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ファミネイの色恋事情 その2

 食堂で今から、食事をする部隊の席に1人の子が入り込んでくる。


「ちょっといいかしら」


 その言葉に第1部隊、一同は彼女の方へと向く。


 そうではないが、別の部隊の人員が1人で乗り込んできた様子にしか見えないからだ。


 別に部隊間で仲が悪いわけではないが、多少イタズラ心のある今の彼女の前ではそう思われる事は仕方が無い。


 彼女の名はルイス。


 ここでは暮らしの実績は中堅といった所で、大抵の事は経験している。どうであれ平穏を維持する仕事にも慣れて、楽しみの少ないこの基地内では楽しさに飢えている。


 そんな中で興味深い話題が目の前にいるのだ。たとえ、多少のリスクを背負ってでも楽しまない方が損である。


「……なんでしょうか」


 彼女、ルイスと視線の合ったカレンは気弱に応える。


 ルイスがカレンに声をかけたのは自身よりも背が低く、気が弱そうに見えたからだ。


 実際、この態度でもその読みは間違いなかった。だから、この話題を振るにはうってつけだと思った。


「貴方、アキラ副司令の部下だったわね。せっかくだから、私にその任を譲ってみない」


 ルイスは直球で尋ねる。


「…………」


 カレンはこの問いかけに沈黙で応える。


 周りも助け船を出さない。部隊間の騒動でないと分かったからだ。


 むしろ、成り行きを若干楽しんでいるのもある。また、よくある新人いびりとして見ている側面もある。


 ただ、カレンはひどくその問いかけに悩んでいる。彼女自身、アキラの部下としての任は色々と思う所があり、一概に答えられる問題ではなかった。


 しばらくの間で、ルイスにはいい流れへなっていく。


「なら……」


「ふーん、代わりたいの」


 ルイスの言葉を遮って、会話に入ってきたのはレモアだった。


 同僚としてのカレンへの助け船としての側面もあるが、ルイスのイタズラっぽい態度に横で黙って話を聞いている事に逆に耐えきれなかった方が大きい。


 そして、レモアもまたそのイタズラ心に火を付けたからだ。その顔は笑ってルイスに向けられている。なぜか、ルイスはその笑みを見て怖さを感じた。


「別に代わってもいいのよ」


 レモアは再度そう語るだけで、それ以上は語らない。間を置いて、その言葉で相手の出方を待っているだけだ。


「ええ、そうよ」


 ルイスは返答で会話を繋ぐだけで、無理に語らない。どこか戦闘時の経験が無理な踏み込みを危険とルイスの頭で判断したからだ。ただ、会話なのに。


「まあ、気持ちは分かります。私も初めはそうでしたから」


 明らかに含みを持たせた言葉でレモアは返してきた。ここでようやく、ルイスはこれはどうであれ戦闘と変わらない事を感じた。


 どちらが、このイタズラ、そしてはこの楽しみを自分のモノにするかと。


 だから、守っていては絶対に負けると判断した。


 むしろ、当人であったカレンは完全に黙って見つめているだけになった。


「ここは年長者として、支えるのがやっぱり筋でしょう」


 新人であるレモア達は周りの誰からも、かわいい妹分に過ぎない。


 だが、それは本人も含めて誰もが知る、弱点とでもいうべき弱みである。いわば、口論でもありきたりな攻め口。


「ですよね」


 レモアは微笑みと共にルイスの言葉に共感してみせる。そして、続ける。


「私もおかしいと思いました。なぜ、私が選ばれたのか。経験のある諸先輩方を置いて、私なのか、と」


 その後に続く言葉は分からないが、ルイスはしまったと感じた。


 見え透いた弱点に飛びついた事に。


 アキラが話題に上がりすぎて、新人という話題を含むはずのカレン、ルリカ、レモアはネタになっていなかった。確かにここではありふれた事だから、気にしていないのもあるが、逆にそんな彼女達が部下に選ばれた理由は気にされてこなかった。


 何か理由があって、然るべきであった。


「……それはたまたまでは」


 ルイスにはその理由は知るよしもない。ここでの経験からその理由をハヤミの思いつきかも知れないと思い、そう返した。


「でも、私はこう考えたのです。私は()()だからでは、と」


 レモア達は基地内では妹分であるが、ファミネイは人工生命体。その優位性は歳の差ではなく、製造過程にある。


 実際、レモアの背の高さを含め、その体格はこの基地内でも大きい部類だ。ルイスの背と比べても、レモアの方が背が高い。


 でも、歳でいえば、一番下。


 そして、与えられた役割も特異的である。何より能力も数字化して見ると、一部では偏りはあるにしろ、ハイスペック。


 それはカレンもルリカにもいえている事。そんな話題性が秘めた存在が目の前に3人もいるのだ。


 だが、レモアはひとまずこの話題、間を持って切り替え、次の言葉に繋げる。


「そもそも、アキラ副司令の部下といっても、単なる上司では無い。私達は副司令が今後、この基地でその地位を築くための盛り上げ役なのよ」


 もはや、相手に話す機会を与えないように、レモアのしゃべりは止まらない。


「私達の成果はすべては、彼のため。たとえ、彼が死ぬような命令を口に出せなくとも、その結果がプラスとなるなら死ぬ事も喜んで実行に移さなくてはいけない」


 その内容はこの任を命じられた時にハヤミから言われた事。


 そして、この任を受けとった際に呪った瞬間もある。代われるのなら代わりたいと。


「私は私の為に、やりたいだけだから、この任を代わってくれるのならうれしいわ」


 半ば、レモアの本心でありながら、返しの言葉とする。その後はわざと間を置き、自身の心にも落ち着きを与える。


 横で聞いているカレンにしても先ほどの問いかけに、沈黙で答えたのはこの部分があるからだ。ただ、その本心はレモアとは少し違う。


 だが、ここまでくると話しかけたルイスにはどの手を打つにしても、高い実力が要求される。


 代わるにしても彼女達以上の実力も示し、奪い取るぐらいの覚悟がなければならない。


 それとも、同情してその悩みを受け止める母性に近いほどの包容力を駆使するか。後はまあ、変化球すら思いつかないが、とにかく何にしても力業で返すだけ実力を要する。


 レモアはこの間で答えられなかった、ルイスに対してトドメを刺しに行く。


「でも、私は()()。彼の今後の為、次世代だから」


 先ほど伏せていた情報だ。


 そう、レモアは次世代型として作られたファミネイ。その性能は今ここにいる他のファミネイとは極端な差は無くとも、相対的に上げられてはいる。


 すべての基地内の人員が代わる頃には、その差は歴然とするだろう。


 そんな次世代を担う、アキラが次世代であるレモア達を部下にするのは当然であり、単純に興味本位で代わりたいということ自体、何の理由にも、選ばれる特徴にもならない。


  確かに部下になりたいという、その思い自体は悪くはないのだが、どこからかレモアとのバトルになってしまったのが最大の敗因であった。


 というか、この流れがそんな勝負事に変わっていたのか、騒動の発端であるルイスも忘れてしまっている。


 とにかく、ルイスは完全に恐怖した。


 これほどのレモアの使命感とこの場に対してイタズラによるイタズラの応戦が両立している事に。ただ、狂っていると感じるほどに。


 これが次世代の力なのか。


「でも、最近はアキラの部下でも、いいかなと思う事はあるのだけど」


 急に、レモアはのろけた雰囲気で答えた。混沌とした雰囲気を一変させる。


 結局、お前もか、ようやく本題を思い出したルイスは再度、初心に戻った事で、再戦のための道筋を考え出す。


 とはいえ、劣勢の状況で起死回生の手はあるのかと必死に考えても出てこないのだが。


 周囲もその動向を見守っている。話題の少ないこの基地内で、この場にいる者達にとって、ささやかな楽しみなのだから。


 事に端を発した単なる色恋事は、もはやここにはわずかに残り、混沌としているだけで、誰もが望んでいる楽しさを演出している。


「ねえ、ルリカはどう思う」


 レモアはルリカにパスを出す。明らかに焚き付けが意図である。


「確かに、経験豊富な先輩方なら、私達よりは立派にお役目を果たしてくれるわね。私達にはまだ命は惜しいですから」


 これはルリカの本意では無いが、レモアに話を合わせているからだ。


 いつもレモアに相手をしているだけに、この手のパスも慣れている。


「まあ、貴方達にそこまで言われれば、私が手本を見せるしかないわね」


 もはや、ルイスはやけくそである。流れはどうであれ、本題に関しては達成出来そうでもあるし。


「確かにみんなでやっていくのなら、楽しいですね。お願いしましょうよ」


 カレンはレモアとルリカの方を見て、そう語っていた。


 どこか話の内容がかみ合ってはいないが、カレンにはルイスが手助けしてくれると勘違いというか、早とちりをした様だ。


 レモアもルリカも、カレンのその天然さを知るから、その意図を読み取れたが、ルイスはその言葉の意味を今ひとつ理解できず、レモアとは違う攻め方と思い戸惑っている。


 だが、レモアはこの変化球に対して、受け止めパスとして、再度、相手側へとシュートをしようとする。


「確かに先輩がサポートして頂ければ、百人力ですよ」


 レモアはカレンの意見に乗ってみせる。この混沌とした場を収める為にも。


 確かにこの場は楽しい事だが、未だ食事もお預けという状況を思い出したからだ。


 このまま続けていても、収拾が付かず泥沼になり食事どころの騒ぎではなくなってしまう。まず、目の前に用意された食事の楽しみを片付ける必要がある事が、レモアにとって、今、この場における、優先すべき事項と変更されたからだ。


 それを守るなら、相手に逃げ道を用意する事は決して悪い事ではない。


「まあ、そう、そうね。今度、私がハヤミ司令にはそう相談してみるわ」


 ルイスは相手の用意された道筋とはいえ、自身の落とし所としても妥協できる点であった。ここは素直にそれを受け入れる。


 この場はカレンの天然に助けられたと誰もが思った。


 ただ、当のカレンはそんな気はなく、ただ思った事を口にしていただけだが。



 実際、色恋事よりも少女達は楽しい事が何より大事。

 目的や手段を忘れるほどに。


のんびりと更新していきます。

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