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第4話

前回の回想の続きです。

 私を買い付けた老父は、私を奴隷としてではなく、一人の女の子として家族に迎え入れてくれた。

 彼は私に読み書きを教え、お金の計算を教え、本当の孫娘のように可愛がってくれた。

 奴隷として売られていた頃とは大違い。私なんかがこんなにも幸せで本当によいのだろうかと、身に余る暖かさが申し訳なく思えることも多かった。


 それでも、彼が大恩人であることに変わりはない。

 彼のことを「おじいさま」と呼んで慕うようになった私は、足腰の悪い彼に代わって家事や炊事をすべてこなした。

 私に幸福を与えてくれた彼に、私もできる限りの幸福を返してあげようと思った。

 自分が奴隷であることなど忘れてしまうような、どこまでも温かい日々。彼さえ一緒にいてくれれば、私は他に何もいらなかった。


 聞いた話では、おじいさまには妻と息子がいたらしい。

 しかし息子は内戦に駆り出されて命を落とし、妻もしばらく前に先立ったのだという。


 一人でこの家に住むことにも慣れてきた頃だったけれど、おじいさまはそれと同時に言いようのない寂しさを覚えるようになったと私は聞いた。

 そして彼は、ついに出会うことの叶わなかった孫の代わりに身寄りのない子どもを引き取ろうと、貯めこんでいた財産のほとんどを持って奴隷商のもとを訪れたらしい。


 そうして選ばれたのが、奴隷としての価値すらないと判断されたこの私だった。

 そう知った私は、自分の命のすべてをこの人のために使おうと決めた。

 彼を愛し、彼に愛されるためだけに生きられれば、それが私の幸せだと、そう思った。


 たくさん一緒に笑った。たくさん叱られて泣いた。そのすべての日々には、おじいさまが私の幸福を思ってくれる愛情が溢れていた。

 奴隷商から引き取った当時よりも、私はずっと性格が明るくなったとおじいさまは言っていた。

 それもすべて彼のおかげだ。彼がくれた幸せが、灰色だった私の世界に彩りを与えてくれたのだから。


 しかし、いつまでも続くと思っていたそんな日常は、私が彼に引き取られて十年が過ぎたときに突然終わりを告げた。

 奴隷商に拾われた時が一歳だったと仮定すれば、私は十六歳になっているだろう。

 そんな年、私とおじいさまの住んでいる村は、何の前触れもなくある災厄に見舞われた。村人たち数人が、原因不明の病に苦しみ始めたのだ。


 高熱と嘔吐、そして全身の赤い発疹。

 小さく貧しい村であったため医者はおらず、村人たちは神に祈る以外に打つ手がない状態だった。

 しかしその祈りは届かず、村人たちは一人、また一人と命を落としていく。そしてその病魔の毒牙は、ついに私のおじいさまの身体をも蝕んでいった。


 私は必死に看病をした。彼を失うことは、私の世界が壊れることと同じだと思ったから。

 しかし、どんなに栄養のある食事を摂らせても、どんなに効果があると噂される薬草を試しても、彼が回復することはなかった。


 そしてついに、おじいさまは息を引き取った。村で九人目の犠牲者だった。

 土砂降りの雨の中、一人で彼を埋葬した日、私は一晩ベッドで泣き崩れていた。


 おじいさまにはいろんなことを教わった。だから私は、きっとこれからは一人でも生きていけるだろう。

 しかし、生きていく力があることと、生きていく意味があることはまた別問題だ。最愛の家族を失った私は、この村で一人生きていくことに何の意味があるのか、まるで見えてなどいなかった。


 そんな折、私の身には夜明けと同時に不運が襲い掛かった。

 村の男たちが、私とおじいさまの家に突然殴りこんできたのだ。

 最初はわけがわからなかった。けれど彼らに取り押さえられ、家財を次々に奪われるうちにおおよその察しはついたものだった。


 おじいさまが奴隷である私を孫として迎えたことを、村人たちは随分気味悪がっていた。家畜なんかをそんなに大事に可愛がって、頭がおかしい人なのだと。

 そんな彼らが、おじいさまが亡くなり奴隷の娘一人になったこの家を放っておくはずがない。

 おじいさまのなけなしの私財は貧しい村にすべて奪われ、私は奴隷本来の扱いに逆戻りとなった――その結果が、精霊の森への供物である。


 村人たちは何の根拠もなく、疫病の問題を『森の魔法使い』の仕業と決めつけた。それを解決するために森に供物を捧げようという彼らの行いは、まるで理にかなっていない横暴だ。

 しかし相手は村人全員。私一人立ち向かったところでどうにかなるはずなどない。

 そして私は森へと連れ出された。汚い外套を羽織らされたのは、背中にある火傷の跡が目に毒だと村人が嫌悪したからだ。


 もう、何もかもどうでもいい。

 おじいさまのいないこの村で、このような隣人たちと生きていても、仕方がない。

 このままおじいさまの後を追ったほうがずっと有意義だと思った。けれど私という命には、どこまでも特殊な事例が重なるものらしい。


 そう。死を覚悟した途端、私はまたも命拾いすることになったのだ。

 そんな私を次に拾ったのは、森の中で突然ひょっこりと現れた、長い金髪を揺らす碧眼の美青年であった。

これで回想は終わりです。次話からは戻ります。

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