表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/83

第71話 零下に睡る鳳仙花(クロム過去編⑦)

俺が勇者なってから、すでに一ヶ月以上が経とうとしていた。

魔王討伐隊を編成し、魔界へ隣接するベルガ山脈を越える。

ドラゴンすらも近づかない理由は、その険しさと天候にある。


 ベルガ山脈は、猛烈な吹雪が吹く山脈だ。

むしろ吹雪いていないことのほうが珍しい。

防寒具がそこまで発達していないこの世界では、ヒマラヤ山脈レベルのベルガ山脈を越えるのは難しい。

ドラゴンなどの空を飛ぶ生物は、翼が凍りつくため吹雪の多いこの場所では生存できないといわれている。


 俺は転生時に女神から魔法の才能を授かった。

最も得意なのは雷魔法だが、下級の魔法であればある程度使うことができる。

身体を温めるために、炎属性の魔法で防寒具に加護をつけた。

これで完璧とはいえないものの、寒さは防げるはず。


「……少しは楽できると思ったんだけど」


 ベルガ山脈は、俺が思っているよりもヤバイ場所だった。

吹雪で恐ろしいのは、身も凍る寒さもそうだが、視界が悪くなること。

前がほとんど見えない状態が続き、ガイドもいないこの山脈を越える難易度はかなり高い

さらに、この極地でも人を襲う生物がいるということである。


 俺は目の前にいる数匹の獣を睨む。

数およそ十。視界が悪いので確証はない。

狼のような見た目をしたそれは、討伐隊の周りをゆっくりと取り囲んでいく。


「まさかベルフ種がいるとはな……

 生物がいるってことは、生態系があるってことだ。

 こいつらだけじゃないかもな」


 ギリアムが剣を構える。

同時に俺とミスト、そして討伐隊の隊員も武器を構えた。

しばらくにらみ合い、様子を伺う。

吹雪が少しだけ弱まってきた。

今がチャンスだ。


「突破するぞ……!」


 ギリアムの声に合わせ、皆が同時に走り出す。

一体一体を処理していては、地の利で劣る俺たちでは突破が難しい。

だがしかし、逃げるには分が悪すぎる。

俺達は雪に足がとられるが、奴らはそうではない。


 まずは正面をとり、その後囲いを倒す。

ギリアムの作戦通り、まずは正面のベルフを二匹、剣の餌食にする。

何匹かのベルフが隊員に飛びかかっていくが、ここのいるのは精鋭ばかり。

手間取ることはあっても、やられることはない。


 少しの時間をかけてベルフの群れを討伐した俺達は、再び魔界を目指す。

方向がわからなくなりかけたが、途中目印として立てたフラッグのおかげでなんとか迷わずにすんだ。


 しばらく歩いていると、視界の先に何か……赤っぽい物体が見えた。

雪に少しだけ埋まった……布か? あれは?

……いいや、違う。


「人が倒れてる!」


 ミストが叫ぶと同時に駆け出した。

俺もミストの後を追い、視界の先のそれを確かめる。


 そこにあったのは、たしかに人だった。

薄い布の服を着た少女。

背丈から考えるに、歳はまだ十か十一程度。


 遠くから見えた赤色は、その少女の髪の毛であった。

この雪山とは違う、燃えるような赤色をしている。

左足首に魔族の奴隷印があることから、きっとこの子は魔族の奴隷だったのだろう。


「こんな年端もいかない少女が魔族の奴隷として捕まっていたなんて……」


 ミストが悲しんでいる間に、少女の手首から脈をとる。

身体は冷えているが、まだ生きている。

気を失ったのはおそらく最近。

これなら助かる可能性はある。


「ミスト、今なら助かるかもしれない。

 キャンプ地に引き返すぞ」


「その役目は、俺が引き受ける

 全員が引き返す時間はないはずだ」


 名乗り出たのはギリアムだった。


「ギリアム……」


「この山脈は未知だ。

 隊員たちだけでキャンプに引き返すのも、そこからウォレスタに行くのも困難だろう。

 俺と、あとはそうだな……二人いればいい」


 ギリアムは貴重な戦力だ。

ここで失うには痛いが、たしかにこの山脈は未知。

ベルフがいたことから生態系が存在するこの山脈で、実力者をつけないの自殺行為。


ベルフよりも強い敵に襲われた時、隊員たぢだけではどうにもならないかもしれない。

しかし、ギリアムならどうだろう。

上級騎士の中でもきっての実力者である彼なら、生存の確立は高い

大幅な戦力低下だが、目の前の命を放ってはおけない。


「……わかった。

 ギリアム、隊員を二人連れて引き返してくれ。

 残りで魔界へ行く。

 この子が気を失ってからそう時間が経ってないことを考えると、魔界は近いだろう」


「わかった。

 魔界へその子を連れて行くわけにはいかねえからな」


 そう言ってギリアムは予備の防寒具を少女に着せ、背負う。

隊員を二人引き連れて戻ろうとするが、一度振り返り、言った。


「……なんだか嬉しそうな顔してたな、クロム」


「大したことじゃない。

 『見捨てる』っていう選択肢が、なかったことが嬉しいんだ」


 俺がそう答えると、ギリアムは少しだけ笑い、いま来た道をもどり始めた。

残った隊員はその逆方向。

少女が辿ってきたであろう道を行く。


魔界は、すぐそこだ。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナー画像
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ