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誰が為に君は逝く  作者: 黒猫参謀
第一章
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二節 : プライベート講義

 自分以外の如何なる生物の生体反応も感じられぬ荒野に、唯一人佇む《異形》。

 二メートルを優に超える体躯に節榑立った全身。

 そして、《異形》を特徴付ける、細身だが、異様に発達した筋と爪に、骨格を象った怖気が走る外見。

 《異形》が一歩踏み出す度に、大地に吸い込み切れなかった水分が、ばしゃり、ばしゃり――っと音を立てる。

 無論、タダの水ではない。鉄分を含んでいるため、空気との反応により、赤黒く変色している液体――《血》だ。しかも、見渡す限りの平野全体に広がり尚、吸い込み切れない程の異常な量の血液である。

 《異形》から出たにしては多過ぎる想像通り、この大量の血の持ち主達は、今や物云わぬタダの肉塊となり、其処此処に転がっているが、その数も尋常でなく、ある程度原型が解るモノもあれば、最早元が何であったのか解らない程のモノ迄、多種多様である。

 《異形》が立ち止まり、顔と思われる部位を持ち上げて空を見上げる。

 雲一つ無い青々とした晴天――ではなく、陰鬱な大地と同様、暗く厚い雲に覆われており、太陽の光どころか、月の輝きすら見付ける事が出来ないため、《異形》は再び顔を下げ、俯いてしまった。


「……この《世界》に居る《天使》と《悪魔》は、全て《殺した》……」


 見た者に恐怖を与える外見とは裏腹に、青年の様な若い響きの声で言葉を紡ぐ《異形》。


「だけど――」


 《異形》が軽く腕を振るうと、空間に切れ目が作られ、その切れ目の間から、恐怖に収縮する瞳で《異形》を見詰める存在が居た。 支えが無いのに頭の上に光輪が存在し、鳥の翼の様なモノを背中から生やした、《異形》と正反対の見目麗しい麗人――《天使》が自らを護る様に両手で自分の身体を抱いていた。

 《異形》は振るった腕を伸ばすと、《天使》の頭部を徐ろに掴み、空間の切れ目から無理矢理引き摺り出した。


「いやああぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁっ!!」


 絹を裂く様な悲鳴を上げながら、空間の切れ目から引き摺り出された《天使》は、無造作に地面の上に投げ出され、純白であった翼や衣服が一瞬にして赤黒く染まった。


「君みたいに、《隙間》に逃げ込んだのが、未だ居る……」


 《異形》から少しでも距離を取るために、立ち上がり、駆け出したが、何かに足を取られて無様にも《天使》は顔から血溜まりへと飛び込んでしまった。


「……っ?!」


 足を取られたモノを確認した瞬間、《天使》は驚愕に目を見開き、這い寄った。


「あ、あぁああぁぁぁ……あぁぁぁ……こんな、こんなの……っ!!」


 《天使》は辛うじて原型を留めている頭部であろうモノをそれぞれの手に持ち、衣服が血濡れになるのも構わず胸に抱いて、嗚咽を漏らした。


「ん? ……あぁ、ソレは――」

「人でなし! この《悪魔》め!!」


 面を上げて《異形》を罵倒する《天使》は、美しいからこそ、顔を歪ませる程の殺意を込めた怒りは凄まじい。

並みの存在ならば、それだけで心臓を鷲掴みにされた様な威圧感を受けるが、向けられた《異形》は、小首を傾げるだけで、意に介していない様である。


「確かに、僕は人間でもなければ、《悪魔》の《要素》を使って創られたから、それは間違いではないね」

「ふ、ふざけ――」

「巫山戯てなんていないよ。それにさ、僕には君達《天使》の《因子》も使われているから、この通り――」


 《異形》が節榑立った指で頭頂部を指差すと、幾重にもなる光輪が出現した。


「えっ?? ……そ、そんな……その《ハイロゥ》は……っ!?」

「云っただろう? 僕には君達《天使》の《因子》も使われている、っとね」

「こ、この様な残虐の限りを尽くすモノが我等と同じ《因子》を持つだと……在り得ぬ! そんなのは、断じて在り得ぬ!」

「否定したいのは解るけどさ、君達は自分の行動を省みた事はあるかい?」


 《異形》からの思わぬ質問に、《天使》は虚を突かれるが、直ぐに眉根を寄せ、嫌悪の表情を浮かべて答える。


「我等は《主》の命により、《人類の救済》と《悪魔の討伐》を行っている! 何を省みる事があるというのだ?!」


 それだよ、それ――っと《異形》は呆れとも取れる響きで返した。


「人類の命を奪う事が《救済》? 笑わせないでよ。《死ぬ事でしか、人は全きなる安寧を得られない》とか云い出して、多量殺戮に走ったどこぞの狂った仏法僧じゃないんだから、そんなの有難迷惑だ」

「我等の《主》の教えに従わぬ人の子がいけぬのだ!」

「へぇ~、《俺の教えに従わないのはみんな殺す》ねぇ~……何処かの暴君と同じ考えだ。そんなのが全知全能の《神》だなんて、笑わせてくれるよ」

「キ、キサマ~……我等が《主》を愚弄するか……?」


 胸に抱えている頭部であるモノが、カタカタ振るえる程に怒りを露わにする《天使》に対し、何の悪びれもなく、うん――っと《異形》は答える。


「当たり前だよ。《セカイ》から外されてもいない、タダの《カラード》風情が、全知全能? 《神》?? ――調子に乗り過ぎだ。《純色》であるのは認めるけど、そういうのは、外されてから云え」

「許さん……許さんぞ、キサマ!!」

「うん、許さないで良いよ。僕も君達《天使》は勿論、《神》も《悪魔》も《人類に仇なす全ての存在》を許さないからさ」


 怒髪天を衝く勢いの《天使》に《異形》は変わらぬ調子で返し、コレ以上の言葉は無意味と一歩踏み出した。

 ばしゃり――っと血が跳ねて、《異形》の脚部を更に赤く染める。

 《天使》は胸に抱いていた頭部を二つ、地に置くと、その目を閉じさせ、ゆっくりと立ち上がる。

 面を上げた彼女の瞳には光が宿っており、視線で《異形》を真っ直ぐに射抜く《天使》。

 ほぉ……――っと相手の変わり様に、《異形》は思わず感嘆の声を零した。


 実力差は絶望的。


 目の前の《天使》クラスでは、如何に抵抗しようとも、《異形》に傷一つ負わす事は出来ず、逆に《異形》からの何気ない腕の一振りで、醜悪な肉塊へと変えられてしまう程であるのに、一つも諦めが見えない。

 これまでも何度か経験した奇妙な感覚に、《異形》の頭の中に言葉に出来ない、ナニカが浮かんだ。

 これは一体……? ――自分の頭の中に浮かんだ不思議な感覚に、《異形》は思わず動きを止めて、目の前の《天使》の行動を待つ事にした。


「……《化け物》……訊きたい事がある……」

「何かな?」

「キサマが何の感慨も無く、タダの《魔法》の《結果》として屠った、わたしが抱いていた頭部の二人は、仲の良い兄妹だったんだ……キサマは……キサマは、その様な愛に溢れた存在を殺して、何も思わないのか……?」

「……君は、自分達が殺した《人類》の中に、その兄妹と同じ様に、愛に溢れた存在がいなかったと思うかい?」

「はっ! 脆弱で不完全で、《主》の庇護がなければ、生きてもいけぬ様な、そんな只のか――」


 そこまで言葉を進めた所で、何かに気付いたのか、《天使》が突然言葉を止めて、目を見開き、俯いてしまった。


「……あぁ、そうか……キサマは、我々をその様に捉えているのだな……」

「漸く解った様だね。《そういう事》なんだよ、《天使》……」


 《異形》はゆっくりと《天使》に近寄り、頭部へと手を伸ばす。


「………………おい、《化け物》、最期に一つだけ確認させろ……」

「構わないよ。何だい? 《天使》」


 《異形》の巨大な手が《天使》の頭部を掴み、彼にとっては、少し力を込めるだけで全てが終わる所で、彼女から言葉を掛けられ、力を込めるのを止めた。


「キサマならば可能であるからこそ、訊くが……我等《天使》や憎き《悪魔》全てを滅ぼし、更に《主》迄をもその手に掛けた後、我等超常なる存在が居ない《世界》で、キサマは何をするのだ?」

「僕の役目は、《人類に仇なす全ての存在を消す事》……だから、それを続けるだけさ」

「そう、か……」


 互いに言葉は交わさず、静かな時が流れる。


 そして――



   ******



「――っ?!」


 ベッドから飛び起き、慶護は周囲に視線を走らせる。

 頭を振って何度も周囲を確認するが、先程迄の地獄絵図とは違い、八畳程の広さを有した石造りの部屋であるため、徐々に落ち着きを取り戻していく。


「………………何だ……夢、か……」


 余りにも生々しい感触であったため、今この瞬間も夢なのか現実なのか解らなくて、混乱してしまった慶護であるが、先程迄の凄惨な光景が、夢である事に安堵し、深呼吸をして気持ちを切り替えた。


「……おはよう、ケイゴ君」

「っ?!!」


 突然声を掛けられて、慌ててベッドの端に移動しつつ、慶護は左半身になって構える。

 細身ではあるが、百九十近くある長身の男がいたのなら、先程見回した時に確認できる筈なのに、その気配すら感じなかった。

 さりとて、もう一度、八畳程の石造りの部屋に視線を走らせるが、それ程の長身な男が隠れられるモノが何処にもない。

 突然現れた様に感じられたため、口元に笑みを浮かべて飄々とした雰囲気の男を視界に捉えたまま、慶護は動きを止める。


「あぁ……ごめん、ごめん、突然声を掛けられたら、驚くよね。そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。君に危害を加えるつもりは全くないからね」


 信じてもらえるかどうかは解らないけど――っと苦笑しながら男は付け加えた。

 両の掌を慶護の方に向けて、敵意がない事を態度でも示す男に、少なくとも、今この場で襲われる事はないだろうと結論付け、慶護は構えを解いた。


「信じてもらえて助かるよ」


 両手を下ろしながら、《昇等試験》の担当官を任される程の実力者で《学園》の《教授》である男――ユーベルは、慶護に近寄り、ベッドに腰掛ける。


「……解らない事だらけなので、幾つか質問をしても良いですか?」


 答えられる範囲の事なら――っと笑顔で返され、慶護は肩を竦める。


「それでは……先ず、ココは何処ですか?」

「ココとは……この施設自体の事かな? それとも――」


 ユーベルは立てた人差し指をクルリと回す。


「この世界の事かな?」


 両方です――っと即答する慶護。

 だよね~――っと肩を竦めるユーベル。


「僕も僕の知り得る事しか語れないけど……それでも良いかい?」


 十分です――っと慶護が頷くと、笑みを浮かべて、ユーベルはベッドから腰を上げて数歩前に出る。


「物を教える事を生業としている関係上、何かを伝える時には、形も入りたくなっちゃう性分でね」


 パチン――っとユーベルが指を鳴らすと、朝日が差し込む木枠の窓が触れずに閉まった。

 ユーベルが慶護の方に振り返ると、足元に淡い緑色をした《法陣》が浮かび上がり、中から《教授》を挟む形で、前方に教卓が、背後に黒板が迫り出して来た。

 若干暗くなった部屋を明るくするため、壁に掛けてあったランプにも自動的に火が灯り、部屋全体を柔らかな光が包み込む。何もかもが唐突に始まり、慶護が呆気に取られている内に、ユーベルの方の準備は終わった様で、《法陣》が消え、ランプの揺らめく明かりのみとなる。教卓に両手を付き、やや前傾姿勢となるユーベル。


「今僕が様々な特殊な現象を引き起こしたのは、《法術》と呼ばれる特殊な技術を使用したからなんだ」


 《法術》……――っと慶護がオウム返しの様に言葉を口にするとユーベルは静かに頷く。


「そうだね~……《法術》の説明をする前に、この世界について説明するよ」


 ユーベルが人差し指を立てると、チョークが勝手に浮かび上がり、意思を持っているかの如く動いて、黒板に文字を描いていく。

 余りにも自然な動きであったため、初めは違和感すら起きなかったが、ふと、冷静に今の状況を客観的に考えた慶護は、どんな手品を使っているのかとマジマジと眺めた。


「先ず、この世界に存在する知性体で最も多く存在するのが、僕の様な人の形をしていて、様々な外見や文化を持ち、ある程度の意思疎通と外交が可能な僕達《人類》。《人類》よりも数は少ないだろうけど、遥かに頑強で、力強く、今僕が使った《法術》よりも強烈な《魔術》を行使する上に、《人類》を敵対視している《歪んだ種族(ストレイン)》。大きく分けてこの二種が存在するんだ」


 チョークが動き、左側に《人類》、右側に《歪んだ種族》と黒板に文字を書く。

 《歪んだ種族》という言葉に、思わず、自分がこっちの世界に来た時に、最初に見た《使い魔》達の姿を思い出し、慶護は眉根を寄せる。


「それにしては、僕がこっちの世界に来て直ぐに見たのは、随分と大人しかったですね」

「あぁ、あの子達は、《使い魔》だよ。見た目は《歪んだ種族》に凄く良く似ているけど、全くの別モノさ」


 《使い魔》……――っと再び自分が元居た世界では聞き慣れない言葉を云われて、口内で繰り返す慶護。

 チョークが動いて、《人類》の下に《使い魔》と書き、《歪んだ種族》とイコールで結ぶが、直ぐにそれにバツのマークを加える。


「《使い魔》はね、召喚主の《魂の欠片》を核として、《法陣》による《円環加速》や《増幅》をされて、当人の限界に迄高められた《法力》を元に、《コトワリ》の向こう側に広がる《生命の樹》によって無限に分けられた《可能性》の先から、此方側に《持って来た》召喚主と同一の存在だよ。そして、《魂の契約》を結ぶ事で、《使い魔》が元いた所との《回廊》が繋がるから、《顕現化》するには、《呼び水》となる《法力》が必要だけど、通常の召喚とは違って、複雑な《詠唱》や高価な《触媒》に、高度な《法陣》等を用いずとも、いつでも瞬時に呼び出す事が可能なのさ」


 畳み掛けられる様に言葉を続けられたが、幾つかゲームや漫画の中で見聞きした事のある単語が出て来たので、慶護は頭の中で一つ一つ整理する。

 《使い魔》《魂の欠片》《法陣》《法力》《コトワリ》《生命の樹》《魂の契約》……。

 これに反応したら、丸っきりファンタジーの世界か頭の中身が悲しい人種だな……――っと思いつつ、試しに質問をしてみる事にした。


「《使い魔》ってのは、その……《召喚獣》とは違うのですか?」

「おぉっ! 《召喚獣》を知っているのなら、話が早い!」


 ココが丸っきりファンタジーの世界か目の前の笑みを浮かべている人物の頭の中身が悲しいかのどちらかである事となり、慶護は若干頬が引き攣ってしまった。

 チョークという無機質で誰かが――十中八九ユーベルだろうが――操っているだけなのに、何処か嬉しそうに揺れ動き、《使い魔》の左隣りに《召喚獣》と記し、《使い魔》とイコールで結ぶ。


「《召喚獣》もね、《コトワリ》の向こう側に広がる《生命の樹》によって無限に分けられた《可能性》の一つである《超常なる存在》を此方側に持って来て、顕現化させるのさ。だけど、《使い魔》と違って、自分の《魂の欠片》を核とせず、その《召喚獣》に由来するモノを《触媒》として核とする上に、《魂の契約》を結ぶ事も、それによる《回廊》を繋ぐ事も出来ないから、毎回複雑な《詠唱》や高価な《触媒》に、高度な《法陣》等を用いなければならないんだ」


 更に! ――っとユーベルは上半身を教卓から乗り出して力説する。


「此方側に持って来れるのは、余程の《法術師》でなければ、姿形がそっくりだけど、能力は雲泥の差の《化身》なのさ。まぁ、その《化身》ですら、かなりの力を有するから、此方側に留めるために顕現化している間は延々と《法力》も消費されてしまうんだ。故に《使い魔》を召喚して《魂の契約》を結んだ《法術師》は、強力な《召喚獣》を喚び出す事は余りしないね」


 チョークが動き、《使い魔》と《召喚獣》を結んだイコールに斜線を加える。


「後、召喚《獣》って書くけど、決して獣の形をしている存在だけじゃなくて、人型のもいるし、遥か昔に存在したと云われている《天使》や《悪魔》に似た外見のもいるみたいだけど、向こう側の《超常なる存在》の事を総称して《召喚獣》って云っているんだ」


 先程の夢の中に居た《天使》っという言葉が出て来て、慶護は思わず口を開いた。


「今のを聞く限りですと、《天使》や《悪魔》はこの世界では、もう存在しないのですか?」


 多分ね……――っと何処か寂しげにユーベルは答える。

 それは……何故、ですか?? ――っと率直な質問を返す慶護。


「もう極一部の文献でしか確認が出来ないけど、今から数千年前に《天使》と《悪魔》による《最終戦争》が勃発して、巻き込まれる形で《人類》も参加する事となったのさ」


 でもね――っとユーベルは両の掌を上に向けて肩を竦める。


「《天使》や《悪魔》に比べて、《人類》は余りにも脆弱で、当時の全人口の八割近くを失い、もはや絶滅も秒読みとなった時に、最後の足掻きとして、当時の技術と《法術》の全てと《永劫の名を冠する存在》の協力によって、最終決戦兵器を造り、《人類に仇なす全ての存在》を排除したからなんだ……」

「その、最終決戦兵器の名前は……?」


 何故か緊張で喉が渇き、言葉に詰まるが、訊かずにはいられず慶護は口を開いた。

 ユーベルはゆっくりと息を吐きだし、答える。


「僕も《真名》は解らないけど、文献には、《人造神威》――っと書かれていたね」


 黒板に《人造神威》っと書かれ、軽い痛みを頭に覚えた慶護の眉根が寄る。


「おや? どうしたんだい? ケイゴ君」

「あっ、いえ……ちょっと僕の居た世界とは余りにも違い過ぎる事だらけで、少々頭の中が混乱しているだけです……」

「へぇ~、元居た世界の記憶が在るんだ……」

「そんなに珍しい事なんですか?」


 珍しいよ~――っといつの間にか呼び寄せていた椅子にユーベルは腰掛ける。


「ケイゴ君が《歪んだ種族》と勘違いした《使い魔》達は、此方側に持って来る間のナニカが作用するのか、自分達が居た世界の記憶を一切持っていないんだ。故に《コトワリ》の向こう側――《生命の樹》の先がどうなっているのか、僕達は全く解らないのさ」


 お手上げだね――っと苦笑してユーベルは片手を上に向ける。


「でもさ、だからこそ、向こう側を視てみたいと、知りたいと、思わないかい?」

「それは……――」


 僕はね――っとユーベルは慶護が答えるよりも早く言葉を重ねる。


「ケイゴ君が此方側に喚び出されたのは、何かの《予兆》じゃないかと思っているんだ。その《予兆》が善いか悪いかは別として、ナニカが起きるかもしれない、ってね」


 笑みを浮かべてはいるが、揺るがない自信を持った真っ直ぐな視線を向けられ、慶護は思わず顔を背けて視線を外した。


「買い被り過ぎですよ……僕は――」


 そこで一瞬だけ言葉に詰まるが、慶護は頭を小さく振って、続ける。


「怪我をしても、少しだけ早く治る以外は、何処にでも居る普通の人間です。元居た世界で、何かしらの偉大な功績を残した訳でもなければ、この世界の、え~と~……《法術》? を使う事も出来ない、只の人間です……」


 《只の人間》か……――っとユーベルは口の中で言葉を転がす。


「怪我をしても早く治るって十分凄い事だと思うけどね」

「でも、それ以外は、本当に何の変哲も無い人間ですよ?」

「う~ん……残念だけど、それは余り考えられないね。さっき軽く説明した通り、《使い魔》は召喚主と同一の存在なんだけど、君を此方側に喚び出したのは、リゼットって名前の女の子なんだ。それだと、本来召喚される《使い魔》も《女性》でなければならないのに、ケイゴ君は《男性》だ。もう、この時点で通常と違うのに、更に、君は《普通の人間》なんだ」

「だから、僕は只の人間だと――」


 そうじゃないんだよ――っと笑顔であるが有無を云わさぬ意思が込められていたため、慶護は言葉を詰まらせ、ユーベルの方へと顔を向ける。


「極端な云い方をしちゃうと、《使い魔》っというのは、召喚主の《便利な道具》でなければならない。なのに、ケイゴ君は怪我をしても治りが早い以外は、《法術》も使えないし、元の世界で何かしらの偉大な功績を残した人物でも無いみたいだから、そうなると、召喚主にとっての《便利な道具》にそこまで成り得ないのに、何故かココに居る」

「そのリゼットって娘が、《使い魔》の《召喚》に、失敗しただけじゃないんですか?」

「僕もそれを疑ったけど……残念ながら、《使い魔》の《召喚》は《成功》しているんだ」


 その《契約の紋様》が何よりの証拠――っとユーベルに左目の辺りを指差された慶護。


 そこで漸く、慶護は、起きてから余りにも非常識な事象の連続で、自分の視界が普段よりも狭い事に漸く気付いた。恐る恐る自分の左目の辺りに触れると、革製の眼帯が付けられている様だ。


「あれ? ……僕は目が悪い訳じゃないのに、何で眼帯なんかが……」


 念のためだよ――っとこれまた訳の解らぬ事をユーベルから云われ、首を傾げる。


「《契約の紋様》ってのは、現れる場所と形によって、その《使い魔》と召喚主の性質がある程度解るんだ。目に《契約の紋様》が現れるのは、そんなに珍しい事じゃないけど、召喚主と同じ場所だし、ケイゴ君の召喚の際に色々とコレ迄とは違う事が連続で起きたから、念のため、隠した方が良いと判断して、眼帯を付けさせてもらったよ」


 ふむ……――っと納得したのか謎な態度を取り、慶護は腕を組んだ。


「……今迄説明して頂いた内容が、真実であるのは、アナタが今も黒板に手を使わずにチョークで文字を書いている所からして解りますが……僕が元いた世界では、こういうのを《ファンタジー》っと云って、《在り得ない》事としていました」


 《ファンタジー》か~……――っとユーベルは顎に手を当て、髭を撫でる。


「それは、《法術》を体系化出来ていなくて、汎用的な技術に落とし込めていないだけだと思うけどな~」


 ある程度の素質は必要だけどね――っとユーベルは苦笑して、立てた指をクルクル回す。


「僕からしたら、君が持っているその四角いモノの方が、よっぽど《ファンタジー》だよ」


 指を向けられている箇所からして、胸ポケットに入っているスマートフォンの事だと思い、慶護は取り出して、コレですか? ――っとユーベルに確認する。

 うん、それそれ――っと身を乗り出して応えた所からして、かなり興味があるようだ。


「内部構造を調べるために、《捜査》の《法術》を走らせたんだけど……いや~、参った、参った。微弱な雷を封入し、それを少量ずつ流す事で、様々な動きをしているのは解ったんだけど、そんな《法具》をこんな小型にしている上に、複雑な《術式》の様なモノが存在するのは感じられたんだけど、刻み込まれていないから、一体どうやって制御しているのか、皆目検討もつかないよ」


 そうですか……――っと答え、慶護はスマートフォンの側面のボタンを押した。

 画面が光ったので、壊れていない事に安心したが、バッテリーの残量を示すアイコンが半分近く迄しかないモノとなっていた。

 圏外……って当たり前か……――待機画面から、ココが本当に違う世界である事の確証をもう一つ得たため、慶護は溜息を零し、スマートフォンの電源を落とした。


「へぇ~、それって絵も映せる上に、光るんだ……しかも、それを一つの操作だけで出来るなんて、その《法具》を作った人は、僕なんかが到底及び付かない程の実力者だよ」

「そうですかね~……僕が居た世界では、コレを持っているのが当たり前で、中にはもっと凄い機能を持ったのも在ったりしますよ」


 それは凄い! ――っと指を鳴らして、ユーベルは両の手を広げた。


「こんなに緻密で複雑な事を行える《法具》を《当たり前》のモノとする、その技術の汎用化! う~ん、ケイゴ君が居た世界の《法術師》は本当に凄いな……この様な複雑な物質を作り上げる所から想像するに、その性質は《錬金術師》に近いけど、是非一度、《法具》を作っている過程を見てみたいね」

「機械が機械を組み立てているだけで、見ても面白くないと思いますよ……」


 機械? ――っと首を傾げてユーベルが尋ねて来たので、改めて考えると、どう説明して良いのか悩んでしまう慶護。


「え~と~……金属を人間の手とかに模して作り、それに雷を流すと、予め設定してある動きをする物――ですかね……」

「ふむ……それだけを聞くと、何だか《機工人形(オート・マトン)》みたいだね~」

「あ~……多分、その考えで問題無いと思いますよ。タダ、僕の居た世界では、それの事は《機械》ではなく、《カラクリ人形》とか、《自動人形》って呼んでいましたね」


 成る程――っと手を叩き、ユーベルは何度か頷く。


「うんうん、ケイゴ君の話を聞く限りだと、君が居た世界は、《金氣》に対して、《土氣》や《木氣》を制御に使用して、様々な事象を繰っているって感じだね」

「その……何とか氣っていうのは良く解りませんが、僕が居た世界は様々な金属やエネルギーをその時々に変換させて使用する感じでしたね」


 《生体エネルギー》ではないのか……――っとのユーベルの呟きを聞き、《法術》に関しての説明が途中であった事を思い出した慶護が、新たに浮かんだ疑問を尋ねる事にした。


「その……《法術》の話が途中だったんですが、《生体エネルギー》は、《法術》に関係するモノなのですか?」


 一番重要だね――っと両腕を組んで、ユーベルは深く頷いた。


「《法術》を行使するのに《法力》を消費するって云ったけど、この《法力》の事を《生体エネルギー》って考えてくれて問題ないよ」


 チョークが動き、《法力》と《生体エネルギー》と黒板に書いて二つをイコールで結んだ。


「まぁ、感覚的なモノが強くて、説明が難しいモノなんだけど、この世界には、《破壊》や《再生》とかに分化されていない、純粋なエネルギーが存在するんだ。人によっては、ソレを《魔素》とか《術素》とか色々な呼び方をするけど、《学園》では、共通して《氣》と呼んでいて、その中でも、命あるモノが、生命活動するのに必要な《氣》を《生体エネルギー》って云っているんだ」


 拳法とかで云われている《氣》みたいなモノかな? ――っとユーベルの言葉を受けて、慶護は頭の中で漠然と考える。


「それらを、格闘家なら《型》や《身体運用法》を利用し、《法術師》は特殊な言葉や話し方による《詠唱》とかを用いて、僕がこれらの道具を呼び寄せる時に使用した、《法陣》と呼ばれる特殊な力場と組み合わせて施行するんだ。そうする事で、少ない《生体エネルギー》に円環加速等を掛けて、指数関数的に増加させ、充分に貯まった所で何らかの指向性を持たせて超自然的現象を引き起こす」


 チョークが動き、《人類》の下に《格闘家》と《法術師》が記載され、更に、《格闘家》の下には、《型》《身体運用法》と書かれ、《法術師》の下には、《詠唱》《法陣》と追記された。自分の考えが、間違っていなかったため、慶護は小さく何度か頷き、ユーベルの話している内容をより深く理解する。


「そして、最初の話の《歪んだ種族》になるけど、これらは所有している《生体エネルギー》が僕等《人類》よりも遥かに多く、最下層に位置される《E級》ですら、何の訓練も受けていない人にとっては、脅威となりえる程さ」


 《人類》の下に《生体エネルギー:少》、《歪んだ種族》の下に《生体エネルギー:多》と記載される。


「なにせ、《歪んだ種族》を斃す方法は様々で、一般的なのは、再生速度を超える速さで破壊し続けるか、再生不可能な急所を一撃で破壊する――なんだけど、その身に内在している膨大な《生体エネルギー》が、タダでさえ強靭な肉体を強化してい難しいんだ。その上に、僕達《法術師》とは、行使過程が一線を画す《魔術》と呼ばれる、超自然的現象を発生させる事が出来るのもいるから、質が悪いね」


 《人類》側には《法術》、《歪んだ種族》側には《魔術》と記載される。


「……あぁ、そうそう、僕達《人類》が施行する《法術》と《歪んだ種族》が行使する《魔術》は、《生体エネルギー》を元に、火の無い所に火を起こし、水の無い所に水を発生させたり出来るから、結果だけ見ると凄く似ているけど、さっき云った通り、行使過程が一線を画すんだ。故に、彼らの見た目とかが、遥か昔に存在した《悪魔》に似ているっていうのもあって、《歪んだ種族》が行使している《法術》に似た力を《魔術》って名前を付けて区別しているんだ」


 行使過程と云われても、慶護には全く解らないため、首を傾げながらも、ゲームや漫画の中の知識を活用して、ユーベルの言葉を理解しようとする。


「え~と~……その《歪んだ種族》の中には、《天使》に似たのは居ないのですか?」


 いるよ――っと何ともアッサリとユーベルは答えた。


「限りなく《人類》に近い種類のも居るけど、極々一部だね。っと云うよりも、《人類》に形とかが近くなる程、危険度が高くなると云っても良いね」


 知恵が付くからですか? ――っと疑問を言葉にする慶護。

 それも要因の一つだね――っと首肯するユーベル。


「《歪んだ種族》はね、その能力の高さや見た目の共通点を元に分類されていて、一番下の《F級》から、最上の《SSS級》迄の、全部で九つの《等級》があるんだ」


 《歪んだ種族》の文字の直ぐ隣に《等級》と書かれて、一番上に《SSS級》と書くと、その下に続けて《SS級》《S級》《A級》《B級》《C級》《D級》《E級》《F級》と記載された。


「個体数もこの《等級》通りで、上に行く程少なく、下に行く程多いんだ。一番下の《F級》である、粘液の塊の様な《スライム》に分類されるのなんて、人里離れた洞窟に行けば直ぐに遭遇出来る程だし、大型の肉食獣である狼を更に凶暴化させて大きくした《ウェアウルフ》も然りだね」


 但し――っと指を立て、ユーベルは笑みを薄くして、若干の真剣味を帯びて続ける。


「《A級》以上になると、先ず御目に掛かれない程個体数が少ない代わりに、非常に高い能力と知性を持っていて、《S級》からは、最早神話の領域だね。そこに存在するだけで、溢れ出る指向性を持たない《生体エネルギー》が周囲の環境を変えてしまう程で、災害と云っても良いレベルの存在だよ。その領域の存在だと、余程の《法術師》でなければ、出会い頭で蒸発する程さ」

「まるで御伽話みたいですね」


 まったくもってね――っと深く頷くユーベル。


「御伽話とか文献でしか見た事の無い様な超自然的現象を巻き起こし、地形すらも容易に変えてしまうなんて、一個人がどうこう出来るレベルじゃないさ」


 でもね――っと暗い雰囲気を一転させてユーベルは笑みを浮かべた。


「だからこそ、僕達《人類》は互いに手を取り合い、協力して生活しているのさ。個々の力は小さくとも、それが集団となれば、思いもよらぬ力を発揮する時だってあるからね。僕はそんな《人類》の力に少しでも貢献出来ればと思って、ココでこうして生活をして、教鞭を振るっているのさ」


 やっぱり、教職者でしたか――っと態度と説明の仕方から、何となく予想していた慶護は、納得の声を上げた。


「まぁ、そうは云っても、僕達《教授》が主に教えているのは、《法術》に関してだよ。普通の教育機関と同じ様に、一般教養も教えるには教えるけど、ココは、如何なる組織や団体、国家に属さず、《法術》に関する純粋な探究心を持つ全てのモノに普く門戸を開く機関であるからね」

「僕が居た世界の大学に似ていますね……ってだから、《先生》じゃなくて、《教授》なのですか……」

「ケイゴ君の言っている大学がどの様な機関なのか解らないけど、僕達は読んで字の如く――」


 《教え授ける》のさ――っと片方の掌を上に向けて、ユーベルは小さく肩を竦める。


「ココの正式名称は、《法術修道学園》――通称、《学園》と呼ばれているよ。一定の年齢以上になれば、後はそれなりのお金と、《法術》に関する情熱があれば、誰だって入学出来るんだ。そして、ココは全寮制だから、《学園》の敷地内に存在する学徒寮で仲間達と寝食を共にし、《法術》を切磋琢磨して、三年間で一人前の《法術師》に育て上げるのさ」

「《法術》に関しての教育機関って感じですね」

「そうだね~……基本は三年間で、ちゃんとした成績を残した子達には、《卒業》って形で、《学園》で《法術》を修めた《法術師》である証を授与するんだけど、もし成績が足りなかったりしたら、もう一年頑張ってもらったりするからね」


 あっ、でも、一般的な教育機関と違う所もあるよ――っとユーベルは軽く手を叩く。


「《卒業》した後も、一定の額のお金を納めるか、功績を残す事で、《学園》に残って《法術》の研究を続ける人も居れば、一人でも多くの優秀な《法術師》を排出するために《講師》や《教授》となる人もいるから、色々だよ」

「はぁ……本当に僕が居た世界の大学と云う教育機関とそっくりで、面白いですね」

「興味があるのなら、講義を受けてくれても良いんだけど……」


 コレ迄流暢に言葉を発していたユーベルが、突然歯切れ悪くなったので、慶護は不思議に思って続く言葉を待つ。


「《法術》を修めるには、情熱だけじゃなくて、ある程度の素質も必要なんだよね……」


 素質、ですか……――っと覇気の無い声で俯きながら慶護が呟くと、ユーベルが慌ててフォローの言葉を続けた。


「ま、まぁ、ある程度だから、修練をする事で補える範囲だし、全くなくても、一級の《法術師》になっている卒業生もいるから、そこ迄気にする程じゃないんだ。只、三年って短い期間だから、あればその分を《法術》を更に伸ばす事に時間を使えるから、短期的には有利ってだけだよ」

「でも、十代中盤の多感な時期に、あの人は出来るのに自分は出来ないっていうのは、結構大きいですね……」


 そうなんだよね……――っとユーベルは苦笑して、眉根を寄せる。


「だから、入学の条件の一つに《ある程度の素質》って入れているんだ」


 ふと、ユーベルの言葉を聞いていて、《ある程度の素質》を強調する所に違和感を受け、目の前の笑みを浮かべていて、何処か掴み所が無いが、決して悪い人物ではない男性の真意を読み解くべく、慶護は目を閉じて、コレ迄の会話を反芻する。

 《法術》は命あるモノが、生命活動する上で必要な《生体エネルギー》を元に、超自然現象を発生させる行為。

 けれども、《人類》は《生体エネルギー》の保有量が少ないから、格闘家なら《型》や《身体運用法》。

 目の前の今も笑みを浮かべている男性の様な、この世界で《法術師》と呼ばれる人達は、特殊な言葉や話し方による《詠唱》。

 これらと、学的な紋様が描かれていた円形の発光していた《法陣》と呼ばれる特殊な力場を組み合わせる事で、円環加速等を掛けて、指数関数的に増加させる。

 そして、充分に貯まった所で何らかの指向性を持たせて、超自然的現象を引き起こす。

 ゆっくりと瞼を開けた慶護は、ユーベルを真っ直ぐに見詰める。

 慶護の視線を受け、その瞳に宿る光から、彼が辿り着いた答えが、自分が敢えて伝えなかった事であろう内容であるのを直感的に理解したユーベルは、青年に手を差し出して、喋るように促した。


「その……間違っていたら、指摘して欲しいのですが……《ある程度の素質》っというのは――」


 片方の眉を上げて、慶護は軽く笑みを浮かべる。


「《決して諦めない事》……ですよね?」


 その通り――っと指を鳴らし、ユーベルは満面の笑みとなる。


「諦めを放棄した先にこそ、路は開けるのさ」


 ユーベルが指を立てて軽く振るうと、黒板に文字を書いていたチョークが黒板消し受けに戻った。


「昔は本当に極一部の家族や、その近辺のモノ達だけに《法術》が伝えられていて、特権階級のモノって扱いだったんだけど、今から一千年程前に初代《学園長》が、《法術とは一部の特権階級のモノではなく、只の技術でなくてはならない》って宣言をして、徐々に《法術》を世に広め、今では修練を積んでいない一般人でも――」


 細かな幾何学文様が刻まれている腕輪を外し、よく見えるようにユーベルは顔の高さに持ち上げる。


「この様な《生体エネルギー増幅・法術詠唱補助器具》――通称、《法具》を使えば、簡単な《法術》なら、誰もが安全で手軽に扱える様にしたんだ」

「汎用的で便利な技術や道具は、自ずと広がる、ですか」


 そういう事さ――っと外した腕輪状の《法具》を装着して、ユーベルは立ち上がる。

すると、黒板や教卓、ユーベルが腰を下ろしていた椅子の彼が呼び出した全てが、床に現れた淡い光を放っている《法陣》に沈む様に呑み込まれていき、数秒もしない内に、《法陣》も黒板達もその姿を跡形も無く消していた。

 続けてユーベルが指を鳴らすと、閉まっていた遮光用の扉が開いて陽の光が部屋に入り込み、ランプの明かりがゆっくりと小さくなって消えていった。

 部屋の中を一瞥して、手を使わずに、自分が起きた直後の状態に戻った事に感嘆の声を上げる慶護。


「……本当に、《便利な技術》ですね……」

「便利ではあるけど、万能ではないよ。そこは履き違えないでね?」

「あ~……それはやっぱり、何処の世界でも同じなんですね」


 互いに苦笑すると、ユーベルは中空に出現させた小さな《法陣》に手を突っ込み、中から筒状に巻かれている紙を取り出して、慶護に手渡した。


「さっきの僕の話しや黒板に書かれていた内容をまとめたモノだよ。《学生証》を渡せれば、《学園》の中をほぼ自由に歩き回れるし、施設も使えて良いんだけど、ケイゴ君は正式な学徒じゃないから、渡せないんだ……」

「まぁ、僕は正式な客人ではないのですから、それは仕方無いんじゃないですかね……」

「こっちの都合で喚び出したのに、戻す事も、自由にさせてあげる事もできなくて、ごめんね……」

「何となく思っていましたが、やっぱり、僕が居た世界に戻れませんよね……」


 目を伏せて、申し訳無さそうに頭を下げるユーベルに、慶護は首を横に振った。


「いえ、今迄のお話しを聞く限りですと、僕の存在が、本当にイレギュラーである事は理解しましたし、この状況が、解らない事だらけであり、どうしようもない事も伝わりました。なので、気にしないで下さい――っとは、正直な所、僕も云えませんし、社交辞令で云った所で嘘になってしまうので、これが現実である以上、少しでも現状が前に進むよう、協力させて頂きます」


 慶護が不満を何一つ云わず、現実を直視して、自分の云った事を全面的に信用した事に驚いたユーベルは、青年の中に存在する芯の様なモノを感じ取り、小さく微笑んだ。


「ありがとう……さっき迄の話じゃ説明しきれていない事が多いけど、ココで生活しながら覚えるのが一番だろうし、僕を見付けた時に聞いてくれても良いからさ。僕が見付からない時には、《学園》に居る子達は、みんな良い子だから、聞くのもありだと思うよ」


 そうしてみます――っと応えた所で、ふと、生活をしていく上で重要な根本的な疑問が浮かんだ慶護は、尋ねてみる事にした。


「そういえば……この世界の《時間》の概念はどうなっていますか?」

「うん? そうだね~……《占星術》を元に、僕らが住んでいるこの星自体が一回転するのを一日として、そのときに掛かる時間が、八万六千四百秒で、これを太陽の大凡の照射範囲から、二十四分割するんだ。余り分割し過ぎると、細かくなり過ぎるし、逆に広すぎると、時差が酷くなっちゃうから、二十四ってしたんだろうね。そして、この分割された一つを一時間って云って、三千六百秒。後は――」

「それらを六十秒毎に区切ったモノを分と呼び、一時間は六十分。更に、一週間という七日区切りで曜日という周期があって、それが、月、火、水、木、金、土、日となっており、一年は三百六十五日で、四年に一度だけ、一日増える――って所ですか?」


 ユーベルの言葉を続ける形で慶護が突然喋り出し、その内容が細かな所を除いて合っていたため、教授は驚きに目を見開いてしまう。


「ビックリしたよ……呼び方とか細かい違いはあるけど、ほぼ、今ケイゴ君が云った通りだよ……。それってリゼと《魂の契約》をした時に得た知識かい?」

「いえ、これは、僕が元居た世界での時間や日付に関する知識です。っと云うかですね、あの娘と《魂の契約》? ですか?」


 ユーベルに確認の視線を向けると、頷いたので、慶護は言葉を続ける。


「それをした時に、僕に流れ込んで来た、眩暈や吐き気を催す程の激痛に感じた、圧倒的情報は、言語に関するものだけだと思います……。突然、彼女が何を云っているのか理解出来る様になりましたし、僕の言葉も通じましたけど、それ以外は何の変化もありませんでしたからね」

「言語だけが《共有化》されたのかな? ……否、でも、ケイゴ君の場合は一方的だし、《刻み込み》や《降臨》に近いな~……」


 小声で呟き、ユーベルが考えだしてしまったので、慶護は、手渡された筒状の紙の紐を解いて、中を確認する。


「う~ん……やっぱり、さっき、黒板に書かれていた文字は、僕が住んでいた国の言語とは全く違うものですね……。それが何を現していて、どんな言葉なのかは、理解出来ますけど、見た事の無い言語です。強いて云うのなら、僕が居た世界では、《英語》っと呼ばれる言語に近いですね」

「ふぅ~ん……似ている所は殆ど一緒なのに、違う所は全く合わないなんて、本当に不思議だね~……」


 僕も同じ様な感想ですよ――っと返して、慶護はベッドから腰を上げて窓辺に近寄る。

 窓の外に視線を向けて、遥か遠方に見える山々と何処迄も広陵と広がる緑の大地。自分がそれまで住んでいた、灰色を基調とした、全ての人々が時間に追われ、忙しなく動いていた世界とは違い、その牧歌的な風景に、慶護は思わず感嘆の息を零した。

 《学園》と聞いていた通り、外部からの許可無きモノを排除するための壁や、他の寮の楝だろう、中世ヨーロッパ風の白い漆喰が塗られている、側塔の様な建物が慶護の視界に映った。元いた世界で、暮らしていた国から出た事のない慶護は、本当にゲームや漫画の中でしか見た事の無いファンタジーの世界に来たのだな……――っと心の中で呟いた。

 下に視線を動かすと、高層ビル程ではないにしろ、それなりの高さがあるため、慶護は苦笑し、窓から離れてユーベルへと振り返る。


「まぁ、その……この世界での一秒や距離の長さ等の単位や基準がどの様なモノかは解りせんが――聞いている限りですと、呼び方以外は、大体同じ位だとは思うので、後は習慣の違いとかですかね……」

「それこそ、習うより慣れろ、だね」


 違いありません――っと返して慶護が苦笑すると、釣られてユーベルも苦笑する。


「ケイゴ君は、召喚されたとはいえ、《使い魔》と云うよりも、僕達《人類》と同じ感じなんだよね。申し訳ないけど、寝ている間に身体に《捜査》の《法術》を走らせてもらったけど、普通の《使い魔》とは全く違うんだよね」


 特にその身体――っとユーベルに指摘された慶護は首を傾げ、自らの胸に手を置いた。


「召喚主の《魂の欠片》を核として、《生体エネルギー》で形を成して、身体を維持している訳ではなくて、純粋な《肉体》を持っているんだ」

「異質なモノが目の前にあったら、不安になって誰だって調べますから、それに関して何かを云うつもりはありませんけど、僕が見た、あの《使い魔》達の中に、人間に凄く近いのも居たのですが、アレも僕とは違うのですか?」


 違うよ~――っと手を軽く振るユーベル。


「見た目も感触も普通の生きている人間と全く変わらないし、怪我をすれば痛みが走り、人体の急所を破壊されれば行動不能になるけど、《使い魔》は、召喚主が死なない限り、死ぬ事がないからね。身体の半分以上を破壊されようとも、召喚主が《法力》を流し込めば、直ぐに再生されて戦線復帰可能だよ。但し、《使い魔》が強力であればある程、必要となる《法力》が高くなるから、再生不可能になってしまったら、一度形の解除をして向こう側に戻し、《法力》が戻った所で再度顕現させるのが良いね」

「出し入れ自由自在で、その上、壊れたとしても、自分の力を分ければ直ぐに治せる。その上、もし修復不可能になったとしても、一時的にしまい、自分の力が戻った所で再度呼び出せば済むだけなんて、本当に便利な道具ですね」


 でも、ケイゴ君の場合は違う――っと手で慶護を指しながら、ユーベルは話を続ける。


「ケイゴ君の場合、姿の解除も再度顕現させる事も出来ず、僕達《人類》と同じ、純粋な肉体を持っているから、怪我をしたら《治癒》の《法術》を使わなきゃだし、手足を失ったら、《錬金術》による《人体錬成》でなければ治せず、急所を破壊されたら、多分――」

「死んでしまう……?」


 そう――っとユーベルは笑みを消して頷く。


「なのに、《魂の契約》は出来るし、それによって知識が頭の中に流れ込んで、言語が理解出来る様になったりしているから、本当に謎ばっかりなんだ。でもさ――」


 慶護に歩み寄り、人の良さが作りに現れている若干タレ気味の目を細め、その面長な顔に笑みを浮かべながら、ユーベルは肩に手を乗せた。


「ケイゴ君がこの世界で生きていく上で、必要な協力はさせてもらうから、安心して頂戴」

「本当に解らない事だらけなので、すみませんが、お願いします」


 任されたよ――っと応えてユーベルは踵を返し、扉へと進む。

 ノブに手を掛けて扉を開けた所で、ふと、一番重要な事を聞き忘れていた慶護は、慌ててユーベルに声を掛けた。


「あっ、そうです! 普通に会話をしていたので全然気付きませんでしたが……貴男の名前は何と云うのですか?」

「あ~……そう云えば、伝え忘れていたね」


 ごめん、ごめん――っと苦笑して、ノブから手を離し、ユーベルは慶護に振り返る。


「僕はユーベルング・トール・フォン・アペルキャント。ココの子達は、ユーベル教授って呼ぶから、ケイゴ君もそう呼んで頂戴」

「解りました。よろしくお願いします、ユーベル教授」

「何だか教え子が増えたみたいで嬉しいね~」


 そう応え、ユーベルは部屋を後にした。

 一人部屋に残される形となった慶護は、溜息を零し、ベッドへと腰を下ろす。


「……参ったな~……僕は歴史に詳しい訳じゃないけど、建物や置いてある小物類からして、中世ヨーロッパに近い文化圏なのは解るけど――」


 慶護は肩を竦め苦笑した。


「《法術》はないだろう……完璧にファンタジーの世界じゃないか……」


 口では否定をするが、自分を騙すためにだけに、アレだけの大掛かりな手品をするのは在り得ないと考えた慶護は、俄には信じ難いが、目の前で実際に超自然的現象を見せられたのもあり、《法術》というのが存在する、中世ヨーロッパに近い文化圏の異世界に来てしまったのだろうと納得する事にした。


「異世界か……コレがゲームや漫画や小説なら、僕は特殊な能力を持っていて、世界を救うために戦う所なんだろうけど……ユーベル教授の話しを聞く限りだと、どうにも僕にそういった特殊な能力もなければ、この世界の《法術》っと云うのも使えないから、むしろ、無能に近い程なんだよな……」


 広げたままであったユーベルからもらった紙に視線を落とし、慶護は中身を再確認する。


「………………うん、書かれている内容の殆どは、さっきユーベル教授が話したモノがそのまま書かれているけど、一部追記されているね……」


 追記されている箇所に注視して、慶護は読み上げる。


「……《使い魔》は《独立型》と《共鳴型》の型違いで二種類存在する。《独立型》は《歪んだ種族》にも引けを取らない身体能力や特殊能力を有し、それらを利用して、主である召喚主の詠唱時間をかせいだり、自身の純粋な能力によって敵対者を一掃する。《共鳴型》は召喚主の《法術師》としてのスタイルに合わせ、その姿形を変形させて装備品となる事で、主の身体能力や《法力》を飛躍的に高め、その時の状態を《共鳴形態》と呼び、熟練の《法術師》の《共鳴形態》は、並の《歪んだ種族》や《独立型》の《使い魔》を一蹴する程である。しかし、どちらにも一長一短があり、《独立型》は召喚主の《法術師》としての能力に左右され、主が脆弱であれば、《使い魔》と脆弱となり、余り使えるモノではなく、《共鳴型》は、召喚主の装備品となるため、召喚主自体が戦わなければならず、ダメージも直接主に来るため、命を失う可能性が高くなる、っか……ふむふむ、まぁ、何かを得るのなら、何かしらの代償を払わなきゃだよね」


 ユーベルから手渡された紙を読み上げていると、最後の方に注意書きが記載されていた。

 注意書きと記載されいる程だから大事なのだろうと考え、慶護はそちらも読み上げる。


「なになに……部屋を出て建物内を歩き回るのは自由だけど、一人で建物から出るのは極力止めて欲しい。《法術》を扱えず、《学生証》も持っていないケイゴ君が一人で歩き回るのを快く思わない者達が居たりもするし、思わぬ怪我の元ともなってしまうので、これだけは護ってね――ですか……」


 そりゃそうなるよね――っと慶護が呟き、溜息を零した所で、持っている紙に炙り出しの様に文字が追加されていく。

 少し前迄の自分だったら、驚いて紙を投げ捨てている所だけど、短い間で慣れたモノだな――っと苦笑しつつ、追記されていく文字を声に出して追っていく。


「もう少ししたら、ケイゴ君の召喚主であるリゼがそっちに向かうから、二人で話し合いをして、これからの事をお願いするね。タダ、その時に――」


 扉を遠慮気味に叩く音が聞こえたので、慶護は紙に書かれた文字を読むのを一旦止めて、面を上げて扉の方へと顔を向けた。


「どうぞ、開いているよ」

「し、失礼しま――」

「どもども~、初めまして、人間の《使い魔》さん! アタシ、コートニー・サングリア! 気軽にコニーって呼んで!」


 遠慮気味な声音と同じく、静かに開きかけた扉が、突然勢い良く開かれ、部屋に飛び込む様に、紅いショートカットの少女が姿を見せた。

 活発と云う言葉が形を持ったかの様な少女は、そのまま遠慮無く部屋を突き進み、身構えている慶護の目の前で立ち止まると、右手を差し出して来た。ココで警戒しても意味が無いと判断した慶護は、ベッドから腰を上げて、その手に応えた。


「えっと~……こちらこそ、初めまして、コニー……?」


 慶護が手を握ると、コニーは白い歯を見せる程の気持ちの良い笑顔となり、直ぐに握り返して来た。華奢な身体に似合わぬ想像以上の力で握られただけでなく、腕を振られた事に驚き、慶護は頬が引き攣りかけるが、軽く笑って応えた。手を離すと、コニーを押し退ける様に十代中盤らしい、活気溢れる少年が笑顔で慶護に近寄り、手を出して来た。


「俺はアレン・ネーブルって云うんだ! 歳も近そうだし、アレンって呼んでくれ!」


 コニーに握られて若干痺れているが、右手を出されたからには、右手を出さない訳にはいかず、慶護はゆっくりと握手を返すが、手を引っ張られて思い切り握られてしまったため、再び表情に出そうになるも、笑顔で何とか応えた。


「よ、よろしく、アレン……」

「おうっ、よろしくな! ……それにしても――」


 アレンは振っている手を止めて、マジマジと見詰めると、その手を中心に仄かな光と暖かさを感じ、慶護が何事かと不思議に思っている内に光は収まり、少年も手を離した。


「本当に人間なんだな……こうやって直接触れて《捜査》の《法術》を走らせたのに、純粋百パーセントの人間って答えが返って来たぜ……」

「アレン……アンタ、ほんっとうに失礼なヤツね……普通、初対面の人に対して、そんな事する?」

「そんな事云ってもよ~、コニーだって気になっただろう?」


 ま、まぁ、そうだけどさ……――っと歯切れ悪く答えると、コニーは視線を外した。


「君達の師であるユーベル教授から、僕が相当イレギュラーな存在であるのは、さっき聞いたから、そりゃ気になるだろうね」

「だ、だよな?! いや~、話が解る人で良かった~……って、そう云えば、名前、何だっけ?」

「アレン、ホント、アンタってさ……」


 コニーが震える握り拳を顔の高さに持ち上げ、それを目の前で、首を傾げている哀れな少年に振り下ろさんとしてるため、慶護は慌てて二人の間に入った。


「ぼ、僕の名前は、ケイゴ! ケイゴ・ミナモトって云うんだ! 僕の事も、ケイゴって呼んでくれて構わないよ、アレン」

「お、おうっ、そうだったな! ケイゴ? だったよな?? ……うん、そうそう、ケイゴだ、ケイゴ! いや~、たま~にこう、突然思い出せなくなっちゃう事があってな~」

「そ、そうだよね。たまに良くあるね、うん!」


 お互いにギコチナイ笑みを浮かべる二人に、訝しげな視線を向けていたが、コニーは肩を落とすと、盛大な溜息を吐いた。


「はぁ~……ケイゴもさ、ワザワザそんな莫迦に付き合う必要ないのに、人が良いんだね」

「そういう性格と思って頂戴」


 苦笑してコニーに応えた所で、ふと、二人の勢いに押され、気付かなかったが、扉の前から一歩も浮かず、自分達のやり取りを怖ず怖ずと眺めている白い少女に顔を向け、慶護は手を伸ばした。


「こっちに、来てくれるかな?」

「は、はい……」


 消え去りそうな程小さいが、ハッキリと応えて、少女はゆっくりと慶護に歩み寄る。

 夢の中で何度も出会ったけど、決して触れる事の出来なかった白い少女。

 何度もその涙を拭ってあげようと手を伸ばそうとしたけど、叶わなかった夢。

 今にも消えてしまいそうな程儚いが、そのライトブルーの瞳には、決して折れる事の意思が感じられる。

 全体的に作りが小さく、少しでも力を込めて触れたら、ガラス細工の様に壊れてしまいそうな印象を受ける目の前で立ち止まった少女に笑みを向け、白銀色の長く美しい髪に触れ、そのまま頭に手を乗せる慶護。

 突然の出来事に、驚いて身を固くしてしまった少女であるが、直ぐに目尻が下がり、口元が緩む。

 そして、頭の上に乗せられている慶護の手に自分の手を重ねた。


「――ただいま、リゼット……」

「――おかえり、ケイゴ……」


 アレンとコニーが、事態に着いて行けず、二人を視界に収めたまま固まっている中、慶護とリゼットは、言葉を交わさず見詰めているだけなのに、通じ合っている様であった。

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