探っているようだった。


だが、それ以上に状況の打破を狙っていたのはレモアだった。


 レモアは自慢の推進装置から生み出されるスピードと跳躍力を生かし、ビルの壁を駆け上がり、宙に浮くゴーレムよりも高い、頭上へと位置していた


「お互い派手に暴れ回ったから、気がつかなかったのか、手が回らなかったのか」


 既にレーザーはいつでも最大出力で撃てるよう、チャージ済み。


「まあ、返事ができない以上、どっちでもいいけど」


 ゴーレムはしゃべらない。バカピックは意思を持っているのだろうが、自身の死を目の前にしてもおびえも命乞いもない。そして、断末魔もない。


 頭上から放たれたレーザーによって、ゴーレムは貫通された。


 レーザーによる攻撃で動力を断たれたのか、ゴーレムは糸が切れた操り人形のように自由落下をする。


 また、それはゴーレムによって宙に浮かしていた岩も同じであった。


 そして、ゴーレムは爆発をした。ただ、爆発といっても、火柱や爆煙をあげるわけではなく、動力より放出された巨大なエネルギーがそこを基点に収束する。


 それは爆発というよりは、空間を削り取ったようなモノ。


 原理はブラックホールと同じらしいが、詳しいことはいまだ分かってはいない。


 何せ、破壊すると消えてなくなる。その上、生け捕りも無理で、調べるデータが限られているからだ。


 ひとまず、タキオンと呼ばれる虚数のエネルギーが空間に穴を開けて収束すると推測されている。


 実際、ゴーレムの本体はわずかな残骸だけとして、腕とあのよく分からないバックパックだけが残れていた。


 当然、動力部は爆発の中心だけあって、真っ先に跡形もなく消えてなくなっている。


 周囲は再び、静けさを取り戻そうとしているが、先ほどまで飛んでいた岩が地面へと落ちて、定まった場所へと移動する音がいささか賑やかではある。


 また、岩だけでなく辺りは瓦礫の粉塵混じりで、視界を遮っている。それでも、視界に頼らなくとも観測機器からも周囲に敵がいないことは明らかであった。


  * * *


 事の決着が見ていた、ハヤミとアキラの2人はようやく安堵がつけた。もちろん、周囲の少女達もそうだが、だからといって仕事が完全に終わったわけではない。


「奴1体しかいなかったのだろうな。奴らはあれで仲間を見殺しにするほど薄情な奴らではないからな」


 ハヤミ自身、そう漏らしながら奴ら、バカピックを分かったつもりでいるが、結局の所はあの街に隠れていた敵を倒しただけであった。


 その敵が何をしようと隠れていたのか、おおよそ推測で考えることしかできない。


「ひとまず、回収を兼ねて、部隊を向かわせましょう」


「……そうだな」


「それにしても、奴らは何をしようとしていたかは、まだ調べる必要がありますね」


 アキラが言うように、それでも調べれば分かることもある。また、分からないことも出てくるだろうが。


 それと、ふと思い出し事をハヤミは口にした。


「レモアに命令をしてやれ、敵が来るまでは休憩をしていいと」


「甘いですね」


 皮肉だというのに、アキラは素直にその言葉を受け取っていた。


戦闘描写に関して、参考までに動画にしてみたました。

よろしければ、参考にどうぞ。

https://www.youtube.com/watch?v=Yt8rYByYcGE

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