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いつも通りの、でも少し慣れないベット。そして少し高めの白い天井、重く静まり返った部屋。
「・・・・・・・・」
重い体を起こしながら太陽の暖かな光が差し込んでいる窓を眺める。外では鳥ではない何かが複数飛び交っていた。太陽も東からではなく西の方角から昇っている。
こっちに来てから何日たったのだろうか。俺は毎日こうやって自分のベットで横になっているだけ。シェーレは俺の分の朝食をつくると毎日どこかへ出かけていく。正直気になっているが聞く気にもなれない。
コンコン
ノックの音が部屋に響く。
「失礼します」
「・・・・・・・・・・・」
そこへいつもと同じように俺の分の朝食を持ってきたシェーレ。シェーレの作る料理はうまく、バランスのとれたものばかり。その証拠に以前の細かった俺の体も少しはましなものになっていた。
「レオさん寝癖ひどいですよ。それに髪もだいぶ長いです・・・・・・・・・あっ、今度私が切りましょうか?」
確かに俺の髪は長い。後ろ髪はほとんど女と同じ、前髪は目を完全に覆い尽くしてしまっている。だがその方が人と目を合わさないで済むから俺にとっては都合がよかった。特に問題があるわけでもない。
「・・・・・・・・大丈夫だ」
「そうですか・・・・・」
そういうとシェーレの顔が少しだけ暗くなってしまった。
それにしても今日もまた出かけるのだろうか。シェーレはベットの近くのテーブルに皿を置くとドアの方に戻っていく。
「少しは外にも出てくださいね」
「・・・・・・ああ」
「では私は行くので」
そういってドアに手をかけたところで
「・・・・・待ってくれ」
俺は無意識に言葉を発していた。顔だけこちらに向けるシェーレ。
「どうかしましたか?」
なんで引き留めたのか自分でもわからない。
「・・・・・・・・いや何でもない」
「そうですか?では行ってきます」
結局口から出たのはそんな一言だけだった。部屋が再び静まり返り、体から力を抜くとそのままベットに倒れこんだ。
*****
街の中、大勢の人々でこみあっている大通り。その脇には何件もの店が建ち並び商売をしている。色とりどりな野菜や果実などが並んでいる八百屋、男性服から女性服まで売られている服屋。中には怪しげな雰囲気を漂わせている店もある。
「らっしゃい!・・・・・ってシェーレちゃんじゃないのぉ。最近見ないから心配したのよ」
そんな店の一つに訪れていたシェーレ。そして店の前で接客をする若い女性。
「すいません、仕事が忙しくて」
シェーレはフードを深く被っており顔が見えなくなっていしまっている。
「いいのいいの・・・・・・・あっそうだ!」
そういうなり女性は店の中に入っていった。そして大量の果実が入ったが籠を手に持って戻ってきた。どれもとれたての新鮮なものだ。
「これ持っていきなよ」
「えっ流石にそれは・・・・・」
「気にしなさんなって。なんか取れ過ぎちゃってさ困ってたのよ」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。あとそっちのもください」
「あいよ」
果実の入った少し大きめの籠と野菜の入った袋を受け取り、代わりに代金を渡す。
「毎度あり」
「ありがとうございます」
女性に手を振りながら八百屋を後にし、帰路につく。もう夕暮れが近いというのに大通りはこみあい、思うようにすすめかった。それに持っている物や背中の籠が重くてくたくただ。
「ふぅぅ・・・・・・・・きゃっ」
前を見ていなかったせいか誰かと衝突してしまった。手に持っていたものや背中の籠から果物が地面に零れ落ちてしまう。
「す、すいません」
「いえいえ大丈夫ですよ・・・・・・」
よかった、どうやらいい人のようだ。そう思いながら立ち上がろうとすると肩に何か当たった。それも金属のように硬い何かが。
「消えてもらいますから」
「え」
次の瞬間、鋭い斬撃音と共に鮮血が飛び散った。
「・・・・・・・」
「へぇー、斬撃を手で受け止めるなんて君面白いね」
「・・・・・・・・じゃあもっと面白くしてやろうか」
「・・・・・・ひっ」
気づけば自分の首元には刃が。だがそれは数センチ横で止まっている。その先では金髪の青年が笑っていた。それも楽しそうに。
「本当に面白いね。君と剣を交えるのも一興だけど・・・・・・・」
青年はそういいながら周りを見て
「また今度しようか、じゃあね」
「・・・・・・・・」
そういうと青年は十メートルはある家の屋根に飛び乗るという人間離れした身体能力を見せると去ってしまった。
「・・・・・・・おい」
「・・・・・あっはい」
気づけば自分の後ろには玲音がいた。それだけじゃない、通行人の人々も立ち止まっている。そして何よりも玲音の血だらけの右手。
「だ、大丈夫なんですか!」
「・・・・あんまり騒ぐな。それより早くここから離れるぞ」
玲音は自分の右手など気にせず、シェーレを担ぐと人込みの中に消えていった。
*****
「・・・・・」
「痛くないですか?」
小屋に戻るとシェーレが傷の処置をしてくれたのだが
「・・・・・あ、ああ」
おかげで右手が包帯で覆い尽くされ使えない状態だ。こういう事には慣れていないのか、それとも不器用なのか。彼女の料理を見る限り不器用というわけではないだろうが。ともあれこれでは右手が使えない。まあ思ったより傷が深かったためどちらにせよ使える状態ではなかったのが。
「・・・・その・・・・・すいません、私のせいで」
「・・・・・・」
こういう場合なんて声をかければいいのかわからない。やがて小屋の中は静まり返る。そして座っていた椅子から立ち上がろうとした時
「・・・・・そういえば何故レオさんがあそこに?」
今一番聞かれたくない事だった。
「・・・・・・お前が外に出ろって言ったんだろ」
「そうですけど・・・・・・・・私の後をつけてたんですか?」
「・・・・・・偶然だ」
「も、もしかして・・・・・・・心配してくださったんですか?」
「そんな訳ないだろ」
彼女の後をつけていったのはいつも何をしに行っているのかを知りたかっただけだ。とんだ邪魔が入ったせいでそれも今じゃわからずじまいなってしまった。
「・・・・・お前恨まれてるのか?」
「急に何を言うのんですか!そんなわけないです!」
確かにあの男も恨みがあってってわけじゃなさそうだった。むしろ楽し気にシェーレを斬ろうとしていたし。
「・・・・・・ならなんで襲われる」
「それは・・・・・・」
シェーレはなぜか視線を逸らして黙りこんでしまう。何か思い当たる事でもあるんだろう。
「・・・・・あの、言わなきゃだめですか」
「・・・・・・・別に」
聞きたくないわけじゃないが、あまり深く関わりたくなかった。これ以上入り込んでしまったら彼女のことを信じてしまう。また過ちを繰り返してしまう気がして恐かった。
「・・・・・・・・風呂入ってくる」
「・・・・・・・・あっ待ってください!片手じゃ不便でしょうからお背中流します!」