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少女よ、あの火は何の火だ? -前編-

 ここ最近、話題になっていることに対して目撃者からの証言を聞き取り、まとめておきました。


 以下が、その内容となります。


 証言1 オペレーター

「状況ですか。それは深夜の任務で、異常のないことをモニターで監視していました」

「始め、モニターに映っていたのですが、それが見えた時は見間違いと思いました。だけれども、しばらくして、それは消えていました」

「ええ、保存された映像を見直しましたが……」


 証言2 整備員

「格納庫内でも見ました」

「それは基地内部へ進もうとしていました」

「どこから来たのか。そこまでは見てはいません」

「ええ、捕まえようともしました。でも、触れたら消えてなくなりました」


 証言3 オペレーター

「同じモニターを見ていたはずの子は見えていなかったですよ」

「基地内部で長い間映し出されたので、調査にも行ってもらったのに、その人達を含めて見えた目撃者はなかったようです」

「まったく、不思議なことでした」


 証言4 戦闘要因ファミネイ

「あれを見たのは動力室の近くだったかな……いや、あの時はいろいろと、うろついていたからね」

「実際にこの目で見た時はびっくりしたよ。まあ、その時はちょっと思うところがあったから余計に、びっくりしたんだけどね。日頃なら、この程度のことは日常茶飯……」

「え、そこで何をしようとしていたかって」

「それは……」


 また、証言4の以降の内容に関しては別案件として、まとめてあります。



┌―――――――――――――――――――┐

| * 少女よ、あの火は何の火だ? * |

|    -The fire of St. Erasmo-     |

└―――――――――――――――――――┘



 証言を聞くだけでもバリエーションがあり、少女達の興味を引きそうな内容ではある。


 しかし、話題ならないのは根本がいささか地味なためだ。


「……火の玉か」


 先の証言も火の玉の目撃談で話としては淡々としたモノであった。


 そのため、少女達の話には上がるが、盛り上げには欠く内容だった。


「とはいえ、証言をまとめても、それ以上のことは分からずか」


 実害はないとはこの基地を預かる者、ハヤミにとってはここまで目撃があるのに、単なる話題とは片付けるわけにはいかない。


 そもそも、敵は荒唐無稽、理解不能、解析不能と馬鹿らしさを挙げればキリはない上に、法則、理屈、学術的に説明できないことも多い存在。


 この火の玉だってオカルトじみた話題ではなく、敵、バカピックの仕業と考える方がこの時代では自然である。


「それでターニャ、火の玉に対して何か形跡はないのか」


 ターニャ、この基地で技術関係を取りまとめているファミネイである。


 その位置づけは他のファミネイとは違ってはいるが、それは追い追いということで。


「文字通りの火の玉であれば、火災警報を始めとして、いろいろな機器が動き出すわ。だから、それらに観測はされていない。そして、私自身まだ目にしていない」


 ターニャから見ても、現状でも証言以外の証拠がなく、何より自身も見ていないのでは火の玉という古典的なオカルトにすぎなかった。


「そもそも、見たという子と同じ方向を見ていた他の子では見えなかったというわ。これじゃ、霊感を疑った方がまだ現実的ね」


「確かにオカルトじみた話なら、まだ気は楽だな」


 まだ、この世界で解明されていないことが多いとはいえ、過去におけるオカルトじみたことは解明されてきた。


 火の玉現象は大抵、説明の付く科学現象である。


 そうなってくると、オカルトだからと簡単な割り切りもなかなかできないが、精神的には分からないこととあいまって割り切れやすい。


「そう、それなら、私の仕事じゃない」


 ターニャからすればそう割り切れば、仕事ではなくなる。


 その様子にお互いに笑っている。それは声にも表情にもほとんど出さずに。


  * * *


 明るい日差しの中、ターニャを始めとして、一同が機器を広げている。


「結局、駆り出されるわけだ」


 基地上部、実際は地上。地下で生活する者にとって、もはや地上は異界である。


 コンクリートで補修された滑走路は本来の用途も失っているほどに。その周囲には背の高い草が草原のように半ば、自生している。


 アキラ自身、ここへ来ることはほとんどない上に、元々の地下暮らしで地上の明るさは未だ慣れていない。


「地上の明かりは、慣れていないと毒よ。これを付けておきなさい」


 ターニャからはサングラスが手渡された。自身もサングラスを身につけている。


「ありがとうございます。ターニャ・タチ……」


 アキラはいまだ、彼女の下の名前まで出てこなかった。ターニャとは話す機会は多いが、名前で呼ぶ機会は少ないこともあったからだ。ただ、少し変わった名前で、少し長いことは覚えていたのだが。


「ターニャで構わない。フルネームで覚える必要はないわ、変わった名前だし」


 ターニャはアキラより少し背が高い程度で、少女達では低い部類である。


 その髪は栗色、ブルネットで短くカットされたショートヘア。それでいてくせ毛なのか、そういう風にパーマをかけているのか分からない自然体な髪型。


 だが、ショートヘアのせいで首元には堂々と機械部品が付けられ、それにはコアが付いているのが見えている。本来、首元のコアは戦闘要員にのみに許された特注品。


 それが許されているのはターニャが特別な所以である。


 アキラはターニャから手渡されサングラスをかけた。目の前は少し暗くはなったが、それでも太陽からの明かりはかなり軽減される。


「さて、証言からも火の玉の発生は地上から。そして、基地内部にも侵入している」


「つまり、この草原に何かある可能性がある訳ですね」


「少なくとも、何も分からない以上その可能性をまず潰す必要があるわ」


 草原は風を受けて、たなびくだけで隠された何かを示してくれることは、当然ない。


「この基地上部には隠れてはいるけれど、様々な観測機器が存在しているわ。バカピックに対してだけでなく、天気などの観測も行っている」


「それでも何も見つからないのなら、土の中にでも隠れているのですか」


「いや、地震用にも振動計があるから、たとえモグラが土を掘っていても気がつくようになっているわ」


 その説明のように今の時代、地下に住む人類には空よりも土の中の方が繊細に監視する必要がある。『穴を掘るウサギすら脅威になる』といった諺があるくらいに。


「おそらく、それはないはずよ……」


 機器の用意は完了しており、調べる準備は整えられている。


「では、まずどこから手を付けますか」


 アキラはターニャに尋ねた。ここまで準備して、何の考えもなしではないだろうから。


「この草原も良く育ってきているのだから、刈り取りにはいい時期よ」


「そして、私達は肉体労働」


 レモアはいつもの気怠い口調で、アキラの後ろから声をかける。


「そっちの準備もできているわね」


 ターニャは後ろに位置するレモアにそう声をかける。


 アキラにはそのやりとりは理解できても、根本となる会話の内容は分かっていなかった。


 レモアを初めとするアキラの部下、3名はターニャの火の玉調査における補助として付けられた。それなのに『草原の刈り取り』というのは、完全に内容と一致していない。


「この周囲に生えるのは雑草ではなく、あらゆる素材として使われる植物よ。通常でも繊維、食材等に。アルミカンを使えばさらにバリエーションを増やせる」


 原子レベルに分解して再構築することで様々な形へと変化させる技術、通称アルミカン。


 その技術は本来は食料、衣服、住居などの日常にこそ栄える。


「それに基地周辺に広範囲で自生させているから、戦闘で被害に遭っても、損害は大して問題にならないし、その程度やられるほど我ら以上に柔ではない」


 元はイネ科の仲間から改良された植物で、その生命力は自然相手でも負けることはなく、不自然に自生を続ける。


「観測機器で役に立たないから、実際に足で、この目で見聞きするしかない」


 ターニャは目の前の草原を眺めながら、物思いにふけるかのように間を置き、再び語り出す。


「ひとまず、見通しを良くするためにも、まずは草刈りからね」


 ターニャは微笑んで、応えていた。だが、よくよく考えるとサングラス越しの目は何を考えているのか、真意まで読み取るにはアキラには経験不足であった。


  * * *


 カレンとレモア、ルリカは手作業で植物を刈り続けている。


 ただでさえ、背の高い植物で背の低い少女達、ファミネイではその姿が完全に隠れてしまう。


 少女達には、この草原もジャングルである。


 本来は刈り取りの作業は機械で行うが、今回は火の玉騒動の些細な痕跡も見落とさないためにも手作業で行っている。


 その背には銃器も背負ってはいるが。


「まったく、体よく使われている気がするわ」


 レモアは当然のごとく、ぼやく。


 作業ということで、レモアを始めとして本来のボディスーツを完全に隠す上下一体のツナギに身を包んでいる。


 その上でレモアはボリュームのある髪を耳と同じぐらいの高さで結ってポニーテールにしている。一応なりとも、(あくまで作業に対して)万全なスタイルである。


「実際、草刈り自体は任務、1つだから」


 カレンは応えつつも、草を刈る。手にしているのはナタである。


 ナタといっても、少女達が手にすることでアルミカンを多用して、刃こぼれもなく、その切れ味は常に維持されており、草を刈り取るのに何の抵抗なく切り続けることができる。


「とはいえ、3人で、この広さ、それも手作業よ」


 その草原は少女達には背丈だけでなく、広大さ、面積でもジャングルで、とても手作業で刈り取るにはレモアでなくとも天文学的数字に思えて仕方がない。


「観測できていない以上、この草原の中にも何があるか分からないから」


 とはいえ、草による観測の誤差は本来、問題はない。


 アクティブセンサー、振動計、ソナーなどその他諸々、複合的に解析することで動物はもちろん、その他の異物すら見つけてしまう。


 この草原に例え、1粒のダイヤを落としたとしても、見つけることは容易である。


 問題はそもそも、火の玉の存在を観測できてないことだ。


「つまり、奴ららしいと」


 人類の敵、バカピック。常に堂々と姿を現し、小細工無用での戦闘の方が圧倒的はあるが、しばしば、人類の裏をかき観測機器を無視して素通りすることも決して少なくない。


「奴らも面倒ごとしか起こさないわよね」


「これでも生存を賭けた戦いなのだけれどね」


 カレンも自身の発言ながら、これには苦笑いだった。


「ところで、ルリカは」


「反対側をやっているわ」


「あの斧槍は草を刈るのには便利ね」


 実際、日頃使い慣れたハルバードは草を切るだけなら、広域で一掃にできる。


 だが、素材として有効活用するには根元で切る必要があるため、その長さが逆に作業を阻害する。


 ゆえにルリカはこれもアルミカンの応用で柄を短くして手斧にして、草を切り取っている。


「まったく、退屈ね」


 ふと、退屈がレモアの頭で愉快へと変換される。そして、カレンとは距離を取り、静かに彼女の作業へと取りかかった。カレンはカレンできっちりと草刈りの作業を続ける。


 そして、しばらく会話もなく、当たりは静寂で包まれる。


「わー」


 突然、レモアは声を上げながら飛び出してきた。


 草を頭にくくり付けて、体にも部分的にくっつけて、ある種のカモフラージュをしていた。


 その様子にカレンは反応を示さない。


「反応が悪いわね」


 実際、脅かしたとはいえ、レモアの位置は気配だけでなく、観測機器からも分かっており、偽装をしていることよりも仮装をしていることの方に驚くしかない。


 だけれども、その程度ではいつものことで驚く程度ではない。


「まあ、このままルリカの方へ静か忍び込んでみるのも面白そうね」


「草と一緒に叩き切られるのじゃないかな」


 いつもだったら、そこでもう一言も二言も返すレモアであったが、突然しらけた。


 何か理由があったわけではないが、レモアがふと、奇妙な気配を感じたからだ。それはカレンも同じだったようで、不自然なレモアの様子と同じ様に黙り込んでいる。


「カレン、何か感じた……」


 レモアは静かに尋ねた。


「……ちょっと、違和感が」


 カレンはそう答えて、再度、双方は黙り込む。


 それは確証のない感覚だったが、レモアには少し前にも感じたことがある感覚であった。


 あの時は少し驚いて、退屈しのぎのイタズラが失敗した上に、その後で大目玉を食らうことになったのだが。


「ターニャ、何かそっちに引っかかった」


 レモアは声に出して尋ねるが、実際は少し離れているため通信機器でのやりとりである。それでも音としても、大声で出せば辛うじて聞こえる距離ではあるが。


「貴方達には観測機器があるのだから、データで送りなさい」


 確かにコアには様々な観測機器が備わっている。それはリアルタイムで頭、体にも伝えられる対策としてフィードバックする。その上、記憶としてデータにも残る。


 記憶されたデータは再度、正確な検証が可能だというのに確証のない感覚、違和感など本来、少女達ファミネイにはあり得ないことだ。


 ただ、そのあり得ない状況だからこそ、ターニャは1つ思い当たる節があった。だが、現状で判断するだけの情報は何もない。


 矛盾するが、何もないからこそ思い当たったのだが。


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